ミス・トゥースフェアリーに真面目な話をしてもらおうと思ったらなんか筆が滑った 作:グシャグシャボックス
●その日の夜、交信のなかで、フェイはトゥースフェアリーから先程のレディ・Zの説を聞かされます。その後で、彼は彼女に対してひとつ気になることを指摘します。まず、こちらの世界にアルカナムは存在しませんので、そのためこちらから転移したトゥースフェアリーの関係者が、そちら側の世界の500年前の芳賀家にアルカナムを伝える、という流れはおかしいです。
もちろん、彼はしょせんこちら側の世界の一般人に過ぎませんから、秘匿されたアルカナムが実は実在しているということも十分に考えられます。こちらの世界のキャンベル家も実は隠れたアルカニストであって、そのうちの誰かが将来こちら側のストームに巻き込まれ、そちら側に到達した可能性はあるでしょう。
しかし、その場合であっても、そちらの世界におけるアルカナムが世界分岐後に後付けされた技術であるというレディ・Zたちの推測と、こちら側に治療術使いのアルカニストが存在してそちらに転移したという推理は衝突しています。
したがって、レディ・Zたちの考えは、間違っているとまでは言いきれないが、どこか粗がある、とフェイはトゥースフェアリーに伝えます。彼女もその意見に同意するでしょう。
こうした流れを、フェイ視点の三人称で、詳細に描写してください。
■「交信の中の疑問」
その夜、フェイはいつものようにテレパシーの交信を通じてトゥースフェアリーと繋がった。2025年の日本の彼の部屋は静まり返り、窓の外からは春の夜風が微かに聞こえるだけだった。
彼は馴染みのソファに腰を下ろし、目を閉じて彼女の声を待った。やがて、トゥースフェアリーの柔らかく、少し興奮した声が彼の頭の中に響き始めた。
「フェイ、聞いて。今日、財団で驚くべきことがわかったの」と彼女が切り出した。フェイは興味を引かれ、身を乗り出すように意識を集中させた。
彼女は芳賀家の資料から判明した500年前の記録を話し始めた。茶髪の背の高い異人がストームに巻き込まれ、芳賀家に現れ、治癒術と転移術を操る神秘術師として彼らと結ばれたこと。そして、レディ・Zが立てた仮説――フェイの世界がオリジナルで、ストームが平行世界を生み出し、その一つがトゥースフェアリーたちのアルカニストの世界だという説――を熱心に説明した。
フェイは黙って聞き続けていた。彼女の声には興奮と希望が混じっていて、それが彼にも伝わってくるようだった。話が一段落したとき、彼は少し考え込むように間を置いた。そして、慎重に言葉を選びながら、彼女に自分の考えを伝えた。
「トゥースフェアリー、実に面白い話だよ。レディ・Zの仮説も、確かに一つの可能性として考えられる。でもね、ちょっと気になることがあるんだ」と彼が言った。トゥースフェアリーの声が少し緊張したように返ってきた。「何かおかしいところでもあった?」
フェイは頷くように意識を整え、続けた。「まず、僕の世界にはアルカナムが存在しないってことは、君も知っているね。だから、僕の世界から転移したトゥースフェアリーの関係者が、500年前の芳賀家にアルカナムを伝えたっていう流れは、ちょっとおかしいと思うんだ。だって、こちらにはその技術がそもそもないんだからね」
彼女は一瞬黙り込んだが、やがて「確かに……考えから漏れてしまっていたかもしれないわ」と呟いた。フェイはさらに言葉を重ねた。「もちろん、僕はこちらではただの一般人で、パブロフ財団のようなコネクションは望むべくもないから、隠されたアルカナムが実は存在している可能性はあるよ。例えば、チェシャーのキャンベル家はこっちでも秘伝のアルカニストの家系で、その誰かが将来、こっちでストームに巻き込まれて、君たちの世界に飛ばされたってことも考えられる。でも」
彼は少し間を置いて、核心に触れた。「もしそうだとしても、レディ・Zたちの『君たちの世界のアルカナムが分岐後に後付けされた技術だ』っていう推測と、僕の世界に治療術使いのアルカニストがいて、それが君たちの世界に転移したっていう推理は、些か衝突しているね。矛盾とまでは言わないが、あまりすっきりとした議論になっていないと思う」
トゥースフェアリーの声が、少し考え込むように返ってきた。「そうね……あなたの言う通りだわ。レディ・Zの説は面白いけど、どこか粗があるのかもしれない。私も、彼女にそう伝えてみるわ」 フェイは彼女の同意に小さく微笑んだ。「うん、間違ってるって決めつけるわけじゃないけど、もう少し詰める必要があるんじゃないかと思う。僕もこっちでキャンベル家のことを調べてみるよ。何かヒントが見つかるかもしれない」
彼女の声が明るくなった。「ありがとう、フェイ。あなたがそうやって考えてくれると、私も心強いわ。やっぱり、あなたと一緒にこの謎を解いていくのが一番よね」
フェイは彼女の言葉に温かさを感じ、軽く笑って応えた。「僕もそう思うよ。君と話していると、頭が整理されてクリアーになるし、何より楽しい」
交信が終わる頃、フェイは目を閉じたまま、彼女の最後の言葉を反芻していた。トゥースフェアリーも彼の指摘に同意し、レディ・Zの仮説に疑問を投げかけるつもりだと言っていた。彼女の声には、彼への信頼と、二人でこの異常な状況に立ち向かう決意が込められていた。
フェイは立ち上がり、パソコンの前に座った。
Googleアースやストリートビューを開き、チェシャーのキャンベル家近くの町並みをもう一度見つめながら、次の調査の糸口を探し始めた。彼女と一緒に真相に近づくため、彼は自分のできることを続けるつもりだった。
●矛盾点はさておいて、研究が進展します。レディ・Zたちは、古文書の中から、トゥースフェアリーの縁者と思われる転移者自身の発言が書き写された部分を発見したのです。そこには以下のようなことが記されていました。
「私(転移者のこと)は妻のカレン――本当は蓮(はす)なのだけど、私は彼女をカレンと呼ぶのが好きだ――とともに、ひとつの転移術を完成させた。この術を適切に用いれば、あの異常現象(おそらくストームのこと)の向こう際に、往くことができる。
しかしながら、残念なことに、私ではその術式を起動するには少々力量不足であるようだった。私は純血のアルカニストではないし、また正規の神秘学教育を受けておらず、母から聞きかじった亜流の技しか持たない。そのため、今回編み出した非常に高位な転移術を、私自身が用いるのは、大きなリスクを伴う。
私は悩んだ。そして……諦めることにした。私は今やこちら側に愛する妻がいる。彼女を捨ててゆくことはできないし、また危険にさらすつもりにもなれなかったから。
私はこの術式を示した書物を、遥か遠くに葬ることにする。私がやってきて、もはや帰れない、あの世界へ。私の愛着と、母方の血脈から、おそらくこの術式は彼女の思い出の地に辿り着き、眠り続けるだろう。それは私の故郷への郷愁であり、せめてもの慰めになるだろう」
こういったことが記されていたことが判明したのです。以上の流れを、レディ・Zが古文書の内容を読み上げるといった形式で、詳細に描写してください。
■「古文書の声」
聖パブロフ財団の研究室は、夜遅くまで明かりが灯っていた。机の上には芳賀家の古文書が広がり、解読に追われる研究員たちの疲れた顔が並んでいる。
私はその中心に立ち、新たに発見された一節を手に持っていた。トゥースフェアリーが隣に座り、期待と緊張が入り混じった瞳で私を見つめている。私は深呼吸して、古文書に記された転移者自身の言葉を、ゆっくりと読み上げ始めた。
「ここに記されているのは、転移者本人の発言よ。意訳も交じるけれど、大筋そのままのはずだから、よく聞いてね」 と私は彼女に告げ、声を整えた。
「私(転移者のことね)は妻のカレン――本当は蓮(はす)なのだけど、私は彼女をカレンと呼ぶのが好きだ――とともに、ひとつの転移術を完成させた。この術を適切に用いれば、あの異常現象(おそらくこれはストームのことよ)の向こう際に、往くことができる」
私は一瞬目を上げ、トゥースフェアリーを見た。彼女の瞳がわずかに揺れ、唇が小さく開いている。私は続けた。
「しかしながら、残念なことに、私ではその術式を起動するには少々力量不足であるようだった。私は純血のアルカニストではないし、また正規の神秘術教育を受けておらず、母から聞きかじった亜流の技しか持たない。そのため、今回編み出した非常に高位な転移術を私自身が用いるのは、大きなリスクを伴う」
部屋の中が静まり返った。隣にいたミスター・カールソンが眼鏡を直し、メモを取る手を止めた。私はさらに読み進めた。
「私は悩んだ。そして、最後には、諦めることにした。私は今やこちら側に愛する妻がいる。彼女を捨ててゆくことはできないし、また危険にさらすつもりにもなれなかったからだ」
トゥースフェアリーが小さく息を呑む音が聞こえた。私は彼女をちらりと見て、彼女の表情がひどく情緒的になっていることに気づいた。愛する者の傍にいたいという転移者の気持ちが、彼女の心に響いたのかもしれない。私は最後の部分を読み上げた。
「私はこの術式を示した書物を、遥か遠くに葬ることにする。私がやってきて、もはや帰れない、あの世界へ。私の愛着と、母方の血脈から、おそらくこの術式は彼女の思い出の地に辿り着き、眠り続けるだろう。それは私の故郷への郷愁であり、せめてもの慰めになるだろう――」
読み終えてから少し待って、私は古文書と訳文とを机に置いた。部屋の中はしばらく沈黙に包まれていた。トゥースフェアリーが最初に口を開いた。「レディ・Z……この転移者、私の縁者かもしれないのよね?」 私は頷き、「そうね。特徴が一致するし、この『母方の血脈』って言葉が気になるわ。あなたのキャンベル家と関係がある可能性が高い」と答えた。
ミス・エリザベスが手を挙げて、「でも、『あの世界』ってどこを指してるんでしょう? 彼が元いた世界に術式を隠したってことですか?」と尋ねた。私は少し考え、「おそらくね。彼がストームでこちらに飛ばされてきたなら、元の世界――フェイの世界かもしれない――に術式だけを送り返したんじゃないかしら。郷愁のために。『母の思い出の地』が具体的にどこかはわからないけど、チェシャーのキャンベル家と、関係があるかもね」と推測した。
トゥースフェアリーが急に立ち上がり、「だったら……フェイの世界のキャンベル家のどこかに、その書物があるかもしれない。それを見つければ、彼の世界にこちらから行く方法を、編み出せるかもしれないわ!」と声を弾ませた。
私は彼女を落ち着かせるように手を挙げ、「その通りかもしれないけど、焦らないで。異人本人が書いてたように、この術式は高度で危険を伴うものよ。慎重に進めないと、どんなトラブルが起こるか知れたものじゃないわ」と警告した。
彼女は少し肩を落としたが、すぐに決意を込めた目で私を見た。「わかっているわ。でも、これが私と彼を繋ぐ鍵かもしれないなら、私は、それを諦めるつもりはないの」 私は彼女の熱意に苦笑し、「ええ、そうでしょうね。じゃあ、次はフェイにこの話を伝えて、彼の世界で何か手がかりがないかを探ってもらいましょう」と提案した。
私は彼女の隣に立ち、肩を軽く叩いた。「一緒に頑張りましょう。あなたが彼に会える日を、私も信じてるから」 彼女は小さく微笑み、頷いてくれた。研究室の明かりの下で、私たちの新たな一歩が始まった。