大陸救済計画 作:サブマリナー
(潜水艦が沈むまで)
スプリング海
海域-PX80443-
2019年9月14日18時12分
巨大な一本の角を持つ漆黒の巨影が夕暮れの海上でゆっくりと前に進んでいく。
その漆黒の巨影の正体は原子力潜水航空巡洋艦、アリコーン。
空母打撃群にも匹敵するその戦闘能力は現在、1機の戦闘機のためだけに使われている。
《後部トリムタンク注水!最大出力に到達!!》
《バリアドローン展開!》
《VLSサルボー!!》
《再装填急げ!!》
夕暮れの空に薄緑色の球状
白いカーテンは一定の高度まで到達すると突然向きを変え、1機の戦闘機へと殺到し、その戦闘機はまるでおもちゃで遊ぶ子供の妄想のように白いカーテンの正体である数十本のミサイルを容易く回避する。
《駄目です!やはり三本線*1にはまるで効果がありません!》
《ミサイルでは無理だ!主砲…200mmレールガンで狙い撃つ!!》
《主砲 撃ちーかたはじめー》
巨影の両舷に備え付けられた2機のレールガンは三本線と呼ばれた戦闘機へ向けて砲口を向け、レールガンを連射する。
紫に輝く砲口から45mm装弾筒を付けた155mm榴弾が秒速数キロという速度で毎分80発発射され、あまりの速度による断熱圧縮で砲弾の表面がプラズマ化し、紫の軌跡を空に残す。
砲弾は三本線のすぐ近くを掠めるが、全てをギリギリで回避する。
《俺たちもいるって事を忘れられちゃ困るね!》
三本線ではない戦闘機達が隙をつき一斉にミサイルを発射し、その全てが巨影に命中する。
《3番SIWS破損!攻撃できません!》
《1番主砲破損!こちらも同様!》
《耐圧殻に亀裂!!》
状況把握の為攻撃が一瞬止んだ隙を見たのだろう、三本線は機体を反転させ攻撃を行なってくる。
三本線の放つミサイルは潜水艦の喫水線近くの外壁へと命中すると、大穴が開きそこから海水が大量に流れ込む。
《バラストタンクに損傷!浮力が維持できません!》
《原子炉区画で8人重症!放射線量増加!冷却剤が漏れています!!》
《FCSにエラー!砲の仰角上げられません!》
《ダメコン急げ!!》
この状況に男*2の 怒り 憎しみ 狂気 は頂点に達した。
《空に三本線は……凶事なり!!》
《か…艦長!?》
《両舷前進微速!後部トリムタンク注水ィ!!》
《船が尻から沈降します!》
《それで砲の仰角を稼ぐ!!》
《スーパーキャパシターへの蓄電45%!》
《スーパーキャパシター蓄電100%まで残り120秒!!》
《姿勢角は現在アップ2度!》
艦中央に聳え立つ戦略兵器、一本の角にも見えるそれは、少しの裏技を使って射程を延長するだけで最大射程5000kmにもなる600mmレールキャノンだ。
今や壊れかけ、仰角すら動かせないその照準は、艦の後ろを故意に沈めて行くと共に少しずつ目標に近づいてゆく。
核砲弾を装填したそれはただ100万人を殺すためだけに存在する。
《お前はただの大量殺人者だ!》
《ならば答えろ!お前と俺 何が違う!?》
《私は100万の犠牲で!1000万人を救う!!》
《嘘だ!殺したいだけだ!!させないぞ!》
《お前はこの艦の乗員300名を殺して100万人を救うという! 何が違う!?》
《
《アップ4度!》
《強大な艦!よく飛ぶ砲!威力ある弾!大勢の人間!正確な狙い!》
《あとはそこに死があれば!完成する!!》
《分からんか!》
《分からんのか!?!?》
《アップ5度!》
残存している3機のSIWSが火を吹く、三本線はその弾幕を数発重要ではない場所に被弾させつつも、潜り抜けた。
そして腹に抱えていた爆弾を放つとそれはレールキャノンの根本に命中し、レールキャノンを打ち倒す。
さらにその爆炎は電気回路へ伝わり、リチウムバッテリーに引火する。
《分からんか三本線!!分からんだろうお前には!!!》
《100万人ッ!!100万人だぞ!!!》
潜水艦が燃え上がる、限界に達した耐圧殻が砕けそこから海水が雪崩れ込み、充填されていた電力を次々とショートさせプラズマを散らす。
リチウムイオンバッテリーやスーパーキャパシターが燃え上がり、炎色反応で真っ赤な炎が外殻のヒビやVLSから噴き出す。
《100万人を!!ウヒャッ!!ウヒャヒャヒャ!!》
《ウヒッ!!ヒッヒッヒッ!アヒャヒャヒャ!!》
狂った笑いを上げ続ける悪魔の元へも炎が迫っていく。
突然CICの床が崩れ、悪魔の視野全てが赤に染まった。
偶然にも全く同じ時であった。
潜水艦内のミサイルや戦闘機用の爆弾や燃料に火が引火したのは
艦内の炎に侵されていなかった場所にも炎が吹き込み、潜水艦から赤黒い炎が大きく噴き出し、外殻が捲れ上がる。
船が二つに折れ、船首と船尾が爆発の衝撃で海から跳ね上がる。
大気が震え、雲として見えるようになった衝撃波が一瞬現れてすぐに消えてゆく。
《アリコーンの船体が大きく破損している!いや 真っ二つだ!》
《ファイナルアンサーです…》
分たれた潜水艦はゆっくりと沈んでゆく。
少し経ち、潜水艦に積まれていた二機の溶融金属冷却型原子炉が海水と接触し、先程の爆発がまるで花火に見えるほどの大爆発を起こした。
海面が白く盛り上がり、高さ500m以上の水飛沫を上げる。
大量の放射性物質を含んだ、まだ温かい雨が味気ない名前の海域に降り注ぐ。
《海上に大量の浮遊物を視認 生存者はいないだろう ワイズマン》
《了解 敵潜水艦を撃沈した 作戦終了を宣言する》
二つの"特異点"による戦闘は三本線の勝利に終わった。
"恍惚とした破壊"を司る、漆黒の有翼の一角獣…アリコーンは粉々に砕け、水底へと堕ちてゆく。
よって悪魔の
悪魔は死んだ
死んだのだ…
そのはずだった。
目が醒める。
私はコンソールに前から倒れ込むように気絶していたらしい。
600mmレールキャノンの発射トリガーが落ち、振り子のように揺れている。
見慣れたCICだ。
おかしい、私はサブマリナー諸君と共に三本線により沈められたはず。
最後の記憶は燃えるリチウムの赤と白い閃光だ、爆炎で死んだ感覚が今もこの身に残っている。
それにもかかわらず、モニターを見る限りでは潜水艦は現在水深100mで停止している。
状況を把握しなくては、周囲を見渡すと、CIC中にサブマリナー達が倒れていた。
その中には三本線との戦いの為発艦させ、デブリの雨となったはずの者まで居た。
死んでいるわけではない、静かだが微かに呼吸音が聞こえ、胸がゆっくりと上下している。
艦中に発生していたしていた浸水警報も、バラストタンクに開いた大穴も、FCSエラーも全てがまるで最初から存在していなかったかのように綺麗に消えている。
CICを飛び出し廊下に出るも、そこにもまたサブマリナー達が倒れていた。
こちらには地上に残して来た者達まで。
これは幻か?自身の腕を捻じ曲げようとしてみる、痛みを感じる、つまりこれは現実である。
つまり神は…いや、素晴らしき神は!我が艦を修復し、私とサブマリナー達を蘇らせた。
《素晴らしい!!100万人を殺す計画の続きを行えと神は仰っている!》
素晴らしい!素晴らしい!!素晴らしい!!!!
どうにも三本線やその他の愚かな者とは違い、神にはこの計画の美しさやエレガントさが解るらしい。
《神は自身の存在を我々に証明した!我々の命は濃い!!》
《彼らの命は薄かった!我々には命を奪う資格がある!!》
《フッフ…フハハハハハ!!!》
私の声が聞こえてかサブマリナー達の中から目覚める者が少しずつ現れ始める。
私は彼らに向けて笑顔を浮かべ言った。
《歓喜せよ サブマリナー諸君!神々は我々の"救済"を待ち望んでいる!》
《艦長…これが走馬灯か…》
《俺は死んだはず…これは幻だな》
思ったよりサブマリナーの反応が芳しくない。
彼らはこれが現実だとは思っていないようだ。
《諸君!これは現実だ 幻などではない 分からんか? 我々は神に選ばれたのだ》
《分かるか? 副長代理》
《艦長… 分かりません……》
《やはり分からんか…我々は船と共に蘇ったのだ 神の御力によってな》
《潜水航空巡洋艦【アリコーン】全システム正常…信じられない!》
副官代理と呼ばれた男は驚愕し、黙ってCICのモニターを見つめる。
他の者達も口々に恐怖と狂酔を語る。
《さ…三本線が現れて…お,俺は炎に巻かれて…熱くて、死んだはずじゃ…》
《だが生きている いや 蘇った! やはり艦長に付いて行けば生き残れる!》
《そ そうか?………確かにそうだ!》
《死を恐れずに捨てた命が返ってくるなんて 神と艦長万歳!》
《次は何を!?艦長!ご命令を!!》
どうやらサブマリナー達もこれが現実だと認識してくれたようだ。
《最終目的は変わらず1000万人を救う計画の遂行だ》
《その最初の一歩として…ひとまずは気絶している者達を起こし 物資を確認しろ》
《了解!!》
サブマリナー達は命令を聞いた瞬間体を動かし、潜水艦中に散っていく。
30分程度でCICには、先ほど潜水艦中に散って行った者たちが帰って来て報告を行う。
《ご報告いたします!現在潜水艦内には330名存在しています 水底での2年を耐え抜いた時の乗組員全員です!》
《機体 食料 水 ジェット燃料 通常兵器などは満載の状態でした》
《核砲弾は2発 核搭載巡航ミサイルは3発現存していました!》
《100万人が5回分か…いいぞ》
《次は現在位置の把握だ 両舷前進原速 前部トリムタンク メインタンクブロー》
《浮上せよ》
《了解!!!》
全長 495m 全幅 116m 全高 54m
最大排水量 810,000t
というあまりにも巨大な船が凄まじい速度で浮上してゆく。
黒い巨大な船首が海面から飛び出し、数十メートルの高さまで上がると、シーソーのように船全体がゆっくりと水平に戻り、船首が海に叩きつけられ白波を上げる。
このような浮上の仕方は普通の潜水艦ならば一回でも行ったら即ドック行きだが、アリコーンの狂気的なほどの重装甲はその浮上を通常行動として許容できるほどの耐久性を持つ。
《…GPS信号感知せず!エルジア*3軍用周波数,オーシア*4軍用周波数共に感なし!》
CICの一角から声が上がる。
サブマリナー達は少し心配そうに話し合う。
《……どういう事だ?》
《GPS信号を受信しない?》
《アンテナが壊れている可能性は?)
《いや モニターからは故障していないとなっている 一応確認して見るが…》
《衛星の方が壊れているとか?》
《少し前に地上で衛星破壊計画の噂を聞いた事がある ケスラーシンドロームで衛星が掃討……あり得ない話ではないな》
《それにしても オーシアの軍用周波数に感がない海域なんてこの地球上に存在するのか?》
《世界中ほぼどこでもオーシア軍基地はあるしな…》
《あまり詳しくはないがユーク*5の南辺りの海上なら入感しないんじゃないか?》
《そうでなくてはやはりアンテナの故障か…》
そんな話し合いが白熱しているCIC内に突然扉を開け、甲板の電磁カタパルトの整備兵が駆け込んで来た、整備兵…彼の階級は確か二等兵曹だったはずだ、彼はCICのカーペットに膝を突き、肩で息をする。
《おい!CIC内はクリアランスの低い者は立ち入り禁止だぞ!》
《はぁ…はぁ…すみません!緊急でどうしても伝えたいことがあって…》
《……二等兵曹 発言を許可しよう》
私は整備兵の報告を聞く事した。
《空に月が…月が二つあるんです!!》
ああ なるほど 神はあの世界を見捨てたか。
衝撃的な二つの月の情報がCICにもたらされてから1時間。
CICの一際大きなモニターを艦長と潜水艦内の各班トップ、合わせて数十人が囲んでいる。
ノートパソコンを持った男が一人モニターの前へと進み、パソコンを弄り始める。
するとモニターには色鮮やかなこの1時間で集められた情報から作られた周辺の概略図とシステムメッセージ、そして空に浮かぶ双月の画像が表示される。
North Osea Gründer I.G.
Erusea OFS Ver1.16
user name : Alicorn-SAC-900
system code : SAC-900
password : **********
SATELLITE DATA LINK
U/D LINK STATUS
SAT ID 5143-HCA742
OFFLINE
SAT ID 5144-HCA742
OFFLINE
SAT ID 8746-UAC618
OFFLINE
SAT ID 9754-UAI908
OFFLINE
CONNECTING ERROR
Amidst the eternal waves of time,
From a ripple of change shall the storm rise,
Out of the abyss peer the eyes of a demon,
Behold the Razgriz, its wings of black sheath!
― Part 1 of the Razgriz Poem