自分の考えた能力で本当に戦うことになった話   作:今でも雲は綿あめで出来ているって信じてる

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日本の代表的ヒーローに憧れているノート保持者と出会った件

学校終わりノート保持者を探すため俺はこの街を出ることを決意した。

勿論出ると言っても電車でここよりも栄えた街に行くというだけの話しだ。親を心配させないためにも19時前には変える予定だしな。

 

そうして俺は地元から電車で30分程揺られた場所にあるちょっと栄えた街に来ている。とはいえ、流石にここでノートを持って歩き回るとそこそこ目立つ。いや、普通の人は別にそこまで気にはしないだろうが、ノート保持者なら多少気にかかるだろう。特に今はスマホなんて便利なものがあるのだ『態々ノートを見ている。もしかして?』と思う人間がいないとは言い切れない。更に言えばそう思うノート保持者が複数いた場合が最悪だ。ということで現在は、比較的安いカラオケの一室でノートを見ている。

 

そこまでするほどか?と思われるかもしれないが、俺の能力は相手の攻撃を受けて一度だけ反撃をするという都合上、乱戦には滅法弱い。乱戦状態で道具が生成されたりしたら身体能力が並みで防御手段を失った俺はほぼ確実に負けるだろう。

 

この弱点に気が付いた時正直に言ってしまえばなんで多対一や乱戦を想定した能力にしなかったのだと思ったりもしたのだが、まぁ、能力は上位者が調整を加える都合上どこかに弱点が生まれてしまうのは必然で、ならば寧ろ自分で弱点を決められた分良かったと今は開き直っている。

 

それにルール上、乱戦は一定の確率で起こるのだろうが、多対一なんて状況は滅多に起こらないだろう。なんせ、バトルロワイヤル方式で最後の一人を決めなければペナルティがある戦いで誰が好き好んで他人と組むというのか。

まぁ、どうせこの戦いに敗れても死なないなら気軽に徒党を組もうぜと考えている人間がいないとは限らないが、死ななくても殴られたら痛いし、首を絞められたら苦しい、そんな戦いで満足に背中を預けられない人間と共にいたいかと言われて首を縦に触れる人間が何人いるのだろうか。

この点からノート保持者の同盟関係はないと考えても問題ないだろう。

 

…それよりも、折角カラオケ来たんだし歌おうかな?お金勿体ないし。

俺がそう思い、カラオケ店のタブレット端末に手をかけた所でノートのマップにノート保持者を表す黄色いアイコンが映る。

場所はこのカラオケ店から徒歩五分の位置にある公園。移動距離から考えるに相手は徒歩移動。

目的は俺と同じノート保持者を探すためか、それとも仕事や学業などの戦いとは関係ない生活の一環か…。

いや、どちらでもいいな。

俺の能力は相手の攻撃を受けなければ発動しない。ならば先手を打つ必要はない。カッコよく正々堂々勝負を仕掛けてやるとしよう。

 

俺は立ち上がると伝票をカウンターに持っていく。…正直に言えば勿体ないとは思う。俺だってカラオケ店に入ったからには歌いたい。だけど、俺の目的はあくまでもノート保持者を探すこと!ならば、ここでカラオケを優先してノート保持者を見逃してしまえば本末転倒。

俺は会計を済ませ店を出ると未練を振り切るために走り出した。

 

さよなら、俺の一人カラオケ。

 

そうして、走ること3分程、俺はタイミング悪く現れたノート保持者を睨みつける。

 

「ここであったが百年目」

「えっと…?」

「お兄ちゃんこの人誰~」

 

俺でもノート保持者でも無い声。よく見るとノート保持者の手を握る小さな背の持ち主がいた。恐らく小学一年生や二年生程度。

どういう関係だろうか?というよりもタイミングが悪いのってもしかして俺の方?

 

「あ…、人違い、かも?」

 

頬を掻きながら咄嗟に言い訳をする。流石に子供がいる前で血生臭い戦いに身を投じる訳にはいかない。

日を改めるべきだろう。俺がそう考え踵を返そうとすると後ろから声がかけられる。

 

「あ、そうなんですか……あ、あの、もし良かったら交番の場所を教えてくださいませんか!?実はこの子迷子で…ただ俺も土地勘が無くて途方に暮れていた所なんです。」

「え、ええそのくらなら構いませんけど」

 

まぁ、俺自身、そこまで土地勘があるわけではないが、スマホで交番の位置を検索すれば問題はない。

 

「えと、俺について来て貰ってもいいですか?」

「はい、勿論」

 

男は俺の言葉に頷く。子供の方は俺を警戒しているのか男の陰に隠れている。迷子という言葉から察するに長い時間を共にした訳でも無いだろうに随分と好かれていることだ。

正直に言えば態々子供を交番まで送り届けるのはリスクの方がでかいと思っている。

なんせ、道の途上で親と鉢合わせた場合自分が子供を交番に送り届けようとしているなんて自分と子供以外に証明のしようがないわけでそれなら警察署に電話をかけて迎えに来てもらった方がよっぽど良いと思う。

 

『交番の場所を教えてくださいませんか』か…こいつスマホを持っていないのか?それともとんでもない機械音痴でスマホを使うという発想が出てこなかったとか?

いずれにしてもリスクを背負ってまで他人を助けようとするなんて

 

「随分お…お優しいんですね」

 

お人好しと言いかけて焦って言葉を変える。

流石にお人好しは煽りすぎてるからな。

いや、まぁ、『お優しいんですね』も大分煽りだよな。

俺は不安になりちらりと男の方を向く。すると男は子供と手を繋いでいない方の手で頬を掻くと照れくさそうにはにかむ。

 

「実は俺ア〇パンマンに憧れてるんです」

「はぁ、ア〇パンマンですか?」

「ええ、共感できる部分があって…おこがましいかもしれないけど似てるなって思うんですよね」

「それはまた」

 

自分がア〇パンマンに似てるって感じる人間がこの世にいるなんて驚きだ。

 

「ねぇ、お腹空いた~」

 

そんな会話をしていたからか、今まで静かだった子供が男へと声をかける。男は膝をつき子供と目を合わせる。

 

「ふふ、ごめんね。そうだよね。一杯歩けばお腹も空くよね。それじゃあとっておきの物をあげるね」

 

男は自身の頬を引っ張る。

そして、

 

「ほら、お食べよ!!」

 

血しぶきが子供の顔にかかる。男がびちびちと痙攣する自身の頬肉を少年へと差し出す。

瞬間俺と子供の時間が一緒に止まった。

 

「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」」

 

何してるんだこいつ!そんでこいつはなんで自分の頬肉千切って平然としてるんだ!

怖い怖い怖い。どうしよう。折角見つけたノート保持者が飛んでも無い奴なんだが

 

先程まで男にべったりだった子供も首を横に振って暴れている。当たり前だ。あんなサイコ野郎誰でも怖い。

 

「どうしたんだい?ほら一口食べて見な?こんな日が来るんじゃないかって最近は砂糖しか口にしてなかったからきっと甘くて美味しいよ~」

「い、いや」

 

男は親切心からなのか自分の頬肉を子供の口に近づけていく。

それと同時、俺と少年の叫びから周りの人間がこちらに視線を向け始める。

不味い。非常に不味い。俺がこいつと話していることが他の奴に見られてたら俺まで面倒ごとに巻き込まれる。それに、こいつが牢にぶち込まれると接触が困難に…いや、バトルフィールドを展開出来れば問題ないか?そう考えながらも悲しいことに俺は男の手を掴み走り出していた。

いや、だってその場でゆっくり考えてる余裕なんて無かったんだもの。

仕方ない。仕方ないんだ。

 

そして、近くの路地裏に入り俺はバトルフィールドを展開する。

これで一般人は俺達のことを追えないはずだ。

 

「ここは?それよりもなんで急に走り出すんだ!あの子と逸れてしまった。…きっと今も心細いと感じている筈なのに…」

 

おめぇと逸れてホッとしてるに決まってんだろ!そんな俺の本音には気づいていないようで男は呑気にもそんなことを宣っている。

 

「それよりも、だ。あれはなんのつもりだ?」

「あれ?」

「あの、自分の頬肉を食べさせようとした奴だよ!」

「お腹が空いていると言っていたからゾンビとして当然のことをしたまでだけど?」

「なんでそこでゾンビが出てくるんだ!」

「え、だってア〇パンマンだってそうしてるでしょ?」

 

アンパンはゾンビじゃないだろ!

いや

……

 

もしかして

 

「お前、ア〇パンマンのことゾンビだと思ってるのか?」

「え、そうでしょ。ゾンビじゃなければ顔を取ってお腹の空いてる子にあげるなんて出来ないよ。」

「…あんぱんだからだよ」

「え?」

「あんぱんだから、お腹の空いてる子にあげられるんだよ」

「じゃ、じゃあ、頭の交換が出来るのは?あれはゾンビにしか出来ないだろう?」

「あんぱんだから出来るんだよ」

「…え、いや、でも」

「ゾンビの肉なんて食っても子供は笑顔にならねぇよ」

「じゃ、じゃあ僕のやってたことは?」

「無駄、どころかマイナスだな。見てたか子供の引き攣った顔」

「そ、そんな…」

 

男が膝をつき愕然とする。

 

「まぁ、差し詰めノートにア〇パンマンになりたいって願ったんだろうが残念だったな」

「の、ノート?」

「ああ、お前もノート保持者だろ?」

「ノートは持ってるけど…何か関係が?」

 

なんだこの反応。最近似たような反応をされたような…。

『うん?ノート?』

そうだ。そう言えば江宮さんの反応にどことなく似てるような…。だけど、こいつの場合は確実にノートは持っている。俺のノートに反応があったし、何よりもゾンビなんてあのノートでもなければなりはしない。

 

「…おい、ノート見せろ。俺と同じものをお前も持ってるはずだ」

「あ、ああ、それなら、確か」

 

男はリュックサックから一冊のノートを取り出し、俺に渡してくる。

俺はそのノートを躊躇いなく開く。

 

すると目に飛び込んできたのは

『消えてなくなりたい』

その1文だった。

 

逆に言えばそれ以外には何も書いていない。

ゾンビに関する記載など一つも無い。だが、あのノートは願いを叶えるノートではなく、能力を与えるノート。そのことを踏まえると、

 

「お前、もしかして記憶がないのか?」

「え、うん、でもなんで」

 

やっぱりか

恐らくこいつの能力は記憶を失うか、新たな人格を芽生えさせる代わりに限りなく不死身になる能力。『消えてなくなりたい』としか書いていないから能力が上方修正されたって所か。とはいえ、消えてなくなりたいと願った奴に不死身の力を与えるとは随分と皮肉が聞いてはいるが…

 

それにこれじゃあ病みは病みでも中二病じゃなくて鬱とかそっち系じゃないか…。

正直こいつとの戦いはあんま乗り気にはなれないな。

 

俺の能力はカウンター型で耐久型とは相性悪いし。

 

「お前…これからどうすんの?」

「どうするって?」

「いや、だからさ、お前どうしたいんだよ。これから」

「僕…僕は、誰かを助けられる人間になりたい。生きる意味もなく生きていたくなんてない。例えヒーローになれないゾンビだとしても…」

 

家族の顔も以前の自分が何をしていたかも知らないだろうに人の心配か。こいつ本当に馬鹿なんじゃ…だからこそなのか?

 

「…別にいいんじゃねぇの?」

「え?」

「だけど、自分の肉を喰わせるのは止めろ。食わせるならもっと別の物にしろ」

「別のもの?」

「あ~、甘い物とか、子供好きだろ。…あんぱんとか?チョコパンとか?」

「そっか…そうだね。ありがとう!」

「それじゃ、俺はもう帰るから。お前も気を付けて帰れよ」

「あ、名前!名前教えてよ!それと連絡先も!」

「嫌だよ。もう会うこともないだろうしな」

「そ、そんな」

 

俺はノートを開く。すると都合よく『バトルフィールドを退室しますか?』という文字が出たためそれをタップする。バトルフィールドに逃げ込んだはいいが、どうやって出ようか迷っていたのだが無事に出れて良かった。…このノート思考を読んでいるのか?それとも上位者がこちらを観測していたのか…どっちもありえそうで嫌だな。

 

とはいえ、今回はそのおかげで無駄な労力を消費せずに帰れた訳だし、良しとするか。

 

 

数時間後

 

 

家に帰って携帯を弄っているとノートから声が漏れる。

 

『お~い、聞こえてる?僕だよ。ゾンビだよ。君に言われた通りお腹空いている子供にチョコパンをあげたら仲良くなれたよ!他にも道で倒れてるおばあさんや公園に座っていたスーツの男の人、痴漢に遭っていた女の子も助けた後にチョコパンをあげると喜んでくれるんだ!今までは直ぐに逃げられていたのに、君のお陰だよ!痛い思いもしなくてすむし』

「いや!なんで連絡取れるんだよ!」

『ノートに念じたら出来たんだ!』

 

ノートの通話機能ってそんな簡単に使えるものなのかよ!ていうかこいつこの数時間でどんだけ人助けてんの?主人公体質?

 

あとなんであんぱんじゃなくてチョコパンチョイスしてんだよ!

 

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