ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
暗い世界。ありがたい事に月が昇っているか、沈んでいるため、今が朝か夕暮れであることがわかる。もっとも、あれが本物の月なのかは疑わしいが。
とりあえず、隣にいる八雲紫に判断を仰ぐ事にする。こんな境界さえなければ今すぐに離れたい。
「これからどうする?」
「さて、どうしましょうか?」
「何も考えていないのか?」
「考えてはいたのだけど、忘れちゃったわ」
あっけらかんと紫はそう言った。
正気かこいつ。そんな風に考えていると、いきなり境界が消えた。
「おい!? 何を……あれ」
やはり正気ではなかったか。境界を消してしまう事で私達の精神はまた幻に囚われる。そう思っていたのに、何故か無事であった。
「鬼の世界の性質が一つ消えたようね。それと同時に境界も消えた」
「……なぜだ?」
「さあ?」
「まあいい、これで動きやすくなったわけだ」
「そうね、行きましょうか。小人族の墓場へ」
墓場……昔の話だが、小人族は国を作って、民を支配するという願いを叶えようとして、結果的にこの鬼の世界へ閉じ込められてしまったという。
そして何人たりとも出られなかったわけだ。ある時間まで。
紫がスキマを作り出して、その中へ入っていく。私もそれについていくと、見覚えのある場所に出た。街並みが広がる、さっきまで嫌になるほど見せられた小人の国。
少し違う点と言えば、輝針城だけが消えている。
そんな景色を見ていると、少しだけ疑問が浮かんでくる。
「……どう感じたんだろうな」
「何がかしら」
「この世界に閉じ込められた時、小人族はどう感じたんだろうな?」
「時間の無駄ね。さっさと蓮子を探しましょう」
「随分とゆとりがないな。つまらない奴め」
悪態をつくが、紫は気にするそぶりを見せない。
「見当はついてるのか? お前の親友がいる場所の」
「いいえ、てっきり鬼の世界の中心にいるのかと思ったけど、いなかったわ」
「そんな安直な考えで上手くいくわけないだろ」
「……いえ、そうとも限らないみたいよ」
余裕そうな顔を浮かべた紫が私を引っ張る。抵抗する暇もなく倒れるようにスキマの中に飛び込んだ。耳を押さえたくなるような爆音が鳴った後、気付けばどこかの建物の上にいて、地面を見れば辺りは火の海となっていた。
「随分なご挨拶ですわね」
「なっ、何があった!? なんだ、これ、おい……この惨状は蓮子が!?」
「いえ、少し違うわ」
少し違うってなんだよ、なんでこんな燃え盛ってるんだ? 考えれば考えるほど色んな疑問が出てくるが、上を見て疑問はほとんど解決された。
新しく疑問が増えたが。
「
蓮子が、空中に浮いていた。
黒いマントを
髪が赤黒くなって、目も真っ赤に染まっていた。だが特別おかしいのはその力。
「怨霊……か? 人の体を乗っ取るなんていい趣味してるな」
蓮子の周りには、甘く見積もっても大妖怪に匹敵するほどの力が漂っていた。
「正しいです」
「なんでもいいわ。今すぐにその子の体から出ていきなさい」
「それはできません」
「一応理由を聞いておこうかしら」
「私は……
「答えになってねえよ」
「そうでもないわ。怨霊は生前怨みを持つ事により生まれる霊。怨みを晴らすために蓮子の体を使っているのでしょう」
「……ええ、その通りです」
にこ、と笑顔を浮かべる。気味の悪い笑顔だった。
それに色々と疑問もある。ただの怨霊で済ましていいのか? 怨みで済ましていいのか? 何かがおかしいだろ。
考える前に体を動かさないといけない。私達に狙いをつけて飛んでくる火の玉を見ながら、私はそう思った。
さっきまで足場にしていた建物が音を立てて崩れる。大炎上して煙が上がる。
「クソッ! ただの怨霊がこんな力を身に付けるなよ!」
「全くもって同意ね。さて、怨霊の鎮め方はどうすればいいのだったかしら?」
「怨みの元を断てばいいけど、怨みの元がわからない」
「他には?」
「体を動かせなくなるほど攻撃すればいい!」
「やむを得ないわ。許してね蓮子」
紫の返答に少しにやける。そうこなくっちゃなあ?
私は道具を取り出す。
黒と紫の市松模様の布だ。別名『ひらり布』。この布で包まれると短い間だが姿が見えなくなる。隠れ蓑のようなものだ。
怨霊は私の姿が見えなくなったからか、それとも目障りだからか、紫の方ばかり狙っていた。
都合がいい。用意しておいて一度も使うことがなかったこの爆弾を使う時が来たようだ。
爆弾を取り出すと同時に、私の元へ火が飛んでくる。どうやら布の効果時間が切れたようだ。
「気付いていますよ」
「わざわざ導火線に着火してくれるなんて、随分と親切じゃないか!」
火がついて今にも爆発しそうな爆弾を名もなき怨霊に投げつける。
「当たるわけないでしょう」
もちろん回避されて、爆弾はあらぬ方向へ。そしてそのまま自然に爆発する、前にスキマが開かれた。爆弾がスキマを通って、怨霊の目の前、零距離で爆発する。
「うわー、痛そうだな」
「さてさて、これで終わってくれるといいのだけれど」
当然のように、ピンピンした姿の蓮子が出てきた。服は無事ではなかったのか、汚れを払いながら、笑みを浮かべた。
「すいませんね、死んでも消えたくありませんので。私は意地でもこの世を呪い続けますよ」
「嘘だな、それ」
「嘘、とは?」
「ただの勘だ。根拠はない……無理矢理理由をつけるなら、私は天邪鬼だからな。他者の嘘に敏感なんだ」
「私が聞いたのは理由ではないのですが、まあいいでしょう」
怨霊が片手を空に向ける。今までとは明らかに何かが違う。何かを仕掛けてくるようだ。
「ひっくり返せ、全てを」
燃え盛る建物が空に落ちていった。そしてその後、月が沈んでいって、太陽が出始めていた。
「なんだ、ただ色々と反転させただけじゃないか。つまらないな」
「まずいわね、このままだと幻想郷にも効果が及ぶ……」
「本当か!? 一気に面白くなってきたな」
「さっさと終わらせなきゃダメね」
「幻想郷だけではありません。外の世界も私は滅ぼします」
有効打も見つからないまま私達は次の攻撃に備えた。
ああ、もどかしい。
大きな爆発音が近くで聞こえた。
音の聞こえた方向を見ると、何かを囲んでいる壁が見えた。
「今のって……」
「あそこの……壁? の中から聞こえたよね」
「行ってみよう!」
「了解」
清蘭に声をかけて私達は走り出す。と言っても私は清蘭に抱えられていたが。
とっても速いスピードで壁まで辿り着く。
「よし! 一旦壁の上まで登って!」
「任せて!」
抱き抱えられたまま、上へ上へ飛んでいく。壁の上に立ったあと、色々なことが理解できた。
壁の中には、燃え上がる街があった。建物が爆発したのかな。あたりを見回すと、見知った顔が見えた。
「あ、あれ! 正邪ッ!?」
正邪がいる事に驚いたわけではない。正邪がいることを確認した瞬間、世界がひっくり返ったのだ。
「おっとっと、驚いたなあ」
「なんで急にひっくり返ったんだろう? 正邪が何かした……わけじゃなさそう。ん?」
ここで私はようやく正邪と他に二人誰かがいる事に気付いた。
「あれは……八雲紫! と、誰だろう?」
「……あれは、宇佐見蓮子さん? らしいよ」
「誰それ」
「紫さんの友達らしい、今回助けるべき人物らしいけど……」
おそらく私達は同じことを考えている。
「「どうして戦っているんだろう?」」
蓮子と正邪と八雲紫は明らかに戦闘しているようだった。弾幕勝負で遊んでいるわけではなく。
よーし。
「あそこに突っ込もう!」
「へ?」
「ほら早く早く!」
「えっえっえっ?」
困惑しながらも、清蘭は空を飛んで三人に近付いていく。
「おーい! 正邪!!」
「なっ、針妙丸!? それに清蘭!」
驚く正邪の顔が見える、紫と蓮子は何か納得したような顔をしていた。
一時的にだけど、戦闘が止まったし、状況を説明してくれるかな?
「何があったの? その人って助けようとしてる人だよね、なんで戦ってるの?」
「あー、怨霊が体を乗っ取ったんだ」
「本当に? 嘘ついてる?」
「嘘じゃ……危ない!」
炎が私達に向かって飛んでくる。清蘭が弾丸を放って相殺しようとしたけど、勢いは弱らなかった。ギリギリで回避する。
「ちょ、ちょっと! 急にこっちを狙わないでよ!」
「小人族の末裔ですか、まずはあなたを始末します」
「えっ? 小人族があなたに何をしたって言うのさ!」
蓮子の体を乗っ取った怨霊は何も答えなかった。
「やる気だね、構えて針妙丸」
清蘭が私を離す。とりあえず私は、輝針剣を構える。清蘭も銃を構えていた。
「打ち出の小槌は使わないのですか? 今も持っているでしょう」
「自分のためには使わないって決めたから」
「……後悔しなさい。打ち出の小槌を使わないことを」
私の周り、四方八方に炎が現れる。まるで鬼火のようだ、逃げ場はない。ずるくない?
「逃げ道がないなんて美しくないよ! センスないね!」
「なんとでもいいなさい。燃えろ」
一斉に私に向かって炎が飛んでくる。
私はとりあえずお椀の蓋を深く被って自分の体を守ろうとした。が、炎が私に迫ってくることはなかった。
「世話が焼けるわね」
「あ……ありがとう」
紫がスキマを使って私を移動させたみたいだった。
「さて、二人増えて四対一になったけど……ダメね、決定打には至らない」
「境界を操って怨霊を引き剥がせないの?」
「試してみたけど、怨霊の数が多すぎる」
「え?」
「あの怨霊は集合体なのよ。剥がしても剥がしても、剥がれたそばからまた体を操る」
「じゃあ、どうすれば……」
正邪と清蘭が怨霊を止めようとしている。怨霊は気にせず私の元に来ようとしている。
何か私に、いや、小人族に対して怨みを持っている?
「怨霊は怨みの元を絶てば、その存在価値をなくして消えるわ」
「どうにかして怨みを消さないといけないのか……」
だけど、何に対して? どうすれば怨みは消える?
「無理ですよ! あなたには一生辿り着けない! それほど遠くまで、高いところまで私の怨みは行ってしまった!」
「ペラペラと喋る……そんなに小人と会えて嬉しかったのか?」
「ええ、嬉しいですよとっても!」
私に指をさしてくる。こちらへ向けた手を清蘭が蹴りを入れて逸らす。
炎はあらぬ方向へ飛んでいった。
とりあえず私も攻撃しなきゃ……そう思ったところで、何かが零れ落ちた。
「あれ、何これ」
私の手を濡らす。赤い色。鼻から何かが流れ落ちていく感覚がした。
血だ。私は鼻血を流している。
「針妙丸!」
正邪が? 清蘭が? 紫が? 誰が私の名前を呼んだ? 私は、なんで鼻血を流している?
「生と死を反転させました。小人族はこの中でも一番人間に近いからでしょう。もうすぐで命を落とします」
勝ち誇った笑みを浮かべて怨霊はそう言った。
「紫! 清蘭! 私は針妙丸を効果範囲外に連れてくから! お前らはそいつを頼む!」
道具を使ったのか、一瞬で目の前に移動してきた正邪が私の体を掴む。
意識を手放してしまいたかったけど、ここで気絶したらいけない気がするから、必死に持ち堪える。
「針妙丸! しっかりしろ! 」
「おお、正邪、とても頭が痛い……よ」
「待ってろ! 今ひっくり返す! 」
鼻血も止まらないし、言葉もうまく聞こえなくなってきた。
「……おい! 聞こえるか! 針妙丸!」
「あ、あれ」
頭の痛みは消え、耳も鮮明に聞こえるようになった。
「……ありがとう、正邪」
「勘違いすんな、お前の力が必要なんだ。……あいつらを終わらせるには」
「……わかったの? あの怨霊たちを成仏させる方法」
今気づいたが、私達はどこかの建物の屋根に立っていた。逆さまの状態で。
紫と清蘭が戦っている光景を見ていた。早くなんとかしないと。
「ああ、あの怨霊は……この鬼の世界に残された奴らが元になっている」
「そうなの?」
「そうなんだよ。そうとしか考えられない」
座り込みながら正邪は疲れたように言った。
「あの、さ、お前に言わないといけないことがあるんだ」
「……なに」
「……ごめん」
「正邪も謝れるんだね」
私は皮肉も込めて冗談を言った。正邪は笑わずに真剣な顔をしていた。
「私は何をすればいいの? 教えて」
ずっと戦っている清蘭と紫を見ていると、焦りが募ってくる。早く怨霊を止めないと。
「小槌で願いを叶えるんだ。怨霊が成仏するように」
「……それでいいの?」
「それしかないさ。ほら早く」
「……怨霊が消えますように」
願いを叶えようと小槌を振るったが、願いは叶わず、何も起こる事はなかった。
「……ダメだったか」
「もしかしたら叶える願いが、願いもやり方も違うのかも」
あの怨霊は反転させる能力を持っているらしい。
あの怨霊はこの鬼の世界に閉じ込められた者の恨みが元となっているらしい。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だよ」
私は屋根から飛んで、怨霊に近づいていく。慌てて正邪もついてくる。
私はこの場の誰にでも聞こえるような大声で叫んだ。
「みんな聞け!! 私は今からそいつを小槌でぶん殴るから、みんなは私の為に隙を作って!!」
「なっ」
驚いた顔をして、全員私を見てくる。ただ、仲間は頷いて、敵は怒りの顔をしたが。
「お前正気か?」
「正気だよ! ほら、正邪も協力して!」
少し呆気に取られて、フッと鼻で笑った。
「姫の仰せの通りに」
正邪は目の前から消えた。
後は私だけ。行けるか? いいや、行くんだ。
正邪がいなくなったから、また激しい頭痛が襲ってきたけど、耐えられる。
「いくよ! 準備はいい!?」
言葉はなかった。私の周りに広がった炎が合図という事になった。
スキマが目の前に現れて、私はそれに飛び込んで回避する。
スキマから飛び出すと、数十歩先に怨霊がいる。
私は空を飛んで近づいていく。
怨霊は炎を体の周りに広げ始めた。それは壁のようになって、距離が近くなった今、迂闊に近寄ることができない。
「針妙丸! 三秒後に前進!」
清蘭の声が聞こえた。意味を理解して、私は、一、二の三で目の前の炎の壁に飛び込んでいく。
もう少しで炎に触れるというところで、パン、と何かが弾ける音がして、何かの薬が飛んできて、目の前の炎が掻き消される。
私はそのまま突っ込んでいく。
あと、数歩で辿り着く。
「辿り着いたぞ! 怨霊め!」
「辿り着きましたか。ちっぽけな小人め」
深い憎悪をみせてくる。私には身に覚えがないけど、私の罪ではある。
「貴方を、貴方達を止めて見せる!」
「何度言えばわかるのですか? 貴様には無理だ」
目の前に一瞬で近付いてきて、その手に炎を纏い、私の体を貫く。
しかし、それは
「やれ! 針妙丸!」
言われずとも、私は上に飛び上がって、打ち出の小槌を構える。
私が思う正しいことをするんだ。
鬼の世界に行くことが罪だというのなら、その世界で罰を受けるのは正しいのかもしれない。
だけど、罰を受ける前にやらないといけない事があるはずだ!
「ごめんなさい! 私達の罪が許されますように!」
私は、怨霊に謝罪をしながら、懇願した。どうかどうかと、これで許されないのなら、それでいい。私は私の思う正しいことをした。
激しい頭痛に苛まれながら、私は意識を落とした。