ガンダムシリーズ【魔を滅する転生頑ーSEEDー】 作:月乃杜
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イライジャ・キールが司令を抑えた事で自由を得た叢雲 劾、ユートはそんな彼らと握手をするとアークエンジェルを追って行く。
そしてアークエンジェルに合流したユートは、着艦をしてマリュー・ラミアス達が待っているだろうブリッジへと上がった。
「や、ただいま」
「お帰りなさい、ユート」
「大変だったか?」
「ええ、貴方が言った通りにね」
ユートからの指摘は受けていたが、それでもとアルテミスに行った結果があれでは笑えない。
「僕もアルテミスを通過したけど、矢張りと言うか奴らによるアストレイ欲しさに絡まれたよ」
「やれやれ、欲は身を滅ぼすぜ?」
「確りと罰は与えたさ」
ムウ・ラ・フラガ大尉と笑うユート、これにはマリュー・ラミアスも苦笑いを浮かべてしまう。
「然し艦長、問題も残っています」
「そうね、バジルール少尉」
そう、補給が出来なかったのだ。
「食糧品だけなら多少なり、アルテミスから慰謝料としてぶん取ってきたけど水が問題だな」
「食糧品をアルテミスから?」
「ああ、食糧品置き場になっている冷蔵室に容れておいたから」
あの後、ユートはアルテミスに入ってジェラート・ガルシア少将に食糧品の供出を命じていた。
嫌がってはいたけど、宇宙の藻屑と成るのとどちらを選ぶか二者択一の選択肢を与えたら、驚く程に素直な態度になって食糧品を出してくれたものである。
「それだけでも助かるわ。でも水が無いのは変わらないわね」
生命体は餓えになら多少なりとも耐えられる、然し渇きはどうしても生命活動の妨げだった。
況してや、民間人を戦争に巻き込んだ負い目からマリュー・ラミアスとしては出来るだけ餓えさせたくない、それがキラ・ヤマトくらいの年頃だけではなくもっと幼い子供も居るとなれば。
「さて、どうしたもんかねぇ?」
ムウ・ラ・フラガ大尉には腹案くらいなら有るのだが、実の処は余りやりたい事では無かったから口に出すのを躊躇っている。
どうやら食糧は何とかなりそうだが、水は飲む以外にも風呂やシャワーやトイレにだって使いたい訳だし、何ならMSの洗浄にだって水は使わねばならないのだから大量に必要だ。
「木星であれば水も食糧も豊富なんだけどね」
『『『は?』』』
ブリッジクルーが目を見開く。
「木星ってのは、んな余裕分があんのかよ?」
「何を想像していたのか知らんけど、木星に有るのはスペースコロニーというより人造惑星とでも云う代物。空気も水も木星やその他の衛星に在る資源から造り出せるし、食糧は天然の物だけでなく特殊な植物性の物を加工したフードカートリッジを大量に備蓄してある。食糧品は元より水にも空気にも税は掛からんくらいだね」
「マジかよ……」
驚愕するムウ・ラ・フラガ大尉、マリュー・ラミアスもナタル・バジルール少尉も驚きが隠せずにいたし、アーノルド・ノイマン曹長他クルーもポカーンとした表情となっていた。
因みに他のクルーとは、ダリダ・ローハラ・チャンドラ二世伍長とジャッキー・トノムラ伍長とロメロ・パル伍長の事を云う。
実はユートは美味しく無くても構わないならば水を持っていない訳では無い、錬金術士として造った“ゲヌークの壺”と呼ばれている錬金アイテムを持っており、木星のセイバートロン星に於いては巨大な“ゲヌークの壺”を設置している為、風呂やシャワーやトイレやMSの洗浄などはそれで獲られる蒸留水を使っている。
飲み水に関してはエウロパの海から抽出をした上で一旦、原子レベルにまで分解をして再び水へと再構築をする形で無害化をしていた。
流石に地球産では無いエウロパの海から持ってきた物を、その侭に使う程にユートも間抜けな事は考えていないのだから。
勿論、飲んでも大丈夫だ。
何しろ、星帝ユニクロンばかりかセイバートロン星まで宇宙世紀の世界から引き継ぎする形で、このコズミック・イラの世界へ引っ張って来た形になる為に、住人も一緒くたに持ってくる事になったから彼らも養わねばならない。
つまりは宇宙世紀ででっち上げた木星帝国や、ノイエ・ジオン王国、ザビ星国までもコズミック・イラの世界でユートは養っている。
まぁ、木星帝国の女皇テテニスの皇配である事は勿論なのだけれど、ノイエ・ジオン王国を治めるアルテイシア・ソム・ダイクン女王やザビ星国の星王ミネバ・ラオ・ザビの王配でもあるので、養うのは云ってみれば甲斐性というやつだった。
表の支配者がテテニスとアルテイシアとミネバではあるものの、彼女達の夫役として裏の支配者は間違いなくユートなのだと云う。
テテニス・ドゥガチは出逢うも何も産まれた時から見守っていたし、アルテイシアはサイド7で出逢ってから暫くは交流を続けて割と好い雰囲気に成れる程度には好感度を稼ぎ、ミネバに関してはグリプス戦役の時に掻っ攫っていた或る意味で誘拐犯、ハマーン・カーンが用意した影武者ちゃんもネオ・ジオン抗争後で序でに確保をした。
その所為で? 原典で起きた幾つかは起きなかった出来事も在る程。
影武者ちゃんは兎も角、流石にミネバ・ラオ・ザビ誘拐(笑)は歴史に大きな変化を与えたらしいのだが、実はユートの宇宙世紀の歴史はシャアによる逆襲の次がコスモ・バビロニア建国戦争で、最後にザンスカール戦争だったりするから、彼女の有無で其処まで大きな歴史的動乱が変わってしまうとは思っていなかった。
正確には木星戦役も識ってはいたのだけれど、これに関しては宇宙世紀の世界へ来た時点で乗っていたガンダムエピオン、こいつのエピオン・システムに見せられた破滅の未来が木星戦役後に起きた闘いにて、クラックス・ドゥガチの作戦を止められずに起こると予見された為に、真っ先に潰しに掛かったので木星戦役からして起きてない。
それが真相だった。
それは扨置き、ユートは水の提供が出来るけどやる心算は一切無い。
理由は簡単で、ユニウスセブン跡地とも云えるあのデブリ帯にラクス・クラインが来るからだ。
アークエンジェルがデブリ帯に行かなかった事により、ラクス・クラインが救命挺の中で窒息死でもしてしまったら堪らないのだ。
紆余曲折、自称『不可能を可能にする男』たるムウ・ラ・フラガ大尉がデブリ帯での有用物資を探索するアイディアを出し、ユートはユニウスセブンの事を鑑みて余り積極的には賛成が出来ないとか白々しく言いつつ、キラ・ヤマトやその愉快な仲間達ばかりか他の民間人も巻き込んで折鶴を折ると、マリュー・ラミアスの『決して死者の眠りを妨げたい訳じゃ無い』という言葉を信じて、哀悼の意を捧げてから物資の調達を行った。
ユニウスセブンの膨大な水が真空に投げ出されて沸騰した後に凍結した物も発見、今現在に於けるアークエンジェルからしたら正しく喉から手が出るレベルで欲しい物資であろう。
だけどユートの態とらしい言葉を受けて皆が凍り付いた。
「ユニウスセブンにはキラの親友の母親が、延いてはキラの両親の友人たる女性が去年の二月一四日にも働いていた」
「え? あ……」
ワナワナと震えるキラ・ヤマト、思い出してしまったのだろう、あの運命の日に母親から聴かされたアスラン・ザラの母親の悲報を。
「名前はレノア・ザラ。プラント国防委員長であるパトリック・ザラの奥方であり、彼を超鷹派とした要因こそ“血のバレンタイン”というナチュラルからコーディネイターに
涙を流すキラ・ヤマト、サイ・アーガイル達も血の気が引いている。
「何なら、コーディネイター側も贈り返しに関しては三月一四日のホワイトデーにすりゃ、気の利いたプレゼントだったろうに」
その時は電力――日常の生活エネルギーである原子力発電を喪った闇のホワイトデーだろうか?
余りに過ぎたブラックジョークだったと云う。
「アルスターがコーディネイターを悪く言っているが、その生まれの善し悪しは扨置いて戦端は開かれていとはいえ、戻れないくらいに虐殺非道を最初に行ったのはナチュラル――連合側だったと考えれば、寧ろエネルギー不足を招いたニュートロンジャマーを撒かれたのは当然の報復だろう。連合からしたら運が悪かったよな? ユニウスセブンにプラント評議会の国防委員長の妻が居た、彼には国防の名の許に地球圏へニュートロンジャマーをバラ撒ける権力が有ったんだからな」
妻の復讐、それは鳩派のシーゲル・クライン達は兎も角としても、多くのコーディネイター達から賛同を得られるだけの大義名分となる。
彼の失敗は議員制の中で、議長に成っていたとはいえ独裁者の如く振る舞った事であろう。
議長とは飽く迄も会議の運営を統括する役職であって、決して王や独裁者の事を指し示した言葉では無いのだから。
勿論、彼には心酔をする人間も死して尚相当数が居たから戦後、ナチュラルとの意見調整に奔走をしていたアイリーン・カナーバを邪魔したり、ユニウスセブンを落とそうとしたりとザラ派の名の許にやらかしてくれていたけど。
まぁ、ユートも別に説教臭い事を言いたい訳では無かったし、それに何よりもレノア・ザラは於ろか誰一人としてユニウスセブンの住人は死なせていないので、言っていて虚しいものを感じてしまっている。
かといって、ならばレノア・ザラを返せば良かったのか? という問題でも無くなっているのは連合が平然と核を使った事で解る事。
それに
結論として返しても意味は無いし、二〇万人を越えるユニウスセブンの人々を救うなら代価を支払わねばならない道理、であるからにはレノア・ザラが唯一人で背負った形に成りはしたものの、ユートが獲たのは正当な代価としてである。
対外的にレノア・ザラは戸籍上にて死亡扱い、この時点で彼女は独身者と同様なのも有った。
そういった意味で云うなら、ユートも破滅型のパトリック・ザラやラウ・ル・クルーゼなどとは大して違いは無く、人間としての欲望に忠実だと云えるのだから何を況んやだ。
兎も角、シルバーフレームに乗ったユートと、ストライクガンダムに乗るキラ・ヤマトは無事にラクス・クラインの救命挺を発見、当然の事ながら救命挺を捜していたと思われるジンは撃墜し、そういう意味では誘拐に等しいけど救命挺を拾った形でアークエンジェルへと持ち帰る。
「君達は本当に拾い物を持ち帰って来るんだな、元有った場所に返して来い……とも言えんか」
流石にそれは、ナタル・バジルール少尉からしても良心が咎めた。
「んじゃ、開けちまって構わないんですな?」
「ああ、直ぐにでもやってくれマードック軍曹、本来ならプラントのポッドなど拾って来られても困るだけなのだがな」
ユートを見遣る辺り、嘘か真か木星からの使者とも云うべきユートから地球連合の心証は余りにも良くない、いっその事悪いと云った方が良いくらいにだからこれ以上は悪くしたくないのだ。
メカニックであるコジロー・マードック軍曹は機器を使って、救命挺の開かぬ気密ハッチを開けるべく動き始めた。
機械音が響いてバシュッと鈍い音と共に開かれていく気密ハッチ、その向こう側の扉も開いて飛び出して来たのは……
《ハロ、ハロ! ラクス、ハロ!》
ソフトボールより二回り程大きなピンクの丸いナニかだったと云う。
「へぇ、ハロか」
ユートは識っていたけど態とらしい科白で丸っきり初めて視たと謂わんばかり、そんな遣り取りを他所に――『ありがとう』という、とても可愛らしい御礼の声が奥の方から聴こえてくる。
出て来たのは腰の辺りまで伸ばしたピンク髪の美少女、白い服にピンクのフワッとしたスカートという恐らく普段着だと思われる装い。
「御苦労様です」
それは今、自分がどんな状況下に在るのか全く理解していない科白。
だけど此処が例えばローラシア級ヴェサリウスだったりすれば、自身の救出をしてくれたであろうZAFTの兵を労う至極当たり前の言葉だ。
ラクス・クラインは愛らしい笑顔を浮かべていたけど、フッと荷重が掛かって落下をしそうになったので予測してたユートが抱える。
「大丈夫かな?」
「まぁ、ありがとうございます」
「飛び出し方からして無重力を想像していたのだろうが、この場は軽くだけどきちんと重力制御が成されているんだ。軽いジャンプで地球なんかでは出来ないくらいに跳び上がれるが、あんな風に飛んだりすれば重力に引かれて墜ちるから気を付けた方が良いよ」
「そうでしたのね、申し訳ありません。あら? あらあら? 若しやすると、これはZAFTの艦ではありませんのね?」
「残念ながら地球連合軍の戦艦だ」
「ふふ、ポッドを拾って頂いて本当にありがとうございました。わたくしはラクス・クラインと申しますわ。これは友達のハロです」
《ハロ、ラクス~!》
彼女は“プラントの歌姫”などと呼ばれているだけあってか、肝が据わっているらしくてたおやかな微笑みと共に自己紹介をしてきた。
序でにハロも。
「初めまして、木星帝国の女皇騎士団の団長で、皇女守護騎士にして皇配、木星圏第零傭兵団【スプリングフィールド】の団長にして汎木星圏統合法人【ユピテル財団】の理事長ユート・O・スプリングフィールドと云う」
「まぁ、御丁寧に。それにしても、木星圏……ですの?」
「ああ、人が住んでいるとは思わなかったか?」
「火星にマーシャンの方々がいらっしゃるのは存じ上げておりますが、木星圏にまで生活範囲を拡げられていたのは寡聞にして存じませんでした。ひょっとして、わたくしの勉強不足ですの?」
「いや、地球連合でも知られていなかったから。ラクス・クライン嬢の勉強不足では無いだろう」
「そうですか、良かったですわ」
キラ・ヤマトの顔が真っ赤に燃える、羞恥を見せるなと嫌々叫ぶ!
「いつまでやってるんだよ!」
ユートはラクス・クラインを横抱きにしていて顔も近く、端から視ていればそれはお姫様抱っこをしながら愛を囁き合っているかの様に見えて、実は背後のマリュー・ラミアスの気配が凄まじいプレッシャーを放っていた。
「あら、申し訳ございません」
ユートの腕から降り立ったラクス・クラインはスカートを摘まみ、まるでお姫様そのものだと謂わんばかりのカーテシーを披露する。
本来は目上――貴族が王室の者へと行うというのが一般的だったが、現代ではカーテシーの意味を正しく用いた女性の挨拶に使われていたりするのだが、其処まで厳密なモノでは無いから普通に格式の高い彼女が自然と行ったのだろう。
「御名前はユート様と仰有いましたね、わたくしの事は是非とも“ラクス”と御呼び下さいませ」
「了解した、ラクス」
こうしてユートは、プラントの歌姫たるラクス・クラインとの縁を結んだ。
その後、ユートはラクス・クラインをアークエンジェルの一室へと案内する。
「済まないな、これは地球連合の艦だから君みたいなコーディネイターを良く思わない人間も多くてね。こうして離れた部屋に入れておくしか出来ないんだよ」
「わたくしも自分の立ち位置は理解しておりますもの、どうかユート様に措かれましては御気に為さらないで下さいましね?」
ラクス・クラインは頭が御花畑なお姫様では決して無く、原典の世界では後半に於いて指揮官の真似事が出来る程度には切れる。
ユートは苦笑いを浮かべながら扉を閉めると、恐らくは意味が無いと知りながら電子キーで施錠を終え、ラクス・クラインが喉を潤せる水とお腹を満たせる食事を用意すべく動き出すのだった。
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実はこの作品に言及される前の世界の噺も書いてはいます。漸くセイラ・マスと出逢って仲好くしている程度で、一年戦争にも到達をしていない程度の進み具合ですが……