ラーメンが正邪を作るお話 作:最弱の鬼人正邪ファン
私が博麗神社に来てから、既に丸一日が経っていた。正邪を最後に見かけてから(新聞に映っていた姿は含めないで)、二日ほど経ったといえる。
お昼ご飯を食べ終えてから、博麗神社で掃き掃除をしている最中、霊夢に、人里に行って甘味を食べよう、と誘われた。
「甘味だー甘味だー!」
「はしゃぎすぎよ」
「人里で甘味を食べるなんて、久しぶりだからね!」
私は人目を気にせず、スキップをしながら移動していた、ただ、周りの目が小さい子供を見る目だったので、やめた。私は子供じゃないやい!
「どこか行きたい場所はある?」
「新聞に載ってたお団子屋さんに行きたい!」
「ああ、あの天邪鬼が働いている……まあ、いいか」
霊夢は少しだけ渋る様子を見せたが、一緒に来てくれるようだ。
私達はお団子屋さんへと向かった。確か、写真で見る限りは、たくさんの人で賑わっていたはず……新聞に書いてあった場所に来たが、正邪の姿は見当たらない。あるのは二つの団子屋だが、一つは『守矢神社に来てね!』と書いてあり、もう一つは開いていたが、驚くほどにお客さんがいなかった。
「どっちで働いてるのかな?」
「はあ……やっぱり探し始めたわね」
「どうしたの? 何か探してるのかな?」
私が混乱していると、誰かが話しかけてきた。
きれいな青い髪に赤い瞳、そして兎の耳、人間ではないと一目でわかる。たしか玉兎という月の兎だったはずだ。
「ああ、アンタはたしか……清蘭だっけ? 天邪鬼が働いてるお店知らない?」
「ああ、それ。うちのお店だよ」
「え!? そうなの!?」
驚いたことに、正邪が働いているお店は、目の前の清蘭と呼ばれた兎のお店らしい。
「そうだよ~。もしかして、新聞を見てくれたのかな?」
「はい、あの、天邪鬼はしっかり働いているでしょうか?」
色々と聞きたいことはあるが、正邪がしっかりとやっているのかが知りたかった。あの天邪鬼が、ついに就職できたのだろうか。
「ああ、天邪鬼は初日でやめちゃった」
「ええ~!? やっぱり!?」
「やっぱりって……」
「知り合いなの?」
「主人です!」
「そっか、貴方が少名針妙丸って子か」
あれ? 自己紹介していないのに、どうして私の名前を知っているのだろうか。
「あの、どうして私の名前を?」
「正邪が話してたからね、クビにされたって」
「そんなつもりじゃなかったんだけどな……」
ちょっとイタズラするだけだった。そんな、ずっと帰ってくるなってわけじゃなくて、ただすこし、はあ。過ぎたことを気にしすぎても、仕方がないか。
「なんでもいいじゃない。とりあえずお団子をいただきましょうよ」
「あ、うん。分かった!」
「お! 二名様ご案内でーす!」
確かに、霊夢の言うとおりだ。いまはお団子に集中しよう!
私たちは、清蘭についていく。どんなお団子があるのかな? そんなワクワクした気持ちは、消えゆく運命にあった。
「……一種類しかないの?」
「うん。うちは清蘭団子一つでやってますので」
「じゃ、清蘭団子二つ」
「毎度!」
霊夢が私の分も頼んでくれる。一つしか種類がないのには驚いたが、逆に考えれば、その一つを極めているのかもしれない。それに、一つのほうがいろいろな注文が入らなくて、すぐに提供できるかもしれない。
そんな風に考えていると、緑色の団子が出てきた。
「あれ? 新聞で見たときは、桃色って書かれてたけど?」
「日によって変わるんですよ」
「ふーん? いただきます」
「いただきまーす!」
霊夢に合わせていただきますをした。緑色なのは、抹茶味なのかもしれない。それに、見れば見るほど、おいしそうだ。一口、口に入れて、咀嚼する。
「「…………苦ッ!!??」」
私と霊夢は感性が同じだったようだ……いや、そんな風に冷静に考えられないくらい、とても苦かった。
「ちょっと……アンタ! 何入れたのよ! これ!」
「抹茶だけど」
「抹茶よりもぜんっぜん苦いんだけど!?」
霊夢が頑張って問い詰めている。私は苦すぎて机に突っ伏していた。
頼む、霊夢よ。私の仇を取っておくれ。
「まあ、特性抹茶で通常より百倍くらいは濃いかもね」
「くぅ……、退治してやる……」
「わーわー! ごめんなさい! さすがにそれはシャレにならないから許して!」
なにがシャレにならないだ。先にシャレにならない団子を食わせたのは貴様だろうに。
「針妙丸! しっかりして!」
「うう、うらんでやるぞ……玉兎め」
「ごめんね? ほら、お代は無料でいいよ」
「まあ、それなら……いや許せない。アンタなんで私らにこんなことするのよ。前に倒した恨み?」
「いや? いつもこんなかんじだけど」
「正邪が働いてたときに人気なのって、もしかして、人気をひっくり返したから?」
私は瀕死の状態でそういった。いつもこんな感じって、確か新聞には、幻想郷で一番まずい団子屋と書かれていたっけ……というか、甘いものが欲しい……。
「そうかもしれないね」
「あっきれた……なんか甘いものない?」
「私も欲しい……」
「砂糖ならここに」
「「ちょうだい!!」」
奪い取るように砂糖を清蘭から受け取り、霊夢と一緒に口の中で転がす。
口の中にあった苦みがやっと収まっていく。
「やっぱり砂糖はおいしい……」
「そうね、それに比べてアンタは……団子一つまともに作れないわけ?」
「ええ? そう? おいしいのに……」
そういいながら、私たちが残した、緑色の団子を……いや、あれは団子と呼びたくない。緑色の物体を食べていた。私たちはドン引きした。
「「うわ~……」」
「なによ、その反応。あ、お茶いる?」
「百倍抹茶はいらない」
「普通のだよ」
「ほしい」
口の中から苦さがなくなるまで、砂糖をなめていようと思っていたら。誰かがこちらに走ってきていた。
「すみません! 団子屋の店主はいらっしゃいますか?」
「はいはーい、お客さんかな」
「御冗談を! まともな舌をしていればこんな団子屋誰も訪れませ……」
あれは、確か半分人間で半分幽霊の妖夢さんだったか。こちらを見て、驚いた顔をしている。
「あ、いや、人の趣味趣向を否定する気はありませんので! 今のは言葉の綾というか……」
「こんな団子屋へ食べに来てる、もの好きって勘違いしてない?」
「……ちがうんですか?」
「今日が初めて、さっきやられたわ」
「よ、よかった。霊夢さんはまともで安心しました」
霊夢さん
「私もまともだからね!」
「ああ、小人のあなたも。よかった……」
ほっとしたような顔を見せる。しかし、食べに来たわけではないなら、なぜこの団子屋へ来たのだろうか。
「それで? お客様じゃないならなんで来たの? うちは冷やかしも歓迎するけど」
「幽々子様……私の仕える主から、あなた宛てに手紙があります。どうぞ」
「わたしに? なんだろう。宴会のために団子の注文かな?」
「そんなわけないです! ないですよね!? ちょっと見せてもらってもいいですか!」
「いや、さすがにダメでしょ」
焦ったような表情の妖夢を霊夢が抑える。
清蘭は、手紙を開き、読み始めた。読み進め、読み終わったかと思えば、紙から目線を上げ、こちらをちらっと見た。いや、私を見た。
その顔は背筋が凍るような冷たい表情だった。しかし、すぐに笑顔を作った。
「な、なにが書かれてあったんですか?」
「……秘密。団子の注文じゃなかったよ!」
「よ、よかった~。じゃあ、私はもう帰りますね」
妖夢さんはお家へ帰っていった。私は、別れの挨拶を言おうと思ってたのに、何も反応できなかった。頭の中は、清蘭が見せた氷のような顔で、いっぱいだった。
「ね、ねえ大丈夫?」
「ん? なにが?」
「いや、ちょっと怖い顔してたから……なんか変なこと書かれてたんじゃないかなって」
「……大丈夫だよ。怖がらせちゃってごめんね? もう今日は帰った方がいいよ。店も今日はこれでおしまい」
「えっ、でも……」
でも、なんだろう。私は何を伝えようとしているのだろう。何か、何かを伝えようとしているのかな。自分でもわからなくなってしまった。
「いくわよ、針妙丸」
「……わかった」
霊夢に呼ばれる。霊夢はいつも通り、のんきそうな顔で、それがなんだか、安心感を覚える。
清蘭にお別れの挨拶をして、私たちは博麗神社へ帰っていく。
明日になったら、一度輝針城に帰ろうかなあ。どうしてか、家が恋しくなってしまった。
もしかしたら、正邪にもまた会えるかもしれない。
落ちていく夕陽を眺めながら、そんなことを考えていた。
白玉楼から来た従者さんから、手紙を受け取る。
手紙を受け取った後、手紙を読もうとしてくる従者さんと、それを止める博麗の巫女の姿が、面白かった。
けれど、手紙を読んだら、そんな事を考える余裕も無くなってしまった。
天邪鬼を救いたいなら、小人があなたの店を訪れた時に、逆さ城へ向かいなさい。
ただし、貴方は罪人になるでしょう。
救わなくていいのなら、この手紙は燃やして忘れなさい。
色々と、疑問に思うことはある。あるが、私にそれを追求する時間はない。小人は既に店に来ている。この手紙は信用に値しない。だからといって、行動しないわけではないが。
「ね、ねえ大丈夫?」
大丈夫。大丈夫だから、私の事はどうか、心配しないで。
私は小人と博麗の巫女を、店じまいという体で追い出した。何も心配するものがなくなったため、私は急いで、自分の住処に戻る。人里の外の、あまり誰も寄りつかない、森の中に、地上で過ごしている玉兎は、大抵そこで過ごしている。
住処に戻った私は、急いで着替える。昔に着ていた、玉兎に支給される戦闘用の制服に、またこれを着る事になるとは思ってもいなかった。
そして、これまた昔に使った銃を用意する。もう何十年も前のモノだったはずだ。銃弾を入れて、引き金を引いてみる。問題なく発射された。
が、これでは並の妖怪に効果はないので、銃剣を主体として戦う事になるだろう。
そもそも戦う事になるかはわからないが、後悔はないようにしたい。もちろん、準備している時間が無駄な可能性もあるが。私は臆病なんだ。装備は整えてからがいい。
とりあえず、最低限の用意はした。早く急がないといけない。
「いこう」
誰も仲間はいない。けれど、それでいい。私一人でいい。天邪鬼を救って、終わりだ。
深い、深い雲を乗り越えて、空中を悠々と泳ぐ逆さ城へ。
城の入り口に
空は橙色に染まっている。少しだけ後ろを振り返り、私は城の内部へと入っていった。
中は、やけに静まり返っていた。そして、とても暗かった。
このくらいの時間なら、明かりの一つや二つを付けないと、城の中を満足に歩くことができない。
窓から差し込む小さな陽の光では、この無駄に大きな城を照らしつくすことができないからだ。
いつも私たちが過ごしている居間へと進んでいく。が、城の中はまるで誰もいないかのように、生活感がなかった。もしかしたら、針妙丸は別の場所にいるのかもしれない。
あいつのことだ、いつも世話をしていた私がいなくなって、とうとう自分一人ではどうにもできなくなって、ほかの誰かの家に、助けを求めに行ったに違いない。きっとそうだろう。
そう考えながら、歩いていると、明かりのついた部屋があった。居間に続く廊下の途中にある、針妙丸の部屋だ。大きい部屋がいいと言って、小さい体には見合わない、この城の中で一番大きい部屋を独り占めして、結局持て余していた。
そんな部屋の扉の隙間から、光が漏れている。
なんだ、結局城の中で過ごしていたか。針妙丸を探す、という問題を解決したが、今度はどうやって話しかけようかという、新たな問題が出てきた。
普通に話しかけてしまえばいいのだろう。が、針妙丸はもう怒っていないのだろうか? どうして私は、己の体を動かすことができないのだろうか。
頭の中で無駄なことを考えてしまい、扉を開けることができない。
私が悩んでいると、扉が開いた。辺りに光が広がった。
針妙丸が姿を現した。
「あれ? 正邪。どうしてここに」
「……あー、なんだ。一昨日の事なんだけど」
「なんかあったっけ? とりあえず入ってよ! ゆっくりしないと落ち着いて話もできないもんね!」
言葉が出なかった。
「ああ……」
拍子抜けした。私の心配事は何だったのだろうか?
とりあえず、目の前の奴に誘われるまま、私は部屋の中へと入っていく。
「ほらほら、座って座って? 疲れてるよね?」
「……ああ」
コイツは、椅子を用意した。
私は座る事はなかった。
「どうしたの?」
「どうしたんだろうな、私。一瞬でもお前を針妙丸だと思ってしまったんだ」
「そりゃあ、私は針妙丸だよ?」
「そうか」
私は椅子を蹴り飛ばした。それは、目の前の妖怪に片手でキャッチされた。
「やっぱり気づくものね」
「伊達に奴隷やってないからなあ、それで? 何を仕掛けたんだ。輝針城に」
「あらあら、随分とこのお城が大切なのね?」
隠す必要がなくなったからか、針妙丸は姿を変えていく。
変わっていった後で、ようやく理解した。
目の前の女は、私の認識の境界を操っていたんだ。
「八雲、紫」
「ご機嫌よう。鬼人正邪」
これがただの、いたずら好きの妖怪狸だったらまだ良かった。
それならば、ただ、狸を叩き出すだけで済む話だった。目の前の女は、今の状態じゃ勝ち目がない。逃げないといけない。
それほどまでに、賢者というのは強大なんだ。
「もう、逃れられない」
「はあ、手の込んだ遊びだな? 随分と豪華にもてなしてくれるじゃないか?」
「ええ、だって今日は誕生日だもの。祝福しなきゃね?」
「誰のだよ」
「私のよ? 忘れたの?」
「初耳だ」
会話で時間を稼いでいたが、逃げられないのは、本当のようだった。先程入る時に使った扉が、今はまるで、岩のように硬くなっている。
「結界か」
「その通り。天邪鬼を引きつけて、天邪鬼を閉じ込める結界よ」
「で、お前が釣られたってわけか」
時間を稼ぐか、あるいは、結界を解除する方法を見つけないといけない。
「貴方は覚えてないのかもしれないけど、私は覚えているのよ」
「何をだよ」
「幻想郷は全てを受け入れるけど、異物を受け入れてしまったらどうするべきだと思う?」
「愛してあげれば? 可哀想だからな」
「それではダメよ。異物は消さなくっちゃ」
私の能力を使う。結界はひっくり返ったが、ひっくり返らなかった。
「私を異物だって言いたいのか? 一度異変を起こしただけで?」
「一度だけ、じゃないわ。一度でも起こしたから、異物と言っても過言ではないの」
「じゃあ、他のやつにもそう言ってやってくれ」
手元には、何もない。私は、どうすればいい。
「抵抗はしないで、一度だけ、私に協力すればいい」
「……なんの話だ」
「そうすれば、全てが変わる。全てが元に戻る」
「何が言いたいんだ」
「この幻想郷から、消える」
「何がだよ!」
少し怒鳴ると、目の前に八雲紫が現れた。
そして、首を掴まれ、片手で絞められる。目の前の少女は、私を掴んで離さない。両足が地面から浮く。そして、上目遣いで頼んでくるのだ。
「欲しいのは、貴方の協力。私に協力して?」
「断る!」
「そう? まだ何も話してないのに」
「お前が気に入らないんだよ。私は」
「じゃあ、八雲紫じゃなかったらいいの?」
「そうだな、中身が八雲紫じゃなかったらいいな」
「そう……」
そう言って、八雲紫は……帽子を……取っ……た。
私は、目の前の人物をどこかで見た事がある気がする。
「私は、メリー」
「メリー……って、まさか、そんな馬鹿な。は、ははっ」
メリーは、メリーは、私が幻想郷で初めて出会った人間だった。筈である。
首にさらに圧力がかかるが、今はそんな事どうでも良かった。