ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
針妙丸が願いを叶えた後、蓮子と針妙丸の二人の周りにできた炎はすっかりと消え去って、力尽きた二人の体が落ちてくる。
蓮子の体は紫が大事そうに受け止めたので、私は針妙丸を受け止めた。呼吸はしっかりとしているので、おそらく気を失っているだけだろう。
「おい、そっちの方はどうだ? 大丈夫なのか?」
「……息をしていない。心臓も止まってる」
「そうか」
やっぱり命を落としていたか。
少し重たい空気になる。そんな中で清蘭が口を開いてくる。
「どう、するの?」
「そんなの決まってる」
「生き返らせるわ」
「えっ?」
混乱するのも無理はない、誰かを生き返らせるなんて、不可能に限りなく近いから。
「そんなの、いったいどうやって……」
「幽々子にお願いする。彼女は『死を操る程度の能力』を持っているから」
「じゃあ、死をなかったことにするってこと?」
「少し違うわ、この鬼の世界を使って、死をひっくり返して生にさせるのよ。死を誘う力を、生きる力に変える」
納得したような、していないような顔をしながら、清蘭はそっかと言って、黙った。
とりあえず移動しようと紫がスキマを開いたところで、地面が、鬼の世界が大きく揺れ始めた。
「なんだ、地震……なわけないよな?」
「……これは」
「あ、あれ、空が!?」
清蘭が上を指さしたので見上げると、そこには幻想郷がうっすらと見え始めた、そして、近くに、うっすらとだが輝針城も。薄い実体はだんだんと濃さを伴っていく。
紫がスキマを閉じると、それは止まった。幻想郷も、輝針城もうっすらと見える。空に。心なしか、上に引っ張られるような感覚を覚える。
「鬼の世界が
「閉じたわ。さて、どうしたものかしら」
「……幽々子さんに助けを求めればいいの?」
「ええ、どうにかして幻想郷にいる幽々子に今の状況を教えて、死をもらえたらいいのだけど」
「私の同僚と今念話しているので、その同僚に状況を説明します」
ああ、そういえば月から来た兎は同じ兎同士で念話ができるんだったか。
「そうね、けれどどうするというの? 状況を説明しても死を受け取ることは難しいと思うけど」
「私の能力を使います。『異次元から弾丸を飛ばす程度の能力』を使って、幻想郷から鬼の世界までの一方通行のゲートを作ります」
「……そうね、それなら大丈夫でしょう。お願いするわ」
そして清蘭は黙って、おそらく念話をし始めたのだろう。
私たちはそれを見る事しかできない。ただただ、時間が過ぎていく。なんとなくだけど、八雲紫はこうなることを把握していたんじゃないだろうか。
「……いまから転送しますが、大丈夫ですか?」
「ええ、お願いね」
空に、スキマとはまた違った異質な穴ができる。青色の様な、水色の様な、とにかく異質な穴だった。スキマを開いた時ほど揺れはしないけど、それでも着実に鬼の世界は幻想郷へとつながっていっているようだ。
そして穴から、桃色の蝶々が一羽出てきた。穴は閉じられ、蝶々が一匹その場に残される。ひらひらと、その場で飛んでる。
その蝶々は、何かに誘われるように、蓮子の体に飛んで行って、そして胸のあたりで溶けるかのように消えていった。
誰も声を出さなかったからか、呼吸をする音がはっきりと聞こえた。
「……成功か、意外とあっさり終わったな」
「そう、ねえ」
「これで、全部終わったの?」
「いや、まだやるべきことは残ってる……大きな問題がな」
空だったものを見る。
「鬼の世界は……元々現実にあった。それが色々あってひっくり返った世界っていう別次元の存在になって、今、また元の次元に戻ろうとしているわけだ」
「それはつまり……んー、この世界が幻想郷の空に現れるってこと? あのお城みたいに?」
「ええ、そして落ちる。鬼の世界は存在意義を無くしてしまったから。力を失って、空に浮かぶ事ができなくなり、落ちる」
「それって結構不味くない? ……これからどうするの?」
何もしようとしない私達を見て、清蘭は明らかに困惑しているようだった。
このまま何もしなかったら、まあ、不味いな。
「そろそろ……かしら」
心配をよそに八雲は大きくスキマを開く。鬼の世界が幻想郷とあっという間に繋がって、私達は地面に落ちていく。
「えええええええええええ!?」
私たちと一緒に、鬼の世界も落ちる。という事態にはならず、鬼の世界は空中で止まっていた。
それをしっかりと確認してから、地面に落ちていく私の体を浮かせる。
体の向きを縦軸に百八十度回転させて地面に足を向けるようにする。
「……止まった?」
「私が止めたのよ。変化することのない、永遠を付与してね」
前に一度会った事がある、永遠を操る事ができる蓬莱山輝夜だった。
輝夜以外にも二人ほど、こちらにやってきている存在が。
「山をどうにかするとは言ったけど……ここまででかいのは聞いてないんだけど? 山じゃ無くてほとんど大地じゃん」
「しかも街がある。予想していたが……これは骨が折れそうだ」
山の神である、洩矢諏訪子と八坂神奈子だったか。鬼の世界が落ちるという問題を解決する為に、八雲紫が呼んだ奴らだ。
「ごめんなさいね、私も手伝いますわ。この幻想郷を守る為に」
「結構だ、それよりも、紫はその子のそばにいてあげたらどうだ。久しぶりに再会するんだろ」
「……お言葉に甘えさせていただこうかしら」
「え、神奈子? まさかこれ全部私ら二人でやるっての? 冗談でしょ」
「ははは、さあ、早速仕事に取り掛かろう」
流石は山の神か、大陸を分解して、それを何処かへ運んでいる。
「大丈夫そう、だね。はあ、心臓が止まるかと思った……」
「清蘭!!」
「うわっ!?」
別の兎が清蘭の元に飛んでいったな。あれは確か、鈴瑚という名前の玉兎だったか。
あいつも来ていたのか。
「大丈夫!? 戦闘が発生したって聞いたけど!?」
「り、鈴瑚〜! 驚かさないでよ〜!」
「あ、ごめん」
楽しそうに話してるな、私もそろそろ行こうかな。
そう考えていると、少女の声が嫌に私の耳に届いた。
「……あれ、ここは?」
「…………目を覚ましたのね、宇佐見蓮子さん」
見た事ないくらい弱々しい姿だった。
「メリー? 此処はどこ?」
「いいえ、私はメリーではありませんわ。私の名前は八雲紫。そして此処は幻想郷です」
「幻想郷……えっ?」
二人の会話にはとても興味を惹かれた。二人の旅の結末を知りたかった。
「色々と聞きたいことはある……なんでこんな状況に? なんでお姫様抱っこしてんの? っていうか!? 私たち浮いてる!?」
「落ち着いて聞いて、貴方は鬼の世界を保つ為の身代わりになった、そして今、解放されて自由になり、この幻想郷にいるのよ」
「へえ〜……なんで浮いてんの?」
「空を飛べますので」
「すごっ、私も飛べるかな?」
「……さあ、それは素質によります」
そしつかあ、蓮子は空を見上げて、呟いた。何を考えているのだろうか。
「やっぱりメリーでしょ」
「さあ、誰のことを言っているのか、見当もつきませんわ」
「私の事を忘れちゃったの?」
「……」
「長い間、秘封倶楽部で一緒に活動してたじゃん。大学に行って、色んな不思議を解き明かそうとして、おかしな事に巻き込まれることもあれば、ただ何もなかったこともあって……」
「……」
「本当に忘れたの……?」
メリーはため息を吐いた。
「降参」
「やっぱりメリーだ」
「……でも、どうして分かったの?」
愛か? 洞察か? 友情か? 記憶か? 雰囲気か? どうやってお前は分かったんだ。
その先の言葉を聞く前に、私の耳は誰かの手によって塞がれた。
後ろを向いて、その人物の顔を見て納得した。
「……西行寺幽々子」
「これ以上は無粋よ。わかるでしょう?」
「これからがいいところだというのに、お預けか」
「『ご想像にお任せします』そうやって終わる結末もある。そうでしょう?」
「……」
扇子をひらりひらりさせながら、私を見つめてくる。
もう一度だけ、二人の方を見ると、抱き合っていた。静かに泣いていた。
「……もう行くよ」
「何処へ?」
「ご想像にお任せします」
「ふふっ、ええ、そうするわ」
私は針妙丸を抱えて目的の場所へと向かった。
幻想郷に謎の浮遊大陸現る!!
今朝、突如として幻想郷の空を埋め尽くす大きな嵐が現れた。空に浮かぶ輝針城を中心として発生した嵐は、大雨を幻想郷にもたらした。
昼頃に嵐の内部へ進むと、驚くべき光景を目にした。それは、空に浮かんでいる大陸だった。大きな大地が陽の光を遮るように嵐に蓋をしていたのだった。
浮遊大陸の近くまで進むと、守矢神社の八坂神奈子氏に「作業中なので近付かないで」と告げられた。八坂氏以外にも、洩矢諏訪子氏の姿も見られた。
警告された通り、浮遊大陸から離れ、観察していると、どうやら浮遊大陸を分解しているようだった。ある程度の時間が経ってから、離れたところに、八雲紫氏の姿を見かけた。そしてそばには宇佐見蓮子氏がいた。
事情を知っているであろう八雲氏に色々と疑問を投げたところ、ただ一言「記事にするのは許します。けれど、質問には答えないわ」と言われた。
八雲氏のそばに居る宇佐見蓮子氏にも話を聞いてみたが、どうやら何も知らないようだった。その後、空を埋め尽くすほどの大陸は、八坂氏と洩矢氏によって無事に分解されたようだ。もしもあれが地面に落ちていたらと思うと、考えたくもない。無事に終わって何よりである。
守谷神社の風祝、東風谷早苗監修!! 人里に出来たらあめん屋!!
人里に新しいお店ができた。元々は蕎麦屋を営んでいたそのお店は……
「……?」
「あっ目を開いた!」
目を開いて、ぼんやりとした頭を動かすと、目に強い刺激が入ってきた。慌てて手で刺激を遮って、注意深く観察すると、綺麗な夕陽が見えた。橙色の、鮮やかなものだ。
「ようやく目を覚ましたのね」
「心配しましたよ!」
「あ、霊夢、あうん……おはよう?」
「もう夕暮れよ」
「だよね、言ってみただけ」
「はあ、その調子じゃあ何処も悪いところはなさそうね」
霊夢が立って何処かへ行った。多分台所かな?
そうだ、私はさっきまで何をしていたんだっけ? 確か、確か……鬼の世界で願いを叶えて……鬼の世界!
「鬼の世界はどうなったの!?」
「なんですか、その鬼の世界って。萃香*1さんみたいな鬼がたくさん居るんですか?」
「そんなとこよりもっと酷いところだよ! 輝針城から通じてるはずなんだけど……あれっ輝針城は?」
「ああ、輝針城なら、嵐が止んだ頃には無くなってましたよ!」
「えっ」
確かに空に物足りなさを感じてはいたが、そっか、輝針城が無くなっていたのか。
え? 輝針城が無くなったの? 私のお家だったのに。え? あんな大きなお城だったのに?
「そっかあ……」
「針妙丸さん、元気出してください!」
「ありがとう、あうん……」
それでもなんとなく元気が出ないので、私は横になって空を見上げた。
「お茶を汲んできたけど、いる?」
「欲しい、喉乾いた」
霊夢が用意したお茶をいただいて、喉を潤す。
疲れた体に染みるほどに美味しいお茶だった。
「そういえば、正邪は?」
私がそういうと、霊夢は苦虫を噛み潰したような顔をした。何かまずい事を言ってしまったのか。
「いきなり此処にきて、あんたを置いていって、様子を見ろって言ってきたわ」
「あ、そ、そう、ごめんね」
「いや、私はあいつの態度が気に入らないだけだから、針妙丸は気にしなくていいわ」
「そうそう、あの天邪鬼が全部悪いんですから」
「そう……でもあるかも」
もう一度だけ、空を見る。今此処に私がいるって事は、無事に終わったって事だよね?
きっと、そうなんだよね。私は一気にお茶を飲み干した。
「これから住む場所どうしよう」
「別にウチで過ごしてもいいのよ?」
「流石にずっと世話になるわけにはいかないよ! けど……うん。いい場所を知ってるから、大丈夫」
輝針城を失ったとしても、大丈夫、私には思い出があるから。それに、打ち出の小槌だってある……あれ。
「打ち出の小槌が無い!?」
「ええ? 何処かで落としてきちゃったの?」
「それはまずいですね……私、ちょっと探してきます!」
「あ、いや! 大丈夫! だと、思う」
根拠はないけど。
「多分、もう打ち出の小槌はこの世界にないんじゃないかなあ」
「……それ、どういう事? 輝針城に行ってから何があったの?」
「……話せば長くなるけど」
輝針城に行って鬼の世界に行った事、自分の過去を思い出した事、鬼の世界の怨霊と戦った事、最後の願いを叶えた事。我ながら、勇敢に戦ったものだ。
「……そう、頑張ったのねえ」
「そう、頑張ったんだよ! すごいでしょ」
「針妙丸さん、さすがです!」
「でも言いふらすのはやめておきなさい」
「ええ? どうして!」
「この新聞を読めばわかるわ」
霊夢から新聞紙を渡された、私に読んで欲しい部分を指さしている。文字が多すぎて眩暈がしそうだったけど、なんとか読んで、なんとなく理解した。
「八雲紫は知って欲しくないのか」
「そうでしょうね、わざわざ質問には答えないと言ってるし」
「じゃあ、やめておく」
誰かに知られて欲しくないものを勝手に話すなんて、ダメだからね。
「そういえば、針妙丸さんはこれからどうするんですか?」
「とりあえず、新しい家を手に入れて……正邪を探す事にするよ! 色々聞きたいことあるし」
なんで鬼の世界にいたのか、詳しく聞きたい。
「だけど、まずは夕ご飯だ! 私が作る!」
私は台所に駆け出した。
「いや、ちょっちょっと待ちなさい! 針妙丸! あんた漬物以外にレパートリーあんまないでしょ!」
「早っ、あの人本当にさっきまで寝てたんですか?」
ああ、なんだか日常に戻れた気分だ。それに憑き物が尽きたような気もする。気がするだけだけど、それでも、心地がいい。
結局、私は霊夢に捕まって、新しく煮魚の作り方を覚えさせられる事になった。