武闘派小国の青年と完璧聖女の逆転劇 作:究極の闇に焼かれた男
我々の住む世界には、魔物の脅威から国を守護する【聖女】と呼ばれる存在がいた。
【聖女】とは、聖なる力を持ち、魔を払い地を清める役割を持つ女性達の総称。 聖女は存在次第で国の治安は左右されると言われており、それ故に各国家には必ず1人以上の聖女が必要とされる特別な存在である。
そんな聖女の活躍によって守られる国々の一つ【ジルトニア王国】には、歴代最高と称される程の力を持つ1人の聖女がいた。 彼女の名前を【フィリア・アデナウアー】と言い、凡ゆる分野において有能で、その活躍は目を見張るものがあるのだが、彼女には二つだけ欠点が存在していた。
聖女としては歴代最高である彼女の持つ欠点、それは有能が故に他人の仕事を奪ってしまう事と常に無表情で愛想が無いということである。
これは一重に彼女の家庭内環境が原因の一つと言える。 彼女の実家である【アデナウアー家】は、ジルトニア王国にて数多くの聖女を輩出した魔法の素質がある家系として大陸内でも有名な家柄として知られるが、そんなアデナウアー家の一員である筈の彼女は両親から冷遇されて育ってきた。
彼女は両親の愛を求めて必死に頑張り続けてきたが、それでも両親は彼女に対して愛情を向ける事は一切なく、寧ろ彼女の存在を疎ましく感じていたのだ。
劣悪な家庭環境で育ってきた彼女の唯一の心の拠り所、それは自身の妹である【ミア・アデナウアー】と共に過ごす時間だけだった。
妹であるミアの存在が居たからこそ、フィリアはどんな苦境に立たされても最後まで諦めずに聖女としての役割を全うし続けることが出来たのだ。
しかし、そんなフィリアの頑張りは婚約者である第二王子と両親によって隣国である【パルナコルタ王国】へと売られる形で無意味と化してしまうのだった。
これが本来の物語の世界線で辿るフィリア・アデナウアーの物語の序章である。 だが、これから語られるのは本来の歴史と異なる世界線の一つ。
もしも、両親に冷遇されていた彼女に妹以外で心の拠り所とする人物が居たとしたら、彼女はどの様な運命を辿り物語を紡いで行くのか。 これは、そんな世界線で描かれる事となる新たな物語である。
──────────
「──ねぇ、エド」
「何だ、フィリア?」
「どうしてエドは、私に優しくしてくれるの?」
ジルトニア王国の近隣に位置する森の中、湖の畔で横倒しとなった木に腰掛ける少女は自身の隣に腰掛ける少年に対し、ふと思ったことを問い掛けていた。
少女からの問いかけに少年は少し考える素振りを見せると、やがて意を決した様子で答えはじめる。
「俺がフィリアに優しくするのに大した理由なんて無いさ。 敢えて言うのなら、俺がフィリアの友達で、何よりフィリアと過ごす時間が好きだからだ。 それに友達に優しく接するのに一々理由なんて必要無いだろ」
少年は屈託のない笑顔で答えると、その言葉を聞いた少女は心に微かな温もりを感じ取った。
少女にとって少年と2人で過ごす時間はかけがえのないもので、妹以外で唯一心が温まるものだった。 普段は無表情で愛想が無いと言われる彼女だが、少年と共に過ごす時だけ表情が微かに綻ぶことがある事に彼女自身気付いていなかった。
穏やかで平和な時間を過ごす2人は、この時間がいつまでも続くと信じていた。 だが、そんな2人の時間は少女が聖女となり第二王子の婚約者となった日を境に終わりを告げた。
少女は聖女として王子の婚約者の名に恥じぬ様に自身の役割を全うするべく、身を粉にして国に尽くす日々を送り始め、少年は聖女となった少女と会えなくなると、やがて己の道を歩み始めるのだった。
数年後…
エドワードside
「──随分と懐かしい夢を見たな」
目を覚ますと雲一つない夜空が目に入った。
俺は現在、ジルトニア王国とパルナコルタ王国の国境近くに在る山岳地帯の一角に設置した野営地に居た。 何故こんな所に居るのかというと、数日前に掴んだ不穏な情報の真偽を確かめるべく国境近くへと訪れる必要があったからである。
そんな俺は先程まで見ていた夢の内容を思い出す。 幼い頃の自分が最も幸せを感じられていた大切な少女と過ごした日々の記憶。 あの頃の俺は若く、好奇心旺盛で、若干向う見ずな生き方をしていた。 そんな俺はジルトニア王国で一時期暮らしていた際に、偶然にも彼女と出会い、気が付くと共に同じ時間を過ごしていた。
俺にとって彼女と過ごす時間は愛おしく、何ものにも変えることの出来ない日々だった。
けれど、彼女はジルトニア王国の聖女となり、それに加えて第二王子の婚約者となってからは会えなくなってしまい、気が付くと俺は祖国で自身の役割を全うする様になっていた。
「彼女は元気にしているだろうか………ん?」
自然と零していた言葉に俺は自嘲気味な笑みを浮かべていると、ふと風に乗って何処からか喧騒が聞こえて来た。
「(この喧騒は一体……っ!?)おいおい、マジかよ!?」
風に乗って聞こえてきた喧騒が気になり周囲を見回していると、テントから程近い場所から人々の悲鳴や怒声、剣戟音が響いているのが分かった俺は、近くに立て掛けていた長剣を手に音の発生源へと向けて走り出していた。
──────────
その日の夜、ある目的でパルナコルタ王国の国境を目指していたジルトニア王国の一団は、突如として現れた正体不明の勢力による襲撃を受けていた。 謎の襲撃者による奇襲を前にジルトニア王国の一団は手も足も出ず次々と殺されていき、瞬く間に真っ赤な血溜まりが地面に広がる。
「これで護衛は最後……残るは聖女のみか」
襲撃者である無精髭を生やした男は、とある一台の馬車へと視線を向ける。
(元とは言え一国の聖女を務めていた女を殺せと依頼された時は貧乏クジを引いたと思ったが、こうもあっさりと護衛を始末できるとは………まあ、お陰で楽に片付けられた上に、前払いとして100万以上も頂いたからには依頼はきっちり全うするとしよう)
内心そう呟く男は馬車内に居るであろう標的を始末する為、返り血で染まった大剣を肩に担ぎながら、馬車に近付こうと歩き出そうとした。
その時だった。
「──そこまでだ」
背後から発せられた声に男は足を止めると、声の主の姿を確かめるべく振り返る。
「誰だ貴様?」
男が背後に振り返ると、そこには一振の長剣を手にした黒髪紫眼の青年ことエドワードが男に切っ先を向けながら立っていた。
「ただの通りすがりの武芸者とでも名乗っておこう。 それより一つ聞くが、ここで寝てる奴等を手に掛けたのはお前の仕業で間違いないか?」
「だとしたらどうする?」
「何故こんな事をしたのか聞かせてもらおうか」
「ハッ! 知りたければ、この俺様を倒してからにして貰おうか!!」
エドワードの言葉にそう返した男は、肩に担いでいた大剣を構えると地面を蹴って駆け出しエドワードに向けて上段からの切り下ろしを放つ。
男の振るう一撃に対しエドワードは長剣を斜めに構え大剣の刃を滑らせるようにして受け流し、カウンターとして長剣の刃を橫薙に振り抜く。
大剣による一撃を受け流された上に反撃として刃を振るわれた男は咄嗟にバックステップをして回避する。
「ほぉ…攻撃を受け流すのが随分と上手いな。 危うく俺の腹が切り裂かれるところだった。 それに、その太刀筋からして貴様は"フーガ王国"の者だな」
【フーガ王国】とは、大陸の東側に位置する小国で、真正面から大国を相手に出来る実力を有していると言わ占める程の武闘派として名を馳せている。 大陸では珍しい聖女の居ない国の一つで、他国と違い魔物の脅威に晒されているものの、武闘派と言われる通り国民の1人1人が何かしらの武芸を嗜んでいる為、魔物に襲われたとしても其の被害は限りなく零に近く、別名【修羅の国】とも呼ばれている。
「貴様が本当にフーガ王国の者だとしたら、流石の俺様でも退かざるを得ない。 …が、先方から多額の報酬を前金として頂いた以上、依頼を果たすのが俺様の流儀でもあるんでな。 そういう事だから────全力で殺らせて貰うぜ!」
そう言い男は全身を駆け巡る魔力を滾らせると手にした大剣を構えた次の瞬間、男は一瞬の内にエドワードへと肉薄し大剣を逆袈裟に振るう。
男の大剣による一撃が徐々に迫る中、エドワードは手にした長剣を腰に差してある鞘へと納刀すると刃を少し抜きながら構える。
「フゥー……」
小さく息を吹きながら構えるエドワードへと男の大剣が直撃すると思われた、その既の所でエドワードは鞘から長剣を勢い良く抜刀しながら大剣を手にする男の手に向けて素早く刃を振り抜く。
「斬ッ!!」
「何だとっ!?」
気合一閃と共に振るわれた長剣の刃は一陣の風の如く抜き放たれ、男の大剣による一撃をキャンセルすると同時に片腕を切り飛ばした。 片腕を切り飛ばされた男は赤い血飛沫を上げながら後退ると、大剣を握っていた片腕が宙を舞いながら重力に従って地面へと突き刺さる様にして落ちる。
「うがぁああぁあああぁぁあぁあああっ」
片腕を切り飛ばされた男は切断面から血飛沫が噴き出すと、苦痛の叫びを上げながら地面に膝を着いて蹲る。 男の片腕を切り飛ばしたエドワードは長剣に付いた血を払いながら鞘に納刀する。
「で、全力で殺るとか言ってたけど、これで終わりか?」
「ッ、貴様ッ…よくも俺様の片腕を!!」
「先に仕掛けたのはお前の方だろ? 俺はただ自分の身を守ったに過ぎない」
「殺してやる! 貴様だけは絶対に俺様の手で殺してやる!」
「生憎と俺は殺される趣味はないんでな。 とりあえず、何でこんな事を仕出かしたのか大人しく吐いてもらおうか」
男の首筋に刃を添えながらエドワードが告げると、男は憎悪に歪んだ表情で睨み返す。
「それで、どうしてジルトニア王国の一団を襲ったのは何故だ? お前に依頼を出した奴は何処の誰か答えろ。 でないと、俺の手で引導を渡してやる」
殺気を込めながら言い放つも、殺気を込めた眼差しで睨み返してくるばかりの男に、エドワードは「聞いた俺が馬鹿だった」と吐くと、男の首筋に添えていた長剣を振り上げようとした。 次の瞬間、エドワードと男の真上に突如として魔法陣が出現し、極太の魔力光が2人を呑み込もうと降り注いだ。
「…っ、チッ!?」
咄嗟に真横へとエドワードが飛び退くと、極太の魔力光は男の全身を呑み込んでいき、男は断末魔の叫びを上げる余裕も無く蒸発していく。
「クソッ、やられた。 まさか遠隔から魔法陣による攻撃を仕掛けてくるとは……あの男は最初から捨て石だったと考えるべきか」
先程まで男がいた場所に視線を向けると、そこには半径10mにも及ぶ大穴が開いており、エドワードはもしも直撃を受けていたらひとたまりもなかった事に気付き、冷や汗が流れるのを感じた。
(結局あの男に殺しを頼んだ依頼主の正体は分からなかったが、まあ馬車の中に居るであろう誰かさんは守れたから良しとするべきか……)
内心そう思いながら、エドワードは男が近付こうとしていた馬車へと視線を向ける。 馬車の扉には何故か南京錠が付けられており、まるで外に出る事を許されないかの如く閉められていた。
「……念の為に誰が乗ってるのか確認しとくか」
誰に言うでもなく呟いたエドワードは馬車に近付くと南京錠へと目掛けて長剣を振るう。 風を切る音とともに両断された南京錠がゴトッと音を立てながら地面に落ちると、長剣を鞘に納刀したエドワードは馬車の扉を慎重に開ける。
ゆっくり扉を開けると馬車の中には美しい容姿をした1人の女性が座席に腰掛けながら静かに眠っており、女性の姿を目にしたエドワードは思わず息を飲んでいた。
「っ……何で……どうして君がここに……!?」
その女性の顔にエドワードは見覚えが……否、彼女のことをエドワードはよく知っていた。
「…フィリア……なのか……?」
エドワードが目を見開きながら驚愕の声を上げると、その声によって目を覚ましたのか馬車の中に居た女性は瞼を開けると、静かにエドワードへと視線を向ける。
「……エド?」
エドワードの問い掛けに馬車内に居た女性、【フィリア・アデナウアー】は彼の愛称を呼ぶ事で答えるのだった。
──────────
フィリアside
過去の事を振り返ると必ず頭の中を過ぎるのは、短い間だが共に同じ時間を過ごした大切な少年との思い出である。
彼との出会い、それは私が聖女としての徳を積む為に両親によって真冬の雪山に1人取り残された時の事で、寒さに震えながら覚束無い足取りで歩いていた私は力尽きるようにして地面に倒れ込みそうになった瞬間、どこからともなく現れた彼に抱きとめられる形で出会った。
『おい、大丈夫か! しっかりするんだ!』
そう叫ぶ彼の言葉を耳にしながら私の意識は途絶えた。
次に目が覚めた時、私の視界に最初に映ったのは雪山の洞窟内で横になっている自分と火を炊いている彼の姿だった。
『目が覚めたか。 良かった、あのままだと下手をしなくても死んでたぞ? まあ理由は敢えて聞かないけど、一先ずは自己紹介からするとしよう。 俺の名前はエドワード、訳あって旅をしている者だ。 それで君の名前を教えてくれるかな?』
そう言って彼、エドワードは私に対して優しく問い掛けてくるのだった。
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(……あ……私、いつの間に寝てたんだろう?)
ふと目を覚ましたフィリアが瞼を開けると、そこは見慣れた家の私室の天井ではなくパルナコルタ王国行きである馬車の中だった。
フィリア・アデナウアーは今から少し前までジルトニア王国の聖女としての役割に殉じていた。 しかし、自身の婚約者であるジルトニア王国の第二王子【ユリウス・ジルトニア】から一方的に婚約破棄を言い渡された挙句、両親と共謀したユリウスの卑劣な策によりパルナコルタ王国へと売り飛ばされる事となったのだ。
国の為に、そして何よりも両親に愛して貰えるように聖女としての役割を頑張り続けてきた彼女だったが、思わぬ形で裏切られた彼女は内心失意のどん底に陥っていた。
多額の金で買われたからには奴隷のような待遇が待ち受けていると半ば諦めにも似た感情を抱きながら覚悟を決めていたフィリアだったが、その運命は予想だにしない形で変わる事となった。
「…フィリア……なのか……?」
ふと聞こえてきた声にフィリアは馬車の扉の方に視線を向けると、そこには目を見開きながら驚愕の表情を浮かべている1人の青年が視線を向けていた。
その青年の顔を見たフィリアは、そっと静かな声で青年の名を口にしていた。
「……エド?」
青年、エドワードの愛称を口にしながら思いもよらなかった再会を果たしたフィリアの瞳に驚きの色が宿るのだった。
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これは本来の歴史とは異なる道筋を辿る1人の聖女と、大陸中に名を馳せる武闘派小国の将である青年が紡ぐ"もしも"の世界線を描いた物語である。
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