ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
博麗神社で一夜を過ごした後、私は霊夢とあうんに昨日伝えた通りに、新しい家のもとへ行くことと、正邪を探すことにした。
「気を付けてね、昨日ずっと倒れてたんだから、後遺症がないとも限らない。永遠亭に行った方がいいと思うけど」
「大丈夫だって! なんだかいつもよりも体が軽い気がするし」
「無理は禁物ですからね!」
体調を心配してくる二人に手を振って、私は博麗神社を後にした。
空を飛んで移動するのも慣れたもので、私のいきたい方向へ丁度いい速度で進んでいく。体に当たる風が涼しくて気持ちのいいものだった。
さて、新しい家と正邪、どちらを優先するべきだろうか? 何にも考えていなかった。新しい家は……もしも、状態が悪かったら住処として使うことはできない。そうしたら、時間はかかるけど作り直すしかないか。天子*1に言えばやってくれるかな?
つまり、私が今やるべきは、正邪を探すこと。手掛かりは全くないけど。あの天邪鬼はいっつもどこかをほっつき歩いているのだ。
ただ、手掛かりを知ってそうな人物はわかる。私は早速人里へと飛んで行った。
まだ朝方だからか、あまり人の数は多くなく、私はお目当ての人物がいるであろう場所にいった。
人里で団子を販売している場所である、清蘭屋。私と一緒に鬼の世界に突入した清蘭が経営している団子屋だ。
鬼の世界で私は、いつの間にやら気絶してしまっていたが、きっと彼女ならば正邪がどこへ行ったか知っているかもしれないし、何か伝言みたいなものを託されているかもしれない。
そう考えて私は清蘭屋に来て、思っていた通り清蘭は自分のお店にいた。どうやらお店ででくつろいでいるようだった。そして隣には鈴瑚がいる。
私は二人に挨拶をすることにした。
「おはよう! 清蘭! 鈴瑚!」
「あ、針妙丸だ、やっほー」
「ああ、無事だったんだね針妙丸、おはよう」
二人ともお団子をほおばりながら私に挨拶を返してくる。羨ましい。
じゃなくて、聞かなくちゃいけないことがあるんだ。
「突然だけど、正邪がどこにいるか知らない?」
「……いや、申し訳ないけどわからないなあ」
「なんであいつを探してるわけ?」
「色々と話したいことがあるの、まだお礼も言えてないし」
「なるほどねえ」
なんとなくだけど、二人とも穏やかな感じになった? 少なくとも顔つきはゆるゆるになっている気がする。お団子を食べているからかもしれないが。
「針妙丸も団子食べる?」
「え、いいの!? ほしい!」
「はは、おっけー作ってくるね」
清蘭が言った。清蘭が。口と頭が苦い記憶で埋め尽くされた。
清蘭は善は急げと言わんばかりに急いでお店の中に入って、お団子を作り始める。
「あーやっぱりいいかな……なんて」
「大丈夫だよ針妙丸。アイツも成長したんだ」
「お団子づくりが?」
「うん。私が今食べてる団子もアイツがつくったけど、とってもおいしい団子だよ。私の団子の方がおいしいけど」
「信じていいの~?」
「多分」
「多分!?」
けれども、まあ、私は鈴瑚の言うことを信じることにした。清蘭がお団子を作っている間は、暇になる。
ちらりと店を構えている人里の通りの方を見ると、箱を大事そうに抱えた薬師さんが、ウロウロしているのが見えた。
気になったので私は声をかけた。
「あのー? どうかしたの?」
「ッ!? ……ああ、いやあ、その、これを清蘭屋さんに置いてもらってもいい? うん、それじゃあ……」
「いやいやいや、いきなりすぎるでしょ。一体何だっていうの……あれ、鈴仙じゃん」
薬師さんが私に持っていた箱を渡して、そのままそそくさ逃げようとしていたが、鈴瑚が肩を掴んで引き留めた。
鈴仙……聞いたことがあるような、ないような?
「違います! ウサギ違いです!」
「前の異変の時会ったでしょ、おぼえてないの?」
「あー、あー、うーん、そうだ! わたしちょっと忙しいので帰り「駄目だよ」ぐぬぬ」
鈴瑚が鈴仙と呼ばれた兎の首をがっちりと固める。いわゆるホールドってやつだ。たぶん。
「なんだか、仲がいいね」
「うん、友達からの敵からの友達だからね、雨降って地固まる的な?」
「放してよ、首が痛いんですけど?」
「降伏せよ、鈴仙二等兵。貴殿は既に包囲されている!」
「誰が二等兵だ。てか、本当に放して! 清蘭が戻ってきちゃう!」
「私が戻ってくるとまずいの?」
噂をすればなんとやら、清蘭が餡子の乗った団子を持ちながら私たちのところにやってきた。
「あ、ども、お久、清蘭」
「あらあら鈴仙お久しぶりー、って前にも合わなかったっけ? まあいいや、団子食べる?」
「ああ、うんいただこうかしら」
「ちょっと待った! それは私の団子だよ! ほしいのならば私を倒してからにしろ!」
私はスペルカードを構えながら鈴仙を威嚇した。
「あ、やべ、新しいの作ってくるね」
「お願いするわ、コーヒー味の団子でよろしく」
そんなものはない! ときっぱりと清蘭は言った。通りで立ち話をするのは通行人に邪魔なので、みんなでお店に戻って席に座って待つことにした。
「それで? 私に会ってまずいことがあるの?」
「……そういうわけじゃあないけど」
「だよね? 異変の時は普通に会話してたもんね?」
「もしかして、これと何か関係あるんじゃないの?」
私は持たされていた箱を机の上に置いた。
「もしかして、プレゼント!? だから鈴仙は恥ずかしくなって私に声をかけられなかったわけ!? キャー嬉しい!」
「マジですか? 貴方がプレゼントを清蘭に?」
「プレゼントというか……お詫びというか……差し入れというか……」
「早く早く! 開けて中身を確かめようよ!」
清蘭が箱を開ける。すると中にはイチゴがたくさん入っていた。大きくて、鮮やかで、とっても美味しそうなイチゴだ。
「おおー! 美味しそうなイチゴだね!」
「……鈴仙、お前だったのか。イチゴを置いていたのは……」
「なんでごんぎつねみたいに……いや、そうじゃない。うん。ずっと私が置いてた」
「冗談は置いといて、なんでイチゴを? そんな貰う立場にいたっけ? あと私ってそんなイチゴ好きなキャラしてたっけ?」
「私の方がイチゴ好きっぽいよね*2」
「……これはお詫び」
「えーと、何のお詫び? なんかあったっけ?」
なんだか、重たい話が始まりそうな予感だ。
「……戦争の時、私一人で逃げたでしょ。……それのお詫び」
「ああ! 別にいいよ。もう気にしてないし。ていうかガチで昔の事だね!」
「……本当に気にしてないの? あの日、貴方は……」
清蘭が手のひらを鈴仙に向ける。
「いろいろあった。本当にいろいろあった。もういいでしょ? いやなことは忘れるに限るね」
「……私の目、アンタらより波長が詳しく見えるのは知ってるでしょ? ……今は正常だね」
鈴仙が息を吐いた。
「どうやって?」
「明確な方法はないけど……団子づくりと一緒、かな。材料、技術、台所が揃ってようやく」
「よくわからないわ」
「私を、作り上げるみたいな?」
「わからないけど、分かった」
真剣な顔をしていた二人が、やわらかい顔つきに戻る。無事に終わりそうで何よりだ。
「地上に来たからなのかもしれないけどね。いやあ、月と比べたら本当に暮らしやすい場所で……はい、団子一丁!」
「あ、ありがとう」
「清蘭! おかわり!」
「鈴瑚、アンタもう十本目でしょ、その辺にしとかないと太るよ」
「そういわずにさー」
兎たちが団子の話をし始めて、ようやく手に持っている団子に口をつけていないことを思い出した。わたしは、勇気を出して団子を食べた。
やわらかい団子に、程よく甘い餡子がちょうどいい。とてもおいしい団子だった。
「美味しい!」
「ふふ、それはよかった」
「あら、本当だ。とってもおいしいわ」
「私の団子の方が一枚上手ですけどね! おかわり!」
こうやって友達と一緒に団子を食べるというのも乙なものだ。近くに桜もあったら最高だったのにな。私は空を見上げた。
空には輝針城はなく、青色に染まっていた。
「なんか、お城がない空も久しぶりだなあ」
輝針城が空に浮かんでから、数ヶ月くらい経ったのだろうか? こうしてまた青空を見るとなんだか新鮮に感じると同時に、お城をなくしたという喪失感を感じる。
「あ、確かに。お城がない幻想郷の空を見たことなかったかも」
「方角によっては見えるだろうけど、お城大きかったもんねえ」
「はあ、落ち着くわ……お茶貰える?」
「お冷なら……」
輝針城……あ、そういえば清蘭にはまだまだ聞きたいことがあったんだ。
「そういえば、私が気を失った後って何かあった?」
「今更だね? 聞かれなかったから気にしていないのかと……」
「そういえば針妙丸は知らないんだっけか」
「なにかあったの? 輝針城が消えた事と関係してる感じ?」
「うん」
「マジか……」
よく考えれば、輝針城が消えたって結構な大事件だな? あんまり気にしていなかった。
「えーっとじゃあ、鈴仙にもわかりやすく説明すると、鬼の世界っていう異世界に閉じ込められた紫さんの友達を助けるために、輝針城にいろんな妖怪が集まったんだよね」
清蘭が一拍、話を理解しているかどうかの確認をする。
そこまではわかる。鈴仙も理解しているようだ。
「そのあと、何とか友達を助ける事ができたけど、その友達が鬼の世界と一心同体って感じでね、友達を助け出した途端に鬼の世界は崩壊するはめに。輝針城が逆さまの状態で宙にあるのは、鬼の世界があるおかげらしいから連鎖するように輝針城が地面に落下していってね」
あー、だから輝針城が消えたのか。いや、力を失ったら地面に落ちるだけだから、まだあと一つくらい手順があるのか。
「なるほどねえ、……輝針城は今どこに?」
「輝針城は山の神様たちが分解したよ」
「……山の神ってすごいね」
心の底からそう思った。輝針城ってとっても大きかった気がするけど、それを分解って……もう逆らわないようにしよう。
「その後は……特に何もなく解散したね」
「宴会はしなかったんだ」
「紫の様子を見るに、あまり表に出したくなかったんじゃないかな」
「こそこそと計画を進めてたわけか……これって聞かない方がよかった?」
「まあ、広めなければいいんじゃない?」
なるほど、私が気絶した後の事は大体わかった。しかし、なおさら正邪がどこへ行ったのか気になるな。そろそろお暇しようかな。
腰かけていた椅子から立ち上がってみんなに挨拶をする。
「私そろそろ行くね。お団子美味しかったよごちそうさまでした」
「うん、気を付けてね」
「……気にしてなかったけど、体は大丈夫なの?」
「うん! 今朝起きたけど元気いっぱいだよ!」
鈴瑚が心配してきたので、腕を振り回しながら答える。ただ、それをよく思わない人物が一人いる事を失念していた。
「まって、今朝まで気絶していたの? それは医療関係者として聞き捨てならないわね」
「げっ」
「無理やりにでも連れて行くわよ!」
「そんなの嫌だよ!」
私には向かわなければいけない場所がある。兎なんぞに構ってはいられないのだ。
全速力で空へ飛び出した。
背後に誰もついてきていないことを確認してから、私はようやく一息ついた。
随分長いこと追いかけられてしまったが、ようやく撒くことができた。まさか人里の外までついてくるとは思わなかったが。
私は妖怪の山のはずれの方へ視線を向けた。
あそこが、一応今の私の目的の場所になっている。もしも何もなかったら……その時はその時で考えればいい。
私の心配は杞憂となった。そこにあるのは一つの民家。輝針城という住処ができるまで、長い間住んでいた場所だ。
扉を開けて中に入る。明かりは陽の光だけなので部屋全体を見るには少し足りないが、それでも今の家の状態はわかる。すごく古びている。
埃がたまっていて、もう一度家として機能させるには掃除をする必要がある。
「……」
しゃがんで埃だらけの床を眺めた。
そんなのずーっとやっていたじゃないか。なあ? あの小人の家来になってから、ずっと。
……針妙丸は今頃何をしているのだろうか? 博麗神社でに泊まっているか、人里で過ごしているか。はたまた天人の元で過ごしているか。
だが、少なくともこの家に現れることは無いだろう。それが彼女の願いであったから。
「あー、やめだやめ!」
吐き捨てるように私は立ち上がる。小人の事なんて放っておけばいい! とりあえず掃除をして、ここを拠点にしよう。そしたらもう一度、私が下克上をするための計画を立てよう。
そう考えて、バケツに水を用意した。雑巾が入っている箪笥を開けた。適当に何枚か雑巾を取り出して、机の上を拭いた。
そしてその上に荷物を置いて、腕を回す。
「さてと、始めるか」
「何を始めるの?」
「……は」
誰が声を出したのか、そんなのは見るまでもなく声を聞くだけでわかった。ただ、どうしてここにいるのか、もう体は大丈夫なのか、そんなことを聞きたかった。だから私は声に出した。
「おかえりなさい、姫様」
「……ただいま、帰りました」
雑巾を濡らして、それを姫に放り投げた。顔面に当たる……ことなく、手でキャッチされた。
「始めるぞ、大掃除」
「始めるって、掃除だったの!?」
「ああ、姫だからってやらないとは言わせない」
「望むところだ!」
初めて会った時は、歪に成長した名も無き存在だったな。次にあった時は、何も知らないガキだった。
今は……
「……大きくなった、かな」
「あ、やっぱりわかる!? この前よりも身長が大きくなって、着物も小さいのは入らなくなっちゃってさ! でもすごく成長したって感じる!!」
「……」
無言で針妙丸を突っついた。突っつかれたことに不満の表情を浮かべていたが、私は無視して部屋の掃除を始める。
それに続くように針妙丸も雑巾を使って掃除する。欲を言えば雑巾以外にもほうきが欲しかったが、仕方ない。
欲を持ちすぎても破滅するだけだからな。
針妙丸と一緒に二人で掃除を続ける。小人だから使い物にならないかと思ったが、素早いし隙間の埃も見落とさずにとってくれるから、意外と便利な存在だった。
「意外だな、てっきり何もわかんなくて私に泣きつくと思ってた」
「霊夢に習ったから、ね!」
力強く、床に出来た染みをゴシゴシと擦りながら針妙丸は返事した。
染みは未だに綺麗にはなっていない。
「ううむ、全然綺麗にならないな……」
「長い間放置されていたからな……霊夢に習ったって、一体いつの間に?」
「つい最近、正邪が追い出されてどこかへ行ってた時だよ。何してたの?」
「色々、してたんだよ」
床はある程度綺麗になった。元々家が小さいのも相まっているからなのか、比較的時間を掛けずに綺麗になっていった。
「後で絶対聞かせてよ。あの世界の事も」
「知りたいか?」
「知りたい!」
「……まあ、いいか」
埃まみれでボロボロになってしまった雑巾を窓の外に投げ捨てて、新しい雑巾を用意する。
「ちょっと正邪!」
「なんでしょうか」
「今、外に雑巾投げたでしょ!」
「見えてましたか……」
チッ、めざとい奴め。ちょうど私の体が壁となって見えていないと思ったのに。
「拾ってきて! 今すぐに!」
「別にいいじゃないですか、誰かに当たったわけでもあるまいし……」
「いいや、ダメだね。見過ごせない!」
「……はいはい、わかりました。拾ってきますよー」
面倒だな。ノロノロと足を動かしながら玄関の扉を開けて外へ向かう。何故か、背後に針妙丸がついてきていた。
「……なにか?」
「ちゃんと拾うか見届けるだけ」
「はあ……」
「そのため息は何さ!」
「なんでも」
私の一歩は針妙丸にとって二歩くらい。背後からついてきていた針妙丸はついに横並びで歩き始めた。家からそう遠くない場所に落ちていたボロ雑巾を拾い上げて、さあ家に戻ろうとした時、針妙丸が動きを止めている事に気付いた。
「どうしました?」
「あれ、あそこにあるのって」
「木ですね。多分桜の木。時期的に花は咲いてませんが」
「あそこ、お母様のお墓がある場所だ」
そう呟いた針妙丸は、まっすぐと前を向いていた。