ラーメンが正邪を作るお話   作:最弱の鬼人正邪ファン

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ヤクソクは守られず

 白玉楼を抜け出した後、私は八意永琳が住んでいるとされる、永遠亭へと向かっていた。

 永遠亭に辿り着くには、迷いの竹林という、入ったら最後、二度と抜け出せないと言われている竹林を抜けなければいけない。

 けれど、別に抜け出せない事はない、運が良かったら帰れるし、道を完璧に記憶する能力があれば、簡単に抜け出すことができる。

 

 ……はず、なんだけどなあ。

 

「完全に迷ってしまったな……」

 

 ああ、仕方がない。時間は掛かるだろうが、とにかく一つの方角へ進んでいくしかないか。

 しかし、何故だろうか。足下がおぼつかない、視界が霞んできている。

 身体がふらついてきた、何故だ? 何が原因だ? わからない。とりあえず、少し疲れたので休憩しよう。きっと睡眠を取れば元通りになるはずだ。

 

 固い地面を背にして、伸びた竹の緑が視界を埋め尽くしながら、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚まして、体を起こす、思考がぼんやりとしているが、動かなくてはいけない。

 

「……あれ、ここはどこだ?」

 

 目が覚めると、私は何故か布団に、いや、これはベッドか? 何故かベッドに寝ていた。まるで新品のようなベッドで、汚れも傷も見当たらなかった。

 頬をつねってみたが、夢ではないようだ。

 

「目を覚ましたのね、それに、夢じゃなくて現実よ」

「知ってるよ、そんなの」

 

 誰かが声をかけてきた、ウサギの耳をつけていて、薄紫の長髪だった。服は制服か何かか? スカートを履いている。見覚えがないやつだが、恐らく兎の妖怪だろう。

 じゃあ、ここは……

 

「ここは、永遠亭よ。貴方はウチの近くで、血を流しながら倒れていたから、治療をするためにここに連れてきたのよ」

「余計なお世話だ、感謝はしないからな?」

「天邪鬼の感謝なんて、こちらから願い下げよ」

 

 とりあえず、私はベッドから体を出す、そして自分の服が変わっていることに気づく。

 

「おい、私の服は?」

「洗濯中よ、血でびっしょりだったからね」

「そこまで出血してないだろ」

「……医者の観点から言えば、今の貴方は生きてるのが不思議なぐらい出血していたわ。何があったの?」

「白玉楼の半人半霊に斬られたが、そんな出血するほどの傷はついてるはずがない」

 

 そうだ、確かに斬られていたが、妖怪だから完治するはずである。いくら私が弱くても、人間とは違うのだ。

 

「ところで、お前は誰だ? 何故私の事を知っていて助けた?」

 

 さっき、天邪鬼と発言していた。指名手配である私のことを知っていた。

 もしかしたら、怪我をしている奴は見捨てられない、聖人みたいな奴かもしれないが、幻想郷でそんな妖怪はあまり見たことない。

 

「私の名前は、鈴仙・優曇華院・イナバ。長いから略して、師匠からはうどんげ、とか、友達からはレイセンって言われてる、貴方は鬼人正邪でしょう?」

「そうか、よろしくなイナバ。その通り、私は幻想郷に反逆する、指名手配で、助ける奴の気がしれない鬼人正邪だ」

「助けたのは……死なれると寝覚めが悪いからかしら」

「へえ、エゴってわけか。自己中心的な奴め」

「この幻想郷で自己中以外を探す方が難しいんじゃない?」

 

 確かに。共感してしまった。悟られたくはないので声には出さなかいが、しかし、ここが永遠亭なら八意永琳がいるのではないか?

 

「なあ、永琳はどこにいるんだ? 聞きたいことがあって来たんだが」

「ああ、だからウチの近くで倒れてたのね。師匠は多分、部屋の中で作業中だと思う」

「どこの部屋だ?」

「案内するわ、ついて来て」

 

 ベッドから出て、私はイナバについていく。何故か手を差し出して来たが、払った。永遠亭は思っていた倍は広かった。ただの病院だと思っていたのだが、見たことない機械? が沢山あって、大勢の妖怪兎がいて、イナバ曰く大体の奴がここで暮らしているらしい。

 

「ついたわ、ここに師匠がいる。くれぐれもそ」

 

 言い終わる前に扉を蹴破ろうとした。足が痛くなった。仕方ないので普通に開ける。

 

「そうの無いように……はあ」

「邪魔する、お前が八意永琳だな?」

 

 部屋の中には、何か書き物をしている、銀色の髪を纏めている女性がいた。

 こちらには目もくれず、ただ一言

 

「何かようかしら?」

 

 そう言った。

 

「お前と無駄話をする気はないから、単刀直入に聞くが、らあ麺という食べ物を知っているか?」

「さあ、知らないわね」

「……まあ、そんな気はしてたけどなあ、あんたも知らないんじゃ、この幻想郷に知っている奴はいなさそうだな」

 

 少し元気がなくなる、腹いせに、大きな音を立てて扉を閉めてから部屋を後にした。

 元の病室に戻ってベッドの中に入る。ふかふかですごく気持ちがいい。

 

「はあ、やはり八雲紫から聞き出すしかないか」

「ねえ、なんで貴方はそんなにその、らあ麺って奴を聞いて回ってるの?」

「話せば長くなるが、らあ麺を作れって姫に言われたんだよ」

「ああ、貴方も誰かに仕えてるタイプ? あれ、でも貴方って清蘭のお店で働いてなかった?」

「一日だけ、な。……なんでそれを知っている」

 

 たった一日の出来事だから、知っている奴の方が少ないと思うが。確かにあの時、店は幻想郷のどの店よりも繁盛していたと思うけど。

 

「天狗の新聞よ、貴方のことが書いてあったのよ」

「ああ、あいつか」

「……ねえ、どうだった?」

「は?」

「清蘭は元気にしてた?」

「本人に聞け……いやあ、死にかけだったな。寿命ギリギリ、老衰しかけで、遺産は私に全部くれるらしい」

「そっか、天邪鬼がそういうんだったら元気ってことね、良かった」

 

 外面だけで言えば元気だったのは間違いない。

 私から言わせて貰えば、清蘭もなかなかの捻くれ者だったのは確かだ。

 

「そうだ、苺の差し入れを何度かしてたんだけど、それについてなんか言ってた?」

「あれお前だったのか? 新美南吉の『ごんぎつね』みたいなことしちゃってさ、差し出し人不明だから、手を出さずに冷蔵してたぞ」

「そっか、そりゃそうなるか」

 

 そう言っているイナバは、悩ましい顔をしていた。

 

「お前も清蘭と同じ月兎なのか?」

「月から来た兎って意味ならそうだけど、厳密に言えば種族は玉兎よ」

「どっちも一緒じゃないのか? 月から来た兎なんてみんな同じだろ」

「違うわよ! スギ花粉とヒノキ花粉ぐらい違うわ!」

「わからないって」

 

 ふふっ、とイナバが笑う。なんかカッコつけてないか? もっと大口を開けて笑えよ。

 ああ、帰りたくなってきたな。でも、服はさすがに取り戻さないとダメだな。

 

「なあ、いつになったら私の服の洗濯は終わるんだ?」

「まだ洗濯してないわよ? 他の服とまとめて洗うために、一旦水につけてるけど」

「いや、他の服にも血がつくだろ」

「師匠の漂白剤を舐めないでほしいわ、服全てを粒子レベルまで分解して、汚れのない服を再構築するのよ」

「それは漂白剤ではないだろ、もはや」

 

 月の技術って恐ろしいな、心の底からそう思った。まさか眠っている間に体が改造されたりなんてしてないよな。

 ふと、病室の窓から外を眺めていると、空は橙色になっていることに気づいた。もうそんなに時間が経ってしまったのか。

 

「とりあえず、私は夕ご飯の用意があるから、適当に寝て過ごしておいて」

「……お前も反逆すれば? 夕飯なんて作らなくていいだろ」

「おっかなくてできないわ」

 

 むりむり、と手を動かしながらイナバは病室を出ていった。

 病室には私以外に誰もいない。また明日からがんばろう、そう考えて眠ろうとした瞬間。

 

「ねえ、貴方は鬼人正邪でしょう」

「違う、妖怪違いだね」

 

 誰かに声をかけられた。

 目を向けると、黒い長髪に桃色の服に赤いスカート、しかし、特筆すべきはその美貌だろう。天邪鬼な私でも素直に褒めてしまいたくなるような容姿をそいつはしていた。噂に聞いたことはあった、永遠亭には絶世の美女がいると、そしてそいつは呼ばれているのだ、

 

「……かぐや姫」と。

「ええ、そうよ。蓬莱山輝夜っていうの。噂は本当だったのね、鬼人正邪が入院してるってのは」

「……噂になるものなのか?」

「ウチのペットのウサギ達が噂してたわ〜。ねえ、指名手配なんでしょう? 何か面白いことできないの?」

「道化扱いか、我が儘だなあんたも」

 

 どうしてお姫様って奴はみんな我が儘なんだ。

 

「お前の目は不良品だな。私は道化師じゃない。誰かを陥れる天邪鬼だ」

「そうなの? 私には怖がりな子供にしか見えないけど」

「もっとひどいな、病院で診査でもしたらどうだ?」

「一応、毎日病院にはいるんだけどねえ」

 

 うふふ、と輝夜が笑う。何が面白いんだか。

 

「それで? なんの用だ」

「暇つぶし」

「もっとやるべきことがあるだろう」

「例えば?」

「運命の相手を見つけるとか。私だったら求婚を受け入れてたのに」

「嘘ね」

 

 軽くそう言った後、輝夜は私が寝ているベッドに腰掛ける。邪魔。

 

「指名手配っていうんだから、面白い存在かと思ったけど、貴方ってつまらないわね」

「人を裏切るのが私の仕事だからな。面白くなくて結構」

「親近感を覚えるわ」

「言っておくが、あんたは裏切りより詐欺に近いからな」

「確かに」

 

 絶対に達成できない条件を突きつけて、達成できた人と結婚するなんて、まあ、見方を変えればなかなかの悪女じゃないか。

 

「姫様、ここにいたのね」

 

 他愛もない会話をしていると、いつのまにか、永琳が病室に来ていた。

 

「お夕飯の準備ができましたよ」

 

 言うだけ言って、永琳は部屋から出ていった。

 

「はーい、今行く! ねえ、良かったら貴方も夕ご飯を食べて行かない?」

「どうしても、っていうなら」

「いや、無理強いはしないけど」

「しょうがない、そこまでいうなら夕飯を頂こうかな」

「うーん、まあいいか」

 

 そういうことで、私は永遠亭でご相伴に与ることになった。輝夜についていく、長い廊下を通って、おそらく大広間のような場所へ通される。

 長い机が数個、座布団が敷かれており、宴会などに適している席だろうなと思う。

 こんな広間、あの面子では持て余すだろうと思い、見てみれば、

 

「……多いな!?」

 

 そこにいたのは沢山の兎たちだった。おそらくこの永遠亭で住み込みで働いている奴だろうが、もしかして、あのイナバはこんな沢山の奴の夕ご飯を用意したのか?

 

「はいはい、早く座ってねー。いただきますの合図するから」

「どこへ座れば?」

「お客様席はこっち」

「お、おう」

 

 イナバに案内されて席に座る。兎どもが好奇心で目線を向けているのを感じる。

 あんまりこういう風にお客様としてもてなされた事はなかったから、すごい違和感を感じる。

 

「はーい、みんな揃ったわねー。揃ってなくても始めるわ。いただきまーす!」

 

 意外とあっさりだな。そんな挨拶でいいのかと思ったが、兎達もいただきまーすと声を出して、食事を貪り始めた。

 私もとりあえず目の前の食事に向き合う。うどんに、刺身に、餅。兎って本当に餅が好きだな。

 

「ねえ、アンタが鬼人正邪でしょう?」

「食事中の会話は御法度だろうに」

 

 私の隣に、ピンクの服を来た黒い髪の、兎耳を付けた背丈の低い、誰がどう見ても少女と思える存在が座って来た。人参が好きなのか、首には人参の首飾りを付けていた。

 

「いいんだよ私はもう食べ終わったから」

「はあ……お前は誰だ」

「私は因幡てゐ。ま、ここの兎をまとめている人物って奴かな」

 

 またイナバか。こいつのことはてゐと呼ぼう。うん。

 

「どうしてここの連中は私に興味津々なんだ?」

「そりゃあ、物珍しいからでしょうね、天邪鬼はあんま見かけないし、怪我した個体は尚更」

「珍獣扱いか? 私から見たらお前らの方が物珍しいけど」

「知識がないだけ。幻想郷では実は兎が一番多いんだよ」

 

 嘘だろうな、こいつは私と同じ捻くれ者の匂いがする。特に理由があるわけではないが、騙した結果酷い目にあった感じだろう。

 

「なんの用だ」

「……アンタさあ、なんか恨まれる事した?」

「沢山したけど、コイツらは初対面だよ」

「うーん、勘違いかもしれないけど、ウチのお姫様がこういう風にみんなを集めて食事をするのって珍しいんだよね。その日の気分によって変わるけど」

「じゃ、勘違いだろ。気分を人のせいにするなよ」

 

 私だって、理由もなく誰かを騙したくなる時がある。いや、元からかそれは。

 そんな風に考えながらうどんの汁を飲み干す。悪くはない味だ。

 

「ま、それもそうかもね。それに、噂をすればなんとやらだ」

 

 てゐはそう言って席を離れて、入れ替わるように輝夜が隣に座って来た。

 餅に手をつける。きな粉餅だった。しっかりと咀嚼して、喉に詰まらせないように飲み込む。

 

「どう? 楽しんでいるかしら」

「あんまり」

「それは重畳。ところで、指名手配されていろんな奴に追われてたのって、本当なの?」

「別に、信じる信じないはあんたの自由だろ」

「それもそうね! だけど、それじゃあつまらない」

 

 そう言った瞬間、違和感に気づく。

 周りの兎達が私たちに注目していた。イナバも、てゐも、唯一こちらに注目していないのは永琳だけだ。

輝夜は手を叩いて大きな音を出した。

 

「何をする気だ?」

「全員、目の前の天邪鬼を捕まえて!!」

 

 その言葉を皮切りに、周りの兎達は各々光弾を放って来たり、杵を持って飛びかかって来た。

 

「なんでいきなりッ!」

 

 慌てて後ろに下がろうとしたら、私の背中は壁であるという事に気づいたので、能力を使って目の前の飛び込んできた兎と、私の位置をひっくり返す。

 位置を交換した兎は壁に思いっきり激突する。不思議なことに、壁には傷ひとつ付いておらず、激突した兎だけが顔を赤くしていた。

 

「へえ、それが貴方の、『なんでもひっくり返す程度の能力』か〜」

「高みの見物か? 舐めやがって……」

 

 周りには敵だけ、冷静に立ち回らなければならない。とりあえず、私はうどんを食べるのに使っていた箸を手に持った。

 箸を咥えて、顎の力と握力で、思いっきりへし折ろうとするが失敗する。やはりか。

 

 誰の能力か知らないが、永遠亭の物は傷がつかないようになっている。

 都合がいいな。

 飛んでくる光の弾を避ける。避けきれないものは食器で防ぐ。そして箸を投げつける。投げつけた箸は兎の首に刺さる。まあ、妖怪だから死にはしないだろう多分。ここ病院だし。

 

「まったく、病院での乱闘は御法度じゃないの〜?」

 

 てゐが人参を齧りながら苦言を言ってくる。

 

「私は天邪鬼だからなッ!」

 

 言いながら机の上に立つ。私を捕まえるために何人かの兎も長い机の上に立つ。なので私は、能力を使って机を飛び降りながらひっくり返す。

 机の上に乗っていた食器も兎も全てがひっくり返って、地面に倒れる。

 

「あーあ、こんなに散らかしちゃって」てゐが言う。

「お前らは来ないのか?」

「まずは前菜でしょう? メインディッシュは後からよ」輝夜が言う。

 

 私がコース料理を食べるような人物だと思っているのか? 悪いけど、私はさっきのうどんでお腹いっぱいだ。

 残りの、おそらく下っ端の兎達が向かってくる。だけど、私は背を向けて逃げ出した。

 

「あっ逃げた! まてー!」

 

 背後から誰かの声が聞こえる。とりあえず、服を探さないといけないな。

 だけど、今日初めて来たばかりだから、どこに洗濯する服を置いてあるのかわからん。

 廊下を駆け抜けていると、目の前にイナバが現れた。警戒をする。

 

「どこに行こうとしてるの?」

「教えたら案内してくれるのか?」

「うーん、まあ、一応」

「ペットの兎がよく言えるな」

「私も反逆してみたくなったのよ」

 

 そう言うイナバは、いたずらっ子のような笑みを浮かべていた。

 

「信じるぞ……私の服はどこだ」

「こっちよ、ついて来て」

 

 私達は永遠亭を駆けていく。廊下の窓からチラリと見えた外は、すでに暗くなっていた。

 

「ここ、この中に服がある。まだ洗濯してないし、水に浸けっぱなしで乾いてないけど」

「いい、能力で乾かせる」

 

 案内された部屋の中には、確かに水に浸された私の服があった。

 能力を使って水気をひっくり返す。十二時間以上干したかのように服が乾く。

 残念ながら血の汚れは取れていないが。それに、切られたせいで、正面から見て右上から左下にかけて、穴が空いている。

 

「ああ、落ち着くな」

「その服、自分で作ったの?」

「いや、姫が作ってくれた。意外なことに裁縫がうまいんだアイツは……」

 

 言って止める。何故ならイナバがニコニコしてコチラを見つめていたからだ。

 

「なんだよ、なんか文句あるか?」

「いやー? でも随分と嬉しそうに話すから、貴方もそんな顔ができるんだなーって」

「お前は私の親か? なんでもいい、いくぞ」

 

 部屋を抜け出し、イナバに玄関まで案内させる。

 靴を履いて外に出ると、そこには。

 

「お、お師匠様!?」

 

 弓を構えた永琳がいた。

 横には見守るように輝夜とてゐが。

 

「うどんげ、どいたほうがいいわよ。死にたくなかったらね」

「え、しかし」

「いいよ、どいてろ。邪魔だ」

 

 イナバを押し除けて前に出る。

 永遠亭の建物の外に出たからといって、ここはまだ敷地内だ。外は竹で作られた壁に囲まれている。

 そして出るためには、目の前のいけすかない医者をどうにかしないといけない。

 

「あんたさあ、広間の兎はどうしたんだ? 医者なのに急患を見捨てていいのかよ」

「もう処置したわ。私に貴方の話術は通用しない。心がけなさい」

「はあ、別にそんな話術と名乗れるほど大したものじゃないけど。こう話してくれるなら、何かあるんだろ? 何が望みだ」

「なんてことはないわ、今すぐ引き返し、明日まで待つか、この矢一本の射撃を生き残りなさい。そうしたら外へ出ることができる」

「矢、一本ね。随分と甘く見られてる、訳ではないか」

 

 おそらくあの矢か、弓に仕掛けが施されているのだろう。

 

「察しの通り。この弓には狙った獲物に絶対当てるというおまじないがかけられているの。それは誰であろうと免れる事はない」

 

 私は、目の前の女が嘘を付いているようには見えなかった。

 

「わかった、やってみろ。そんな弓では死なないよ」

「いいでしょう。五秒後に放ちます」

 

 私は弓の射線は心臓に向けられている。心臓の前に手を持っていく。これでいい。

 そして矢が、放たれる。放たれた瞬間、私は手だけをそのままにして体を動かす。

 

「……」

 

 放たれた矢は、私の指を擦り、後ろの永遠亭に刺さらず落ちた。

 

「そうね、獲物を狙うと言っても、必ず命を奪う訳ではない。呪いも言霊も術も、目的を達成した瞬間効果を失ってしまうわ」

「文句はないな? これで」

「ええ、貴方の退院を認めましょう」

 

 入院したつもりはないけど。私は永遠亭の外に出た。すでに空は黒くなり、月が真上から私を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「永琳。貴方もなかなかの天邪鬼ねえ」

「ふっふふふ、あはははは!」

 

 輝夜が永琳に声をかけると。永琳は大声をあげて笑った。

 

「いつもの師匠っぽくないから、なんか裏があると思ったんですけど、一体何をしたんですか?」

 

 鈴仙が不思議に思い永琳に問いかける。

 それに対して永琳は興奮気味に答える。

 

「聞きたい!? 聞きたいよね! 私のトリック!」

「ああ、お師匠様が元のちょいウザに戻ってしまった」

「ちょっと、てゐ! どういうことよそれ!」

「まあ、うざいけど月にいた頃と比べたらだいぶましよ」

 

 永琳は、咳払いをして興奮した様子を元に戻す。

 

「姫様まで言いますか。まあ、簡単に言えば、別にあの弓は至って普通の弓というだけよ。魔術も秘術も何もかかっていない、ね」

「なぜ、あんな真似を?」

「患者が元気かどうか確かめたかった。心が弱っていれば、何もせずに戻っていたでしょうから」

「なるほど、さすが師匠!」

 

 鈴仙は考えが甘いね〜などと言いながら、てゐは建物の中に戻っていく。あんたも甘いでしょうがと、鈴仙も続いていく。

 輝夜と永琳がその場に残される。

 

「さあ、戻りましょう。姫様」

「永琳、貴方もなかなかの天邪鬼ね」

「まだ言います……ああ。気づいていたのですね」

「弓には細工をしていなかった。では、矢は?」

「ただ、少しばかり夢をみるだけですよ」

 

 こんなの難題ですらない、暇つぶしにもならない陳腐な謎解きね。

 そう言いながらかぐや姫と従者は建物の中に戻っていった。

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