宇宙を渡る鋼拳   作:んmkp

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天才の箱舟

 星穹列車の旅路は、開拓の旅路。

 未知を探求し、突き抜け、新たな世界へとその一歩を踏み出していく旅路だ。

 

 しかし、如何に開拓団といえども全ての繋がりを過去とする訳ではない。

 

 その一つ。宇宙ステーション“ヘルタ”の存在があった。

 

 天才クラブ#83を拝命する、ミス・ヘルタの名を冠する宇宙ステーションは星穹列車との互助協定があり、ビジネスライクの付き合いがある。

 その繋がりを示す様に、この宇宙ステーションには巨大な駅が存在していた。

 ここで、星穹列車は補給であったり整備であったりを行う。

 宇宙に名を刻むヘルタの威光によって、安全性が確保された宇宙ステーションは、

 

 現在、反物質レギオンの襲撃を受けていた。

 

 

 

 

 

 

「――――どう見る」

 

 白黒市松模様のボードの上に並んだ合計で三十二の白と黒の駒を見下ろしながら、ヴェルドは問う。

 ボードを挟んで相対するのは、スログである。

 現在、列車に居るのはこの二人と、それから車掌のパムのみ。姫子、丹恒、なのかの三人は外だ。

 

「ふむ……私としては、今回の襲撃は解せないという他ない」

 

 応えながら、スログは自陣である白の駒を一つ動かした。

 

「反物質レギオンが襲撃を懸けるだけの理由が、この宇宙ステーションにあるのか。そこが肝要じゃないか?」

「そう見るのが自然か。少なくとも、絶滅大君が来ている様子はない。もし仮に来ていたのなら、如何に天才クラブのメンバーが居てもただでは済まないだろうからな」

「それは、この場に居合わせた我々にも言える事だろうな」

 

 白と黒の駒が一定のペースで動き続ける。

 チェスクロックは用いていない。公式戦でもなく、そもそも二人の指し手には長考の時間がないからだ。

 

「となれば、どう見るべきか」

「少なくとも、私たちの立場は変わらないだろう。列車を守り、彼らの帰りを待つ。例え、()()()()()()辿()()()()

「……そうだな。チェック」

「ふむ」

 

 ヴェルドの手に、少しの思考を挟んで手を動かすスログ。

 程なくして、盤面の駒が半分以下になった所で、投了となった。

 

「まだまだ、ヴェルドには勝てないか」

「こちらには一日の長があるからな。とはいえ、そのアドバンテージも最早在って無いようなものだが」

「先手を譲られて勝てていないのだから、まだまだ足りないだろう」

 

 一手差で、ヴェルドの勝ち。盤面の流れを自分有利に進める手練手管が流石であった。

 暢気なものだが、備えはしている。実際、少数精鋭の様な形となっている星穹列車のメンバーは何れも粒ぞろい。

 

「緊急事態じゃ!」

 

 ラウンジへと駆け込んできたのは、パム。その小さい手足を振り回して、もう一局始めようとしていた野郎たちの前へと突っ込んでくる。

 

「終末獣が確認された!既に、宇宙ステーションを襲っておるようじゃ!」

「落とさずとも、相応の出血を此処に強いるつもりらしいな」

 

 ヴェルドは顎を撫でた。

 反物質レギオンが有する一種の生態兵器であり、その巨体と戦闘力は生半可な武力では止める事も難しい。寧ろ、焼け石に水だ。

 

「さて、どうするか。宇宙ステーションには守備隊もいるが、既にレギオンの襲撃を受けている以上対応は難しいだろう」

「かといって、姫子たちに対応させる事も難しい、か」

「そうだな。さて、どうする。俺か、お前か。対応すれば、宇宙ステーションに借りも作れる」

「ならば、私だろう」

「その心は?」

「そろそろ、私も暴れたいと思っていた所だからだ」

「ふっ…………なら、今回は血気盛んな若者に譲るとしようか」

 

 穏やかな笑みと共に手を振ったヴェルドに促され、スログは座り心地の良い座席から立ち上がった。

 

「パム、少し出てくるぞ」

「……気を付けるんじゃぞ、スログ」

「分かっている」

 

 鋼拳、出陣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終末獣。反物質レギオンが生み出した、幾万もの死者の恨みと悲しみ、怨念の塊が形を得た様な代物。獣と付いているが生物的な部分はその挙動などばかりで、生き物としての特性はほぼほぼ無い。

 ただ、暴れるのみ。壊して、壊して、壊して、壊して。生きとし生きる全てを壊滅させるのみだ。

 

 だがしかし、人々もまた蹂躙されるだけの存在ではない。

 

「――――コメット」

――――!?

 

 巨体が、揺れる。ともすれば、数メートルとはいえ吹っ飛ばされた。

 取り付いていた宇宙ステーションの一部から宇宙へと押し退けられる形となった終末獣は、自身を押し飛ばした何者かを見やる。

 青。印象としてはそれが一番に来る。

 

「さて、やるとしようか」

 

 細かなステップを刻みながら、スログは己の武器である拳を握った。

 彼の得物は、ナックルガード。鋭い爪が三つ設けられ、威力と殺傷力を上げた中々に殺意の高い代物だ。

 終末獣は、命知らずの登場に、しかし特別な反応は示さない。

 彼、或いは彼女にとって、目の前の全ては壊滅させるだけの存在でしかないからだ。

 

 一方で、宇宙ステーション側はどよめきが起きていた。

 

「な、何者だ!?」

「味方、なのか?」

 

 防衛課の職員たちが主な出所だ。

 彼らも訓練をし、装備を整えているが、それでもどうしても一騎当千の猛者には成れない。

 そこに現れた、青年。拳一発で終末獣の巨体を押し退ける事が出来るのだから、その実力は感激を越えて畏怖を覚えさせるものだ。

 もっとも、この場に乱入したスログにとっては寧ろ防衛課の職員は邪魔と言う他ない。

 

「星穹列車所属のナナシビトだ。この場は請け負った、他の救援に向かってくれ」

「し、しかし!一人では…………!」

「行け。私はこれから、錆落としの時間なのでな」

 

 会話はそれまで。

 宇宙を羽搏き、再び取り付いてきた終末獣に対して、スログは前へとステップイン。

 当然、コレを終末獣は右腕を振るう事で叩き潰さんとする。

 

「――――バレット」

 

 だが、その右腕が威力を発揮する前に数発の打撃が叩き込まれて、阻まれていた。

 

 スログには、二種類の打撃を使い分けていた。

 

 一つは、瞬間的に複数回の拳を放つ“バレット”。その速度は弾丸。

 もう一つは、ストレートやジョルトで放つ渾身の強打“コメット”。破壊力は彗星の直撃レベル。

 

 この二種類の打撃を彼は左右の拳どちらからでも放てる。更に、体勢も立ち位置も関係なく十全な破壊力を発揮した。

 

「――――コメット」

――――!?

 

 終末獣の頭部が勢いよく上へと跳ね上げられた。

 右腕の攻撃を止められて怯んだその隙をつかれ、跳躍しながらのアッパーカットが強かに襲い掛かって来たからだ。

 その空中で、スログは左拳を振り被る。

 

「――――コメット」

 

 前に振り出した足を後ろへと振り抜きながらの、左ストレート。青白いエネルギーを纏った拳が着弾し、星の衝撃が終末獣を襲う。

 巨体がもんどりうって倒れる様を視認し、防衛課の職員は指示を飛ばす。

 

「他所に行くぞ。ここは、彼の任せよう!」

「ッ、良いんですか隊長!?援護は――――」

「馬鹿ッ!アレを見ろ!あんなのに下手な援護はかえって邪魔になる!割り込めるとしたら、それこそアーランさん位のもんだ!とにかく、他所の援護に行くぞ!一人でも多く救うんだ!」

 

 その言葉を皮切りに、彼らはその場を後にする。

 自然と、終末獣のヘイトもスログに向けられるのだが、それは彼にとっては願ったり叶ったり。

 

「脆いな」

 

 随分と楽に砕ける。振るう左拳によって亀裂を走らせ、粉砕される終末獣の外骨格を見ながら、スログはしかし一切の油断なく淡々と攻撃を捌き、カウンターをねじ込んでいた。

 戦闘能力の差、というよりも知力の差だろう。

 終末獣は、デカい。その上、ただ暴れるだけでも手に負えない程の力を有している。

 しかしその一方で、その知能は壊滅には必要ないと封じられ、或いは切り捨てられてしまっていた。

 結果として、スログ一人に押し留められる始末。もし仮に、この場を任されたのが彼でなく他の星穹列車の面々であったとしても相応の時間稼ぎは出来ただろう。

 

 それは偏に、考える力、そして学ぶ力がないから。

 

 ただ、終末獣も勝る部分はある。

 

「む……」

 

 追撃を狙っていたスログは跳び下がる。

 彼が先程まで立っていた地点に、弾着。

 スログが横槍の飛んできた方を見れば、数体のヴォイドレンジャーが集まっているではないか。

 数の利。組織と個人の差だ。

 本来ならば、終末獣に押し付けられるべき立場なのだが、如何せんスログの実力は高い。最強とまでは言わないが、それでも並大抵の実力者ならば一蹴、仮にかく星神の使令であったとしても良い勝負ができるかもしれない。

 

「…………まあ、私に数を割くのなら、その分助かる者も居るだろう」

 

 スログは油断なく構え、拳を握る。

 雑兵といえども数は力。鋼の拳が敵を討つ。

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