無限に広がる空の下で愛を紡ぐ   作:亀半

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2話

 

 

(こいつ……)

 

杏子は目の前で足を組んで頬杖を突いている五条紡を見ながら引いていた。

 

(魔女を倒すのを暇つぶしだって? よほど自分の力に自信があるのか、本当のバカか……マミみたいな正義感で戦ってる方がよっぽどマシに思えてくる)

 

「まぁ、いいさ。あんたがどんな理由で戦おうがあたしには関係ないからね」

「じゃあ何で聞いたんだよ」

「そりゃあ気になったからさ。あんたがそのナリで魔法少女ってなら爆笑モンだけど、そうじゃないんだろう?」

 

無駄に高い身長に整った顔立ち、目立つ白髪と蒼い目。願ってそう成った……という可能性も僅かながらにあったが、魔女も知らないなんてのはあり得ない事だ。

 

「当たり前だろ。何処を見て女に見えんだよ」

「悪いね。そう言った願いをするヤツも居そうだからさ」

「あぁ? 願い?」

 

願い、と言う言葉を聞いた紡はオウム返しのように呟く。

 

「──魔法少女は願いから産まれる。そういう存在なのさ」

 

不意に、杏子の背後からそんな声が聞こえてきた。

 

「うっわ、なんだコイツ」

 

とてとてと、真っ白なマスコットキャラのようなナマモノが歩いてきた。

 

「お前のペットか? キモいの連れてんだな」

「ちげぇよ。あたしのペットじゃねえ」

 

紡の眼には目の前のナマモノはとても奇妙だった。魔法少女の杏子と似た様なモヤを纏いながらも、黒く、禍々しさで形取られたような、そんな存在だった。

 

「ぼくはペットじゃないよ。キュゥべえさ」

 

尻尾をゆっくりと振りつつ、紡と杏子の間にお行儀よく座る姿は一見、アニメや漫画で見る魔法少女を導くマスコット的な生き物に見える。

 

「何しに来たんだ、キュゥべえ」

「ぼくが来たのはそこに居る五条紡に興味があったからさ」

「オレはお前みたいな生き物に用なんかねーよ」

「キミはどうやら魔法少女の事について興味があり、ぼくはキミに興味がある。等価交換というやつさ。杏子よりもぼくの方がキミの疑問には答えられると思うよ? 杏子に魔法の力を授けたのはぼくたちだからね」

「ほーん……ぼくたち(・・・・)、ね」

 

たち、と自分と同じ様な存在が複数居ることをを匂わせたキュゥべえに紡はますます目の前の存在が信用できなくなった。杏子はため息を吐きながらきゅうべぇを見ている。

 

「やめとく。キュゥべえ(おまえ)、信用できねーわ」

 

紡の答えにキュゥべえは不思議そうに首を傾げる。

 

「どうしてだい? 互いに損はない取引だと思うんだけど」

「オレさぁ……眼が良いんだよね」

 

紡はサングラスを外す。蒼く輝く美しい宝石の様なその眼はキュゥべえを捉えていた。

 

「なるほど……珍しい眼だね。それもキミの力かい?」

 

キュゥべえは紡の眼を興味深そうに見つめていた。

 

「いーや、これは体質。魔女とか、そう言った存在から魔力っつーの? それを纏う奴が遠く離れてても視認できる感じ。まぁ日常的に見ようとすると疲れるからやんねーけど」

「へぇ、そりゃあ便利だね」

 

眼の力を聞いた杏子は少し羨ましそうにしていた。

 

「魔法少女は普通の人間の上に緑っぽいモヤを纏った状態。魔女とか雑魚、結界は禍々しい紫のモヤを纏ってる……で、お前はそのどちらでもない」

「ふーん、じゃあどんな風に見えてるんだい?」

「ドス黒い塊に薄い緑のモヤを纏ったナマモノ」

 

杏子は紡の言葉を聴いて想像してみたが、何となく気持ちが悪いという事は理解できた。

 

「仕方がない。今回は諦めるとするよ」

 

交渉の余地がないと理解したキュゥべえはやれやれと首を振りながら本来の目的を果たそうとする。

 

「さあ杏子、グリーフシードを貰うよ」

「ん……あぁ」

 

キュゥべえに急かされた杏子は先ほど手に入れたモノをポケットから取り出した。上部に王冠の様な装飾、中部には黒い球、下部が針状に尖っている。杏子がグリーフシードを自身の髪色と同じ宝石の様なモノに押し当てると、少し濁っていた穢れの様なモノがグリーフシードに吸収され、綺麗な輝きを放った。

 

「へぇ〜……」

 

(そういや、コレと似たようなの家に置いてたな)

 

何かに使えるかも知れないと何となく集めていたが、まさかこういう用途だったとは。

 

「ほらよ」

 

杏子は穢れを吸収したグリーフシードをキュゥべえに投げ渡す。すると、キュゥべえの背中に描かれていた赤い丸の模様が口の様に開き、捕食した。

 

「きゅっぷい」

 

可愛らしい鳴き声をあげたキュゥべえはそのまま去っていった。

 

「キモ……背中に口付いてんのかよ」

 

うげぇ、と態度と顔にわかりやすく表す紡に杏子も気持ちが分かるのか頷いていた。

 

「んで、あたしには教えてもらえるのかい? アンタの力ってやつ」

 

(力に自信があるっつー見た目じゃ無さそうだし、やっぱり特殊なモンか? ま、変な事しようとするならバッサリ行ってやる)

 

杏子は紡の動作に警戒を解かず目を逸らさない。

 

「杏子……お前、無限って分かる?」

 

紡は杏子に手を伸ばしながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「──マジかよ」

 

杏子は目の前の現象が信じられずに目を丸くしていた。

 

「これがオレの術式……あー、お前らで言う固有魔法ってヤツ?」

 

杏子は突き出された手に自身の武器である槍を突き立てていた。本気で来い、と言われた為最初は断ったが紡が『え? 自信ねーの? その武器飾り?』など語尾にwが付きそうなくらい煽り口調で来た為、少しだけ、ほんの少しだけカチンときた杏子はお望み通り槍を振るった。

 

「無限だって?」

「そ。ものすごーく簡単に言うと、お前とオレの間に無限に続く距離を作ることで絶対に攻撃が当たらねえ。魔女だろうが魔法少女だろうが例外なく」

「んだよそれ……ズルもいいとこだろ」

「分かった? 要するにオレ、最強なの」

 

要するに無敵のバリアと言い換えれば良いだろう。紡の自信も、魔女退治を暇つぶしと言い切る態度もバリアを持っていたなら納得できる。

 

「あー、腹減った。な、ラーメン食いにいかね?」

 

ぐぅ、と低い音を奏でた腹部を摩りながら紡は言う。

 

「あぁ? 行きたきゃ一人で行きな」

「いいじゃん。どうせ暇だろ?」

「暇じゃねーよ、アンタと違ってね」

「じゃあ、魔法少女とか教えてくれた礼って事で奢るわ」

「……それならいいよ。付き合ってやる」

 

(こいつ以外とチョロいのか?)

 

紡はそう口に出しそうになったが、自分の腹減り具合を優先した。

 

 

 

 

 

 

⭐︎

 

 

 

 

 

 

「なぁ杏子、お前学校とかどこ行ってんの?」

 

紡の奢りでラーメンを食べ終わった後、近くの公園のベンチで炭酸ジュース片手に寛ぐ紡は世間話の一環で杏子にそう聞いた。すると杏子は眉間に皺を寄せ、少し不機嫌そうな顔つきになる。

 

「別に、行く必要もないから行ってないよ」

「ふーん。それについてはオレも同意。術式の練習とか蔵の書物読んでた方がおもしれーしな」

 

学校に行っていないと言う言葉を特に気にする事なくスルーした紡に杏子は少し驚いていた。

 

「アンタ、良いとこの坊ちゃんだろ? その辺厳しいんじゃねーのか?」

 

五条家はその手の話に興味がない杏子でも聞いた事があるくらい古くからある由緒正しい家系だ。当然、そういった家では勉強とか、礼儀作法が厳しいものだとイメージしていた。

 

「……あぁ、別に。んな事はねーよ。オレはうん百年振りに産まれた逸材らしいし、結構我儘許されてんの」

「そんなに価値があんのか、その呪術って奴は」

「宝くじ一枚で一等当てるくらいすげえらしい」

「ふーん……」

 

まぁ、反則染みた力だしそりゃそうか。杏子は内心そう思っていた。

 

「あ、そうだ」

 

紡が思い出した、と声を上げる。

 

「グリーフシードってやつ? あれオレん家に結構あんだけど、杏子要る?」

 

それは、杏子にとって棚から牡丹餅だった。

 

「そりゃあ……貰えるんなら貰うけど」

 

現状、ここ風見野は杏子のテリトリーとなっているが、いつ他の魔法少女が現れて縄張りを奪われるか分からない。紡の話では既に他の魔法少女がいると言う話で、魔女を安定して狩れると言えなくなってしまう。

 

「何かの役に立つかと思って拾ってたけどオレじゃ使えねーみてーだし」

 

(タダでグリーフシードが貰えるってのは確かに美味い。だが……解せねー。こいつがここまであたしに構う理由があるのか?)

 

何か裏の顔があるのではないか。杏子はぼんやりとそんな考えが浮かんできた。

 

「何でそこまであたしに良くする? アンタに何の得がある」

「え?」

「少し前から顔見知りってだけでちゃんと話したのは今日が初めてだ。そんな相手にそこまでやられちゃ怪しんで当然だろ?」

 

杏子の言葉に紡は腕を組んで何か考えていた。

 

「……確かに! ま、気分だよ気分。深く考えるなって」

「……」

 

それにさ、と紡は言葉を区切る。

 

「オレ、初めてお前と話したけど気が合うと思ってんだ。だから、取引しようぜ。その様子じゃタダでもらうのは抵抗あんだろ?」

「取引ぃ?」

「そ。オレが出すのはさっきも言ったグリーフシード。お前は魔女とか魔法少女見かけたらオレに教えてくれ」

「魔女はまだ分かるけど、魔法少女もか?」

 

目の前の少年が戦闘をしたいという欲があるのは何となく分かった。だが、魔法少女もとなると話は別だ。

 

「魔女はオレの暇つぶしとグリーフシードの為、魔法少女は興味だな。いろんな魔法見てえ」

 

杏子は考える。この取引は杏子にとってやはり好条件と言わざるを得ない。

 

「……分かったよ。その取引乗ってやる。ただし、あたしが損すると思ったらすぐに辞めだからな」

 

おもちゃを買ってもらった少年のような無邪気な笑顔の紡を見て、少しだけなら信用してやってもいいかなと思った。それだけだ。

 

「へへッ……取引成立だな」

 

そう言いながら紡は右手の小指を立てながら杏子の前に出す。

 

「ゆびきりげんまんな」

「いや……小学生かよ。そんな小っ恥ずかしい事やらねーよ」

「まじか。友達(ダチ)ってこう言う事するんじゃねーの?」

「いつからダチになったんだよあたしらは!」

「メシ食って、駄弁ったらダチだってジャンプで見たんだけどな」

「鵜呑みにすんなよ。漫画の話だろ」

「ばっか杏子お前! ジャンプは嘘つかねーだろ!」

 

(……ダメだ! こいつのペースに乗せられてたらあたしまで変な目で見られる)  

 

紡は気づいていないが、周囲の二人を見る視線はまるで初々しいカップルでも見るような温かいモノだった。これがほぼ初対面だとは誰も思わないだろう。

 

「分かった、分かったよ! ゆびきりしたらいーんだろ! ったく……なんであたしがこんな──」

「よっしゃ! ゆーびきりげーんまん嘘ついたら──」

 

杏子は少し頬を赤らめながらも渋々ゆびきりをしたのだった。

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