憑依ゆかりさんとVTuberになった元マスター 作:名前考えるのって難しくね?
『――ちょ〜っと色々ありましたけど、今日はここまでにしておきますね〜ではまた雨の日に〜』
雨の日に〜
おつー
バイバーイ!
面白かったです!お疲れ様です!
うぉーん!行かないで彩ちゃーん!
面白かった!
乙
閉じられた配信。
「さて、配信お疲れ様でした。マスター」
『ん、んぐ。ぷはぁー、ありがとゆかりん』
「中々に面白かったのではないですか?」
『そう?うへへ、なら嬉しいかも』
嬉しそうに顔を綻ばせるマスターに、ついこちらの頬も緩む。
「特にあのキャラ崩壊した所は見どころではないですか?」
『あー、あれね。ボイロの動画作ってた時思い出してみたんだけど、実際どうだった?』
「よかったと思いますよ。これまでとは一風違ったマスターを演出できていましたし、マスターのPSも合わせてキャラが立っていたと思います」
『あえ、そ、そう?……あはは』
照れ臭そうに頬をかくマスター。……かわいい。
『えっとさ、なにか改善点とかってあるかな?なんでも言ってよ』
「改善点、ですか?」
『うん』
改善点、改善点……なぁ。強いて言うならあれか?
「では僭越ながら。リンゴRTA自体なのですが、あれは現状配信でやるべきではなかったと思います」
『え?』
「確かにリクエストが来ていたのは事実なのでしょうが……絵面が単調過ぎますし、なにより……あの時、洋館無視してリセットするつもりでしたでしょう?」
『うっ』
「やはりですか……」
言葉を詰まらせるマスターに、思わず溜め息が漏れる。
「いいのですか?あのままなら虚無配信まっしぐらですよ?」
『で、でも…サムネ詐欺はダメじゃない?』
「それはそうなんですけども。……見どころがないのも結構問題だと思いますよ?」
VTuberっていうのは同時接続数っていうのも大事らしいからな。……チャンネル登録と再生数だけだと思ってたから、正直びっくりしたのは内緒だ。
『それは、そうなんだけど……』
「なんと言いますか。マスターって、頭が固いですよね。私も人の事は言えませんが」
『……自覚はしてる』
「配信者なのですから、もう少し臨機応変というか、柔軟な思考をといいますか」
『ゆかりんに言われなくても分かってるってば。……いっつも言われてるし』
おい最後。……ま、かくいう俺もだいぶカッチコチな方だけどな!……あっ。
「次は脳トレの配信でもしてみます?」
『脳トレ?』
「はい。D○の脳トレでも持ち出せば、そこそこ話題になるのでは無いでしょうか?」
今や懐かしきあのゲーム。
ぶっちゃけ、今になってあのゲームやってる人なんていないと思うんだよな……脳トレならもっといいのが他にもある訳だし。
「話題も稼げて、頭の体操もできますし、一石二鳥ではないでしょうか?」
うんうんと唸りながら、頭を左右にぐらぐらと振るマスター。 やがて結論が出たのか、動きを止め、頬に手を当てた。
『んー、久しぶりにやってみよっかな』
「ですね。では早速あのハゲで緑の服を着たものさし先生の脳トレをしましょう」
『――待って?』
ガバッとこちらを振り向くマスター。
どうしたんだ?なんか気になることでもあったのか?(すっとぼけ)
『今D○の脳トレの話してたよね!?なんでB○ldi'sBasicsの話になってんの!?』
「こっちの方が面白いと思いまして(笑)」
『いや笑い事じゃないんだけど!?』
おーおーでかい声出すなぁ……おちょくるのもここまでにしとくか。
「コホン、すみませんふざけました」
ユーモアも時には必要。古事記にもそう書いてある。
『全く、もう…』
「――それで、楽しかったですか?」
『……うん!楽しかった!』
「そうですか。それは良かった」
屈託のない笑みを浮かべるマスターの姿に、思わず頬が緩む。
……実を言うと少し心配していたのだ。
俺が、マスターと初めて邂逅したあの時のマスターの顔を思い浮かべると、どうにも楽観視はできなかったから。
頭の片隅で張り詰めていた糸が緩むような感覚を覚えながら、マスターと目を合わせる。
『色々とありがとね。ゆかりん』
「お礼を言われるようなことはしていませんよ。全部が全部、私がやりたくてやった事ですから」
『それでも、だよ。ありがとう』
「マスター…はい!」
……フフフ。やっぱ誰かの役に立てたって思うと、いい気分になるな。
『じゃあ脳トレ探してくるよ』
「私の意見を聞き入れて下さり、ありがとうございます」
『んーんー元々色々試そうとは思ってたからね。気にしないで〜』
鼻歌交じりに立ち上がり、画面の前から消えるマスター。
そんな彼女の姿を見届け、ひとつ息を吐く。
「――あとはこのまま……いえ、それだけではありませんね」
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風呂上がり、ちっともさっぱりしない気分で、酎ハイと焼き鳥片手に部屋のドアを開ける。
「……」
毎日見るいつもと変わらない私の部屋。……あの頃から変わらない、私の部屋。
「はぁ…」
今日もマネージャーに心配かけてしまった。
普段通りの自分すら演じられないなんて……情けない。
「やっぱり、才能ないのかな」
ポツリと漏れ出る言葉。
……実際ないんだろうな。企業にも所属させて貰って、先輩方のネームバリューにもあやからせて貰ってのこれだし。
沈んだ気分のまま自身のチャンネルの登録者数と、同期たちのそれとの差を見比べる。
……こうやって改めて数字でお出しされると、ひと目でわかるなぁ。
アンチの人達によく言われる「面白くない」という言葉。
これらの数字が、その言葉の正しさを証明している。
「分かってるよ……そんなの」
昔は得意だったゲームも、ずっと働いてばかりいるうちに腕も落ちてしまった。
……まぁ、そのポジションも
同期たちはそれぞれの個性でもって爪痕を残した。……でも、私はダメだった。
話題はあまり広げられないし、ゲームにしたって無言の時間が出てしまう。
先輩方のようなコメント欄とのプロレス芸も上手くいかない。
私、コミュニケーション能力そんなに低くなかった筈なんだけどなぁ……あっ
「ブラックにいたせいか。ははは……」
カチカチとマウスを動かし、後で見るに追加したアーカイブ動画に目を通す。
最近見ているのはもっぱら燃香の動画だ。同期たちのコミュニケーション能力は全員等しく私より上だが、その中でも燃香は頭一つ抜けている。
最初に見始めたのは……あぁ、そうそう。なにか掴めるかもって思ったからだっけ。
「そこまで現実は甘くなかった訳だけど」
これでもやれるだけやった方なんだけどなぁ……確かにちょっとは進歩してるんだろうけど、これじゃあね……
画面の中の燃香と
「ボイロ実況してた時が懐かしい……」
ふと思い出した過去における私の活動。
お年玉やバイト代を貯めに貯め、ようやく手に入れた憧れの結月ゆかりを使ったそれ。
夢中になって動画も撮ったし、ゆかりんの声を当ててネットに送り出したんだよね。……今よりも人気出なかったけど。
「ふふ…」
久しぶりに動画見てみるのも悪くないかも。
ちょっと違うけど、記念配信で先輩たちがデビュー配信を見返す時の、あんな気持ちになれるのかな?
……多分私じゃ
ボイロ実況に使っていたアカウント――【紫松茸】にログイン。
画面右下にあるマイページを選択、切り替わった画面中心辺りにある作成した動画の欄を開く。
「わぁーお。結構撮ったもんだねぇ、私も」
途端に姿を現す無数の動画達。
あの頃の私の活動を示す物であり、充実した青春時代を思い起こさせる思い出の詰まった全て。
「最初は……どんな動画だったかな」
――そして私は、順に一つ一つ動画を見て行った。
時折漏れる独り言はどれも感慨深さに満ちていて、私にとってあの頃は、本当にかけがいのないものだったのだという事を改めて感じられた。
……でも、どんなに誤魔化したところで、悩みが消える訳でもなくて。
自然と私の口から漏れ出るのは、弱音ばかりになって行った。
VTuberも、ボイロも、好きな気持ちに嘘はない。それは確かだ。
……でも、やっぱり…好きなだけじゃ、やってけないのかもね。こういう水商売に入る仕事は。
「人気が出なかったのは……まぁ、今も変わらないけど」
でも……あの時は楽しかったからなぁ。
まだ色々と甘かったし、いつかは人気も出るはずだーって、根拠もなく信じきってさ。
今思うと、どれだけ子供だったのか分かるよね。
ま、それのおかげでモチベーションには事欠かなかったと思うと、ちょっと思うところもあるけど。
「……」
表情をころころと変えながら、楽しそうに実況するゆかりん。
そんな彼女の姿を眺め、時に理想と現実の差に辟易する私。
理想と現実の差……広いなぁ。
「事務所にも入らせてもらって、多くの人に支えてもらって2万弱――もうすぐで2ヶ月経っちゃうのに」
『こればっかりは下手に時間が解決してくれる訳でもないですからね。動画を見るに、なにかのキッカケさえあればバズると思うんですが』
それ本当かなぁ…?もしそうだったら嬉しいけどね。
……待って、今のって……?
前話投稿した際に一気に登録解除する人が出てきて豆腐なメンタルに傷が入りました……
※幻燈河貴さん、猫雛さん、nine( ᐛ )さん、誤字報告ありがとうございましたm(*_ _)m