ラーメンが正邪を作るお話   作:最弱の鬼人正邪ファン

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八雲紫


シアワセな夢をみる賢者

 私達は電車に乗りながら移動していた。四人用のボックス席に二人きり。向かい合う形で座っている。

 電車の窓から外の景色を見ていると、ふと、窓に反射した自分の顔を見て気付く。

 過去の幻を見てはいるが、私の姿は、妖怪の賢者としての姿のままだった。

 

「ねえメリー。目が痛いの治った?」

「ええ、もう大丈夫」

 

 そういえば、この日、私は目が痛かった……というよりも、目の違和感が凄かった。

 何が原因で違和感を感じていたのかは覚えていない。

 

「無理はしないでよ? ぶっちゃけると、今日はメリーの目を酷使するつもりだからね」

「ええ、いいわよ」

「……なんか雰囲気変わった? いつもだったら」

 

 何か指摘をされそうで、慌てて返す。

 

「どこも変わってないわ。私は私、そして、貴方は貴方」

 

 そっか。そう言って蓮子は口を閉じた。

 私は上手く笑えているのだろう。そうだろうか? 自分に自信がなくなってきた。

 

「ところで、どこに向かってるんだったかしら?」

「もう、忘れたの? 今日は()()()に行って、土砂崩れを調査しに行くんじゃない」

「幻想郷……」

 

 過去が変化する前、幻想郷は崩壊して、外の世界にその姿を現すことになる。だから私たちは巻き込まれてしまったのだ。

 とんだ巻き込まれ事故だ。ただ、少しの調査でこんなことになってしまったなんて。

 

「幻想郷で見つかった文献によると……そこには妖怪がいたらしいよ」

「そうなのね」

「……どうしたの? 本当に。なんか今日はメリーらしくないね」

「そう、かしら。わたしは変わっていないと思うけど」

「なんだか大人っぽいね。いつもよりも知的に見える」

「……」

 

 私は、変わってしまった。できる事ならば、貴方と一緒に時を歩んでいきたかった。

 妖怪になった後、長い長い時が経ち、私は酔いも甘いも経験してしまった。貴方を置いて行って。

 

「メリー? なんかぼーっとしてるみたいだけど、大丈夫そう?」

「……ええ、大丈夫。心配かけたわね」

 

 これは幻だ、それはわかっている。わかっているのに、私は何をすればいいのかわからなかった。

 

「あ、そろそろつくよ」

 

 蓮子が声をかけてくる。電車から降りる為に、開いた扉へと向かっていく。

 蓮子がホームと電車の境界を越えようとしたところで、私は蓮子の手を掴んでいた。

 

「えっ、メリー、どうし」

「行かないで」

 

 蓮子は見るからに驚いた表情を浮かべていた。

 

「幻想郷に近付いてはダメなの」

「メリー、どうしたの? 手を掴んでさ、早く降りなきゃ」

 

 話が噛み合わない、そんな感覚を覚えた。

 このまま手を掴み続ければ、蓮子を失わなくて済むのだろうか? そう考えていたが、一分、二分と経っても、電車が出発する気配はおろか、誰かが止めに来ることもなく、時間だけが消えていった。

 最終的に、根を上げたのは私だった。

 

「……ごめん」

「変なメリー、朝ごはんちゃんと食べた?」

「ええ、もちろん」

 

 手を離して、二人で電車を降りて、ホームに立つ。電車が動いていく音を背に、私達は改札を出た。

 

「ここから例の場所までは結構距離あるけど、大丈夫?」

「蓮子の好きなようにして、私はそれについていくわ」

「じゃあ、歩きで!」

 

 蓮子は前を向いて、()()()()へと向かっていった。

 山のように見えるが、山ではない。あれは、鬼の世界だ。

 だが、山と形容する以外に方法はないほど、その姿を変えていた。

 

 そこには神も妖怪も存在しない。いるのは罪人だけ。そのはずだった。

 捕えるべき罪人が消えて、その存在意義をなくした鬼の世界は、その力、その意味、その存在を失い、長いあいだその姿を異世界に隠していたそれは、姿をこの世に現して、そして幻想郷を結界ごと潰した。

 

「メリー? 歩きは嫌だった?」

「……いえ、大丈夫よ」

 

 いつの間にか、歩くのをやめてしまっていた。どうにもここにきてから……いや、最近になってから心が不安定になったような気がする。

 ……しっかりしないと、私は蓮子の友人として。いや、違う、幻想郷の賢者として? 私は、どっちだ。どっちが本当の私なんだ。

 

 そんな事を考えていたら、いつの間にか幻想郷の周辺までたどり着いていた。

 様々な人がこの幻想のなれ果てを見ようと足を運んでいた。

 私達は誰もいない静かな方へと進んでいく。

 幻想郷にどんどん近付いていく。

 

「近くまで来ると迫力あるねー。ん? 規制線か、どうする? メリー?」

 

 確か、土砂崩れがあったからか、安全を保つ為不用意に入らないよう、規制線が張られていたのだった。

 蓮子はニヤニヤしながら私に聞いてきた。

 だから私はこう返す。

 

「もちろん、引き返しましょう」

「いやいやいや、ここまできてそれはないでしょ?」

「ねえ、蓮子。真剣に聞いて? ここから先に行っても、あるのは終わらない苦痛だけ」

「行こうよ、この規制線の先へ」

「お願い、私の言うとおりに……」

「行こうよ、この規制線の先へ」

 

 無駄、か。

 私は口を閉じ。静かに頷いた。

 

 規制線を、境界線を乗り越えて、その先へ。

 ここから先は、現代とは違う、安全の保証がされない楽園だ。

 そんなことはつゆ知らず、蓮子は先へ進んでいく。整理されていない道だからか、歩きづらそうにしていた。

 

「なんか思ったよりも普通だね。目は? 何か見えた?」

「……あっちの方に結界が」

「本当に? じゃあ行ってみようか」

 

 嘘だ。そんなものありはしない。どうにかして奥へと行かないように私ができる精一杯の抵抗だ。

 本来の出来事からは離れた道を辿っているのに、今回は何故か戻されなかった。

 

「あれって、竹かな? あんな自然的な物が残ってるなんて……」

「そうみたいね……!」

 

 竹に駆け寄っていく蓮子を見ていると、何かが放たれる音が聞こえた。

 

「どうしたの? メ」

 

 蓮子が倒れる。見れば、蓮子の背中に矢が刺さっていた。

 ダメだ、気付くのが遅れてしまった。腑抜けてしまっている。いくら幻といっても、また蓮子を守れなかった。

 何をやっているんだ、私は……!

 

「安心して、危害は加えていないわ」

 

 竹林から見覚えのある存在が現れる。

 

「貴方は……」

「何も知る必要はない」

 

 私の元へと矢が飛んでくる。が、刺さりはしない。

 スキマを開いて私の背後へ矢を移動させた。

 相手は眉を曲げて、こちらを観察している。

 

「貴方は、八意永琳」

「……何故、その名を?」

「過去で出会いましたから」

 

 弓を構えるのをやめて、こちらに近付いてくる。

 

「過去……それはいつの事?」

「今から百年ほど前の事よ」

「別の時間軸から来たのかしら? あるいはパラレルワールド?」

「同一の時間軸だと私は思うけど」

「そう、じゃあ誰かが過去を変えたのね。そして私は変えられる前の世界の存在かしら」

「理解が早いわね」

 

 流石は月の頭脳というべきか、すぐに自分の状況を把握したようだ。

 

「変わる前の、いわば消えていく世界に何か用でもあるの?」

「……本当はこんな事をしている場合ではなくて、私の友人を助けないといけないの。だけど、どうしてかわからないけど、今、こんな幻覚を見せられていて、過去を追体験させられてて」

「落ち着いて、冷静になって説明して」

 

 ……我ながら不甲斐ない。こんなにも冷静でなくなるのは、きっと懐かしい気持ちになっているからだ。メリー(人間)の頃によく見ていた景色だったから……。

 落ち着いて、今までの経緯を永琳に説明した。

 

「なるほど、この世界は幻で、貴方の過去の記憶なのね。そして、過去が変わった結果、貴方は幻想郷の賢者となり、私と知り合いになった」

「ええ」

「そして、過去に別れた友人を助ける為に、再度鬼の世界に突入した……」

「そして、幻を現在進行形で見ている」

 

 なるほど、そう呟いて永琳は、寝ている蓮子に何かを飲ませた。

 

「それは?」

「薬の効果をなくす薬……あと三分もすればその矢に含まれている睡眠薬の効果が切れるでしょう」

「恥を忍んで聞きます。私は、何をすれば?」

「何も恥じることはないわ。選択をしなさい。後悔の無い選択を。ただし、貴方はまず、迷いを無くしなさい。何かを手に入れるには、何かを失わなければいけない」

「私は……」

「さようなら、貴方と話せて良かったわ」

 

 そう言って永琳はその場を去っていった。

 この場に私とメリーを残して。

 

 後悔の無い選択。選択。選択。私は何を失えばいい? 迷い。私の迷い。私は。

 

「メリー?」

 

 いつの間にか目を覚ましていた蓮子が私に声を掛けてくる。

 その顔には、心配と不安の感情が浮かんでいた。

 

「なんか、ウトウトしてたみたい。こんなところで眠くなるなんて可笑しいよね! ……メリー?」

「……ええ。そうね、可笑しすぎて笑ってしまいそう」

「そんな真剣な顔で言われても……」

 

 私は上手く笑えていないようだった。当然か、何も面白いことなんてないからだ。

 

「わかったよ、なんかメリーの体調悪いみたいだし、今日は帰ろっか」

「え……?」

「そんな驚く?」

「いえ、そうね帰りましょう」

 

 過去は、変えられる。そうだ、わかってたじゃないか。

 過去を変えたから今の私があるんだ。

 

「それで、帰り道は」

「こっちよ、蓮子」

「さっすがメリー」

 

 私は蓮子の手を引っ張って、急いで道を戻る。

 後ろから蓮子の静止の声が聞こえるが、私は止まらない。

 山を降りて、降りて……おかしい、いつまで経っても斜面から抜け出せない。

 

「なんか、雰囲気というか、景色が、この世のものとは思えない場所に来ちゃったけど、大丈夫かな?」

「そんな……」

 

 色が、色素が、スペクトルが、だんだんと変化していく。

 ひっくり返っていく、反転していく。

 どうして? 鬼の世界へ入る結界は、潜ってないじゃないか。

 

「ちょっと行ってみ」

「ダメ!」

 

 その世界に入っていこうとする蓮子を止める。戻れなくなってしまうから。

 背後を見た。いつの間にか、元の色はなくなっていた。

 私達は完全に迷い込んでしまったのだ。

 

「なんだか、息が苦しくなってきた。山頂に近付いている……わけではないか」

「こんな、こんなはずじゃなかったのに」

 

 深い絶望感が私を襲う。

 

「メリー! 目から何かが……!?」

 

 確かに何かが目からこぼれ落ちていくのを感じる。涙かと思ったが、泣く必要がないので違う。

 目を擦って、液体が手に付着する感覚があり、手を目から離して観察した。

 それは、血液だった。

 

「これは、なんでもない」

「本当に大丈夫!? とりあえず、ヤバそうだからここから出ないと!」

「ねえ、蓮子」

「ほら、結界とか見えない!? こう、都合よくさ!」

「……見える」

 

 ここは鬼の世界。時間も空間もひっくり返った、呪いの世界。

 私は……致命的に間違えてしまった。

 

「見えたなら、どこへ行けばいい!? ねえ! メリー!」

「ごめんね、ごめんなさい蓮子。私は謝ることしかできない」

「謝るって、何に」

 

 私が()()()見た結界は、私達を嘲笑うように段々と小さく、薄くなっていったのだ。

 

「貴方を見捨ててしまった事」

「何を言って……」

 

 謝罪して、許されるとは思わないが。

 

「私達はこの世界から逃げようとする。だけど、一度目に私は手を離してしまった」

「どういう……う、苦しい」

 

 私は蓮子の鼻と口を塞ぐ。いきなり抑えられたからか、私の手を掴んで離そうとするが、楽になっていくのを感じたのか、抵抗をやめた。私は手を蓮子の口から離した。

 

「二度目は手を掴むことすらできなかった」

「……」

「私は失敗したの。だから謝るわ」

「よく、わからないよ」

「……貴方にとって、未来の出来事ですから」

 

 私の背後に今すぐにも消えそうな結界(でぐち)がある。あるいは境界か。消えそうなくせに、じっとその動きを止めて私を待っていた。

 

「貴方は私を押して、無理矢理結界を越えさせる。そして貴方は一人この世界に取り残される」

「……よくわからないけど、二度目があるんでしょ?」

「二度目もダメだった。今は三度目だけど……もう、ダメかもしれない」

「大丈夫だよ。三度目の正直って言うし」

「そうかもね」

 

 本当にそうなるだろうか。我ながら自信がなくなっていた。

 ……この感情を断ち切るには。どうすればいいのか。

 

 何かを手に入れるには何かを失わないといけない。

 この幻は、今の私にとって毒だ。私の心を蝕んで、苦しめる。

 後ろに倒れて、結界に飛び込んだ。

 

 結界に飛び込んだ先も、また、鬼の世界だった。

 今度は隣に、虚な目をした天邪鬼がいたが。

 

 遠くから蓮子と、小人がやってくるのが見えた。

 

「メリー! 大丈夫!?」

「ええ、私は、大丈夫よ」

「良かった。とりあえず落ち着いて話せる場所へ行こうか」

 

 小人と私は天邪鬼の手を引いて、蓮子についていく。

 どうにも、忌々しい景色だと思う。

 数分もすれば、鬼の世界に唯一残された国が見えてきて、壁で囲まれたその中に入っていく。

 中には目を引く大きな城と、古い民家。

 

「どう? すごいでしょ」

「そうね」

「なんか反応薄いなぁ」

「はっ! ここはどこだ!?」

「落ち着いてください、もう大丈夫ですから」

 

 自慢げな蓮子の姿と、目を覚ました天邪鬼。そしてそれを落ち着かせる小人。

 ここは、二度目だ。

 

「あの、貴方達の名前をお伺いしてもいいですか?」

「私の名前は、八雲……いや、マエリベリー・ハーンよ」

「は? お前はメリーだろ。何を言ってるんだ。それにハーンって」

「いや、メリーはあだ名だから、マエリベリーで合ってるよ。ところで貴方は?」

「よくぞ聞いてくれた。我が名は鬼人正邪。生まれ持っての天邪鬼だ!」

 

 おお〜と、小人は反応している。

 私は愚かな天邪鬼を冷めた目で見ていた。

 

「で、ちっこいお前は誰なんだ?」

「申し遅れました。私は少名と申します。姓が少名で、名を持ち合わせておりません。小人族の末裔です。よろしくお願いします」

「小人族……?」

「はい、そうです。昔々栄えた一族なのですが……」

 

 天邪鬼と小人がどうでもいい話をし始めたので、意識を蓮子の方に向ける。

 

「どう、メリー。驚いたでしょ? 私も驚いた。まさか、こんな場所があるなんてね」

「そうね」

「本当に反応薄くない?」

「そんな事はないわ」

「ま、いいか。少名さーん! ちょっとメリーとこの国を廻ってくるね!」

 

 小人が返事をしてから、私達は歩き出す。この時、天邪鬼と小人のどちらかを見ていれば、良かったのだろうか。いや、意味ないか。

 整備された道を歩く。歪な線のない完璧な物だ。人の手では作れない。

 

「あの後、もうダメだーって思ったけど、この世界はどうやら色んな物が反転してるみたいだからさ? 試しに、息が苦しいのは呼吸をしているからと仮定して、息を止めてみたら楽になったんだよね」

「よく気付いたわね。さすが蓮子」

「でしょ? それで、少ししたらこの国が見えてきてさ、そこで少名さんと出会ったんだよね」

 

 相槌もせずに、ただ黙々と歩く。

 

「メリー? 聞いてる?」

「ねえ、もしも、もしも……」

「もしも?」

「もしも、私が貴方を見捨てたら。貴方は私を許してくれる?」

「いきなりだね、それに今にも泣き出しそうな顔しちゃって」

「答えて、お願い」

 

 そうねえ。そう言って少しだけ考えて、蓮子は言う。

 

「許さない」

「そう」

 

 やはり、私は

 

「だけど、見捨てないでしょ? 貴方は。そういう人間だから」

 

 ……そうか。私はそういう人間だったか。

 

「……なんか重い空気になっちゃったね。……ねえ、いいこと考えたんだけど。少名さんはこの世界の外を知らないらしいよ。だから、一緒に外にいって色んなところ見せてあげようよ!」

 

 そして、貴方はそう言う人間だった。優しい存在だった。

 

「いい考えね」

「でしょ?」

 

 笑顔を浮かべながら蓮子はそう言った。

 つられて私も笑う。

 二人で小人の元へ戻る。そしてこれからの事を伝える。

 

「外の世界に戻れるのか!?」

「し、しかし、どうやってこの世界から抜け出すというのですか?」

「私が見つけた入り口を使うわ。正邪にそれをひっくり返してもらって、出口にする」

「ああ、なるほど。それならできなくはないか」

「えっ、正邪さんってそんなことできるんだ!?」

「あ、あの、待ってください!」

 

 ズル賢い小人が待ったをかける。確か内容は、一晩泊まってはどうか。そんな感じだった。

 私と蓮子はそれに賛同して、正邪も渋々了承したはずだ。

 そして次の日に、私は裏切られる。

 

「それじゃ、早速行こうか」

 

 いつのまにか朝が来ていて、蓮子が全員に声を掛ける。

 

「少名さん、正邪さんのために」

「おーっとその必要はない。結界までの道が安全になりますように!」

 

 正邪が小槌を振るい、願いが叶えられる。言うまでもないが、それは偽物の、なんの魔力も持たない道具(レプリカ)だ。あの天邪鬼も私も、騙されてしまったが。

 

「正邪さんがなんでそれを!?」

「いいだろう? 少名の奴、私にくれたんだ。あいつは私にとって都合のいい奴だ!」

「……そうね、都合がいいわね」

「メリーさん、何か言いましたか?」

「いいえ、何も。急ぎましょうか」

 

 イキイキとした天邪鬼と、これからのことを考えて胸を膨らませている蓮子。

 大きな野望を抱えた小人と、歪な私。

 結界に辿り着いて、私は振り返る。正邪は小槌を構えてニヤニヤしていた。

 小人は、冷たい顔をしていた。

 

「目の前の二人が本心を曝け出して喧嘩しますように!」

 

 この時、私は何もできなかった。

 何もできず、蓮子を失ってしまった。蓮子が意識を失う。

 

「おっ、おい! 少名! どう言うことだよ、説明し」

 

 正邪も意識を失う。全て目の前の小人の手の上だった。

 

「さあ、外の世界へ行きましょう。メリーさん」

「別に、今更嘘をつかなくてもいいと思うのだけど」

「……貴方は何も感じないのですか。裏切ったというのに」

「感じるのも億劫だわ。貴方は何かを感じるの?」

「……いえ、何も」

「嘘はつかなくてもいいわよ」

 

 私の言葉に、小人は苛立ちの表情を見せながら、私を排除するために願いを叶える。

 

「さようなら! メリー!」

 

 小槌を振られて、視界が暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、目が覚めると、見知った駅の前にいた。

 

「どうしたのメリー、早くいこう?」

 

 改札を越えた先に蓮子がいる。ちょうどこの幻の始まりに戻ってきた。

 太陽の光が私を照らす。逆に蓮子は、駅の屋根によって日光から守られていた。

 だけど、そんな事はどうでもいい。私には手に入れないといけない物があるから。

 

「蓮子、覚えている? メリー(わたし)と過ごした日々。秘封倶楽部での活動」

「昨日のことのように覚えているけど……いきなりどうしたの? 電車もういっちゃうよ?」

「二人で色んな場所に行って、喧嘩もして、楽しかった」

「ねえ、早くしないと……」

「私は夢の中(そっち)にいけないわ。やらないといけないことがあるから」

 

 私は、帽子を深く被り、しっかりとリボンが付いているのを確認して、折り畳み傘を開いた。

 スキマから扇子を取り出して、少しだけ仰ぐ。

 

「メリー……?」

人間(メリー)はもういない。私の名前は……私は妖怪(やくもゆかり)ですわ。覚えてもらわなくて結構」

 

 人間性を失って貴方を助けられるのなら。私は喜んで差し出そう。

 名前を失って貴方を助けられるのなら。私は喜んで差し出そう。

 思い出を失って貴方を助けられるのなら。私は喜んで差し出そう。

 

「さようなら」

 

 お別れを告げる。この夢に、メリーに。

 背後に大きくスキマを開く。幻覚の中ならば、幻覚の中でやりようはいくらでもある。

 私と同じような状況に陥っている存在がいるはずだ。

 視界の端で蓮子が手を伸ばす姿が見えたような気がした。気がしただけだ。

 

「メリー! 私、待ってるから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキマの中に入り、移動をする。移動した先には、幻想郷があった。

 およそ百年前のことだが。少し歩いて、目的の人物を見つめる。

 地面を背にして、空を見上げて物憂げな顔をしていた。

 

「ご機嫌よう、鬼人正邪」

「うわっ!?」

 

 話しかけられると思っていなかったのか。驚いた顔を見せた。

 急いで立ち上がり、ありもしない汚れをぱっぱと払い、私を睨んでくる。

 

「メリー……じゃないな。八雲紫か。いきなり出てくるなよ」

「驚く方が悪いわ。私は悪くない」

「それで? この状況をどうにかする方法が思いついたのか」

「ええ、私に協力して?」

 

 私は手を差し出す。

 

「……お前は八雲紫なんだろ?」

「そうね」

 

 少しだけ悩むような姿を見せて、手を掴んでくる。

 

「……いいよ。こんな恥が繰り返される幻覚なんて、もう沢山だ!」

「うふふ、そうねえ。騙された愚かな天邪鬼の姿なんて私も見たくないわ」

「……おい、私は謝らないからな」

「それでいいわ。さあ、能力の準備をしなさい」

「対象は?」

 

 私達の周りに結界を広げる。この幻と現実の境界となるように。

 

「今作った結界をひっくり返しなさい」

「私に命令するな!」

 

 そう言いながら、正邪は能力を発動させる。明るかった世界は形を変えて、暗い現実へ変わっていく。前にも訪れたことのある鬼の世界だった。

 

「それじゃあ、いきましょうか?」

「ああ」

 

 ようやく、鬼の世界に戻ることができた。さっさと終わらせて幻想郷に帰りましょう。

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