『世界の樹の中で ~ユグドラシルしる~』   作:ぽえぽえぷりん

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第4話

「あー、さっぱりしたなぁ……。 おっ? おはよ、らぐーんさん」

 

 昨夜は結構汗もかいたため、朝から軽くシャワーでも浴びるだけのつもりだった。 しかし気づけばボコボコと音を立てるジャグジーの音につい誘われてしまい、意図せず朝風呂を堪能することになる。

 ぽかぽかと身体が芯まで温まったところで、ようやくリビングに戻ってみる。 そこには既に朝食を終えたらしいらぐーんさんが、ソファでティーカップ片手にくつろいでいた。

 

 私の声に気づいたのか、らぐーんさんは「おや?」とでも言いたげな顔を上げて、こちらを見やる。

 

「なんだリンカ様。 居ないと思ったら朝風呂か。さっぱりしたか?」

 

 

「うん、お陰で目覚めもスッキリだねぇ。 今日は――そうだった。 

 昨日やらず仕舞いだった発電機と浄水器の設置しなきゃねー」

 

「そういやそんな話だったなー…。 なんだかんだ言って、快適すぎるのも考え物だな。

 少しくらいやらなくっても、問題ないって余裕が生まれて、ついついサボりがちになっちまうもんあー」

 

 全く同意すると言いたげに頷きながら、トーストにジャムを塗り、それを頬張りながらブドウジュースをグラスに注いで朝食を開始する。 そんな私を眺めながらそういえば、とらぐーんさんが言葉を続ける。

 

「発電機回りが終わったら、いよいよ農作物だの果実の作付けなんだけどさ。

 この農作物ってマインビルダーズの成長速度が適用されんのかねぇ?

 仮に収穫までに、リアルみたいな時間進行が必要ってなるんだったら、作物の世話とかせにゃならんのだが……リンカ様、農業の知識あるのか?」

 

 その言葉に、思わずうめき声が漏れる。

 農業の知識なんてあるわけでもなし、そうでなくったって、専門的な知識が求められる農業。そんなの知識なんてあるわけもなく。ましてや適切な管理や収穫までやるとなると、人手も知恵も要るだろう。

 ――今さらながら、その大変さに思い至ってしまった。

 

 

「あぁー………。 あぁ……そうだねぇ。 そこら辺の農作物の生育については、ほんとにマインビルダーズ準拠であることを祈らなきゃまずそうだね。 というか、マインビルダーズ準拠でもある程度農作物の世話してやんなきゃダメだったよね?」

 

 

「だなぁ…。 マインビルダーズだったら世話してくれる農民だの、農業ゴーレムが居たけど……そのどっちもここに居ないしなー」

 

 

 らぐーんさんの言う通り農民か、農業用のゴーレムが居れば、作物の世話から収穫、次の作付けまで全てを任せられた。 けれど彼女の指摘通りそのどちらも居ない以上、これらは全て私たちでやらなければいけない。 その事実につい暗澹とした気持ちになるのだったが…。

 

「あっ、待って。それなら――LastOutに居たわ! 農作業から警備まで、いろいろ代行してくれるロボット!  そうだ、発電機作ったら浄水器と一緒にロボット作成できるロボットステーション作って、其処で生産したロボットに農業代行してもらおう!」

 

 

 記憶を掘り起こせば確かにLastOutをプレイ時に、ロボットの作業に農作業を設定していたことを思い出す。 思いも寄らぬ展望が見えたためか、先ほどまでの暗澹とした気持ちはどこへやら、声を弾ませると、勢いでトーストを平らげてしまう。

 

「ん……? 昨日言ってた自作できるロボットの事か? えぇ……なにそれ、そこまで無法なのか、そのゲーム?」

 

 

 資源さえあれば、人手すら代行できる存在を作り出せるという話を聞かされると、げんなりとした様な声を出すらぐーんさん。 しかし面倒な作業を代行してくれる存在は、有り難い様子の様で。 気を取り直すように、らぐーんさんは紅茶を飲み干すと、すぐに急かすような声をかけてきた。

 

「そんなのがあるんだったらさっさと発電機設置してロボット作るぞ、リンカ様。

 ほれ、ジュースで残りのトースト流し込め」

 

「ぬっぐっぅ!? 喉に詰まるから急かすなって!」

 

 咳き込みながらも、グレープジュースでトーストを無理やり嚥下すると、お皿もそのままに、らぐーんさんに急かされて外に出る。

 

 晴れた青空の元、日差しを浴びると無自覚に身体を伸びさせてしまう。

 

「いい天気だねぇ。 それじゃあ、らぐーんさん。 今日も一日ご安全に」

 

「ご安全に、だ。 それで、リンカ様? 発電機ってどんなのなんだ?」

 

 もっともらしい質問に首を傾げながらも、発電機自体もまあまあ、無法な動作をするものだから、どう説明したものかと悩んだ。 どう言えば伝わるか迷ったが、もういいやと割り切って、そのまま語り始めた。

 

「そーだねぇ…。 壊れるまで、動力は不明だけど黒煙を上げながらエンジン音を響かせて発電するオーソドックスな奴と、水力、風力、太陽光に核動力と続いて…。 変わり種で、バイオフィルターみたいな……様は有機物を燃料にして、腐ったものやら腐りかけの食品、生ごみを燃料にするSDGsに配慮してるような急速発電機がある感じだねぇ」

 

「―――……そうか。 なんか途中で変なの混じってるように聞こえたが、ようは他のLastOutのアイテムと同じで、置き得なモノってことなんだな?」

 

 

「理解が早くって助かるよ。 浄水器も、土地を枯らすことなく、土地がどれだけ汚染されてても綺麗な水を汲み取ってくれるし、ロボットステーションだって作る資材コストは、まあまあ重いけど…。

 一度作ってしまえば、あとは壊れるまでメンテ要らずで、ロボットを量産できる頼もしいツールになるってことだでな」

 

「―――……まあ、今の私たちにはとてもありがたい仕様だって事で、言いたいことは全部飲み込むことにするか。 それじゃあ、リンカ様? どのジェネレーター作ってくんだ?」

 

 

 色々と言いたかったことを、ひとまず飲み込んでくれたらしい。 らぐーんさんの言葉に、作成可能そうな発電機の一覧をざっと眺めて悩み込む。 発電力なら核動力のジェネレーター一択なのだが、万一の事を考えると、拠点や畑のすぐそばにそんなものを置きたくない、という気持ちが勝ってしまう。

 

「そーだねぇ……景観にも配慮して川に沿わせて、水車型の発電機をいくつか置いてみるかね? 」

 

「ふむ? まあ、それなら発電の際の音も静かかもしれないし、風情のある音になるかもしれんから、反対する理由は無いぞ?」

 

 

 また変な物でも出されるのか、と緊張していたのか、思いがけない提案に拍子抜けしたと言わんばかりの顔になるらぐーんさんに頷き返す。

 

 

「それじゃあ、そうしよっか。 送電線の中継には……川沿いに適当な間隔で、楡(ニレ)の木でも植えて、それに中継器張り付けて電線を目立たなくさせるかぁ」

 

「そこら辺はよく分からんから任せるが…。 ロードオブミッドガルドの回復アイテムだった人参やらジャガイモに、トウモロコシをそのまま植えても、マインビルダーズ方式で芽吹いてくれるか、そこが問題だな」

 

 ああ、そもそも芽吹かない可能性もあったのかと、今更ながらに不安になる。 けれど問題が起こってから対処するかと、将来に問題を先送りすることにした。 作ったばかりの流れる川と、水路の合流点に合わせるように水車型の発電機を、それに合わせてニレの木も植える。

 

 何もない虚空から、資材を消費して生み出されたばかりのその木は、まるで昔からこの場所に生えていたかのように、風がなびくたびに、さらさらと葉が揺れる音が心地よく響き渡る。

 

 そんなニレの木へ中継器を設置していくのを、無言のまま眺めていたらぐーんさんも、心地よさそうに葉が揺れる音に、耳を澄ませながら出来たばかりの日陰に入っていた。

 

 

 

「ぽんぽんぽんっと……お、川の端っこだ」

 

 

「端、端ねぇ? マインビルダーズの仕様に引っ張られて作られたって言うのは分かってるが……。 この川も妙って言えば妙だよなぁ…。 水の流れは絶えずに流れ続けてるって言うのに、川の終点からなんで水が溢れないんだ?」

 

 

 ひとつひとつを見れば、それほど不自然さは感じない。 しかしよくよく注視してみれば、おかしなことだらけなこの場所が此処だ。 そんな場所へ呆れたように感想を漏らすらぐーんさんに、私は苦笑しながら「まあまあ」と宥めるように声をかけた。

 

「細かいことは言いっこなしにしようよ。 さて、ひふみの……ふむ。 こんだけ設置してれば浄水器と合わせたって、ロボットステーションを作動させるには十分な発電量かな? むしろいくらか過剰かも」

 

 

「ほーほー? その口ぶりじゃ、一個でもそれなりに発電できるんだな。」

 

 

 設置した水車の発電機は、まだ20に届かないあたりの数に過ぎない。 にも拘らず、大規模な電力を求められそうな装置を起動させられるほど発電量が高いのだと察したのだろう。 感心したような声を漏らすらぐーんさんに頷き返す。

 

 

「設置できるのがこういう水場だけって制限があるせいで、気持ち他の自然エネルギーより、発電量高めに設定されたみたいやねぇ。 ともあれ、それじゃあ早速ロボットステーションを――」

 

 

「何でもアリなようで、そんな制限もあるんだなぁ――ってちょい待て、リンカ様。 さっきからの口ぶりじゃ、そのロボットステーションって精密機器なんだろ? そんなモノ、こんな土の上に野晒しで設置していいものなのか?」

 

 

 早速ロボットステーションを設置しようとしたところで、尤もなツッコミが入る。 LastOutをプレイしてた時はそこまで気を回さずに設置していたものの、こんな事態になっている以上、そんな雑な管理も不味いかと思い直す。

 

 

「そりゃそうだわ、あらやだ。 そうすると工場っぽいトタン壁の建物でも建てるべきかな?」

 

 

「そうだな。 何が起こるか分からんし、念には念を入れた方が良いだろ。 そうすると――リンカ様。 昨日、畑の区割りしてた場所にな、ちょっと変な土地が出たんだ。日陰になってて、しかも幹が上に伸びてるせいで歪な形になっちゃってたとこ。 その目立たない区画に、工場建てるのはどうだ?」

 

 

 そんなところ出てたのかと、らぐーんさんが指さした場所を見る。 するとそこは確かに四方のうち二方を、上に伸びた形の太い樹の幹で出来た壁で、塞がれた形になっている場所だ。 これはたしかに歪になると納得できてしまう。

 

 

「あー…。 たしかに半端になり易そうなとこだしの。 それじゃ適当な変形の豆腐建築して工場建てて置くかー」

 

 

 四角いだけの味気ない建物――いわゆる豆腐建築ってやつで建築する積りだと伝えようとし、そういえばそもそもらぐーんさんもマインビルダーズのプレイヤーであったことを思い出す。

 

「豆腐建築の意味なら知ってるぞー? まっ、それじゃあ私は試しに工場の向かいに作った畑に、ジャガイモと人参を、アイテム欄から適当に出して植えてるわ。 育ってくれればいいんだけどなぁ」

 

 

「へーい。 ロボステーション出来たら知らせるわー」

 

 

 

 ここで一旦作業を分担することにし、らぐーんさんを抱っこする。

 

 

「おい? ちょい待て、リンカ様―――」

 

 

 何か嫌な予感がしたのか、らぐーんさんが何か口にするが……その前に私は、《祓迅――アクセル》を唱えてしまい、歪になった区画前まで駆けていく。 強化された脚力が生み出すスピードは凄まじく、そこそこ距離のあったはずの区画にも、あっという間に辿り着いてしまった。

 

 

「―――……リンカ様。 次抱っこするときはせめてゴーグルくらい準備させろ。 目が乾いて仕方ないぞ」

 

 

「あぅ……ごめんね?」

 

 

 あんなに速度が出るとも思っておらず、下ろしたらぐーんさんが、アイテム欄から取り出した目薬を挿してる姿に、謝罪する。

 

 

「あまり気にするな。それより、手早く工場の建築を頼むぞ?」

 

 

「へーい、ちゃちゃっとつくるねー」

 

 

 

 早速作付けに入りだしたらぐーんさんに背を向けると、私自身も建築画面のコンソールを虚空に呼び出し、建築に着手する。右側が削れた台形のような、本当に歪な形に合わせるように土台を配置しつつ、完全に配置し終えると、今度はトタン壁を建物二階分に相当する形で積み上げる。

 

 そして壁際に中二階のようなロフトスペースを構築し、トタン壁の種類をただの壁から通路用のドアが付いたものや、ガラス窓が付いたものへと変更する。 そして工場の前面に、横長の電動シャッター壁まで設置すると、そこそこ年季の入った外観でありながら、新築の工場という矛盾の塊のような建物があっという間に出来上がった。

 

 工場ともなれば、明かりもラインライトにでもしてこだわるべきかと、平らに張った屋根へライトを設置していると、不意に横から声が掛かる。

 

 

「おー? さっきのなんだ、リンカ様? 壁の形がスライドしてったかと思ったらどんどん変化してたぞ。」

 

 

 

 お試しの作付けを終えたのか、建築に集中してた私の傍に、いつの間にかやって来ていたらぐーんさんが暢気に問いかけてくる。

 

 

「ありゃ、らぐーんさん。 待たせちゃったか? こっちは後はロボットステーションを置けば完成だからちょっと待ってね。 いや、ちょい待って。リアリティ出したから、壁にいくつか換気用の有圧換気扇を付けるね。」

 

 

「いや、たいして待ってはいないぞ? けども………おっ? おお……。 あれ? 階段あるってことは、二階にもなんか作るのか?」

 

 

 目ざとく中二階にアクセスできる階段を見つけたらぐーんさんに、あの場所の使いどころを問われると、つい言葉に詰まってしまう。 何も無いよりも、何かあった方がそれっぽいような、そんなノリで作っただけに、どう説明しようかしどろもどろになってしまう。

 

 

「―――え? ………あ、ああ、うん…。 なんか思いついたら、うん? 休憩室みたいなの作る、か?」

 

 

 「ノープランかよ」と呆れるらぐーんさんの声に、つい顔が熱くなり、誤魔化すように頬を掻く。

 取り繕うように換気扇の設置を終え、気を取り直して――いよいよ本命の作業に取りかかる。黄色い産業用アームが4本、円形ステージを囲うように配置されており、 各アームは溶接、把持、加工などのツールを備え、全方向から対象にアクセスできる設計だ。 装置の脇には、旧式コンソールと一体化した制御ユニットが据えられていて、「組立・改修・再生産」に特化した、全自動のロボット製造ユニットだ。

 

 

「おっし……ここまで長かったなー、らぐーんさん。 いよいよロボット作れるぞー」

 

 

「ほーん。 ハリウッドの映画でもなきゃ、まず見れそうにない作業機械だなぁ? それで、どんなロボをつくるんだ?」

 

 

挿絵はこちら

 

 

 出来たばかりのコンソールユニットを起動させ、作成可能そうなロボットの一覧を呼び出す。

 どのロボットも必要な資源が足りているのか、作成自体は可能ではある。 けれども農作業をさせる以上ある程度の頭数が要るか、といきなり高コストのロボットの作成は断念することにした。

 

 

 

「人型モデルで、最初に作れる一番安いやつかなぁ?  頭数要るし、壊れても修理修繕が簡単なくらい安い奴20機位つくるかね」

 

 

「20機か…。 それなら確かに作業する人出としては十分だな。 あ、一応だがな、リンカ様。 作物についてはロードオブミッドガルドの作物でも、問題なくマインビルダーズで作付けした時のようにすぐに芽吹いてくれたぞ。 リンゴを丸ごと試しに植えたら、小さな苗木になったときはさすがに驚いたけどな」

 

 

「グァ…オォォ……」

 

 

 思わぬ朗報に、思わず口笛を吹きながら笑顔になってしまう。

 果実を始めとしたフルーツ類も、おそらく栽培可能そうなことは結構なことだと頷くものの、おかしな声が混じってる気がして首を捻る。

 

「リンゴも収穫できそうなのは朗報なんだけどさ。 らぐーんさん、今なんかの鳴き真似かなんかした?」

 

「ボフゥ…クルルルゥ」

 

「うん? さっきもそうだけど、今の鳴き真似ってリンカ様じゃないのか?」

 

 ロボットステーションでは、唸るような駆動音とともに、ステージ中央に――新たな機体が“生まれよう”としていた最中、お互いに鳴き真似しあっていないことを確認すると、疑問に思って顔を見合わせた瞬間、視界の端にオレンジ色の大きな嘴のようなものが入ってくる。 それを互いに確認しあったのか、らぐーんさんと見つめ合うこと数秒、意を決して視線の先を嘴の持ち主の方に向けると……そこには全高で約160cmくらいの淡いオレンジから茶色がかった羽毛を持った、温厚そうな顔立ちの鳥類が立っていたのだった―――。

 

 

 

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