ミス・トゥースフェアリーに真面目な話をしてもらおうと思ったらなんか筆が滑った 作:グシャグシャボックス
●そのまま、ミセス・キャンベルに先導され、フェイはキャンベル家の書庫へと通されます。
その書庫は年季が入った重厚なもので、書庫というよりも、歴史的な遺物の展示室といった装いです。そして、書庫内の一角に置かれたガラスケース、その内部にずらりと並んだ遺物の中に、明らかに他と比べて浮いている巻物状の何かがありました。
ミセス・キャンベルが鍵を外し、ガラス張りを開けてくれます。フェイは事前に用意してあった手袋を付けて、古びた巻物を手に取り、そっと開きます。そこには日本語の古語――おそらくカレンの書いた部分でしょう――と、不可思議な数式、記号。それから僅かに現代日本語らしき文面が入り混じった、秩序だった記述がびっしりと記されていました。
ミセス・キャンベルが、それで間違いないかしら、と尋ねます。フェイは頷きます。何が書かれているのかしら、とミセス。フェイは少し躊躇ってから、残念ながら読み解くのには骨が折れそうです、と答えます。
ミセス・キャンベルは残念そうな顔をすると、人払いしておきますので、ご自由に。ただしものを持ち出すことはしないでください、と言い、部屋を出ていきます。
出ていくときの彼女は、最初と同じようなどこか疲れた顔でした。どうもこのあと、彼女の父からの呼び出しがあるそうで、あまり家庭が上手くいっていないらしいことが、彼女の様子からは読み取れるでしょう。トゥースフェアリーに良く似た彼女に、同情心を抱きつつも、フェイは目の前の古文書に意識を集中するでしょう。
以上の流れを、フェイの視点で詳細に描写してください。
■キャンベル家の書庫へ
ミセス・キャンベルが立ち上がり、「ついてきてください」と言ったとき、私は少し戸惑いながらもソファから立ち上がった。彼女の背中を追って応接室を出ると、長い廊下を進む。足音が石の床に反響し、古びた肖像画や燭台が並ぶ様子がまるで映画のセットのようだった。
彼女の歩き方は落ち着いていて、疲れた表情とは裏腹にどこか気品があった。トゥースフェアリーと同じ血が流れているんだと、改めて実感した。
やがて、重厚な木製の扉の前にたどり着いた。ミセス・キャンベルが鍵を取り出して錠を外すと、軋む音とともに扉が開き、私は書庫へと足を踏み入れた。そこはただの書庫とは呼べない空間だった。まるで歴史的な遺物の展示室だ。天井まで届く古い本棚には革装の書物がぎっしり詰まり、空気には埃と古紙の匂いが漂っている。
窓から差し込む薄い光が、埃の粒子を浮かび上がらせていた。私は思わず息を止めた。この場所に、トゥースフェアリーの望む答えがあるかもしれないのだから。
ミセス・キャンベルが一角に私を導いた。そこにはガラスケースが置かれ、中に様々な遺物が並んでいる。古びた短剣、色褪せた布切れ、金属製の装飾品――そして、その中に明らかに浮いているものがあった。
こげ茶色の巻物だ。他の遺物とは質感も色合いも違い、まるで別の文化圏から紛れ込んだように見えた。私は胸が高鳴るのを感じた。
「これかしらね」
ミセス・キャンベルが静かに言って、ポケットから小さな鍵を取り出し、ガラスケースの錠を開けた。私は慌てて鞄から事前に用意していた手袋を取り出し、はめる。彼女が一歩下がって見守る中、私はそっと巻物を手に取った。古紙の束は意外と軽く、手袋越しの指先にざらりとした感触が伝わった。慎重に広げると、そこには驚くべき内容が記されていた。
古い日本語――おそらく室町時代のような文体で、カレンと呼ばれた妻が書いたのだろう部分があった。その横には不可思議な数式や記号が並び、さらに驚くことに、現代日本語らしき文面が混ざっている。秩序だって書かれているのに、まるで複数の時代が交錯したような不思議な感覚があった。
私は目を細めて見つめた。これは……本当に転移術の術式なのか?
「それで間違いないかしら?」
ミセス・キャンベルが静かに尋ねてきた。私は目を離さずに頷いた。彼女が少し身を乗り出してくる。
「何が書かれているの?」
その声に、私は一瞬躊躇った。どう説明すればいい? 正直に「転移術を記した設計図かもしれない」とは言えない。でも、嘘をつき続けるのも限界があった。私は小さく息を吐いて、英語で答えた。
「残念ながら……読み解くのは、ちょっと骨が折れそうです」
彼女の顔が曇った。疲れた目元に、かすかな失望が浮かんだ気がした。でも、すぐに表情を整えると、彼女は穏やかに言った。
「そう。なら、人払いしておくわ。ここでご自由に調べてください。ただし、ものを持ち出すことはしないでね」
そう言い残して、彼女は踵を返した。私はその背中を見送りながら、彼女の様子に何か引っかかるものを感じた。
出ていくときの彼女は、最初に会ったときと同じように疲れた顔に戻っていた。肩がわずかに落ち、足取りが重そうだった。ふと、彼女が書庫までの道中で漏らした言葉を思い出した――「このあと父に呼ばれているの」と。
どうやら家庭が上手くいっていないらしい。トゥースフェアリーも実家を好まないと言っていたが、ミセス・キャンベルにも似たような影があるのかもしれない。私は彼女に同情のようなものを感じつつ、しかし、目の前の古文書に意識を戻した。
書庫には再び静寂が戻った。私は巻物をテーブルに広げつつ、手袋をはめた手で慎重にすべてを検めた。
トゥースフェアリーに会うための鍵が、ここにある。私はそう信じ、目の前の謎に集中した。
●巻物の内容を一通り確認した結果、これはデータというよりも、アートであり、情報として口頭で(テレパスですが)トゥースフェアリーに伝えるのは難しいことをフェイは認識します。
この術式を向こうの世界に伝えるためには、内容を余す所なく理解できる人間に、実物を見せなくてはならないでしょう。
そこで、フェイは以前トゥースフェアリーと精神が入れ替わったことを思い出します。精神同化の応用例である(※:ということに今なった)あの現象を再び発生させることができれば、一挙解決です。
もちろん、テレパスの深化は二人の精神に悪影響を及ぼす可能性もありますが、しかし、背に腹は変えられません。フェイの中でトゥースフェアリーの存在はずいぶん大きくなってしまいました。彼女の中のフェイもまた然りです。このまま手を拱いていることは両者にとって耐え難く、今や多少のリスクは問題になりません。
フェイからの交信が行われ、トゥースフェアリーも同意します。二人はともに覚悟を決めます。早速、能動的な精神の入れ替えにチャレンジしてみましょう。
以上の流れを、フェイの視点で詳細に描写してください。二人が精神交換を行うことへの決意を強調すること。
■巻物の謎と決意
書庫の静寂の中で、私は古びた巻物を一通り確認した。古い日本語の文体、不可思議な数式や絵図、現代語が混ざった記述――どれもが異様な調和を保ちながら、目の前に広がっている。
でも、じっくり見ていくうちに、ある確信が胸に湧いてきた。これは単なるデータじゃない。アートだ。まるで誰かが時間を超えて描いた詩のようなもので、情報を整理して口頭で伝えるなんて到底無理だ。特にテレパシーでトゥースフェアリーに伝えるとなると、なおさらだ。言葉にできない感覚やニュアンスが多すぎる上に、テレパスでは互いの感情が混じり合って、ロジカルなやり取りはすぐに何処かへ行ってしまう。
私は手を止めて、深く息を吐いた。この術式を彼女の世界に届けるには、内容を余すところなく理解できる人間が、実物を見なければならない。そうでなければ、転移術の鍵は永遠に埋もれたままになるだろう。でも、どうやって? 私はこの2025年にいて、彼女は1990年代半ばにいる。しかもそれらは別世界である公算が大きい。物理的に会う手段なんてないはずだ。
そのとき、ふと記憶が蘇った。あの入れ替わり事件――私とトゥースフェアリーが精神を交換し、互いの世界を10分間だけ体験したあの瞬間。あの現象を再び起こせれば、すべてが解決する。彼女がこの書庫に来て、巻物を直接見ればいいのだ。私は彼女の体を借りて、1990年代で待っていればいい。
そうすれば、彼女は術式を理解し、財団に持ち帰って研究を進められるかもしれない。つまり、私たちは会えるかもしれない。
頭の中でその可能性が膨らむにつれ、心臓が早鐘を打った。入れ替わりは可能だ。私には何故かそれが分かった。でも、同時に不安が忍び寄ってきた。
テレパシーを不用意に深化させることは、私たちの精神に何かしら致命的な影響を及ぼす可能性があった。レディ・Zが警告していたように、頻度を増やすだけでもリスクがあるはず。精神が入れ替わるなんて、さらに危険な賭けだ。意識が混濁したり、戻れなくなったり、最悪の場合、永遠に覚めない眠りに陥るかもしれない。
でも、私は目を閉じて考えた。トゥースフェアリーの存在が、私の中でどれだけ大きくなっているか。彼女の声、歯への偏愛を語る時の楽しそうな響き、恋愛に不器用ながら私に寄せる想い――それらが私の心に深く根を張ってしまった。確かに元を辿ればこれは彼女の思いの照り返しかもしれないが、しかし、今やこの思いは、私だけのものでもあるのだ(※:書き手の深夜テンションの副産物とは言うまい)。
このまま手を拱いているなんて、耐えられない。彼女に会いたい。彼女と直接、顔を合わせて話したい。そのために、多少のリスクなど問題じゃない。私はそう結論した。
私は目を閉じ、意識を集中させる。彼女と繋がる感覚は、もう慣れたものだ。静かな波のさざめきように、私の心が彼女に届くのを待つ。やがて、遠くから彼女の声が聞こえてきた。
「フェイ? どうしたの? こんな時間に交信なんて、またレディ・Zに怒られてしまうわ。……何か分かったの?」
彼女の声には驚きと、少しの喜びが混じっていた。私は深呼吸して、思いを伝えた。
「トゥースフェアリー、術式らしきものを見つけたよ。今チェシャーに来ている。キャンベル家の書庫にあったんだ。でも、これをテレパシーで伝えるのは無理だ。術式を理解するには、君のような神秘学家が、直接これを見るしかないと思う。だから……もう一度、精神の入れ替えにチャレンジしてみたい。どうかな?」
一瞬、彼女の意識が静かになった。私の提案が彼女の中で響いているのが分かった。やがて、彼女がゆっくりと答えた。
「……確かに、それができれば解決するわね。だけど、危険じゃないかしら? 私はアルカニストだから、人工夢遊まがいの行為にはある程度の耐性があると思うけれど、でも、あなたは……」
彼女の声には迷いがあった。しかしその奥に、私と同じ想いを感じ取った。彼女も私に会いたいんだ。私は力を込めて言った。
「危険かもしれない。それでも、君に会いたいんだ。このまま別れ別れじゃ堪えられやしない。君はどう思う?」
また少しの沈黙。そして、彼女の声が戻ってきた。今度は迷いが消え、決意に満ちていた。
「私もよ、フェイ。私もあなたに会いたい。ずっと、そう思ってた。この距離が辛くて仕方なかった。リスクがあるなら、一緒に背負うわ。だって、だって、私たちなら、大丈夫でしょう?」
その言葉に、私の胸が熱くなった。彼女のその祈るような願いが、私の決意をさらに固めた。私は目を閉じたまま、強く頷くように意識を送った。
「うん、大丈夫だよ。一緒にやろう。僕たちの、ほんとうの出会いのために」
私たちは心の中で手を握り合ったような感覚を共有した。トゥースフェアリーの意識が少し近づき、私の心が彼女に寄り添う。早速、能動的な精神の入れ替えに挑戦する――その覚悟が、私たちを一つに結んだ。私は巻物を広げたテーブルに向かったまま、意識を最大限に集中させた。彼女の存在が、すぐそこに感じられた。
もう後戻りはしない。私たちは、互いに向かうために、今賭けに出る。
●ここで、視点をトゥースフェアリーの一人称に切り替えてください。
さて、入れ替わりは思いの外あっけなく成功しました。再びフェイと精神を入れ替えたトゥースフェアリーは、フェイの目を通して古文書を見つめます。彼女は現代日本語や古語は読み解けませんが、アルカナムを記した記号や数式部分は、尽くが見覚えのあるものでした。大半はキャンベル家の治癒術がベースになっていて、それを無理やり転移術に作り変えた、違法建築物のような代物だったからです。
トゥースフェアリーは、遠い日に生きて死んでいった自分の身内のことに思いを馳せつつ、その転移術を解読し、我が物とします。その後、彼女は名残惜しみながら、入れ替わりを終えるべく、再度精神を集中します。
トゥースフェアリーの、自分の身内に対する同情や共感を重点的に、繊細に描写してください。
■入れ替わりと古文書の解読
私とフェイの精神が入れ替わる瞬間は、あっけなく訪れた。目を閉じたまま意識を集中させていたら、次の瞬間には、懐かしい感覚が全身を包んだ。あの入れ替わり事件のときと同じだった。私の心がフェイの体に流れ込み、彼の目を通して世界を見ている。
書庫の埃っぽい空気、目の前に広がる古びた巻物――すべてが現実として私に迫ってきた。私は彼の指をそっと動かし、巻物を手に持つ感触を確認した。フェイの体は疲れからか少し硬くて、私の動きにあまり上手く馴染まなかったけれど、それでも不思議と落ち着けた。彼の温もりが、私を支えてくれている気がした。
私は巻物を広げなおし、じっと見つめた。現代日本語や古語の部分は、私にはまるきり異国の暗号だ。でも、その中に混じる記号や数式――アルカナムについて記した部分――は、まるで古い友のように見覚えがあった。私は目を細め、一つ一つを追いかけた。
驚くことに、その大半はキャンベル家の治癒術がベースになっている。私の家に代々伝わる、傷を癒し、命をつなぐ術式の形跡が、そこかしこに残っていた。でも、それらが無理やり歪められ、転移術という別の形に作り変えられている。まるで、頑丈な家を無茶苦茶に増改築してしまった違法建築物みたいだった。こんな危うい術式を、よくも完成させたものだと、呆れ半分、感嘆半分で呟きたくなった。
崩れかけの古紙を指でなぞりながら、私は遠い日に思いを馳せた。この術式を書いたのは、カレンという名の妻と共に生きた、私の遠い身内だと思われた。500年前、ストームに飛ばされ、異国で生き抜いたキャンベル家の血を引く者。古文書に残された彼の言葉を、レディ・Zが教えてくれた――「術式を元の世界に葬った」と。なんて孤独な選択だったんだろう。
彼は故郷に戻る術を完成させたのに、それを用いることを自分に許さなかった。家族を想う気持ちが、そしてたぶん、そのときどきの彼自身の立場が、彼を縛った。私はその身内に、深い同情を覚えた。彼の苦しみが、手に持った巻物の重みを通して、私に伝わってくるようだった。
同時に、奇妙な共感も湧いてきた。私もまた、キャンベル家の名と、それに紐づくアルカナムに縛られてきた一人だ。伝統ある家系、継がれた力、長女としての役割――それらが私を縛り、自由を奪ってきた。実家を好まないのは、そういう息苦しさがあったことも大きい。
でも、彼は私以上に過酷な運命に耐えた。過去の世界で孤立し、愛する妻と共に術式を完成させながら、それを使わず死んでいった。彼の人生が、この巻物に結晶している。私は目を閉じ、心の中で呟いた。「あなたの気持ちが分かる気がする。私だって、ままならない中で、求めるものを求めてここまで来たのよ」
そして……私の結論は、きっと彼とは異なるだろう。
私は再び目を開け、術式の解読に集中した。治癒術をベースにした部分は、私の知識で簡単に読み解けた。転移術への改変部分は不安定で、無理やり繋ぎ合わせたような脆さがあったけれど、それでも理解できた。これなら、私の世界に戻れば、財団の技術で再現できるかもしれない。
私は一つ一つを記憶に刻み込み、我が物とした。頭の中で、記号と数式が美しい旋律のように響き合い、まるで美しい歯並びを見た時のような満足感が広がった。こんな瞬間が、私にはたまらない。
急いで戻らないと。でも、ふと、胸に名残惜しさが込み上げてきた。ここはフェイの世界だ。彼が私のために奔走してくれた場所でもある。私は彼の目で、彼の努力の結晶を見ている。この巻物を手に持つ感触が、彼の想いそのものに思えて、少しだけ、離れがたかった。
それでも、私は決めた。彼に会うために、この術式を私の世界に持ち帰るために。私は深呼吸して、再び精神を集中させた。入れ替わりを終える準備だ。
「ありがとう、フェイ。もう少しだけ待っていてね」
私は彼の声でそう呟き、意識を彼に返す準備をした。私の身内が残した遺産を手に、私は彼との約束を果たすために戻る。そう、もうすぐ、ほんとうに私達は出会えるはずだった。