傷だらけ異能者の日記   作:アサリを潮干狩り

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第六話

 

 12月14日

 何故か雪浦さんが良く来るようになった。甲斐甲斐しく世話をしてくれるのは有難いが、彼女の生活は大丈夫なんだろうか。少し休め。

 

 それでも何だか暖かい気持ちになった。

 

 

 1月1日

 眠い。

 雪浦さんが泊まりに来て徹夜で年を越した。楽しかったけど眠い。雪浦さん途中から爆睡してたし。

 

 一緒に蕎麦を食べた。年越し蕎麦という概念は知っていたが実行するのは初めてだった。少し楽しかった。

 

 

 

 1月11日

 今日は朝から遠出して病院に行った。最近身体の調子が悪い。腹も痛いし頭も痛い。多分俺の能力のせいだ。

 

 とりあえず見てもらったが治すことはできないらしい。あくまで現在の医療技術では、らしいが。異能でも治すことができるかは分からないと言っていた。

 

 あーあ、最近楽しくなってきたのにな。

 

 そう思った自分に驚いた。

 

 でもこれが一番なのかもしれない。雪浦さんからゆっくり離れていくのが誰にとっても最善だろう。

 

 

 

 1月20日

 やらかした。

 

 雪浦さんの前で血を吐いてしまった。

 

 

 ああ、クソ。

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 12月31日深夜。

 

 柊の家にて。

 

 柊と氷花の二人はテレビの前で座り、眠たげな目を擦っていた。特に氷花の方は今にでも眠ってしまいそうだ。

 

「……ねむ」

 

「せっかくここまで起きたんだから……耐えるぞ」

 

「……ふぁい」

 

 時刻は深夜、日付が変わる一歩手前である。何故こんな時間に二人が集まり起きているのかというと、年越しの瞬間を共に二人で迎える為だ。元々は氷花が言い出したことで、親の許可が取れたとのことで意気揚々と家に乗り込んできたのだ。

 

 来る氷花も氷花だが、許可を出す親も親だと思う柊だった。何故か柊は氷花の親から信頼されている。一度会った事があるだけなのにそこまで信頼される理由はないと思っていた。流石に元異能官と言えど大人の男性の家に向かわせるのはどうかと思う。だが、彼女の母親が言った言葉が柊は忘れられない。

 

『ありがとうございます。氷花を助けてくれて、本当に』

 

 何を助けたのか分からない。自分は異能の使い方を教えただけだ。そう言いたかったが、あまりに真剣な彼女の母親の目を見ると言葉に詰まった。彼女の前では生半可な言葉は通じない気がしたのだ。最後に握手をして別れたがやはり母親は偉大なものだと感じた。

 

 その後、柊は何故か無性に自分の過去を思い出したくなった。自分の母はどんな人だったのか、父はどんな顔だったか、兄弟はいたのか。異能官として無理をしてきて、零してきた過去達を振り返りたくなった。歩んできた道に捨てて来た記憶を。

 

 それでも穴だらけになった記憶は柊の問いかけに答えることはない。

 

 母の事は丸々消えている、父の顔はぽっかりと穴が空いたように思い出せない。居たかも分からない兄弟は有無すら分からない。

 

 

 柊は、もう知っていたのに。

 

 自分は何も無い人間だと。

 

「……ぅ」

 

「……」

 

 氷花の声で我に返る。

 

 横にいる彼女を見るともう限界が近いようだ。うつらうつらと頭を揺らして目を閉じかけている。柊は苦笑いしながら氷花を揺らした。

 

「おい、起きてくれ。君が言い出したことだろ」

 

「……ぅあ……あぶない」

 

 氷花は頭を振って眠気を吹き飛ばす。銀髪が揺れてテレビの光を映した。

 

「そんなに眠いなら寝てもいいぞ?俺は年越しまでは起きてるが」

 

「いや……がんばります」

 

 そう言った氷花だったがもう頭はまともに働いてはいなかった。ほぼ本能のみで応答をしている。

 

 明るい部屋でテレビ番組の声だけが部屋に響く。もう二人共そんなものを見る気力はなく、静かになっていた。柊は考え事で忙しく、氷花は既に意識を失いかけていた。

 

 

 

 

「……」

 

 最近、柊は変わったと氷花からは良く言われるようになった。そしてそれは柊自身も感じる事が出来た。少し心が安らかになった、考え方が変わった。感じたのは普段の生活からだ。

 

 だがそれは氷花にこそ言いたい。氷花は目に見えて性格が変わった。ああなれば同性異性関係なく好感を抱く。変わったのが自分のお陰ならば、柊は嬉しい。少しは自分も人と関わって残せるものがあったのかと。

 

 氷花の将来が気になって仕方がない。彼女は何を成して、誰と恋をして、どんな人生を送るのか。

 

 頬を上げ、氷花の方を見る。

 

「ふにゃ……」

 

 氷花は既に瞼を落としてソファに転がっていた。

 

「……はぁ」

 

 彼女から言い出した事なのに、何故彼女が先に寝るのか。そんな恨み言を心の中で呟きながら、柊はソファに背を預けた。

 

「……あっ」

 

 何だかテレビが騒がしい。そう思いスマホで時間を確認したら、ちょうど年越しを迎えていた。

 

 氷花を見るが彼女はぐっすりと寝ており、起きる気配は無い。白い手足を伸ばしてソファの大部分を占領している。

 

「……あけましておめでとう」

 

 そんな彼女に柊は少し早い新年の挨拶をした。

 

 彼女が少しでも幸福な人生を送れることを願って。

 

 

 ■

 

 

 そして、年も明けて数週間が経った頃。

 

 何時ものように氷花は柊の家を訪れていた。

 

「ど、どうですか」

 

「うん、やっぱり美味しい。君が作る料理は全部美味しいから自信を持った方が良いぞ」

 

「え、えへへ。そうですか」

 

 氷花は珍しく難しい料理に挑戦していた。それを柊に味見という名目で食べさせていたのだ。柊の反応に心を満たされながら氷花は調理器具を片付ける。もう、柊の家の台所は氷花の庭の様なものだ。勝手知ったる柊家の台所を手際良く掃除していく。

 

「急に味見をしてくれって言われてちょっとびびったけどちゃんと美味しいじゃないか。何で俺に頼んだんだ?」

 

「やっぱり柊さんは普段から食べてもらっているので、違いが分かるかなと」

 

「ふーん。なるほど」

 

 氷花は素知らぬ顔で言うが、これは嘘である。

 

 柊に食べてもらう為に、家で試作を繰り返して安全を確認させてから食べてもらっていた。氷花は失敗だけはしたくなかった。柊に少しでも好感を持って貰うという思惑もある。

 

「しかし君が練習するなんてな、誰か食べて欲しい人でもいるのか。もしかして彼氏が出来たのか?」

 

 微笑みながら柊はそう言った。もしそうなら喜ばしいことだ。あの氷花が異性を好きになったという事だから。最初会った時の刺々しい時から考えればかなり成長している。

 

「……いいえ。そんな事、絶対ありません」

 

「そ、そうか。すまんな」

 

 氷花はあまりに冷たい声色でそれを否定した。初期の頃の彼女を思い出す程だ。柊は怒らせてしまったと思いすぐさま謝る。流石に柊も氷花の怒るところは見た事が無かった。

 

「いえ、別に怒ってはいませんよ」

 

「なら良かった、ごめんな」

 

 その後も氷花は特に怒っている様子は無かったので柊も直ぐにそれを忘れた。

 

 食べ終わったあとも氷花は柊の家で寛いでいた。椅子に座ってスマホをいじっている。すっかり家に馴染んだ彼女見て柊は何だか感慨深くなる。一年前までは知り合ってすら無かった人間とこうも仲良くなるとは。昔の柊の交友関係からは考えられないことだ。

 

 

 

「……こほっ!」

 

 寛いでいた柊の口から突然咳が飛び出す。手で抑えていたがこぼれる程強い咳だった。強い咳に氷花も思わず心配する。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ……こほっ……けほっ」

 

 だが柊の咳は止まらない。呼吸が苦しくなる程咳が続く。あまり氷花に見苦しいものを見せるのもあれなので柊は一旦外に出ることを決めた。

 

「……あー、すまん。一旦外に出――げほっ!ごぼっ!」

 

「……ん?」

 

 水音。

 

 何かが詰まったかのような音が柊の喉から出た。明らかにさっきまでの乾いた音とは違う音。

 

 氷花も視線を向ける。

 

 そこには。

 

「……あー、やべ」

 

「……え」

 

 赤。

 

 赤黒い血が、見えた。

 

 手と口を血で濡らした柊がいた。抑えていたであろう手にはベッタリと血液が着いており、口元には血痕が着いている。当の本人である柊は、見られたくないものを見られた様な表情をしていた。

 

 氷花は思わず絶句する。思考が停止する。

 

 柊と血液という最悪の組み合わせに脳が止まる。

 

 その間にも柊は何とか誤魔化そうと頭を働かせていた。

 

「……いや、これは……ケチャップだ……床にあってさ……」

 

 自分でも苦しいと思う言い訳を何とか絞り出す。

 

「……だ、大丈夫ですか!?」

 

 数瞬後、我に返った氷花が柊に駆け寄る。柊の言う事など耳にせずに体が動く。まじまじと彼の手と口元を見るが、明らかに血液以外の何物でもない。氷花の頭が冷えていく。血の気が引いた。

 

「な……何で……」

 

 意味が分からなかった。

 

 予兆すら無かった。突然の吐血。

 

「大丈夫大丈夫。そこまでじゃない」

 

 柊は軽い感じで言うが、そんな事は断じてない。血を吐くという事は身体の中から出血が起きているということだ。

 

「何言っているんですか!早く病院に――」

 

「大丈夫だって、明日に行くからさ」

 

「そんな事……」

 

 その時、氷花の直感が囁いた。

 

 この人は、嘘をついていると。

 

 何の理由も無いものだったが氷花にはそれを確信できた。半年以上共に過ごしてきて培われた柊への観察力がここで力を発揮した。柊の目線、身体の癖、言葉、その全てが言っている。もはや疑いの余地はない。

 

「……嘘、ついてますよね」

 

「え?」

 

 ぽかん、と柊は目を丸くする。

 

「病院に行く気なんてないですよね」

 

「いや、そんな事はないが……」

 

「本当の事を言ってください、お願いします」

 

「……本当だよ」

 

「……」

 

 それでも柊は嘘を貫き通す。氷花にすら本音を心の奥に閉ざさしていた。冷たい嘘を氷花に浴びせる。

 

「……なんで言ってくれないんですか」

 

「明日ちゃんと病院に行くよ、別に嘘じゃない」

 

「……なんで」

 

 嘘、嘘、嘘。

 

 この人は嘘をついている。氷花はそう分かっている。確信している。

 

 それでも柊は何も言わない。普段通りの顔に心を隠していた。

 

 

 そんな柊を見て氷花は、

 

「……どうして」

 

「……な」

 

 その碧眼が、涙目になっていた。宝石のような蒼の瞳が潤んでいく。美貌の顔が悲痛に歪む。

 予想外の氷花の反応に柊も思わず動揺する。

 

「……なんで、ですか。どうして言ってくれないんですか」

 

「……あ、う、いや……」

 

「そんなに……私は頼りないですか?貴方と私は……ぅ……そんなに軽い関係でしたか……?」

 

「……いや、その……」

 

「……ぅ……おねがいします……おしえてください……」

 

 氷花は柊の胸に飛び込み抱きつく。氷花は頭を柊の胸に擦りつける。氷花は心のままに動いていた。

 

 まるで子供のように懇願する氷花に柊も心が揺れる。彼女をこんな顔にさせてしまって良いのだろうか。少しぐらいなら言っても悪い事にはならないだろう。

 

「あー、分かったよ」

 

「……!」

 

「言うから少し待っててくれ」

 

 ばっ、と瞬時に顔を上げる氷花に柊は苦笑いした。柊は赤子のようにくっついている氷花を引き剥がすと、洗面所に行き水を流した。手を翳して口元に付いた血を流す。赤黒い血が流れ、綺麗になったのを確認してから洗面所を後にした。

 

 リビングに戻ると椅子に座っている氷花が居た。催促するように急かす彼女を見ながら柊はゆっくりと椅子に座る。

 

「はぁー。さて、何から話せばいいんだか」

 

 ゆっくりと息を吐く柊は氷花としっかり目線を合わせて言った。

 

「……そうだな。まず、確かに明日病院に行こうとは思っていなかった。これは認める」

 

「……なんでですか、意味が分かりません。貴方は血を吐いたんですよ……?」

 

 揺れる瞳を瞬かせる氷花に柊は優しく語りかけるように言った。

 

「これにはちゃんと理由がある。当たり前の話だが、急に吐血なんてするもんじゃないだろ?そんな人間の身体には明らかな異常が発生している筈、それに気づくのは普通の事だ」

 

「……え……あの」

 

「ましてや身体には相当な不調が来ているのが自然だ。どう考えても直ぐに気付くだろう」

 

 氷花の頭に最悪の考えが浮かぶ。

 

 

 

「前から……こういう事はあったんですか……?それも、ずっと前から」

 

「そうだ」

 

 頷く柊に氷花は愕然とした思いを抱いた。半年以上共に過ごして来て気づけなかった自らの間抜けさに笑ってしまいそうだった。馬鹿な自分を殴りたかった。激情で手が震える、目が潤い始める。

 

「じ、じゃぁ、病院に行こうとしなかったのは」

 

「実はもう何回か行ってるんだよ。前に行ったのは……一週間くらい前かな」

 

「……そんな」

 

 何故一番近くに居たはずの自分が気づけないのか。氷花は彼の事を一番分かっているつもりだった。だが、本当にそれは分かっているつもりだけだったのだ。

 

「……その……原因はなんだったんですか」

 

「……あー、それなー」

 

 柊は悩む素振りを見せた。苦笑いで氷花を見る。

 

「……できれば言いたくないんだが」

 

「……」

 

「分かった分かった、言うよ。だから落ち着いてくれ」

 

 絶望のどん底に突き落とされたかのような表情をする氷花に慌てて言う。それでも柊は言いづらそうな表情で氷花を見た。

 

「まぁ……そのだな……俺の能力のせいなんだ」

 

「……え?」

 

 予想外の言葉に氷花は思わず言葉が漏れ出る。病気や怪我だと予想していたが意味がわからない言葉が出た。

 

 そんな氷花に柊はしっかりと目を合わせて言った。

 

「俺の異能は強力な光を放出する能力って事は分かってるな?」

 

 混乱しながらも、柊の言葉にこくりと頷く。

 

「まぁ……正確に言うと、物体を分解する光を放出する異能なんだが」

 

「……なるほど」

 

 長い間疑問に思っていた柊の能力が明らかになり、氷花はスッキリする。確かにそうなら疑問が解ける。でも、まだ分からないところがあった。

 

「でもおかしいと思わないか?俺の能力が。少し強力過ぎるとは思った事はないか?」

 

「……」

 

 氷花は口を閉ざす。柊の言う事は正直かなりあった。あまりにも柊の能力は人間離れしすぎている。出力が高すぎる、威力が大きすぎる。それは訓練の時にはいつも思っていた。

 

 それを肯定と受け取ったのか柊はそのまま気にせず話し出す。

 

「そう、俺の能力は少し威力が高過ぎる。人の身に余る能力だ。そしてそんな能力を発動する時はそれ相応の肉体、魔力が必要だ」

 

「でも……貴方は使いこなせています」

 

「確かに使えてはいる。発動は出来ている。でも、発動する身体がそれに耐えられるとは限らない。ましてやそれを毎日使う環境なら身体は耐える事は出来ないだろう」

 

「……」

 

 ここまで聞いて、氷花は何となく彼の言いたい事が分かってしまった。彼の就いていた職、その異能、吐き出した血、その口振り。それから察する事は出来た。でも、それはとても残酷なものだった。

 

 暗い雰囲気を出す氷花に柊は敢えて声色を明るくして言った。

 

「何となく分かったみたいだから言ってしまうが、俺の身体が壊れかけているのは異能のせいだ」

 

「……」

 

「補足しておくと、出力を上げた場合だけ身体に負荷がかかる。何時もの訓練程度の発動じゃ身体は壊れない。やっぱり異能官時代の無理がここで来ちまった。あの時は無我夢中で能力を振り回してたからな」

 

「……どれくらい、身体は壊れてるんですか」

 

「そうだな……医者からは手当をしないとあと一年以内に死ぬ事は確実だと言われた。身体の中の魔力に関する所が壊れていて、特に身体の魔力を閉じ込める栓がおかしくなってるらしい。もしこれ以上無理をすれば大変な事になるとか」

 

 そんなの、あんまりだと氷花は思った。何故ここまで頑張ってしまったのか分からなかった。そこまで身体がおかしいと分かっているなら辞める事も出来たはずだ。

 

「どうして……そうなるまで異能官を続けたんですか」

 

「……君と同じだよ」

 

 柊は呟く。

 

「俺も小さい頃憧れたんだ、人を救う異能官に。その憧れだけでそこまで走ってこれた。でも何で憧れたのかは……覚えてないな。多分前は覚えてたんだけど、能力のせいで忘れたみたいだ」

 

「……能力のせいで忘れたんですか?」

 

「そうだな、この能力は身体を全体から壊すから部位の区別は無い。だから記憶も飛ぶし、家族の顔も覚えてない」

 

「……」

 

 言葉も出なかった。

 

 身体の傷だけだと思っていたのに、ここまでの傷があるとは思っていなかった。

 

 ここまで、この人が傷ついているとは知らなかった。

 

 氷花の顔が、悲痛に歪む。

 

「そんな顔しないでくれよ。君が悪い訳じゃないんだからさ」

 

 柊は氷花の頭を優しく撫で、宥める。

 

「でも、でも……貴方は……何も」

 

「俺は悔いなんてない、それだけは断言できる」

 

 力強く柊は言う。

 

「確かに俺は協会が嫌いだ。若者を使い捨てて、それを素知らぬ顔で世間に知らせる協会が。でも、これまで人を救ってきた事は後悔してない。むしろ俺は誇らしい。後悔なんてするはずがない」

 

 氷花はそこに、かつて救われた光を見た。

 

 迷いの無い眼で氷花を見つめるその姿に、目に焼き付いた姿が重なる。ここでやっと確信出来た。

 

 募った想いが、それを決意させた。

 

「だから、別に俺の事は忘れてくれても構わない。多分春か夏くらいまでは持つからそこまでは訓練を続けても良いが」

 

「……やります」

 

 思いを込めて氷花は言う。

 

「そして、貴方を救う方法を探します。まだ人生を続ける事ができるように」

 

 この人を死なせる事なんてありえなかった。絶対に助けると氷花は決意する。

 

「……そんな無駄な事はしないでくれ」

 

「嫌です」

 

 明確な拒絶に柊は目を見開いて驚く。だがここで引く訳にはいかない。もう自分が死ぬ事は決まっているのだ。氷花の貴重な時間を使ってまでする事では無い。

 

「決まってるんだよ、俺がもう死ぬのは。最新の技術でも無理だと言われた、異能でも治るかはわからない。だから無駄と分かってる事に時間を使うのは辞めて――」

 

「嫌です!」

 

 先程より強い声。そこには氷花の固い決意が篭っていた。固く、決して変わらない様な思いが伝わる。

 

 氷花は柊を見つめる。その碧眼が柊を映す。

 

「貴方がどう言おうと、私は貴方を生かします。だって、そうしたいと思ったから」

 

 無駄だとしても諦めたくは無い。諦めるなんて死んでも嫌だ。だって大切な人だから、死んで欲しくない。理由なんてそれだけで十分なはずだ。

 

 

 

 そして、治すことが出来たらいつかこの人に言おう。

 

 

 

 助けてくれてありがとう、って。

 

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