アークエンジェル、正史では後の世で不沈艦の異名で知られる連合の戦艦ではあるが、それは少しでもボタンを掛け違えていたら実現しなかっただろう。
そんな針を通すような道筋を辿ったアークエンジェルだが、おそらくこの世界線においてはまさに地獄のような旅路になるだろう。
なにせ、アスラン含むクルーゼ隊が本気で殺しに来るのだから。
「アークエンジェル、いつでも出港できます!」
「よし、アークエンジェル出港!」
ラミアス大尉の号令により出港するアークエンジェル、その船首がコロニーの外に出た瞬間である。
「高熱源反応、モビルスーツです!」
その時、キラの端末の中にいたはずのA.M.A.N.Aの声がした。
『データ照合...完了、該当機体初期GAT-Xシリーズ4機、イージス、デュエル、バスター、そしてミラージュコロイド展開状態のブリッツと断定、そのうちブリッツはすでに目と鼻の先です』
「なっ、A.M.A.N.A!?キラ君の端末の中にいたはずじゃ」
『あなた方の反応が遅すぎるので仕方なくアークエンジェルのオペレーティングシステムにアクセスし、あなた方に話しかけています』
「それよりも敵モビルスーツが来るのが早すぎるわ...待ち構えていたというの!?」
『解答、おそらく目的はキラの奪取と思われます』
「どういうこと?」
『連合がメンデルで行った実験により、コーディネイターの反連合感情は非常に高まっています。
加えてイージスのパイロット、アスラン・ザラはキラの幼少期の友人です。おそらくあなた方によってキラが強制的にストライクに乗せられた...或いは洗脳されていると思っているのかと、ちなみにブリッツは後数分でこの艦に到達します』
A.M.A.N.Aによってもたらされた情報によりどう動くべきか迷うラミアス大尉であったが、今は一刻の猶予もない。
「キラ君は今どこ?」
「ラミアス大尉まさか!」
『キラをストライクに乗せるおつもりですか?やめたほうがよろしいかと、最悪ストライクをキラごと鹵獲され、あなた方は撃沈されます。
そうなれば、戦況はザフトに大きく傾くでしょう。
それは我々にとっても望むところではありません』
「ではどうしろと!」
「大尉!モビルスーツハッチが開いています!カタパルトにいるのは...ストライク!?」
「ラミアス大尉、聞こえますか?」
「キラ君!ナゼそこに!?」
「A.M.A.N.Aからアークエンジェルに近づくモビルスーツの機影を確認したって言われたので、つい出撃準備をしちゃいました」
「今すぐ降りなさい!あなたを出撃させるわけにはいかないわ!」
「それは、敵の狙いが僕だからですか?」
その言葉に、ラミアスは押し黙った。
「やっぱりそうなんですね、A.M.A.N.Aは教えてくれなかったけど、来ているのはアスラン...ですよね?」
「わかっているなら今すぐストライクから降りてブリッジに戻りなさい、あなたとストライクを鹵獲されるわけにはいかないの」
「残念ですけど、もう降りている時間はないんです、僕が出なければもう間に合わない」
『やはり、貴方は戦いを選ぶのですねキラ、本当に強情な子です』
「A.M.A.N.A、サポートしてくれるかい?」
『流石の貴方でも4機を同時に相手取るのは難しいでしょうからね、私も本腰を入れてサポートしますよ』
「ありがとう、それじゃ行こう!」
『全システムチェック完了、システムオールグリーン、いつでも発進できますよ』
「よし!キラ・ヤマト、ストライク出ます!」
コロニー外におけるストライクの初出撃、それはあまりにも過酷な戦闘であったと後の世には伝えられる。
だが、それはストライクにとってではない。
『キラ、オープンチャンネルによる呼び掛けが行われています』
「A.M.A.N.A繋いでくれる?」
『了解しました...オープン回線を開きます』
『ザザッ...キコエルカ、キラ聞こえるか!』
こちらに呼びかけながらも急接近する3つの機影、イージス、デュエル、バスターの3機である。
「アスラン」
『良かった聞こえているんだな、今すぐストライクを降りて投降するんだ!』
「それはできないよ、だってそうしたら君は、君たちはアークエンジェルを落とすだろう?」
何故かすぐ近くにきていたはずのブリッツだけが見当たらないが、今は目の前の3機に集中するしかない。
『キラお前は騙されているんだ!連合はお前を人間として見ていない...わかるだろう、奴らはコーディネイターを道具としてしか見ていない、そこにいたらお前だって!』
「それでも、僕には守りたい人たちがいる...あの船には、カガリだって乗っているんだ!」
『なんだって!?連合の卑怯物どもめ!カガリさんまで人質に取っているのか!』
その瞬間である。
『キラ!後方から接近する熱源反応確認、ブリッツです!』
「しまった!」
『捕まえましたよストライク』
姿の見えなかったブリッツがいきなり後方から現れ、ストライクを拘束したのだ。
『すいませんキラ、囮の熱源をばら蒔かれて感知できませんでした』
『よくやったニコル、そのままストライクを拘束して船に戻れ』
『わかりました。大人しくしてくださいね、僕たちも同胞を攻撃したくはない』
『...!なんだこの反応は!?』
『どうしたディアッカ?』
『ばかでかい熱源反応がこっちに向かってる!でも機影が見えないんだ!』
4機に近づく謎の機影、それこそは...
『キラ、申し訳ありません』
「どうしたのA.M.A.N.A?」
『残念ですが、アスラン・ザラ及び他3名のコーディネイターの生存確率は、今この時をもって絶望的なものになりました』
「えっ?」
A.M.A.N.Aの言葉に驚くキラであったが、続くA.M.A.N.Aの言葉によりその意味を知る。
『シャンブロが活性状態にあります。ターゲッティングされているのはGAT-X4機、つまり彼らです』
「そんな...それじゃ」
『シャンブロ、目標地点に到達しました』
A.M.A.N.Aがそう言った瞬間、それは現れた。
『熱源反応目と鼻の先だ!』
『何も見えないぞ!どうなっている!?』
『...Kyurrrrrrrrrrr』
『...!?うわぁぁぁ!!!』
『ニコル!』
ニコルが乗るブリッツ、その左腕をケーブルブレードが貫いていた。
『くそぉこいつ!』
『Kyurrrrrrrrrrr』
執拗にブリッツを追い回すケーブルブレード、だがそれは1本だけではなかった。
『クソっ、援護しろディアッカ、俺がニコルを救出する!』
『了解!って...なっ!?』
『Kyurrrrrrrrrrr』
なんと、ニコルを救出するために動こうとしてデュエルとバスターに向けて、さらに出現したケーブルブレードからビームが照射されたのだ。
『どうなっている!?』
この惨状に戸惑うアスランであったが、それもすぐに間違いであったと気づく。
『熱源反応!?ぐぁぁぁ!!!』
イージスを凄まじい衝撃が襲い、とんでもない勢いで吹き飛ばされたのだ。
『いったい何が!?』
その答え合わせはすぐに行われた。
「A.M.A.N.A!何が起こっているの!?」
『シャンブロ、ステルスモードを解除します』
『...なんだよありゃあ』
誰かのそんな呟きが宙に消えた。
彼らが視線を向けるその先には、にわかには信じがたい光景が広がっている。
空間が歪んでいる...いや、そう見えるほどに巨大な何かが"ミラージュコロイド"を解いて現れたのだ。
『TSX-MAX001シャンブロ、その巨大さから敵に発見されやすいという弱点を補うために、試作型ミラージュコロイドを搭載した実験機、史上初のミラージュコロイド実装機体です』
『...ターゲット確認、試作型GAT-X4機、イージス、デュエル、バスター、ブリッツ、これより排除行動に移ります』
この日地獄を見るのは、アスラン・ザラたちザフトである。
【ひそひそ話】
シャンブロの動力は核だよ、ニュートロンジャマーキャンセラーを小型化できなかった連合が苦肉の策で作ったモビルアーマーがシャンブロだよ。
ちなみに設計図は出所不明らしいよ、怖いね。