厄介強火ハピエン厨一族   作:ばぶ美

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主人公と登場人物がラブする展開は決してないとここに誓います。

感想や評価、誤字報告とてもありがたいです。執筆の励みになっています。



第三話 いざ無限列車へ、ですわ!

 

腹の痛みを忘れてしまいそうになるほど、凄まじいやり合いだった。

 

 

夜の闇の中であることを差し引いても、到底目で追うことなんてできない。しかし、認めたくないが───かろうじて、煉獄さんが劣勢であることだけは、理解できてしまった。

 

 

 

俺はなんて無力なんだ。

 

 

 

煉獄さんがいなければ、下弦の壱を仕留めることはできなかった。乗客全員の命を守れたのも、伊之助に善逸、禰豆子の協力はもちろんのこと、柱である煉獄さんの果たした役割は非常に大きい。

 

 

何より、俺だけではこの鬼に瞬殺されていた。

 

煉獄さんに救ってもらった命だ。

 

 

それなのに俺は、地面に這いつくばり見ているだけ。

 

すぐ目の前にいるのに。

 

遠い。

 

手が届かない。

 

俺は────

 

 

 

 

 

 

 

「おーーーーほっほっほ!あなた達、ここが誰の担当区域かご存知の上での狼藉かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

ここのところ毎日、嫌という程耳にしていた高笑いが辺りに響いた。

 

 

煉獄さんと上弦の参ですら動きを止めて、突然汽車の上に現れた彼女に顔を向けている。

 

 

月の光を背に受けて、いつものように彼女は名乗った。

 

 

 

「私は泥柱、団円幸代!ごきげんよう、上弦の参───」

 

 

「貴方の相手は、私でしてよ?」

 

 

 

 

 

 

 

薔薇の刺繍が入った羽織を靡かせ、彼女は汽車からひょいと飛び降りた。

 

戦いの邪魔をされた上弦の参───猗窩座と名乗っていた───は、その不満を隠すことなく、シラケた表情で彼女を値踏みしている。

 

「……突然現れて戯言を抜かすとは、おかしな女だ。お前のような弱い女に用はない。さっさと消えろ」

「あら、随分なものいいですこと。弱いかどうかは今から存分に味わわせてあげますわよ」

 

彼女には散々してやられたが、剣を抜いているところは一度も見たことがない。柱である以上相当な実力者であることは確かだろうが、相手は炎柱の煉獄さんを圧倒した鬼だ。

 

「あのババァ、大丈夫なのかよ!」

 

訓練に復帰して以来、俺同様あの人にこってり搾られた伊之助も、彼女を心配しているようだった。

 

 

俺や禰豆子に酷いことを言っていたのは、やはり許せない。しかし、彼女は俺たちをバカにしつつも技術を与えてくれた。恩を感じていないわけではないのだ。

 

 

「……幸代。奴は強いぞ」

「でしょうね。貴方が押されていたんですもの」

 

 

煉獄さんが構えをといたと同時に、彼女が抜刀する。黒みがかった、茶色の刀身。泥柱の名に似合った、泥のような色だ。

 

「ふざけるなよ杏寿郎……!まだ戦いは───」

 

 

 

 

 

気づいた時には、猗窩座の腕が吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

血飛沫を置き去りにして、猗窩座は後ろへ下がる。誰が何をしたのか、答えは分かっているが納得ができない。

 

高速で動いていたわけではなかった。

 

視界の外に移動したわけでもなかった。

 

 

ただ、誰もが彼女を捉えていなかった。

 

 

 

 

 

猗窩座の腕はすぐに再生されたが、それに絶望することも忘れていた。

 

闇の中でしか生きられない、強大で哀れな鬼。今こちら側にいるあの人は、そんな鬼よりも不気味で、得体が知れない。

 

謎を解明したいという好奇心にも近い感情が、絶望よりも強かったのだ。

 

「おい、女。団円と言ったか。お前は、何だ」

「先程言った通りですわ。鬼殺隊の泥柱、貴方のお相手を務めるものですの」

 

こちらから柱二人の顔は見えないが、猗窩座の表情はしっかりと見えている。値踏みするような目線を止め、何かを推量るように彼女を見つめている。彼女を警戒しているのだ。

 

「……お前からは杏寿郎のような練り上げられた闘気を感じない。何をした?そんな人間が、どうやって俺の腕を斬った?」

「さあ?何を仰りたいのかよく分かりませんわ。ごめんあそばせ」

 

 

 

また、彼女は姿を消した。そのことも、猗窩座が動いたことでしか認識できない。傷を増やしては再生していく猗窩座を見て、遅れて彼女が刀を振ったのだとなんとか理解する。

 

この感覚を、俺は知っている。

 

初めて、あの人に会った時と同じだ。

 

 

あの不快感を、ヤツは今感じているんだ。

 

 

あの人は絶えず攻撃を続けていたようだが、猗窩座が距離をとりまた戦況を停止させる。その顔から、煉獄さんを相手にしていた時の余裕のある笑みは既に消え去っていた。

 

「気分が悪い!おい、お前!杏寿郎と代われ!代わらぬのなら後ろの奴らを皆殺しにするぞ!!」

「気分が悪いのは私の方ですの!あなた手を抜いていますわね?」

 

 

 

 

 

 

「オイ、なんだよあのババァ!なんか、なんかすげぇ!」

 

猗窩座から放たれる凄まじい殺気を前にしても、彼女はいつもの振る舞いを崩さない。それどころか鬼を相手に挑発までしている。煉獄さんは消耗しているとはいえ、こちらには柱が二人。そしてじきに日が昇る。

 

 

 

俺は地に伏しているというのに、勝利の二文字を浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

 

「じきに日が昇り、貴方は灰になり消えるでしょう……ですがそんなこと許しませんわ!貴方は!私……にっ!首を斬られて!死ぬんです、のっ!」

 

 

「ババァーー!!ワガママ言ってねぇでさっさと殺せーー!!」

「おい、伊之助!前に出すぎだ!」

 

猗窩座の動きだけで戦局を判断するのにも慣れてきた頃、興奮した伊之助が前へ出た。

 

あの人は煉獄さんよりも動きが少し遅いのか、俺たちでも少しだけ猗窩座の動きを捉えられていたのだ。

 

 

だから分かった。猗窩座がこちらに視線を向けたことが。

 

 

「───伊之助っ!!」

 

 

 

 

 

名前を呼び終える頃には、既に拳は突き出されていて、俺の視界は───

 

 

 

 

 

「させないさ──!」

 

 

 

 

 

煉獄さんの背中で、閉ざされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さっむいですわね!!)

 

 

無限列車編───作戦は単純である。

 

 

炭治郎さんたちが乗車した駅から、進行方向の少し先で待機し、汽車に飛び乗る。後は猗窩座が現れるまでひたすら気配を消して、身を隠し続ける。猗窩座が現れたら、機を見て杏寿郎さんと相手を代わり、女に生まれたことに感謝しながら時間を稼ぐ。

 

 

 

以上だ。

 

 

 

原典から移動距離を予測、計算し、待ち伏せるという案もあったが……不確定要素が多すぎたため没にした。

 

 

 

 

単純に勝るものなどないのだ。

 

 

 

 

という訳で今の私は汽車の最後尾で風に髪をなびかせながらじっとしている。

 

いくら気配が薄いとはいえ、触れられてしまえば私の存在はバレる。無限列車と一体化した魘夢にも、こんな場所にいれば不審に思われ見つかるだろう。つまり私は、魘夢が汽車と一体化する前に車内に侵入し、一般人として寝たフリをしながら事が終わるのを待たねばならないのだ。

 

私が助太刀に入れば、もちろん無限列車乗客の被害は小さくなるだろう。

 

しかし、介入する必要のない───死者の出ない展開にまで手を出すつもりはない。

 

出しゃばっていいことなんてないと、一族の歴史が証明している。私の結末だって、きっと───

 

 

 

さて。

 

そろそろ皆が眠りについたころだろうか。なんとなく気まずくて買っていた切符を胸元にしまい、私は慎重に窓から車内へ侵入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(失敗した、失敗した!!)

 

猗窩座が女を殺さないとたかをくくって、夜明けの兆しを感じて、気を抜いていた!

 

接触の瞬間まで捉えられない私を警戒しながら、他所へ意識を向ける余裕があったなんて。私はいつもそうだ、カナエの時も、作戦通りにことが運んだからと気を抜いていたんだ。

 

 

捉えられていないはずの私を避けて、彼は伊之助さんたちの元へ跳んだ。私の速さでは追いつけない。

 

 

 

 

杏寿郎さんなら、追いつけてしまう。

 

 

 

 

伊之助さんが命を落とすのも、杏寿郎さんが原典通りに退場してしまうのも、私は認められない。

 

 

 

視界が、書物をめくるようにゆっくりになる。

 

 

 

伊之助さんの前に立ちはだかった杏寿郎さんと、そこに重なった猗窩座───

 

 

 

「させないさ──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、また私は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははっ……!杏寿郎ォ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえてきたのは、猗窩座の笑い声だった。

 

 

 

 

 

間に合わないと分かっていながらも咄嗟に動いてしまった勢いのまま、私は猗窩座の首に斬りかかった。

 

 

「がっ!邪魔をするな!!」

 

 

寸前で避けられ、致命傷にはいたらなかったようだ。すかさず畳みかけるが、持ち前の速さで彼は視界から消えた。

 

 

 

 

 

 

「逃げるなーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

そうか。

 

 

 

やっと、待ち焦がれていた日の出だ。

 

 

 

猗窩座を追いかけることはせず、逸る鼓動を嫌という程感じながら振り向いた。

 

 

 

 

 

 

杏寿郎さんは───

 

 

 

 

 

 

 

 

無事だ。

 

生きている。

 

 

 

 

 

全員、生きてる。

 

 

 

 

 

 

 

私は無限列車編を、乗り越えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊之助の前に庇って出た煉獄さんは、瞬時に刀を構え猗窩座の首から脇腹にかけてを掻っ斬った。微かによろめいた猗窩座に、すかさず後ろからあの人がトドメを刺そうとする。

 

───倒せる!

 

柱二人が力を合わせれば、上弦の鬼であってもここまで追い詰めることができるのか!

 

このまま挟撃で首を落とせると思った、その時には、猗窩座は俺たちに背を向け森へ向かっていた。

 

逃げているんだ、日光から。俺たちは慣れない闇の中で戦っているのに、あいつらは逃げるのか。

 

 

「逃げるなーッ!!!」

 

 

腹の傷などとうに忘れていて、俺はめいいっぱい腹から声を出し怒った。卑怯者だと、逃げるのかと、声を荒らげて。

 

 

 

 

日の光が眩しくて、目が眩む。猗窩座の姿はとうに見えなくなっていた。はっとして辺りを見渡すと、刀を鞘に収める煉獄さんと、それにじゃれつく伊之助。森の近くにはあの人が───いるが、太陽光の影になっていてよく見えなかった。

 

「立てるか、竈門少年。目を覚まして直ぐに鎹鴉を寄越した。じきに隠の者たちが来てくれるだろう」

 

差し伸べられた手をとり、立ち上がる。動かない地面が、なんだか随分久しぶりのように感じた。

 

 

 

そうか。俺は、俺たちは勝ったんだ。

 

 

 

 

「───竈門少年」

「煉獄さん?」

「俺は、君の妹を信じる」

「え───」

 

 

突然の言葉だった。

 

 

「鬼殺隊の一員として認める」

 

禰豆子が身を呈して乗客を守っていたのだと、煉獄さんは教えてくれた。俺の妹は、人間の味方だと。

 

禰豆子を否定していた柱が、禰豆子を認めてくれた。それがとても嬉しくて、煉獄さんの言葉が暖かくて、俺は幼子のように泣いてしまった。

 

「私は認めませんわよ」

 

 

横から割り込んできた嫌味な声が、俺の感動を邪魔する。

 

 

「私はあの鬼が人を守っている所なんて見ていませんし。貴方もずっと毛虫のように這いつくばっていましたし?」

「む、むきぃ……!!……その通りです……」

「はははっ!幸代、あまりいじめてやるな。竈門少年も気にするなよ。幸代は昔から、よくこういうことを言う」

 

口ぶりからして、この二人は昔馴染みなのだろうか。

 

乗客の様子を確認しに行くために煉獄さんに支えられて移動している時も、二人の距離は近いように見えた。

 

煉獄さんほどの器の大きさだと、彼女すらも受けとめられるのか。

 

 

戦闘中はあんなにも心強い人だったのに、ひとたび口を開けばただの嫌味な人になってしまう。

 

「そういえば……伊之助さん。少しこちらへ」

「あ?なんだよ」

 

ふと、といった様子で、彼女は伊之助に手招きをした。煉獄さんに助けられてからずっと興奮している伊之助は、素直にそれに応じた。

 

 

そして吹っ飛んだ。

 

 

「貴方、私のことを何と呼んでいたか……覚えていまして?」

「幸代、もう聞いていないぞ!」

「存じておりますわ。貴方は静かになさっていて。声がでかいんですのよ!」

 

善逸にしていたものよりも何倍も強い力で、伊之助の頭を弾いたのだ。これで死者が一人出たりは……しないだろうか。石頭には自信があるが、冷や汗が出る。

 

倒れた伊之助の頭を鷲掴み引きずりながら、何事もなかったかのように彼女は歩みを再開させた。

 

 

 

「禰豆子!良かった、無事だったんだな!」

「むー!」

「炭治郎ぉ!!伊之す……ヒッ!」

「善逸も!善逸が禰豆子を日陰に連れていってくれたのか?ありがとう!二人とも無事で、本当に良かった……い、いたたたた」

 

日陰で善逸と並んでいた禰豆子を見て安心したのか、途端に腹の傷が傷んだ。乗客にも、俺のように怪我をしている人が何人もいる。

 

「うむ!ちょうどあちらに隠が見える。俺と幸代は軽傷だからこのまま直接歩いて帰る。君達は彼らに手当てしてもらいなさい」

「はいぃ……」

「ちょっと!私は乗り物を手配しますわよ!一体どこまで来てると思ってるんですの!」

「それなら俺も乗せてくれ!久しぶりに、君の父上にご挨拶もしたいしな!……そういえば」

 

腹が痛くて倒れ込んでいる俺の顔を覗き込むようにしながら、煉獄さんは大きな声を出した。そんなわけはないが、今はその声の振動ですら傷口を刺激されているような気持ちになる。

 

「思い出したことがある。歴代の炎柱が残した手記を、父がよく読んでいた。君が言っていたヒノカミ神楽について何か、記されているかもしれない。今は痛みで朦朧としているだろうから、後日、俺の生家───煉獄家に来るといい」

「はい……ありがとう……ございます……」

 

 

 

大きな目を優しく細めて、俺に笑いかけてくれる煉獄さん。なんだかそれが、とても尊いものに思えた。

 





気配を消して不意打ちで斬りかかれるため、雑魚相手だと無双できるが上弦相手になるとダメダメな主人公。凹んでいても、縦巻きロールに誓って挫けることはないのだ。
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