憑依ゆかりさんとVTuberになった元マスター   作:名前考えるのって難しくね?

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三話目です。


説得

俺の見立ては間違っていた。

 

なんだかんだで普通に話せてるし、そこそこ回復してるんじゃないかとか、アホなこと思っていた俺を殴り飛ばしたい。

 

嗚呼そうとも、確かにマスターと俺は普通に会話できていた。

けど、今になって気付かされた。それはあくまでも取り繕われた仮面に過ぎないんだって。

 

この目元を暗く染めた――もっと言うならば、俺の存在に気付く前のあの顔こそが、内に収められた本当のマスターの姿なんだろう。

 

「……自己嫌悪が強そうですね」

 

『そうだね。正直大ッ嫌いだよ』

 

元々責任感が強い口なのだろう。だからこそ、たくさんの人に迷惑がかかっているというこの状況に、プレッシャーを覚えている。

 

というか、今の質問に対しての吐き捨てる言い方的に家族のウェイトもかなりデカそうだな。せっかく産んでもらったのにこの体たらくとか思ってたりする?

 

倒れて心配かけて、新しい職場では思うような結果も出せずに事務所の人達にも……って感じか。

 

「もう一度聞きます。マスター、本当にそれで良いんですか?」

 

まあ、それはそれとして、だ。

 

『………』

 

一度目、二度目と共に答えは沈黙。

決心はついたと言っていたが、マスター自身まだ未練がある筈。

 

「VTuberについて話していたマスターは楽しそうでした。確かに同期達と比べれば差はあるのでしょうが、マスターの配信を楽しみにしてくれている方々もいるのでしょう?その方々はいいのですか?」

 

これは、あくまでもVTuberを詳しく知らない俺としての意見だ。マスターからの話を通してでしか知らない以上、なんとも言えないが、これだけは……これだけは間違っていない筈だ。

 

「マスター、確かに企業に属している以上、成果を出さないといけないのは分かります。ですが、マスターは少々焦りすぎなのではありませんか?」

 

『……は、はは。ゆかりんはVTuberのこと知らないからそんなこと言えるんだよ』

 

「ええ。私には分かりませんとも。私に分かるのは、マスターが、本当はそのVTuberをやめたくないと思っていることだけです。楽しいのでしょう?VTuber」

 

『っ』

 

――はっきり言わせてもらうが、これでマスターが本当の本当に本心からやめたいと思っていたのなら、俺はその決定に対しとやかく言うつもりはなかった。

 

だが、今のマスターは心に蓋をし、真逆のことを為そうとしている。……そんなの、後で絶対に後悔するだけだ。

 

故に俺は言わせてもらう。彼女の動画にハマった1ファンとして、彼女と共に駆け抜けたこの結月ゆかりの体を持って。

 

ファンと言えども、ただの他人過ぎない俺の言葉なんて響かないだろう。だが、この”結月ゆかり"としてなら違うかもしれない。

……ずるいとかはなしだ。あるものは使う。ただそれだけ。

 

「本当に、それでいいんですか?」

 

『っ〜〜〜〜!!!いい訳ないでしょッ!』

 

ビクッとしたのは内緒だ。

 

『私だって、私だって頑張ってる!でも足りない!』

 

『みんなみたいに上手く回せないし、面白味に欠けてるのも理解してる……でもどうすればいいかわかんないんだよ!』

 

「あの、ゲームは『もうやったっ!』――さいですか」

 

人気出ないの?マスター割とゲーム上手い方だと思うんだけど……

怪訝そうな顔をしたのを見られたのか、マスターが俯きがちにボヤく。

 

『被ってて……』

 

「あっ…(察し)」

 

主語を省いた呟きだったが、なぜだかはっきりと理解できた。

 

「ち、ちなみにですがお相手様とマスターでは……」

 

『月とスッポン』

 

「です、か…」

 

まさかだが、マスターが所属してる事務所の先輩のことなんじゃあ……

 

『でも、そっかぁ。よく考えたら、私の配信が好きだって言ってくれた人たちもいるんだよね』

 

「!、そうですね。いくら数が負けていると言っても、マスターのファンの方々がいるのは紛れもない事実です」

 

『私が辞めたらすぐ他のとこに流れて行きそうな気もするけど』

 

「………」

 

それ言われるとわからんから困るんだよ……VTuber自体全然知らないんだから、そのファンのことなんてわかりっこないしさ。

 

アンスレでもいいように叩かれてたしなぁ……喋りの才能無いのは自覚してるけど

 

アンスレ……やっぱりどこにでもあるんだな、そういうの。

んで、周りからの評価が気になるマスターはエゴサして見つけてしまって、そこの意見に大いに影響を受けたと見るか……

 

「あの、マスター」

 

『んー?』

 

「まず、具体的にどのくらい差があるんですか?2ヶ月と言っていましたが」

 

持たない人は持たないと言われる2ヶ月。

ここまで影響を受けてるってことは、そこそこ打ちのめされる現実を見せられたのだろう。……俺も覚悟して聞かないとな。

 

『私が2万弱から上がれないのに対して、早い子じゃもう5万も越えて7万に足がかかりそうな子もいるよ。圧倒的最下位』

 

「わァ……」

 

『泣いちゃった!』

 

いや泣いてないよ?泣いてはないんだよ?

どこを見て泣いてる判定されたかはわかんないけど、泣いてないからな?

 

ただ俺でもダメージ受けそうな現実を知っただけで。

 

『……あはは、というかあの時2万行ったのにな。いつの間にか切っちゃったよ』

 

「目が、目が死んでる…」

 

マスターの目が某マスターぼっちみたいになってる……

 

『ねえ、ゆかりん』

 

「なんでしょう?」

 

『今度はこっちから質問してもいい?』

 

「構いませんが」

 

一旦佇まいを正し、マスターの言葉を待つ。

 

『ゆかりんはさ、なんで私にやめて欲しくないの?』

 

「……マスターが本心ではやめたくないと思っているからです」

 

『私が。か……うん。確かにそう』

 

「本当の定義がどうなのかは分かりませんが、私にとっての結月ゆかり――VOICEROIDとは、マスターの投稿活動をサポートする者です」

 

故に

 

「私は、"マスターの結月ゆかり"としてマスターを支えたい。ただ、それだけなんです」

 

……中身は別物とはいえ、だがな。

 

『支えたい。……そっか』

 

私の言葉を反芻し、背もたれにもたれかかって、息を吐くマスター。

その様子を息を呑みながら見つめていると、不意にマスターが画面の先のキーボードを叩き出した。

 

『じゃあさ』

 

「はい」

 

『私の――五月雨彩乃のどこがダメなのか、教えてくれない?』

 

そう言って画面に表示されたのは、マスターがこれまで行った配信のアーカイブらしき動画。

 

サムネには、ス〇ラマニューバーを携えた青いポニーテールの少女の姿が映っており、この動画がどのような内容なのかを脳内で想像させる。

 

これがマスターの……

 

手に力が入るのを感じながら、マウスを動かし、カーソルを合わせてクリック。

そして、暫し流れる映像を眺めていたのだが……うーん、これはと首を捻らされた。

 

『やっぱり、面白くないよね』

 

「……」

 

マスターの声も耳に入らないまま、思考の海へと身を沈ませる。

面白い面白くないかで言えば、面白い。……面白いんだが、その波に欠ける。

 

元々ゲームが上手いのが仇となった形か?動画を見た感じ、マスターって魅せプするタイプじゃないもんな。

どっちかというと、地味でも堅実なプレイで勝ちに行く方……なんだが、それはボイロの動画でも変わらないんだよな。

 

……待てよ?

 

もう一度クリックし、動画を再生。飛ばし飛ばしに次々と目に入れて行く。

 

「なるほど、そういう事ですか」

 

『なにか、わかった?』

 

「ええ。マスターの弱点、分かりました」

 

マスターの弱点、それは、波を持続させられないことにある。

波と波、その間に高揚や興奮が冷めてしまい、次に持っていけないのだ。

 

つまるところ、

 

「考え過ぎですね」

 

『考え過ぎ?』

 

ライブ配信ってリアルタイムだからな。ボイロとVTuberだとそこが大きく違う。

 

「マスターって、動画を出す時は、セリフ一つ一つもじっくり考えるタイプですよね?」

 

『そう、だね。後からこっちの方がいいかもって思ったら、そっちにしたりもするけど』

 

「やはりですか」

 

ボイロの時とは勝手が違う訳だし、そりゃ慣れるまでは時間もかかるだろうな。

 

加えて周囲からの評価云々もある。

慣れる慣れない以前に、焦っていっぱいいっぱいになってる所に、同期との差諸々の問題も重なって、余計抜け出せなくなってしまっているのではないか?俺はそう感じた。

 

プレイ中に時々黙り込んでしまっているのも、ゲームに集中するよりも、次話す内容をどうするのか考えるあまり、そっちがメインになってしまい、そうなっちゃってるんじゃないか?とも思う。

 

なんというか、場を繋ごうとして失敗してるように感じたのだ。

ま、それなら話も早いかもしれないんだが。

 

「ど素人の意見ですが、まず今まで以上にコメント欄に目を向けてみればいいのではないでしょうか?」

 

簡単な話、向こうから話題を持ってきてもらえばいいのである。

アーカイブを見た限り、マスターは別に口下手な訳じゃない。現状から回ってしまっているだけで、ポテンシャルはちゃんとあるのだ。

 

『コメント欄、これでも見てるつもりなんだけどな……』

 

「ですから、今まで以上にです。アーカイブを見る限り、時折話題が尽きる場面も見受けれます。別にマスターも会話が苦手なタイプではないでしょうし、会話という形に持って行ければ、今以上に話を広げられるでしょう」

 

『もっとコメントを拾えってこと?』

 

「勿論、拾わない方がいいコメントは……いえ、これはマスターの方が分かってるでしょうね」

 

『うーん。でも、上手くいくかな……』

 

今までが今までだからな……やっぱり不安か。でも、ここでやらなきゃなにも変わらないぞ。

 

『……分かった。やってみる』

 

「その意気です、マスター。微力ながら、私もサポートしますので」

 

これまでとは違い、いい光を宿したマスターに思わず笑みが浮かぶ。

なにも今すぐ全部を変えろなんて言わない。一つ一つ、一歩一歩確実に踏み出して行けばいいんだ。

 

頑張ろうな、マスター。

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