『世界の樹の中で ~ユグドラシルしる~』   作:ぽえぽえぷりん

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第3話

 異世界生活も、早いもので今日で三日目の朝。

 作ったばかりのダイニングキッチンで朝食を済ませ、食器を食器洗浄乾燥機に放り込むと、身体が縮んでしまった彼女の身長に、合わせて作った椅子に座って寛いでいたらぐーんさんの向かいに座る。

 

「……さて、らぐーんさん。改めてだけど――」

 

 いつものゆるさや小市民ぶりは影を潜めた珍しく真剣な顔で、目の前の小さな相棒に向き合うように身を乗り出す。

 

「……うん? どうした? いきなりそんな真剣な顔して」

 

「今日まで拠点作りにバタバタしてて、全然そんな余裕もなかったけどさ。

 そろそろ一回、ちゃんと整理した方がいいかなって思ってのぉ~。

 私たちが今、ここで“何ができて”、どこまで“出来る”のかって知識の擦り合わせじゃの」

 

 らぐーんは首を傾げながら、ぱたぱたと脚を揺らす。

 目の前のログテーブルには、朝食を平らげたあとの白い皿に、マグカップと空になったヨーグルト容器。

 まだ湯気の残る紅茶を啜りながら、彼女は頷いた。

 

「……ふむ。確かにそうか。

 昨日のシャワーに水洗トイレ、ドラム式の洗濯機に、果てはキッチンコンロと鏡台まで。

 普通に考えておかしいだろ、って設備が当然のように稼働してるからな」

 

「そーそー、LastOutやってた私としてはさ、ああいうのは“そういうもん”って思い込みがあったから、あんまり変には感じなかったんだけど――LastOut未プレイのらぐーんさんから見れば、異常としか思えんよね。」

 

 わかるわかると頷きながら立ち上がると、ログハウスの壁に設置した黒板の前に立ってチョークを手に取る。

 

 

挿絵はこちら

 

 

「そんな訳で、LastOutでは何が出来て、何が出来ないかを思い出せる範囲で説明してくけどええかな?」

 

「ほう。 黒板とかチョークまで出せたのかLastOut。

 黒板とチョークとか学生の頃思い出すなぁ……。

 まあいいよ、続けてくれ、リンカ様。

 LastOutの方面は、まるで知識がないんでな」

 

 紅茶を飲み干したマグカップを横に置きながら、興味深そうにこちらを見つめてくるらぐーんさんに頷き返し、それではと記憶を掘り起こし出す。

 

「んじゃあ説明してくけど――LastOutのお風呂だの洗濯機だのを享受出来て解かったと思うけど、家電やら水回り、生活インフラ関係だね。 これらが近代に近いレベルの、それなりの質で実装されてるものだから、まあまあ快適に生活することも可能なんよ。

 で、だ。 それに加えて当初はそんな何の効果もないそれっぽい安い家具しかなかったんだけど、ユーザー側からどんどん自分の拠点をもっと綺麗に飾りたい、便利な装飾アイテムも欲しいって意見が出ての。 それで出てくるようになったのが各種消耗アイテムやら、ジャンクアイテムを時間経過で勝手に自動収集してくれる装飾アイテムが出始めたんよ」

 

 カツカツと、チョークを鳴らしながら覚えていたことをツラツラと自分でも情報を整理するように黒板に書き連ねていく。 それを眺めて、ふんふんと頷いていたらぐーんさんが、疑問に思ったのか手を上げて声を上げる。

 

「ちょっといいか、リンカ様? 時間経過で取得っていってたけど、どんなのが手に入るようになっていったんだ? その口ぶりじゃ随分その取得が可能になるアイテムが有るようだけど」

 

「いい質問じゃないか、らぐーんさん。 その通り、いっぱいあるんじゃよ」

 

 ちょっと思い出せる範囲だけども、かなりの装飾アイテムがあったことを思い出しながら、再びチョークを鳴らし出す。

 

 

「まずは飲食が可能なクッキーやらキャンディー、ガムとかお菓子類だな。これが自動取得可能になるクッキー缶が出始めてだな。

 それを皮切りにドーナッツやケーキを生成するディスプレイ冷蔵庫、ホットのコーヒーや紅茶を自動取得してくれるコーヒーメーカーとティーポットが出てきてな。 そこからはもう雪崩を切ったように、牛乳の自販機に炭酸飲料の自販機。

 そんな飲食物を盛るための食器を生成してくれる食器棚やら、調理用に使えるだろってフックに掛けた精肉ブロックと冷凍庫まででやがってだの、生肉も勝手に手に入るような便利アイテムが増えて行ったんじゃ」

 

 

「うん? ううん??? ―――ちょっといいか、リンカ様。

 それがノーコストで設置できるのは分かったけど、なんかペナルティだの、消費するものとかあるのか?」

 

 あっという間に黒板に文字がいっぱいになって行くなか、情報をかみ砕いていたらぐーんさんが、ある意味フラットな視線を持ってる身としては当然の疑問を口にしてくるのだが…。 無言で首を横に振って見せてしまう。

 

 

 

「言いたいことはわかるんじゃけどの。 基本的に設置するときに、資材をちょっと消費するだけだの。 モノによっては、必要な電力を消費するのもあるんだけど、一回設置してしまえば、基本的にノーコストで済んでしまうくらいでの。

 まあ、取得上限数が割と低いから、定期的に中から取り出さんといけないけど、困ると言ってもその程度のデメリットしか無い感じじゃぞ」

 

 

 そこまで聞いた時点で、その資材生成アイテムのあんまりと言えばあんまりな無法振りに、思わず固まってしまったらぐーんさんが、空になったマグカップを口に運んで、中身が無かったことを口に付けて察すると気まずそうにテーブルに置き直す。

 

 

「―――なるほど。

 リンカ様がなんでLastOutならばってあの時嘆いてたのか察したわ。

 あぁ、後は説明せんでもいいぞ? 残りのジャンクだの物資を手に入る装飾アイテムもそんな無法なアイテムばっかりなんだな?」

 

 

「そうじゃのぉ。 あとはまあ、弾丸の供給をせずとも、壊れるまで弾を撃ち続けてくれる、優秀な各種タレットを初めとした防衛施設が、過剰なくらい強めだったり、種類も豊富なロボットとか、強化外骨格(パワーギア)も自作できるあたりが、マインビルダーとは一味違うLastOutの強み、って感じじゃな 」

 

 

 「ロボット自作…?」と当然と言えば当然の疑問を口にしながら、しばし呆然とするらぐーんさんをながめつつも、今度は逆にマインビルドの方が優れている点、LastOutでは出来ない点を語ることにする。

 

 

 

「長々といい所を語ったところで、LastOutじゃ出来ない点も伝えておくとじゃな。

 地形そのものに干渉できない。 そう言う干渉MODでも入れていないと、そもそも無理って所やね。 んなもんで、平地とかなだらかな地形じゃないと、建築しにくかったし、建築にも建築ゲージの制限があって、それを超えたらそれ以上の建築が出来なくなるのが、明確なLastOutの弱かった点だったね」

 

 

「ほう…? 自由な建築ができる場所が限られやすいっていうのは、明確な弱い部分だな。

 ―――なるほど、その上で今の私たちはLastOutでは出来ない、地形への自由な干渉能力として、マインビルダーズの整地能力に、自在のクラフト。

 水やお湯、果ては溶岩まで汲める『尽きぬ水瓶』に、四季の季節を問わずに、食物の種を植えて数日もすれば、収穫が可能な『豊穣の恵み旗』に、水場さえあればそこへ無限の魚を釣り上げることも出来る『達人の釣竿』を始めとしたマジックアイテムがあるってわけだな」

 

 

 そこまでの説明を聞いたうえで、LastOutとマインビルダーズの両方で出来ることをお互いかみ砕くように理解して、確認しあう。 両者の強みを合わせれば、ちょっとや、そっとの事じゃビクともしない安定供給の臨める拠点だって作ることも夢じゃなさそうだ、と。

 

 そう実感を込めて頷きあった後、ふと、リンカが立ち上がって背伸びをする。

 

「んじゃ―――せっかく整理も済んだし、そろそろ実働といきますかねぇ、らぐーんさん」

 

 窓から差し込む朝の光が、ログハウスの木の床をやさしく照らしていた。すっかり暮らしやすくなった家の中も快適ではあるけれど、これから拠点をもっと便利に、もっと効率的にしていくには、もう一歩踏み出さないといけない。

 

「電気だの水だの、今後のために用意しとくもんも多いしな。ならまずは……」

 

 言いながららぐーんさんも椅子を降り、トコトコと後を追う。玄関の扉を開ければ、外には朝霧がゆっくり晴れていく、樹上の広がり。枝の上に築いた土の地面には、まだ手つかずのスペースが広がっていた。

 

「ジェネレーターと、浄水装置。それと給水機だな。  あとは、いよいよ畑だろ?」

 

「うん。水耕じゃなくて、ちゃんとした“土耕”でやるなら、まずは水源を作ってやらんと。  『尽きぬ水瓶』を使って清流の川を引いて、川のそばに畑を作る感じにしようかねぇ」

 

 そう呟くと、リンカはウィンドウを開いて『尽きぬ水瓶』を取り出す。透き通った青の瓶は、掌にすっぽり収まる小さなサイズながら――その中には、終わることのない澄んだ水が眠っている。それを再び倉庫の中に戻すと、代わりに鈍器カテゴリに入ってたシャベルを装備し直す。

 

「……よし、それじゃやってみようか。  とりあえず、あの上の方に枝が伸びてってる、あの上から清流が溢れ出てるって感じにデザインするとしてだな、じゃあその真下あたりに滝つぼ作って、そのまま川っぽく適当にくねくね土ブロック削ってくかー」

 

「おーっ、ほんじゃあ、そのラインから浅く水路をまっすぐ何本か掘って、推定畑の区画つくるかねー。 リンカ様? ついでにアップルシードルの在庫も補充するためにリンゴの木を植えないか?」

 

「いいねぇ、ついでも桃も植えないか? 水桃久しぶりに食べたいし」

 

 お互い異世界に来たばかりだというのに、早速贅沢を言い合えるくらい恵まれていることに感謝しながらも手早く仕事をこなすかと、腕力や知能に一時的な加護を加えてくれる補助スキル《光命――グレイス》を唱えて私とらぐーんさんの作業の効率化が出来るかどうか、試して見ることにする。

 

「これがリアルグレイスかぁ…。 心持ち力持ちになった気もするけど、実際どうなんだろな?

 まあいいや、そいじゃリンカ様、畑のサイズだけど、こっからこの辺まででいいか?」

 

 らぐーんさんも、彼女のサイズにリサイズされたシャベルを装備すると、《風の刃――ウィンドカッター》で土ブロックの表面に軽い傷を付けて目安を示してくる。

 

「おー? まあ、リアル農業なんてしたことないから分からんけど、広いに越したことなさそうだし、いいんじゃないかなぁ?」

 

 多少広すぎな気もするが、多くても困る様なものでもなし。

 それでOKと頷くとまずはお互い、滝つぼから川作りと水路と畑の柵作りに別れて作業を開始する。

 

「んじゃまあ、さっくり済ますかぁ~」

 

 適当に昨日埋めたばかりの地面を掘り起こしてブロックに変え、滝でえぐられたならこのくらい深くいくか?と試行錯誤して不規則に抉れた滝つぼを掘り出す。

 《光命――グレイス》のおかげなのか、それとも獲物が掘りやすいシャベルのお陰なのかはわからないものの、サクサクと地面を掘り起こし、それなりの深さの川を緩い角度でジグザグにくねらせながら樹上エリアの端まで掘り進める。

 此処で結構な時間が経過していたのか、気が付けば《光命――グレイス》の効果時間はとっくに終了していた。

 結局《光命――グレイス》の有る無しの違いに特に気が付けない程度には、川の形を大まかに整えては直す、といった一連の作業に集中し熱中していた自分の忘れっぽさに、つい気恥ずかしさを覚えながら、一先ず樹上エリアの端を川の終点とすることにすると、河川工事はこれで終わりだと掘ったばかりの空の川から頭を出す。

 

 微調整など、変凝り性を見せ、よっぽど熱中してたのだろうか? 太陽の位置はすっかり頭上の上まで移動しており、そろそろお昼といった頃合までいつの間にか作業していたようだ。

 

 らぐーんさんの方も、同じようなタイミングで工事が終わったのか、傍から見ても規則正しく区画分けされた水路らしき空の溝から飛び出てきていた。

 そして、こちらの視線に気が付くと手をぶんぶん振りながらこちらに近寄ってくる。

 

「ずいぶん凝って掘ったなぁ。 見た目は自然で美しいかもしれんけど、歩き難いところ出たんじゃないか?」

 

「―――やっぱりそう思う? ま、まあどうせそれっぽく飾りつけして、植樹なりすれば、気にならなくなるでしょ。

 ところでらぐーんさん。 途中で《光命――グレイス》の効果切れてたと思うんだけど違いに気が付いてた?」

 

「うん? あー……凝り過ぎてたからあんまり分からんかったなぁ。

 目に数値としてダメージ表記だの出れば実感できたかもしれんけど、そんなの見えんしなぁ」

 

 

 らぐーんさんも似たり寄ったりな感想だったかと、私も違いがよく分からなかったと誤魔化すように笑いながらも空の川から這い上がり、「うーん」と軽い伸びをする。 まだ水は流れていないとはいえ、一面平坦で殺風景だった盛り土したエリアが、ずいぶんと変わった顔になったのを実感できると、つい微笑んでしまう。

 

「それじゃあ、まずは水を流してからのお楽しみ、か? リンカ様、滝口はあの辺でいいんだよな?」

 

 らぐーんさんの指さす場所は丁度先ほど掘った滝つぼの間上あたりの、太く苔むした樹木の枝がまるで壁の様にそそり立つように、上へ、上へと伸びていた枝たちが一塊になって、さらに横にずれいてた場所で、滝口とするならぴったりといった風情の場所。 それゆえに、解かってくれた事に対する感謝でつい満面の笑みを零して頷いてしまう。

 

「そーそー、あそこから水をばーって流して、その上を樹木ブロックって覆っちゃってさ。

 まるで枝の中から清い水が溢れ出てるみたいな感じの、神秘的な川にしたいかなって」

 

「ほー? そりゃいいな。 それじゃあ、滝口の周りやら、滝の脇辺りの苔の中に花の種でも仕込んで、そこから花が芽吹く感じにデコレーションしないか?」

 

 

 それは、随分神秘的になりそうだなと興奮した面持ちで頷きながら手を打ってしまう。

 それなら滝つぼの周りには、クワズイモやらバナナの木にヤツデなんて植物も植えるべきかと、アレコレ思案しながらも一先ず水を流すべく、自身が滝口予定の場所へ移動することにして。

 

 

「それもいいなぁ……。 まあ、とりあえず水流してくる~」

 

 

「おー、気を付けてなー、リンカ様」

 

 ひらひらと手を振って応えながらも、元の身体では上ることさえ困難だったであろう急こう配も何のその。 ヒョイヒョイと、まるでアクションゲームの主人公キャラにでもなった気分になれるくらいあっさり目的の地点まで登り切ってしまう。

 

「らぐーーんさーーーん! いまからーー! なーがーすーねーーー!!」

 

「おおーーー!! いいぞーーー! リンカさーまーー!!」

 

 

 ビルの高さで言えば3階辺りに相当するような高さだったので、つい大声を張り上げて宣言しつつ、『尽きぬ水瓶』を取り出して、瓶を逆さにする。すると、その名が嘘でないように、明らかに大きさに見合わぬ量の大量の清水が溢れだし、初めは細く僅かだった滝のしずくは、次第に大きさを増していき、ざあざあと耳に心地の良い水音を響かせる滝となって滝つぼを水で満たし、繋がっていた川も、水路も水であっという間に満たされて行く。

 

「おおぉぉ……圧巻だねぇ。」

 

 緑と茶色一色だった作られた大地に水の景観が加わったことに感激しながら、滝口周りの不自然さを隠すように樹木ブロックで滝口を覆ってしまい、アイテム欄に有った適当な花の種を何でもいいから芽吹けとばかりに植え込む。すると水が流れた川沿いに小さな花がひとつ、またひとつと芽吹き始め――清流のささやきに混じって、小鳥の声が樹上に響いた。

 そんな涼やかな鳥の鳴き声を聞いてしまうと、つい興が乗ってしまい、そのまま滝つぼ目掛けてダイブしてしまう。

 

「いぃぃ~~~やっほぉぉぉぉ~~~!!」

 

「ふぁぁ!? 何してるんだ、リンカ様?!」

 

 その姿を見守っていたらぐーんさんが慌てて滝つぼに駆け寄ってくれる中、水の中から顔を出すと心地よさそうに髪をかき上げて顔の周りの水を手で拭ってみせる。

 

「飛び込んでみても十分な深さにしておいて正解だったぞ、らぐーんさん」

 

「アホか、リンカ様。 水浴び、川遊び程度ならともかく、怪我するかもしれないんだ。医者だっていないんだから迂闊なことするなよ」

 

 呆れ顔しながらも尤もな事を言われてしまい、ばつの悪そうな顔をして、もうしませんと謝りながらも、一連の作業で湧き出した汗や土汚れも一緒に流し落せてさっぱりしたのも事実で。

 

「まあまあ、それでもいいところ一区切りついたし、今日はもう風呂入ってのんびりダラダラして鋭気を養わないか? 具体的に言うと疲れました。 オデ、今日はもう働きたくない」

 

「―――ふぅぅぅん…。 まあ、言いたいことはわかるし、私も土と汗で気持ち悪いから、風呂入ってダラダラするかぁ。 今晩は晩御飯何にするよ、リンカ様?」

 

 本日の区切りを申し出ると、らぐーんさん自身もある程度の達成感を満たしたのか、強く否定しなかったので、今日は切り上げる形となった。

 

「そうだなぁ、私のとっておきの食事アイテムでもある『鉄板ステーキとライス&スープセット』を提供するから、それで宴会とかどうよ?」

 

 

「ほう! 肉! いいな、今日は動いたし、ガツガツ白米をかっ込めそうだぞ、リンカ様!」

 

「ははは! それな! ひとっ風呂浴びて、さっぱりしたら晩御飯までダラダラ過ごしてのんびりしようじぇ」

 

 心地の良い疲労感と、達成感に包まれながら立派な家と呼んでも差し支えないくらいログハウスへ戻る二人。

 泥らだけ、水浸しの服を洗濯機へ突っ込んで、作業の汗と泥を洗い流すと、それだけで身体が溶けそうなくらいの心地よさに包まれてしまう。

 

「あぁ~~~…。 娯楽とか無いとか、アレコレ不満もあるけど……こういう生活も、これはこれで悪くないかもねぇ」

 

「そーだなぁ…。 私らのこんな生活が仮に小説にでもされてたんなら、なんで異世界来てハウジングしかしてないんだってツッコまれてるところかもしれんけど…。 斬った張ったの血生臭い生き方よりはずっとマシかもなー」

 

 ジャグジー機能を作動させ、お湯のバブルを浴びながらの入浴は魂まで溶かすのか、互いにのんびりとした声で、気の抜けた会話に終始しつつ、お風呂も済ませて、少し早めの夕食に入ることにして。

 

 ラフな格好に着替え終えると、アイテム欄の中からステーキセットを取り出し、テーブルに配膳していく。 皿に盛られたステーキはじゅうじゅうと音を立て、肉汁が食欲をそそる匂いを放っていた。

 その隣には、ふっくらと炊きあがったライスと、湯気を立てるスープ。ついでとばかりにワインのボトルとグラスを取り出し、まだ日も落ちきらぬうちに軽く一杯ワインに口を付けてしまう。

 

「おいおい、リンカ様。陽は落ちかけてるとはいえ、まだ明るいうちから飲むとか結構なご身分じゃないか?」

 

「おんやぁおやぁ~? らぐーんさんこそ、そう言う割には、結構がっつり飲んでるじゃないですか。人が悪いですなぁ?」

 

 互いにわざとらしく揶揄い口調で軽口を叩き合いながら、ダイニングに、あたたかなランタンの光が灯り、窓の外には、静かに滝の音と夜風が混じる。

 ログハウス から響く楽しそうな笑い声や騒ぎ声が、ぽつぽつと夜に溶けていく。 そんな楽しそうな時間は、夜の帳が辺りを包んでもなお暫くは続いていた。

 

――だからだろうか? この夜、樹上に咲いたばかりの花たちを興味深そうに見上げ、視線の主が「グァ…ボフゥ…」と低めの鳴き声を響かせていたことに、まだ二人は気が付いていなかった。

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