ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
私にとって、月での戦争は……罪だ。どうやったって償うことができない、私の罪だ。
そう、思っていた。
「はは、はははは」
乾いた笑いが口から漏れる。どうして、私の隣に亡くなった姉が。
「清蘭。起きたんだ、変な夢でも見たの?」
「……お姉ちゃん」
青い長髪。赤い目。私と本当に似ている顔。
私の右隣に座っていた姉が声をかけてくる。柔らかい表情を浮かべているが、目は真剣だった。
……これは夢なのか? それとも現実? どちらにせよ気分が悪くなるものだ。
「顔色が悪いけど大丈夫?」
「……うん、大丈夫」
「お腹でも痛いの?」
「ううん、本当に大丈夫だから」
私は俯いた。今にでも泣き出してしまいそうだったから。
持っていた銃を杖のようにして、そこに前のめりに寄り掛かる。とにかく今は落ち着こう。
乗っていた軍用車が止まる。戦場に着いたのだ。
確か、この時既に玉兎は地上人と交戦を開始していて、私達は第二陣として送り込まれたのだったか。
「清蘭、レイセン、ほら早く降りるよ!」
「……うん」
「わ、分かってるわ」
車から出ると、外は久しぶりに見る地獄絵図だった。
白かった月を赤く染めて、玉兎の死体が積み重なっている。とりわけ仲が良かったわけではないが、一緒に訓練をした玉兎の亡骸を見るのは、何年経っても辛いものだった。
「て、敵はどこに」
「あっちだ! あっち!」
「地上人の兵器を警戒せよ! 一発でも当たれば死ぬぞ!」
震えてか細い声の鈴仙を押しつぶすように、他の玉兎が大きな声をあげる。と言っても、心の中で念じているのだから、実際には聞こえないわけだが。
この時から、貴方は……でもそれが一番だったかもね。
「行くよ! 清蘭!」
姉が私に声をかけてくる。私は頷いてついていった。後から、体を震わせる鈴仙がついてくる。
戦場の最前線へと進んでいく。前に行くにつれて、激しい戦いとなり、死体の数が増えてくる。
致命傷を免れて今も苦しんでいる玉兎の姿がある。片腕を失ってもまだ戦う玉兎がいる。震えて泣きながら縮こまる玉兎の姿がある。
そこに月人の姿はなかった。分かっていたが。
ここは最前線。どこから弾が飛んでくるかはわからない。その日、その時、私は油断してはいなかったが、自分の死角から飛んでくる、死に気付かなかった。
私に向かって地上の技術が飛んでくる。
それを、私の姉が庇って、受けて、何も言えずに死ぬ。そんなの、今の私が許せるわけがない。
私を庇う姉を抱き抱えて横に跳んだ。射線から逃れるように。
やった! 私はようやくお姉ちゃんを助けることが出来たんだ! 無傷の姿の姉を見てそう思った。
目の前で、姉の身体が弾け飛ぶまでは。
「……え?」
月での異変が終わり、地上での任務が終わるのかと思えば、今度は地上で怪しい動きがないか観察しろ、との事だった。
団子屋はそのカモフラージュ。人里で営むそれは、落ち着きもあって、楽しかったのかもしれない。
何故か隣で、友人の鈴瑚が団子屋を経営して、お客さんの取り合いになったこともあったりしたが、それもまた良い思い出であった。
「すみません、清蘭団子を五、いや、十本くださりませんか?」
「はい、ご注文ありがとうございます! 十本ですね! かしこまりました」
水色の服に桃色の髪。あまり人里では見かけない顔であったから。印象に残っていた。
幻想郷の有力者の一人、西行寺幽々子だった。
「お待たせしました、清蘭団子です!」
「わあ、おいしそう。いただきます」
一人で全部食べるなんて、この時は微塵も思わなかった。
見るだけで惚れ惚れするような所作で、団子を食べていく、一定のペースで優雅に食べる。違和感を感じたのは五本目からだった。一向にペースを崩さないので、私は恐ろしいものを見る目になっていた。
「美味しかったわ。もう一度来るわね」
「は、はい。ありがとうございました」
初めて彼女と出会った時、私は自分の罪を自覚させられる事になるとは、微塵も思っていなかった。
ある、晴れた日の事であった。
一度目は泣き喚いた。二度目は嫌に冷静だった。夢で何度も見ていたから。助けられて、何も言わずに別れる夢を。
「……弾は……避けたじゃん。避けたじゃんか……」
いや、やっぱり冷静ではいられないかもしれない。大好きな人が目の前で消えるのは、とても耐え難い事だった。
項垂れる。もういっそのこと、誰かに殺してもらいたかった。
今の私には、誰かを傷つける資格なんてありもしなかった。
だけど、いくら待っていても、私の脳天を撃ち抜く弾丸も、吹き飛ばすような爆弾も、飛んでくることはなかった。
「どういう、こと」
顔を上げれば、地上人も玉兎も、逃げ出そうとしているレイセンもみんなみんな、止まっていた。
まるで時間でも止まったように。
「なにこれ、本当にどういうこと?」
私が立ち上がると、それと同時に景色も動く。地上人が銃を構えて、私を狙っている。狙っているが、それだけだった。
レイセンもどこかへ走っている姿のまま、その動きを止めていた。
立ち上がって、レイセンの方へ行こうとした。行こうとしたら、私の体は動かなかった。
今度は逆に地上人の方へ行こうとしたら、体が動いて、周りの景色も動いた。
なんとなくだけど、分かってきたかもしれない。
これは、
「過去の、再現?」
こんな過去を再現して、一体なにになるんだ。鬼の世界はなにがしたいんだ。
嫌だけど、前に進まないといけない。このまま止まっていたいが、針妙丸のためにも、私のためにも。走り出す。
目的地もなくフラフラと歩いていると、ある風景が妙に目を惹いた。
それは、転んでしまったのか、膝を擦りむいた女の子が泣いている姿だった。確か、よくウチの店に食べに来てくれていたはずだ。
その子が泣いている姿を見て声を掛けようとしたところ、私より先にまた別の、転んだ女の子より少し年上に見える女の子が声を掛けた。
どうやら、二人は姉妹らしかった。姉に泣きつく妹、妹を窘める姉。少し時間が経てば、落ち着いたのか、二人は手を繋いでどこかへ行ってしまった。
気分が悪くなった。
その光景が何故か頭から離れなかった。道の真ん中で突っ立って大丈夫か? と通行人に言われるまで、私はその景色だけを考えてしまっていた。
今思えば、その景色が、私の過去に重なって見えたのだろう。
行きとは違って、私は重い足取りで人里を歩いて自分の経営している団子屋へ戻ろうとしていた。
何か甘い物でも食べれば、気分も晴れるかと思ったからだ。
どうしてこんな暗い気持ちになっているのかは、気付かないふりをしていた。
「清蘭団子を十本、いや、今日は五本にしておこうかしら」
店で団子を用意していると、亡霊のお嬢様が話しかけてきた。
「すいません、今日は休みなんですよ」
申し訳なく思いながらも、私はそう伝えた。
「あら、そうなの? 残念ねえ」
少しも惜しんでないような顔で、彼女はそういった。私は気にせず団子を食べた。ちょうどいい甘さで、美味しかった。
「……ごめんなさい、ごめんなさい」
謝りながら、地上人を銃剣で斬りつける。斬りつける度に、声が聞こえる。苦しそうな悲鳴だ。そして命が消える音がする。
地上人が使っていた銃を奪って、それを地上人に向けて発射する。
体に無数の穴を開けて、彼ら彼女らは倒れていく。
「……何をやっているんだ、私は」
そのまま走り続けて、私はとにかく誰かの命を奪っていく。
「だ、誰か……助け」
ごめんなさい。名も知らない地上人さん。私は貴方を殺します。
バン、と弾が発射される音がして、目の前に死体ができる。
「あの玉兎に続け!」
「私達の同胞の命を奪った地上人を許すな!」
そうだね、私もこの時は同じ気分だった。
あと数分もすれば、月の裏に地上人がいた痕跡は全て消える。
この戦いで散った全ての命と共に。
あと数分もすれば、私は解放されるはずだ。私の罪を見せているのなら。
それだけを望みに私は命を奪い続けた。
「ちょっと清蘭。聞いてるの?」
「え? あーごめん、なんの話だったっけ?」
「困るなあ、一番美味しい団子は何かを話してたんじゃん!」
「そ、そうだったっけ」
「最近よくボーっとしてるよね。なんか悩みでもあるの? もしかして、恋とか!?」
「んー、いやあ? ただ、その」
私はこの前見た姉妹の事を、いや、その姉妹がきっかけで、私は人里に住んでいる人間をよく観察するようになった。
そして、
「地上の人間も、月で暮らしてる私達も、あんまり変わんないんじゃないかなあ、って」
そんな風に考えるようになっていた。
「地上の人間だって、学んで、働いて、遊んで、誰かと過ごして。私たち玉兎と一緒だ」
「それは、そうかもしれないけどね。なんでいきなりそんな事を?」
「んー、なんとなくかな」
「なにそれー」
鈴瑚が作ってくれた団子を食べながらそういったと思う、鈴瑚が作ってくれた団子はとても美味しかった。
全部終わったあと、私は、月の都に戻っていた。
この戦争で活躍した玉兎に、形だけの勲章を与える為に。
「清蘭。貴方は数多くの敵を討ち取り、この戦いを勝利に導いてくれました」
私は知っている。月人が介入すれば、一瞬でこの戦いが終わる事を。
私は知ってしまった。月人は玉兎の命なんて、どうでも良かったのだと。
中には玉兎を大事にする月人もいるが。それは、ペットに対しての愛のようなものだけど。
「ありがとうございます」
飾りを制服につけてもらう。といっても、幻のようで、ついているようでついていない。
背後から拍手が送られる。前線には出ずに、後方でこの戦いに参加していた玉兎達だ。
鈴瑚の姿も見える。
まるで、英雄を見るような視線で、わたしたちを見ていた。
その視線が私には辛かった。
だけど、きっとこれで、この夢も終わるはずだ。
これ以上の苦痛は少なくとも私の記憶にはない。
鬼の世界へ戻ることができるはず……だ。
そう考えていた。私の期待は、粉々に打ち砕かれることになる。
「清蘭、どうしたの?」
レイセンが私に話しかけてくる。軍用車の中で、隣には私の姉が。
私の悪夢の始まりへと戻っていた。
「なん……なの、本当にさあ……うっ、うう……」
私は感情を抑えきれずに泣き出してしまった。
私を心配する姉の声が、とても胸に刺さった。
私は、そんな彼女の姿を眺めていた。あるいは、道行く人の姿だったか。
「何か悩み事でもあるの?」
突然そんな事を言われて、私は驚いた。
「いえ、特には……」
「そうかしら、貴方、どことなくフワフワしてるのよね〜。吹けば飛んでいってしまいそうよ」
「は、はあ……」
どうして、そんな事を聞いてきたのか、よくわからなかったが、この後に言われた言葉の前では、そんなことどうでも良くなってしまう。
「貴方って、他者を殺めたことがあるでしょう?」
「…………はい」
だけど、あれは仕方がなかった。殺さなければ、私が殺されていた。あいつらは私のお姉ちゃんを殺したんだ。そんな風に考えていた。はずだ。
「後悔はしているの?」
そんな風に考えていたら、後悔はしていない。だけど、私は、
「…………はい」
幻想郷に来て、色々な人間と関わるにつれて、人間も玉兎も同じ物だった。私が殺した相手にも家族がいたんだと思う。私は、私は……他者を殺めた、罪人だ。
「あまり深く考える物ではないわ。吹き飛ばされてしまうから。……貴方の迷いが晴れたら、また来ます」
「…………」
何も言えなかった。
その日、団子を食べてみたら、いつもよりも味が薄かった。
「どうすれば……どうすればどうすれば! どうすればいい!?」
頭がおかしくなってしまいそうだった。いや、もうすでにおかしいか。もっとおかしくなってしまいそうだった。
鮮明な悪夢が繰り返されるなんて、私は耐えられない。
どうして既に亡くなっている相手がもう一度死ぬ場面を見続けないといけないんだ。しかも、自分のせいで。
「ど、どうしたの清蘭!?」
「なんでも、なんでもないよ、お姉ちゃん」
「……無理はしないでよ?」
「ありがとう、レイセン」
二人が私を心配してくれるが、現実は非常な物で、戦場に降りることになる。
「ほら、降りよう清蘭。怖いかもだけど、私が守ってあげるから」
どうしてか、私は自分のことを抑えられなくなってしまった。
「……お姉ちゃん、行っちゃダメ!」
私がそんな事を言うから、お姉ちゃんは困った顔をする。
「そうはいってもねえ、今更戻るなんてできないよ。ね、何も心配することなんてないよ?」
「違うの! お姉ちゃんは死んじゃうんだよ! この戦場で! 敵に撃たれて!」
「ちょ、ちょっと何をいってるのよ清蘭……」
「私を庇って死んじゃうんだよ!? 敵の弾に反応できてなかった愚図な私を庇って!!」
私はお姉ちゃんに抱きついて、泣き叫んだ。
抱きしめられて、ゆっくりと頭を撫でられる。
「逃げようよ……みんなでさ……」
「……ごめんね、清蘭。貴方を置いていってしまうなんて。でもね、私は逃げはしないし、死ぬ覚悟でこの戦場に来たの」
「……逃げなくてもいいからさ、どこかに隠れてよ」
「ごめんね、清蘭。それはできない」
どうして。
「行こう、清蘭。レイセン。私達は戦場にいるんだから」
「……」
「……ええ」
私は、何も言えなかった。
それに、私は団子を作るのが下手くそになってきた気がする。味が、わからなくなってきたんだ。
「すみません、清蘭団子を一本」
「はーい」
やってきたのは、里で寺子屋を営んでいる先生。確か上白沢慧音という名前だったか。
青白い長い髪をしている彼女は、普段は青い服を身に纏っていた気がするが、今日は黒い服を着ていた。
私はそんな姿を見て、疑問に思って聞いた。聞いてしまった。
「あの、何かあったんですか? 普段とは違う服を着ているみたいですが……」
「……貴方は、そういえば月から来たんだったか。いや、ただ、少し葬儀があったんだ」
「そう、ぎ?」
「ああ……」
「……」
「……貴方の団子はな、その、亡くなった子が生前好んでいたらしい」
そう言われて、私は、どう言えばいいのか、分からなかった。
私はとても悲しい気持ちになっていた。
「……すまない、暗い話をしてしまったな。……いただきます。……甘いな」
「あの、私にもできることって何かありませんか? その子の……弔いのために」
「そう、だな。お墓参りにいってあげたらどうだろうか。四十七日後に、お墓に納骨されるから。その時にでも、その後でも、いってあげてくれ」
「……わかりました」
お店によく来てくれていた女の子が亡くなって、私は気分が沈んだ。わかっている、これは心の持ちようだ。過去のことなんて、気にしない人も多いだろう。だけど、私は気にしてしまった。
私が過去に殺してしまった人も、私のように悲しんでくれる誰かがいたのだろう。
私のように、殺した相手が憎くてたまらないのだろう。
私は、こんな幻想郷で平和に幸せに生きていて良いのだろうか。
私に生きる価値なんてあるのだろうか。
私には分からなかった。
戦場を進んでいく。命が消えた痕跡が周りにある。
前に進むにつれて、それは増えていった。
時には、体の一部だったり、原型を留めていないものもいた。
もう少しで、もう少しでさっきと同じ場所に辿り着く。
もう少しで、私の姉はもう一度死ぬ。
私を狙って砲撃が飛んでくる。そしてそれを庇おうとする。
最初の砲撃を回避する。ここまでは良い。だけど、二度目の砲撃はどうやって回避すればいい?
お姉ちゃんの体を引っ張ったが、お姉ちゃんの下半身が弾け飛んだ。
「あはは、私、庇わなくて良かったかも……ね」
「お姉ちゃんッ! お姉ちゃん!! しっかりして!」
「……ああ、妹を泣かせるなんて、姉失格だ」
「そんなこと、あるわけない! あるもんか!! お姉ちゃんは最高の姉だった!!!」
「うれ……しいなあ」
目の光を失っていく、それでも、笑顔を作って。
「……死なないで」
「清蘭、愛してるよ」
「……あ、ああ」
また、お姉ちゃんが死んだ。
「あああああああああああああああ!!」
私は立ち上がって、武器を持って走った。
「殺せ!」
罪のない誰かを切り捨てた。
「私を殺せ!!」
私には銃弾が一つも当たらなかった。
「誰かッ!!! 私を殺せええええええええええ!!!」
私は幻想郷一まずい団子屋として有名になった店を経営していた。鈴瑚になんだその体たらくは、とか色々な人に疑問に思われたけど、次第に誰も、何も買わなくなった。
だけど、その日は何故かウチの店に視線が集まっていた。正確に言えば、ウチの店の屋根だけど。
一体何故? と思ったけど、天邪鬼が店の屋根に寝っ転がっているからだった。
私は屋根に登って文句を言うことにした。
「おーい、ちょっと。こんな屋根の上でのたれ死なれても困るんだけど?」
「誰かが困るなら本望だよ」
そういえば、天邪鬼は何でもかんでも他人と逆のことをしたがるんだったか。
私は期待してしまった。目の前の存在は私を否定してくれるんじゃないかって。私が生きる理由を否定してくれるんじゃないかって。
自分で判断することができないから、他人に判断を求めたんだ。
もう少し天邪鬼という存在を知るために、私はとにかく彼女のそばにいようとした。
結果的に私の店を手伝ってもらうことになり、一緒に働くことになった。
働いていくうちに、ウチに来た経緯を聞くことになった。どうやら天邪鬼は友達と喧嘩をして、私の店にやってきたみたいだった。
そして頃合いを見て、なあなあで終わらせて、また友達と仲良くするつもりらしい。
「それでいいのかな」
「なんだよ、お前には関係ないだろ」
そうだね、関係ないね。だけど、私はどうもおせっかいになっていた。今までの経験のせいで、失うことを、失う可能性があることを良しとしなかった。
私の言葉は薄っぺらい、意味のない言葉だ。相手のことをよく知っている天邪鬼の方がきっと正しい判断をしているんだろう。私の言葉は否定される。……事はなかった。
しつこく言って、意味がないと一蹴されるまで待っていたのに。
天邪鬼は私の言葉を受け取って、何もしない事をやめた。
私はそれが正しいのか分からなかった。
私は自分が生きる意味が分からなかった。
答えは、出ない。
二度目の授与式。私は前を向くことができなかった。
ただ、その時間が過ぎるのを待っていた。
「清蘭。貴方は数多くの敵を討ち取り、この戦いを勝利に導いてくれました」
「………………誰か、私を」
終わらせて。そう、言おうとした時だった。
「清蘭!!」
声が聞こえた。友達の声が、はっきりと聞こえた。
「……鈴瑚?」
後ろを振り向いて、こちらを見る鈴瑚を見たけど、何かを言っている様子はなかった。
「しっかりして! 清蘭!! あんたは生きていいんだよ!!」
「一体、何処から? ……どうして?」
「ずっと流れてきたの! あんたの念波が!! 頭の中に! ……ずっと呼びかけてたけど、今、やっと繋がったわ」
「あっはは、恥ずかしいところ見せちゃったなあ」
「あんたは一人じゃないんだから、抱え込まないでよ」
優しく、声を掛けてくる。それがあまりにも、辛かった。
「……私、私って最低なやつなんだよ。誰かを殺したのに、のうのうと幻想郷で生きてる。どうしようもないクズなんだ」
「だから? クズかもしれないけど、それで死ぬ理由にはならないよ!」
「もう、楽になりたい、消えてしまいたいの……」
「……清蘭」
そうだ、私は罪悪感を感じているけど、罪を償たいんじゃない。本当はただ、罪に悩まされる生涯を終わらせたかった。死んで、死んでから地獄に落ちて、楽になりたかった。
「バーカ!!」
頭がキーンとした。
「あんたが死んだら、恨んでやる!! 私も死んでやる!!」
「なっ、なんで、そんな、鈴瑚には関係ないじゃん」
「私も戦争に関わってんだよ!!」
確かに、だけど鈴瑚は後方支援だから誰かを手に掛けてはいないはずだ。
「戦争ってのは一人で抱え込むんじゃなくて、関わった奴全員が背負うの! むしろ一人で抱え込むとかおこがましいわ!」
「……」
「……それでも、あんたが楽になりたいんだったら。私はもう何にも言えない」
ゆっくりと深呼吸して。落ち着く。
「ありがとう、鈴瑚」
「落ち着いた?」
「うん」
「よし、じゃあ頑張れ。私は応援することしかないから。辛かったらいつでも泣きついて来て」
「ありがとう、頑張るよ」
いつの間にか、景色は軍用車の中に戻って来ていた。
隣にはお姉ちゃんがいた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん、どうしたの? 清蘭」
言えなかった言葉を、幻でも、自己満足でもいいから。言う。
「私も、愛してるよ」
「ちょっとちょっと、急にどうしたの?」
「……とりあえず、私は消えてようか?」
「いや、消えなくていいから」
いつまで、この地獄が繰り返されるのかは知らないけど、私は生きようと思う。
辛くて、苦しいけど。終わりはあるはずだから。
私にはやるべきことがあるんだ。