ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
現在、私は守矢神社で掃除をさせられている。
今朝、索道を壊したせいで、私は守矢神社で雑用させられていた。心の底からやりたくないのに。ちなみに、天狗と玉兎は索道の方でこき使われている。
「ったく、秋でもないのになんでこんな葉っぱが溜まるんだよ……」
「貴方達の戦闘の余波がこちらにもきたんですよ!」
真面目に働いているか監視をするために、守矢神社で風祝をしているという、東風谷早苗が私のそばにいる。人間の癖に信仰されているという、現人神とかいう存在らしい。緑色の長髪、白い服に青いスカート、少女特有の未熟な顔つきをしていた。
こんな小娘のどこに信仰する要素があるんだか。
「正邪さん、手が止まってますよ!」
「なんで私だけなんだよ、アイツらの方にも様子見に行けよ」
「鈴瑚も文さんも一応真面目ですからね。どこかの天邪鬼と違って!」
一体どこにそんな不真面目な天邪鬼がいるというんだ? 私には見当もつかなかった。
とりあえず掃き掃除を続けていく。
「あんたさあ、外の世界から来たんだろ? らあ麺について何か知らないのか?」
「らあ麺ってラーメンの事ですよね?」
「知ってるのか!?」
「知ってますよ、好物でした」
「……なんで最初聞いた時殴ったんだ?」
「ムカついたので、つい」
「おい」
巫女って恐ろしい。イラついただけで他人に危害を加えるなんて。
しかし、ようやくらあ麺……いや、ラーメンか。ラーメンの情報を掴めそうだ。色々な幻想郷の賢そうなやつに聞いても知らなかったものを、こんなガキが知っているなんてな。
「作り方は?」
「手、止まってますよ……作り方ですか? それは詳しくは知りませんけど」
「なんで知らないんだよ、好きだったんだろ?」
「よくお店の物をいただいてたので」
なるほど? ラーメンは店の食べ物だったのか。確か、蕎麦みたいな食べ物らしいから、ラーメンにもそれを作る職人がいるのだろうか。
「どんな料理だったのか、詳しく教えてもらっていいか?」
「手! ……茹でた麺を、スープに入れて、具材をトッピングして……あー、また食べたくなってきたかも……」
「もっと具体的に頼む、どんな具材を入れてたんだ。麺の作り方は? スープの味は?」
「具材はチャーシュー、焼いた豚とか、海苔とか、中にはコーン、つまり、とうもろこしを乗せてたり、生卵を乗せて食べるのも美味しいんですよね!」
なるほど。明らかに蕎麦とは違う点がでてきたな。海苔はそばにも乗せるかも知れないが、少なくとも焼いた豚を乗せた物は見たことがない。生卵やとうもろこしもそうだ。
「スープってのは? どんな味がある?」
「色々ありましたね。醤油とか味噌とか、豚骨とかもありました!」
「ふーん? 決まった味ってわけじゃないんだな」
「そうなんですよ、私はよく豚骨ラーメンを食べてて、一時期は毎日食べに行ってて神奈子様から怒られちゃって!」
お前のことはどうでもいいんだけどな。神奈子様というのは確か、この神社で祀られているやつだったはずだ。二柱祀られている内の一柱だ。
「じゃ、味はしょっぱければなんでもいいか。麺は? 麺の作り方はわかるな?」
「すいません、わかりません。太い麺と細い麺があるのはわかるんですけど……」
「使えねえ。太いってのはうどんか? うどんと蕎麦ってことか」
「いえ、うどんほど太くはないし、蕎麦ほど細いわけではないんですけど、今使えねえって言った?」
「いや? 他に何か特徴は」
私がそう聞くと、早苗は顎に手を当てて、そうですねえ……と考え始めた。
「硬さとかありましたね。柔らかい麺とか、硬い麺とか」
「なんだそれ、硬い麺とか食べられんのか?」
「意外といけるんですよね! 硬い食感が食べ応えあって、美味しく感じたりするんですよ! そして、スープに長く浸かることによって、後に柔らかくなって、一つのラーメンで二度楽しめる!」
「そ、そうなんだ」
熱く語る早苗に少し押される。だが、かなりいい情報を教えてもらったな。だいぶラーメンについて、掴めてきたかもしれない。
と、私が深く思考していると、どこからかお腹のなる音が聞こえてきた。
「うう、ラーメンのことが恋しくなってきた」
早苗のお腹だった。確かに、もう昼時か。人間にとってお腹が空いてくる時間かもしれない。
「……なあ、私がラーメンを作ってやろうか?」
「え!? 作れるんですか!?」
「いや、でも聞いた情報で勘で作る」
「上げて落とすのはやめましょうよ」
「天邪鬼に一度でも期待したお前が悪い」
「とりあえず、掃除を終わらせてもらってもいいですか?」
はいはい。そう返事して私は箒を動かす。
別に善意でラーメンを作る提案をしたわけではない。本物を知っている人物に食べさせれば、どのくらい私が考えているラーメンが、本物に近いか知ることができるからだ。
「うーん、ラーメン。天邪鬼が作ったラーメンか」
「別に。嫌だったら断ってくれていいんだぜ? 決めるのはお前だ」
「まあ、いいですよ。そこまでいうなら作ってもらいましょうか!」
「チョロいね」
「あ?」
そうして私はお昼ごはんを守矢神社で作ることになった。
掃き掃除をを終わらせて、守矢神社の本殿とはまた別の場所に、生活用の空間があるらしいのでそこに私達は移動した。
「そういや、神様達はいないのか?」
「はい、いません。なんか紫さんに呼び出されたらしくて、今日は夕方ごろに帰ってくるらしいです」
「八雲紫か……しかもお前んとこの神様と会うなんて、
「ちょっとちょっと! お二方はとても素晴らしい神様ですよ! ろくなことにはなりますよ!」
「どうだか、案外説教されてるんじゃないか?」
「そんなことは……ありませんよ」
「なんで言い淀んだ?」
針妙丸経由で聞いた話だが、この山の神様が異変の原因となったこともあるらしい。それに、博麗神社に喧嘩を売ったこともあるとか。異変を起こすやつは大体問題児なんだ。私含めず。
「とにかく、ウチにあるものは、常識の範囲内で好きに使っていいですよ。常識の範囲内で!」
「私ってそんな常識ないように見えるか?」
「見えます。じゃあ、私は鈴瑚達の様子を見に行ってくるので!」
そう言って早苗はどこかへ行った。はは、常識のない奴に常識を語っても無駄だろ。
手始めに、私はこの部屋の中を漁ることにした。
最初に目を付けたのは、冷蔵庫。ラーメンを作るのだから、材料の確認はするべきだろう。
蓋を開ける。中には卵、トマト、きゅうり、何かの肉、おそらくハムがあった。
余談だが、この冷蔵庫は電気で動いている。幻想郷にある大半の冷蔵庫が、氷を使う物だというのに。
むしゃくしゃしたので、とりあえずきゅうりを取り出して齧る。よく冷えてて美味しい。冷蔵庫以外の場所を見ると、戸棚の方に海苔があった。そして、小麦粉も。
他には、何かの薬や、包帯や、よくわからない置き物まで。なんだこの人形は。
都合がわるいことに、材料は揃っているようだ。これじゃあ言い訳できないじゃないか。
仕方ない。失敗したら逃げよう。最初に私は麺を作ることにした。
早苗が言っていた麺は、うどんほど太くはなく、蕎麦ほど細くはないと言っていた。この際なんでもいいか。気になるのは硬い麺。麺を硬くするとは……混ぜる時の水を少なくすればいいか?
とりあえず、小麦粉に水を、いつもより少なく混ぜる。混ぜ続けると、段々と水と小麦粉が馴染んでいく。そのくらいになったら、一旦固まるまで放置する。
この時間の間に、手を洗って、海苔を切る。海苔はそばにかける物のように細かく刻む。切り終えたら皿に移す。
あとは、スープか。スープは適当に周りにある物から……醤油と塩はある。豚骨はなさそうだからいい。とりあえず醤油を皿に出してみる。もちろんこのままじゃしょっぱくて食べられた物ではない。
醤油を薄めすぎないように、水を加えていく。そして塩も追加する。少し舐めてみる……まだしょっぱいな? 他に何か使えるものは……酢、砂糖、牛乳……。
牛乳は一旦除外しよう。とりあえず酢を少し、砂糖も少しだけ入れる。これでしょっぱさを和らげてくれるといいが。
少し口をつける。うん。これくらいがちょうどいいだろう。
放置していた麺に目を向ける。いい感じに固まってきていている。生地はこれでいいだろう。
上から叩いて伸ば……硬いな!? とにかく、伸ばす。
平べったくなり、薄ーくなる。半分に畳んで、包丁で細かく、食べやすいように切り分けていく。
あとは、麺を茹でなくては。水を鍋に入れる。茹でるために火で水を沸騰させなければいけないが……
「……火をくべるとこはどこだ?」
あたりを見回しても、どこにも存在していない。それどころか、薪が見当たらない。
やはり電気か。冷蔵庫と同じように、電気を使っているのか?
あたりを見回すと、あった、電気コンロと書かれていたものが。コンロは確か、七輪の進化系、私がちょうど幻想郷に来る前あたりに、ガスコンロが出てきたんだっけか。
少しだけ懐かしく思い、コンロを見る。これは、つまみを撚れば火が出てくるのか?
とりあえずつまみを捻った、何も起こらない。壊れているのか?
少し観察して、壊れていると判断し、コンロを叩こうとして、触ると
「あちッ!」
温度が高くなっているコンロに、手を刺されたのだった。
「クソッ、騙された。火を使わずに暑くなるとは。視覚で判断しちゃいけないってことか」
とりあえずさっき用意した水をコンロの上に置く。
これで時間が経てば、沸騰し、お湯になるはずだ。
沸騰したら麺を突っ込んで茹でる。
「ただいま戻りました!」
「おう、おかえ……なんでそんなボロボロなんだ」
ちょうどいいタイミングで戻ってみた早苗は、何故か体や服に汚れがついていた。
「思っていたよりも天邪鬼は真面目でした」
「あーうん、かわいそうに」
「同情はやめてください。天邪鬼に同情されたくありません」
そう言いながら、どすっと席に座った。
「さて、見せてもらいましょうか。天邪鬼のラーメンをね!」
いいだろう。麺は茹で上がったし、私は皿に盛り付ける。スープを下に敷いて、その上に麺を乗せる、そしてその上に刻んだ海苔をかけて、卵を割る。ハムを乗せて完成だ。
「これが私のラーメンだ!」
「おおー! ……ふふっ」
「なんだ、やっぱり違ったか」
「違うは違うんですけど、これ、冷やし中華ですよ!」
「冷やし中華?」
「そう、冷やし中華、いやーこれは懐かしい! まあ、生卵じゃないんですけど」
そうやって自己完結しながら、早苗は食べ始める。作法がなってないな。これだから小娘は。
ちゅるちゅると小気味のいい音を立てながら、麺を啜っている。
「か、硬い……けど、美味しい!」
「どのくらいラーメンに似てた?」
「そうですね、百点満点中……三十点でしょうか?」
「そ、そんなに離れてるのか?」
「はい、冷やし中華には八十点くらい似てますけど」
嘘だろ、かなり近く作れたと思ったのに、何がダメだったんだ?
そう思っている私に、麺を啜りながら早苗はポイントを教えてくる。
「まずですね、ラーメンは熱いんですよ。熱々なんですよ、作る人の情熱が入っているんですよ!」
「なるほど?」
「そして、スープも量がもっと多いんですよ。こんな冷やし中華のタレみたいな感じじゃなくて、もう、麺が全部中に入るような!」
「なるほど、じゃあ、結構厚底の器じゃないとダメか」
「そう、そうなんです! あと、海苔も刻まないで、丸々一枚乗せてください!」
確かにそう考えると点数が低い理由はわかるかもしれない。
だが、どうやって私は三十点を手にした?
「逆に、どこが良かったんだ?」
「それはですね、やはり麺です! 冷やし中華もラーメンも、どちらも中華麺を使っていますからね、名前の通り。なんかちょっと違和感を感じましたけど」
「中華麺……じゃああれか、中華民国の麺ってことか」
「そうです。ラーメンは中国発祥だったはずですから」
なるほど、今ので大体はわかった。
「きゅうりかトマトってあります?」
「ああ、あるよ」
「細かく切ってください!」
「へーい」
きゅうりを薄切りに、トマトも薄く切る。ついでに何個か懐に入れる。
切ったやつを皿に乗せて早苗の元へ。
「切ったけど?」
「冷やし中華と言ったらやはりきゅうりとトマトですよね!」
そう言って切った具材を綿の上に乗せた。私の作ったスープ、もといタレに野菜をつけて食べている。
「はあ、幻想郷の野菜は新鮮で美味しい……!」
「よかったなー」
「そういえば、うちに来たのってラーメンの作り方を聞くためだったんですか?」
「そうだ。だからもう帰る」
「えー、便利だから、あと何日かは居て欲しかったんですけど」
「そんなのお断りだね」
そう言いながら、私は戸棚の方にあった包帯を体に巻き付ける。
服についている血と、服の傷を隠すためだ。
「……まあ、何かするべきことがあるなら、止めませんけどね」
「ああ、放っておいてくれ」
「ただ、懐かしい気持ちになれたので、少しぐらい祝福してあげましょう!」
「いらない」
「わかりました! とびきりの祝福をあげましょう!」
「耳がついてないのか?」
私の言葉など聞こえていないらしい、早苗は私に、どこから取り出したのか、御守りを投げつけてきた。
「守矢のお守りは評判がいいんですよ! 風邪が治り、運が上がり、全てがうまくいき、ついには一国の王様になったり!」
「夢の多い話だな。寝言はそれぐらいにしておけ」
適当に懐にしまって、私は外へ出る。
「どこへ?」
「……針妙丸のところ。詰まるところ輝針城だ」
遠くの方に、立派なお城が浮かんでいるのが見える。幻想郷にしかない光景。空に浮かんでいる城なんて、ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』でしか見たことなかった。
私は早苗の方を振り向いて、上を指差した。
「じゃあな。ラーメンの事教えてくれて、礼は言わないけどな」
「礼には及びませんよ。さようなら」
私は空へと飛んでいく。上へ上へ、目指すは雲より高い輝針城。
待っていろよ針妙丸。私がラーメンを食わせてやろう。
鬼人正邪が輝針城へと向かったあと。
東風谷早苗は冷やし中華を堪能していた。
「ただいま〜」
「戻ったぞ、早苗」
そこへ二人の女性の声が聞こえてくる。
一人は青紫の肩までかかるくらいの髪に、黒いスカート、胸には鏡の装飾がついている赤い服を着用していた。
もう一人は、目玉のついた帽子を被り、肩までは届く金髪だった。壺装束を着用しており、どこか子供らしい印象を抱かせる。
「神奈子様、諏訪子様、おかえりなさい!」
「私たちがいない間、ちゃんと留守番出来て……なんでそんなボロボロなの?」
「本当だ、怪我は、してないみたいだな」
守矢神社に祀られている、二柱の神。洩矢諏訪子、八坂神奈子の二柱であった。
子供らしいのが諏訪子で、反対に大人のような印象をもつのが神奈子だ。
二人とも、早苗がボロボロなのを見るや、険しい顔を見せる。
「ちょっと、色々ありまして……だけど、もう解決しました!」
「そう、ならよかったけど」
心配の表情を見せた神奈子は、早苗の言葉を聞いて少しだけ表情を和らげる。
そして、疲れたように居間に置いてあるソファに座る。
諏訪子は、冷やし中華を食べている早苗に話しかける。
「おっ、美味しそうなの食べてんじゃーん。自分で作ったの?」
「いえ、これは正邪さんが作りました」
「正邪? あの天邪鬼のことか」
「はい!」
早苗の出した名前に、神奈子が反応する。
「あの天邪鬼をウチに入れるなんて、あまりよろしくないね」
神奈子が優しく咎めるように言う。
「すいません、でも、どうしてもラーメンが食べたかったので」
「食べてんの冷やし中華じゃん」
「ラーメンを作ってくれると思ったら、冷やし中華になったんですよ」
諏訪子の疑問に、早苗は説明の足りていない答えを出した。
「天邪鬼のラーメンは冷やし中華なのか」
「新しい知識を得たね」
「正邪は今どこに? まさかとは思うが、まだウチにいるのか?」
「いえ、輝針城へと向かいましたよ!」
そういった瞬間、神奈子と諏訪子の雰囲気が明らかに変わった。
「……どうかしましたか? 私、また何かやっちゃいました?」
「いや、実を言うと、さっきまで輝針城にいたんだ」
「そう、八雲紫と話すために」
「そうなんですか。ああ、じゃあ正邪さんと紫さんが鉢合わせたら、まずいかもしれないですね」
「そうかもしれないなあ」
神奈子からは、どこか要領を得ない、フワフワとした答えが返ってきた。
「ちょっとちょっと、本当にどうしたんですか? 二人とも。なんかフェルマーの最終定理解こうとしてる私みたいな顔してますけど」
「そんなことしてたの!?」
「嘘です! ……それで、まだ冗談に反応する余裕があるみたいですが、何が心配なんですか?」
「いや、な。もしも私の、私たちの考える事が正しいなら。鬼人正邪と八雲紫が鉢合わせたら」
一呼吸おいて、神奈子は言った。
「最悪、鬼人正邪は殺されてしまうかもな」
「……え?」
困惑した早苗の声が、静かな部屋に広がった。