ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
「うちの店では、団子を作っています」
「知ってる、団子屋って言ってたし」
「なので、貴方には接客と、お店の掃除をお願いします」
「なんで急に硬い口調になったんだ?」
「こうした方が店長っぽいでしょ?」
「ああ、うん、すごいすごいえらい」
馬鹿な事を言っていたので、私は適当にあしらう。
「とりあえず、私が団子を作るからよろしくね」
そう言って兎は生地を作り始めた。あーあ、この店も終わりだ。今日を持って、天邪鬼に接客をさせた清蘭団子を廃業にさせてやる。
さて、早速客を呼ぶとしますか。
「人間の皆さんご注目ー! 幻想郷一まずい清蘭団子ー! ぜひたべないでくださーい!」
完璧だ。こんな宣伝で店に来るのは物好きだけだ。
「ちょっとちょっと正邪!」
「なんだよ? いっておきますが、雑用を任せたのはお前だからな?」
「人間以外にもちゃんと宣伝してよ!」
「そこ注意するか普通?」
ここ人里のはずなんだけどなー、そんな風に考えている間に、清蘭は団子を作っていく。驚いた事に、団子はめちゃくちゃ綺麗に作っていた。あっという間に生地を等分にして、丸めて、お湯に浸けて、水で冷やす。
「随分と綺麗に作ってるじゃないか。あれか? 幻想郷に団子屋は二つしかないから、結果的に一番まずい店って言われてるのか?」
「さあ? 理由はわからないんだよね。なんで、幻想郷一不味い団子屋なんだろうね」
そう言いながら、清蘭は団子を砂糖の山に突っ込んだ。
「お前何やってんだ!?」
「味付けだよ、甘ければ甘いほどおいしいでしょ?」
「なんか、わかった気がする、ここの評判が悪い理由」
「え、本当に? すごいな正邪、名探偵じゃない?」
「……貸せ、私が団子を作るから、お前が客を呼んで接客をしろ」
「え? 店長の立場は?」
「ゴミ箱に捨てろ」
こうして、私たちの立場は入れ替わった。
といっても、私は団子の味付けを少し変えるだけだ。認めたくはないが、味付けが壊滅的なだけで、団子自体の作り方は、私よりも上手いだろう、あんまり認めたくはないが。
「みなさーん! 今日だけ! 天邪鬼が団子を作りますよー! 食べなくてもいいから、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「おいこら、食べさせろよ」
清蘭はさっき作った砂糖団子を頬張りながら宣伝する。真面目にやれよ。
しかし、この砂糖の山、これ以外に何かないか? そう思って、店を見渡すと、都合よく苺が冷やして置いてあった。
「おい店長、あの苺は使っていいのか?」
「ああ、いいよ。なんか、誰かが毎日差し入れてくるんだよね」
「ふーん、ぐちゃぐちゃに潰してやる」
「ええ!?」
宣言通り、私は苺を潰して、そこに砂糖を入れる。もちろん、
そして、それを生地に混ぜ込んで、苺味の団子を作る。色はピンクっぽくなる。こんな血を想起させるような団子、誰も食べたくないだろう。
「おお、ストロベリー団子だね」
「これが私の団子だ、文句は言わせないぞ」
「いや、アリだと思うよ」
そんな風に話していると、誰かが店の前にやってくるのが見えた。
「なあ、慧音。少し甘味を食べて行かないか? お互い積もる話もあるだろうし」
「ああ、いいぞ。ってこの店は……」
「いらっしゃいませー、何名様でしょうか?」
「ああ、二名だ」
「も、妹紅? この店は、ちょっと……」
「ん? どうしたんだ、そんな、死ぬほど甘いものを食べた顔をして」
驚く事に、不老不死の人間と、半人半妖の二人組が店に来た。この店の悪評を持ってしても、店に来るなんて、よっぽど甘いものが好きなのか、それとも味覚がおかしいのか。不老不死の方は、普段は人里にいないから知らないのかもしれないな。
私は耳を立てて会話を盗み聞きする。
「……この店ってこの、清蘭団子しかないの?」
「はい、うちはそれ一つでやらせてもらってますから」
「なるほど、よっぽど味に自信ありってことか。じゃあ、清蘭団子二つ」
「あー! 妹紅! 私はお腹いっぱいだから! 私の分は大丈夫だ!」
「そ、そう? じゃあ清蘭団子一つ」
「かしこまりましたー。おい新人、団子一つ用意!」
清蘭が命令してくるので、とりあえず従う。いや、うーん。なんかダメだな。なんで私はこんな簡単に、誰かに従うようになってしまったんだろうか。
「へーい清蘭団子一つ」
「あれ、お前は」
「天邪鬼じゃないか。この店で働いているのか」
不老不死が気付いたような声をあげて、半人半妖が私の存在に言及してくる。
「おいおい、天邪鬼が働いてるなんて、大丈夫かよ店長さん」
「意外と従順ですよ」
「うるせえよ」
なんか気に食わなかったのでぶん殴った。しかし、軽々と避けられてしまった。
「ははは、笑えるな。ん? ここの団子は桃色だな。どんな味だろ」
「桃色だって? 一体どんな味付けをしたというんだ」
不老不死の人間が団子を頬張る。ムカつくほどに幸せそうな顔をしていた。
周りにいる他の人間が、こちらを見て、様子を伺ったり、あるいは、不老不死の人間が、驚きで転げる様を見ようとしていた。
「うん、美味い! なるほど、いちご味かーいい団子だね」
「……妹紅? 大丈夫か?」
「え、何が?」
「味付けだ、変じゃなかったか?」
「いや、普通に美味しかったけど?」
周りの様子が驚きに変わっていく、あの不老不死の人間は味音痴なのか? そんな風に考えているのだろう。
半人半妖が疑っている顔をしている。そして、私も、と団子を注文してくる。
「私も、清蘭団子を一つ」
「毎度あり、おい新入り」
「あー今休憩時間なんで、店長お願いします」
「よーしあんたはクビだ」
そう言いながら、清蘭は団子を用意している。なんか失敗しないかな。
しかし、私が、私が! 用意した味付きの生地なので、そんな心配は無用だった。
「見た目は美味しそうだけどな……」
「心配しすぎだよ慧音は、天邪鬼が作っているからといって、毒が入ってるわけでもあるまいし」
「いや、私は天邪鬼じゃなくて、店主を警戒しているんだが……まあ、いただきます」
一口、頬張る。ゆっくりと咀嚼して、疑うような鋭い顔は、段々と柔らかく変化していく。
「本当だ、美味しいな。この団子」
でしょ! と、すでに団子を完食していたお連れの客が、誇らしげに言う。
そして、そんな様子を見ていた周りの人間も、気になっているのか、じわじわと店に近づいてきている。そして、団子を頼むのだ。
「あ、あの! 私にも清蘭団子一つください!」
「俺も俺も!」
ああ、人間の愚かな心理現象だよな。不思議なものを見たら、自分も経験したくてたまらなくなる。
今回は、年中不味い団子を作る店主が、奇跡的に美味しい団子を作ったという、不思議と名乗るのも憚られるくだらない事だ。
「正邪さん、再就職おめでとうございます。一緒に団子を作りましょう」
「喜んで辞退させていただきます」
そう言葉では言いつつも、私はこの愚かな人間どもを眺めるのと、幻想郷一不人気な団子屋が、一番人気になっている現状が、愉快でたまらないので、団子作りを手伝っているのだった。
客はどんどん多くなる、今は
「ああ、すごいなあ、うちの店がこんなに人を呼ぶだなんて」
「今だけだよ、どうせすぐに人気はなくなるって」
「だろうね、あんたがいなくなったら私はこの味を作れなくなるだろうし」
「その話、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
軽口を叩いていたら、急に割り込んでくる失礼なやつがいた。
「あんたは……誰?」
「新聞記者をやらせてもらっています! ルポライターの文です!」
「人間のふりしてるけど妖怪だよ、こいつ」
「へえ、団子食べます?」
「はい! 是非一ついただきましょうか!」
元気よく団子を頼んでいるが、商品を頼めば話が聞きやすくなるから、とか、そんな邪な考えで団子を頼んだに違いない。
「ああ、美味しい団子ですね! 一体どのようにして、作ったのでしょうか?」
「そこの正邪が作ってくれたよ。イチゴと砂糖を混ぜて、それを普通の生地に混ぜ込んで、団子を作ればそこで完成」
「なるほど、意外とシンプルですね! しかし、どうして指名手配犯がお店で働いてるんでしょうか?」
「元、だからな。誤解を招く発言はやめろ」
作り方が、話題性のかけらも無い、面白味のないものだったので、今度は私の話題に転換してきたか。
「あなたはよく、小人に付いているのを見た事がありますが」
「ああ、もうやめた。方向性が違ったからさ」
「それで、今は人里の団子屋で働いているんですね」
「そうだよ、これ以上に話すことはないな」
「なるほどなるほど」
随分と簡単に引き下がったな。これで終わりとは思えないけど。
そんな風に警戒していると、また別の誰かが、今度は店内の厨房に入ってきた。
「よっ、やってる?」
「鈴瑚! どうしてここに!?」
「なんか、ウチよりも繁盛している団子屋があるから、潰しに来た」
「ひどい」
やって来たのは清蘭とは別の、黄色い髪をした月兎。鈴瑚と呼ばれたそいつは、どうやら清蘭と友人らしかった。
「しっかし、まさかあの清蘭がやってる団子屋が、こんなに繁盛してるなんてねー」
「驚いたでしょう?」
「うん、驚いた。団子を冒涜していたあんたが、こんなに成長してて、嬉しいよ私は」
「それほどでもー」
「あ、団子の味付けはそちらの正邪さんがやったみたいですよ」
清蘭の首筋に、鈴瑚が持っていた団子の串が突き立てられる。
「くっ、烏天狗め余計な真似を」
「正邪、あんたはこんな奴よりも私の店で働くにふさわしい。ウチで働くのはどう?」
「あんたの店の人気をひっくり返していいなら」
「うーん……反逆者ここに極まれりって感じですね」
私の切実な願いは、それはダメ、とあっさり切り捨てられた。
「はあ、期待して損した。清蘭が真面目に団子を作ってくれたと思ったのになー」
「ははは、面目ないなぁ」
清蘭は軽く言っているが、鈴瑚はとてもとても残念そうな顔をしていた。
なんだかそれが、私と姫に重なって見えた。
「そんなに引き摺ることか? 期待を裏切られる事って」
「明日くらいまで引き摺ろうかな」
「……やっぱ引き摺る物なのか」
「どうしたのさ、正邪」
「例えばの話だけど、召使いが昼ご飯に、心から望んだものを作ってくれるとする。そしてそれを期待して、お腹を空かせて家に帰ったら、望んだものとはまるで似ていない物を、顔面に叩きつけられたら、どう思う?」
「召使いの頭がイカれてるとしか思えませんが」
烏天狗はそう言った。まあ、否定はあまりしない。
「召使いじゃなくて、主人はどう感じる?」
「その召使いを打ち首にするんじゃない?」
黄色い髪の月兎はそう言った。結果的には間違った答えと言える。
「お前はどう考えるんだよ、店長」
「うーん、とりあえず、私が味付けした団子を食べさせようかな?」
論外だった。
「まあ、全員考えることは一緒で、その召使いはめっちゃ悪いってことですよ」
「召使い、今朝の私な」
「詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
新聞記者は意気揚々とペンを取り出した。相変わらず店長は、何も考えてないような顔をしていたが、黄色い髪の月兎は引いていた。
「あんた、それはないわ。一時でも店員にしようとした私が恨めしい」
「それでそれで? どうして顔面に叩きつけたんですか? 何を叩きつけたんですか? 事件の経緯は?」
「事件言うな。えっと、姫が私にらあ麺を作れって要求してきたんだよ」
「らあめんですか、漢字は?」
「わからないけど、多分、らあはひらがなで、めんは、麺類の麺だ」
文に根掘り葉掘り聞かれながら、今朝に起こったことを振り返りながら、私は答えていく。
「うーん、それは正邪さんが悪いですね!」
いい情報を得たからか、満面の笑みで私が悪いと告げてくる。
「ますます引くわ……絶対その、針妙丸って子に謝ったほうがいいって」
「そうか? ……悪くないと思ったんだけどな」
「天邪鬼の鑑ですねー、それじゃ、面白そうな話を聞けたので、ここら辺で失礼します!」
「私も、店の臨時休憩時間がそろそろ終わるし、帰るわ。清蘭、作る友達は考えた方がいいよ」
烏天狗と月兎は風のように消えていった。
私と、清蘭と、あとは多数の客がその場に残される。といってもほとんどの客は、団子を頬張っていて、私たちがやることは無いが。
「正邪はどうしたいの?」
清蘭が笑みを浮かべながら聞いてきた。
「どうしたいって?」
「針妙丸とどうしていきたい?」
「そりゃあ、あの小人といた方が、面白い事が起きやすいからな、下についていた方がいい」
「それで? また日が経ってから、針妙丸の元へ行くの?」
「そうしないと、針妙丸に従えないだろ」
「謝罪も無しに?」
「……いや、必要ないだろ。謝罪なんて。天邪鬼である私が、不愉快な事を主人にするなんて日常茶飯事だ」
きっと、そうだ。針妙丸は、いつもの事だと諦めて、あやふやになって、許して、忘れてくれる。
「それでいいのかな」
「なんだよ、お前には関係ないだろ」
「そうだけど、恩返しだよ。店を手伝ってくれたからさあ」
「ほっとけ、恩返ししたいなら、今度から団子を無料で食わせろ」
「それじゃあダメよ。ウチの店が潰れちゃう」
「元々客が居なかった店なんて誰も気にしないって」
わからない、どうして清蘭はここまで私を気にかける? いや、気にかけているのか?
「友情にも言えることだけどね、失ったら二度と同じものは手に入らないんだよ」
「私と針妙丸は友達じゃない!」
「じゃあ、主従関係だ。同じ主従関係は二つとないよ」
「そんなわけないだろう! 適当なこと言いやがって!」
苛立ってくる。何故こんなにも心が揺さぶられるんだ。目の前の有象無象の事なんて、無視してしまえばいいのに。
「私はね、謝った方がいいと思う、手遅れになる前にね」
そう言う清蘭は、未だに笑みを浮かべていたが、どことなく寂しさを感じた。そんな姿を見ると、熱くなった頭も冷静になってくる。
「……お前の経験談か? お前は大事な物を失ったんだな」
「そうだよー、やっぱり名探偵だね、正邪は」
「へえ、そりゃあお悔やみ申し上げます」
誰がなんと言おうが、私は謝らない。
「天邪鬼のあんたは、幸せがひっくり返ってるのかもしれないけどね」
「まだ言うか」
「何度でも言うよ、あんたが折れるまで」
「ああ、面倒だな。わかった、じゃあこう言うのはどうだ?」
「聞かせてみて?」
「私は、針妙丸には、たとえ関係が壊れようが謝らないぞ、だけど、まあそうだな。負の値をゼロにするために、本物のらあ麺を作る。それでチャラだ」
謝らないが、マイナスをゼロにはしてやる。今度は完璧な“らあ麺”を作って、それでチャラだ。
「いいんじゃない? 何もないより、随分とマシだと思う」
「そうか、じゃ、これでいいな」
「で? 知ってるの? 作り方」
「知らない。お前は?」
「月に住んでいた兎が、地球の食べ物を知っているわけないでしょう」
「ああ、だよなあ」
私は項垂れる。これなら、素直に謝った方が楽なんじゃないかなあ。
「誰か、らあ麺を知っている奴を、探すしかないか」
「すいませーん、清蘭団子二つ」
新しい客が来た。団子を注文する。
「何にしても、今日はウチを手伝ってもらうからね?」
「チッ、わかったよ! はーいただいまー!」
道は長くなりそうだ。その日は清蘭の家に泊めてもらった。