ラーメンが正邪を作るお話   作:最弱の鬼人正邪ファン

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ラクして生きれない小人と天邪鬼

「正邪、まだ帰ってこないのかな」

 

 戌の刻(午後七時から八時)、私以外誰もいない輝針城に、声が反響する。

 お昼ご飯の時に、正邪がらあめんを作ってくれると聞いた時、それはそれは楽しみにした物だ。しかし、正邪は顔面に蕎麦を叩きつけてきた。流石に威力は抑えられていたけど。

 私はとても激怒した。それはそれは怒った。輝針城から正邪を叩き出すくらいには怒った。

 

 それが、いけなかったのかな。

 あまり考えた事なかったけど、私は誰かに依存して生きていた。産まれてからはお母様に。お母様が亡くなった後は、正邪に。異変が終わった後は、霊夢に。そして、少し経ってからまた正邪に。

 一人になるタイミングがなかった。自立しようとしたことなんてなかった。私は輝針城の姫という立場に、甘えていた。

 

 今頃になって気づいた。

 私は他人にどうしようもないほど依存してしまっていたのだ。

 

「正邪よ! 帰ってきておくれー!」

 

 そうやって声を出しても、誰かに届くことはなかった。

 やはり、私一人で頑張るしかないか。とりあえずまずは、夕ご飯の準備だ。

 何を食べるか、そう考えたけど、今から何かを取りに行くには、外は暗すぎた。

 仕方がないので、家にある物で何かを作るか、あるいは、家にある物を食べるか。

 

 幸い、家には正邪が買った米と野菜と魚と、味噌があった。

 ここでも私は、料理に関して何もせず、正邪に任せっきりだった事が痛感させられる。

 

「私、ずっと正邪に、雑用を押し付けてばっかりだったな」

 

 ようし、これからは一人で頑張ってみよう! まずは夕ご飯を一人で作ってみせる!

 初めにお米を炊く。確かお米を水に入れて、その後火にかければいいんだっけ?

 いや、お米を研ぐのが先か。お米を研いで、釜の中に入れて、水も一緒に入れる。そして火にかける。

 

 このまま、半刻ほど待ってみる。その間におかずを用意しよう。

 干した魚は温めて、野菜は切って、食べやすい大きさにしてから炒める。

 私の体は小さいから、そこまで量は多くなくていい。

 

 無事に炊けたお米をお椀によそって、干し魚と炒めた野菜をお皿によそる。夜食の準備ができた。自分一人で! これは小さいけど、大きな一歩と言えるのではないだろうか。

 

「なんだか楽しかったし、明日からはもっと違う物を作ってみよーっと!」

 

 淋しさを紛らわすように私はそう言った。誰もいない輝針城に声が反響した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は清蘭の住処で一夜を過ごした。団子屋とはまた別の場所、人里の外に棲家を作っていることは驚いたが、それ以外は特に何も驚くことはなかった。月の技術とか、そんなものは形すらなかった。

 起きて、朝ごはんを作りながら、これからどうするかを清蘭に話す。

 

「とりあえず考えた」

「誰にらあめんの作り方を聞くか?」

「ああ、それで、幻想郷には長生きしてるやつとか、賢者が何人かいるよな? そいつらに聞くってのはどうだ」

「賢者はそんな暇だと思えないけどな〜」

「いや、奴らは今の立場に胡座をかいて暇を持て余してる。堕落しきった怠惰の化身のような存在だ」

 

 本当にそう思う。私は、異変以外で賢者が動いてるのを見たことないし、わざわざ体を動かして、私を捕まえに動いて来たこともあった。暇を持て余してる証拠である。

 

「賢者って言っても色々いるでしょう? 誰に会いに行くの?」

「そうだな、八雲紫*1と摩多羅隠岐奈*2はどこにいるかわからないから、そいつらは除く。茨木華扇*3はたまに人里にくるらしいからそこを狙えばいい」

「賢者が何処にいるか全然わかってないじゃん」

「うるさい。今すぐにでも会えそうな、らあ麺を知ってそうなやつは、西行寺幽々子*4か、八意永琳*5だな。後は、山の神々とか?」

「ふうん。早速いくの?」

「もちろん。まずは西行寺幽々子だ」

 

 最初に幽々子を尋ねる理由は、あのお嬢様は食に貪欲であると聞いた事があるからだ。そして、幽々子が住む冥界には幽霊や亡霊が沢山いる。もしかしたら、中にはらあ麺の存在を知る外の世界の幽霊がいるかもしれない。といっても、あいつらは口をきけないだろうが。

 

 青蘭は団子屋を経営しないといけないので、別れを告げてから私は移動を開始する。冥界への行き方は単純だ。ただ、上へ上へ。雲に隠れた場所に存在している。生き物は大抵寄り付かない、冷たい場所だ。

 

 深い霧がかかり、周りの空気が変わる。重たく、冷えた物へと雰囲気が変わる。冥界は近い。

 ちらほらと周りに霊の姿が見えてくる。陽が出ている間には姿を現さない存在だ。

 

 深い深い霧の中を進んでいくと、目の前に大きな門と、階段が現れる。

 西行寺幽々子が住む、白玉楼に続く道だ。冥界であるから、幽霊もたくさんいる。

 私は階段を一段一段登っていく。

 

「ああ、寒いなあ……」

 

 口に出す気はなかったのに、無意識にそう呟いてしまった。

 異常なまでに寒い。季節はまだ春だというのに、どうしてこんなにも寒さを感じてしまうのだろうか。

 

「止まりなさい」

 

 階段を登りきると、誰かが背後から声を掛けてくる。が、おおよそ見当はつく。

 

「ここから先は、幽々子様が住まう白玉楼です。天邪鬼のあなたが、何のご用でしょうか」

「聞きたいことがあるだけだよ」

 

 私はそう言っただけなのに、目の前の半人半霊は刀を抜いていた。

 魂魄妖夢、幽々子に仕える従者で、日本刀を扱う。指名手配されていた時に対峙した事がある。

 

「幽々子様は忙しい身。貴方のような天邪鬼と話を交わす時間はありません」

「お前が無知なだけで、お前のご主人様は知ってるかもしれないだろ? それに、忙しいって具体的にどう忙しいんだよ」

「何を言われても、通しませんよ。お引き取りください」

「通さないなら、無理矢理にでも通るだけだ!」

 

 多分、こうなることはわかっていたのだろう。私がそう言った瞬間に、妖夢は手に持っていた刀を振りかぶった。刀から衝撃波が飛んできた。

 当たっても死にはしないだろうが、意識は途絶えてしまうだろう。

 

「どうしたものか、反則アイテムは……あれっ!?」

 

 道具を取り出そうとして、気付く。というか、気付いていなかった自分があまりにも恨めしい。

 戦いの場面で私に有利に働く反則アイテムを、輝針城に置いたままにしていた。今更気付いたとしても、取りに行く時間などない。

 

 この戦いをアイテム無しで切り抜けなければいけないのか……。少し厳しいな。

 

「今ならまだ、引き返せますよ」

 

 こちらが焦っているのを感じ取ったのか、あるいは反撃しないからか、そんな言葉を投げかけてくる。

 

「わかった、引き返すよ。悪かったな邪魔して」

「わかればいいんで「なんちゃって」ッ!?」

 

 完全に油断していたお人好しに、道端に落ちていた石を投げつけた。当たる前に反応されて石は真っ二つにされてしまった。

 

「天邪鬼が正直に帰るわけないだろ」

「……わかりましたよ、貴方は斬る!」

 

 うーん、弱ったな。いや、別に戦わなくてもいいか。

 そう考えた私は駆け抜けた。白玉楼とは真逆の方向に。

 

「待てっ!」

 

 釣りをしている人間はこんな気持ちなのか? 大物を釣って喜んでいるやつを冷やかしていたが、なるほど。これは癖になる。

 

「追いついてみせろ、ノロマ!」

 

 少しだけ楽しくなってくる。もう少し騙してみたい。

 

「逃げるのか! 卑怯者!」

「当然! 天邪鬼だから!」

 

 別に、天邪鬼だからといって、みんながみんな逃げるわけではないと思うけど。

 登ってきた道を下って、高度が落ちて、森が見えてきた。よし、あそこら辺でいいか。

 

「追い詰めたぞ! 天邪鬼!」

「……」

 

 飛ぶのをやめて、地面に立つ。無表情のまま妖夢を見つめる。

 追い詰められたのは事実だ、何も返す言葉はない。

 

「斬る!」

 

 妖夢の持つ刀で、身体を斬りつけられる。とても痛いが、声は出さなかった。

 

「あれ? 何で無反応なんだろう?」

 

 叫び声を出したいけど、我慢する。

 

「うーん? えいっ」

 

 刀でちょっと小突かれる。私はそれに合わせて、まるでバランスが崩れたように倒れる。

 

「あっ、偽物か! くそ、天邪鬼め! どこへ行った!」

 

 私は本物である。笑いを堪えるのがとても辛い。

 妖夢は、まだ遠くには行ってないと思い、近くを探しているが、やがて遠くの方へ消えていった。

 周りから気配が消えたのを確信してから、私は瞬きをした。

 

「ぷっ! あっはははは! ざまあないな! まんまと騙されやがって!」

 

 服から血が溢れているが、まあ、このくらいなら妖怪なので大丈夫だと思う。

 そんなことよりも、急いで白玉楼へ行かなければならない。あの半人半霊が戻ってきたら非常に面倒臭い。

 

 もう一度空高く登って行き、白玉楼へ辿り着く。誰にも止められることはなく、すんなりと中へ入る事ができた。

 

「おい、亡霊のお嬢様はいるか!」

 

 声を出してみるが、どこからも反応は帰ってこない。

 仕方なく、屋敷の中を歩いていると、裏庭の方の縁側にそいつはいた。

 着物を着て、桃色の髪を靡かせていた。西行寺幽々子が座っていた。

 

 少し眺めていると、こちらに気付いたのか、振り向いてきた。

 私の姿を見るや否や、驚きの表情を見せて、そして

 

「ご愁傷様です」

「死んでないって」

 

 気が抜けた。もっとこう、どうして貴方がここに!? みたいな、いや、世間知らずなお嬢様にそういうのを期待する方が酷か。

 

「じゃあどうしてここに来たの?」

「あんたに聞きたい事があるんだよ。暇人でボーっと死んでるあんたにな」

「何を聞きたいのかしら?」

「らあ麺って食べ物知ってるか?」

「しらなーい」

「殺したくなってきた」

 

 やっとの思いで辿り着いたというのに、時間を無駄にしたような気分だ。

 私は柱に背中を預けて、座り込んだ。そして、溜め息を吐いた。

 

「そう溜め息を吐くものじゃないわ。求めるものを見失ってしまうもの」

「お前のせいで幸せを失ったんだけどな」

「なくしてしまったの? それは大変、妖夢に探させようかしら」

「前から思ってたけど、話が通じないな」

「他人のせいにしてはだめよ。もしかしたら貴方にも責任があるかもしれない」

「ああ、そうかもね。うん」

 

 このまま諦めて帰るのは損をした気分になる。どうにかしてコイツを利用できないかな。

 

「……そういえば、あんたって八雲紫の友達なんだって? じゃ、八雲紫が何処にいるかわかるな」

「あらあら、貴方はお友達みんなの住所を把握しているのかしら」

「もちろん、友達がいない」

「そうなの? そんな貴方とお友達になれたら幸せでしょうね。どう? お友達にならない?」

「断る、私には釣り合わない」

「あら残念、振られてしまったわ」

 

 他愛のない事を話しているけど、時間の無駄なんだよな。何故か何処にも霊は見当たらないし。

 

「ところで、随分と死を恐れてるみたいね」

「はあ? 何だよ急に」

「雨が降れば地面は濡れてしまう、だけど、いつかは乾く。けれどね、湖に土が降ってきたら、いつかは埋まってしまうのよ」

「だから、何が言いたいんだ」

 

 何を言ってるのか、意味がわからなかった。いや、このお嬢様のことだ、何も考えてない可能性もある。

 

「今の貴方はまるでご馳走ね。人を揶揄う立場が逆転してしまって、終いには生きることと死ぬ事も逆転してしまってる」

「……あんたが私を殺すのか?」

 

 まるでこちらを挑発するような言葉に、警戒を露わにする。

 

「まあ、そんな物騒な事は言わないでちょうだい。私は気に入った相手以外死に誘いません」

「そっか、そりゃあ良かった」

「ところで貴方のことが気になってきたのだけど」

「それは、よくないなあ」

 

 ふふふ、と笑っている。私は冷めた目を向けながら立ち上がった。結局何も収穫はなかったな。

 

「ねえ、面白いお話があるのよ」

「それで? 面白い話があったからなんだ」

「自分を鬼だと思っていた人間のお話なんだけどね」

「つまらないな、オチは?」

「自分が人間だと気付いた瞬間、眠りについてしまったのよ。その後はわからないわ」

「良い話だな。心の底からそう思うよ」

 

 吐き捨てるようにそう言った後、私は白玉楼を後にした。

 次は、八意永琳かな。掴めない相手だから、あまり会いたくはないが。

 

 

 

 

 

 

 

 西行寺幽々子は、鬼人正邪が去っていった方角を眺めていた。

 庭には赤いシミが出来てしまっている。

 

 彼女は肉体の傷を忘れてしまうほどに心が疲弊してしまったのだろうか。

 妖怪だから人よりも早く治るとは言っても、痛みは無視できないはずだ。幽々子はそんな事を考えていた。

 あるいは、らあめんってなんだろう、と。

 

「ど、どうしたんですか!? この血の痕は!?」

「あ、妖夢。お帰りなさい。ねえ、らあめんってなんだと思う?」

「え、いや。わかりません。新種の妖怪ですか? って、そんなことよりも、お怪我はないんですか? 幽々子様」

「わたしは大丈夫よ。もう死んでるけど」

「はあ、そうですか。うわ、屋敷まで汚れてるし、これは掃除が大変だなあ……」

「妖夢の自業自得ね」

「私の日頃の行いが悪いっていいたいんですかー!」

 

 怒った魂魄妖夢は、雑巾を用意して、周りの幽霊たちに指示を出し始めた。

 幽々子はそんな姿を微笑ましく見ていたが、なにかを思い出したかのように立ち上がり、屋敷の中に入り、紙と墨を取り出した。

 そして、何かを紙に書いた後、妖夢に声をかける。

 

「ねえ、妖夢? この紙を幻想郷で一番不味い団子屋に置いてきてくれないかしら?」

「ええ!? 今からですか!?」

「明日でいいわよ」

「わかりましたー!」

 

 紙を渡した後、幽々子は少し笑いながら呟いた。

 

「本当に趣味がいいわね」

*1
正邪:境界を操る妖怪の賢者だ。私を捕まえにこようとしたこともあったな。軽くあしらってやったけどな! 

*2
針妙丸:後戸の国にいる、神様? らしい。花火大会でいろんなやつに声を掛けてて、偉そうな奴だと思った。

*3
清蘭:山で修行をしている仙人様らしい。一度だけウチの店に来たけど、軽蔑する目で帰って行った。

*4
射命丸文:冥界に住んでらっしゃる、亡霊のお嬢様です。おっとりしてはいますが、なかなかの切れ者でもあります。

*5
鈴瑚:元月人、現地球人の滅茶苦茶頭がいい人。立場上、あんまり関わらないほうがいいのよね。

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