無限に広がる空の下で愛を紡ぐ 作:亀半
杏子との取引をした紡はまず
『へぇ〜、そいつ強いの?』
『三滝原っつーそれなりにデカい街を縄張りにしてんだ……そりゃあな』
『ふーん?』
『おい、探るような視線は辞めろ。巴マミは三滝原中に通ってるから外で待ってりゃ来るだろうさ。金髪で、縦ロールだ』
『縦ロールって何』
『あー……ドリルみたいなの』
『マジか』
そんなやりとりをしたのち、容姿の特徴と三滝原中の三年生だという情報を頼りに紡は早速三滝原へ向かうことにした。
「三滝原を縄張りにしてる魔法少女ね。杏子はつええって言ってたし楽しみだな」
杏子の言っていた通り、魔法少女というのは仲良しこよしという関係なのは稀らしい。
「電車だり〜……瞬間移動とか、術式で出来るようになんねーかな」
五条家の古びた蔵にある書物では原理上可能とされている長距離への移動手段。無下限の応用による空間と座標の圧縮だと紡は睨んでいるが、今だに成功していない。一直線の短距離ならなんとかできるか、というレベルである。
「蒼はぼちぼち。出力調整ミスる事もあるけどほぼ完成してる。後は何度かやってりゃ慣れるだろ」
紡が蒼と呼んでいるものは彼の生得術式──産まれ持ったモノである無下限呪術から繰り出される技のことである。名前の由来は書物に記載されていた物をそのまま使っている。
練習相手が魔女や使い魔しかいない為、術式の練習があまり出来ないのは紡にとってそれなりのストレスである。
『次は──三滝原──三滝原──』
吊り革を持ちながら揺られること数分。三滝原に到着した紡はあくびをしながら電車から降りた。
「あ……ごめんなさい!」
紡が扉から出た瞬間、乗ろうとしていた少女とぶつかりそうになった。
「わりぃ、こっちも見えてなかったわ」
「い、いえ……こちらこそ……」
ぺこぺこと頭を下げ、少女は急いで電車に乗り込んだ。
(あいつも魔法少女か……結構居るもんだな)
巴マミという優先事項があったのと、少女に何か必死さを感じ取った紡は止めなかった。
「まぁ〜そのうちまた出会うだろ。ピンク頭で目立ってるし」
その少女と同じくらい目立つ風貌の紡は手を頭の後ろで組みながら当初の目的である三滝原中学へと向かう事にした。
⭐︎
特にこれといった問題もなく三滝原中学に到着した紡は何の迷いもなくその門を潜り、ズカズカと下駄箱へと進んでいく。当然、この学校の制服など着ていない紡は周囲から視線を集めていた。その無駄に整った容姿と身長も含めて。
「えーっと……三年の巴……と……」
そんな視線などお構いなしに探していると、紡の耳に女学生の声が聞こえてきた。
「ねえまどか! 今日マミさん家行く?」
「うん。今日はマミさんにケーキの作り方教えてもらおうかなって……」
(マミ?)
話をしている女学生の方へ顔を向けると、ショートカットの青髪の少女とツインテールの桃色髪の少女が楽しそうに談笑していた。
「そこの二人、ちょっといい?」
下駄箱から割り出すなんて面倒な事をやらずに済むと思った紡は笑みを浮かべながら話しかけた。
「え? 誰?」
見るからに他校の、それもタッパのある男子に話しかけられて青髪の少女は警戒していた。
「なぁお前ら今、巴マミの話してた?」
「あ……は、はい。してましたけど……」
桃色髪の少女はキョロキョロと周りを見ながら少し緊張した面持ちで紡の問いに答えた。
「ちょっとまどか! こんな怪しいヤツに真面目に答えちゃダメだって!」
青髪の少女は庇うように前に出てくる。
「は? 何処が怪しいんだよチビコラ」
「この学校の制服着てない時点で怪しいし無駄にでかいし真っ黒な丸サングラスつけてるし髪の毛白いし怪しいところしか無いじゃん! てかあたしはチビじゃないしあんたがデカすぎるだけだから!」
「ハァ?」
側から見れば柄の悪い不良に絡まれる少女たちである。止まる事なく反論された紡は額に青筋を浮かべながら内心歯軋りをするくらいカッチーンと来たが、ここでプッツンしてしまうとせっかくの情報が逃げてしまうのでここはグッと耐えることにした。
「……ふ〜、お前ちょっと退いて」
「いだだだだ!」
女子だろうがお構いなしに頭を片手で掴み、若干力を込めながら退ける。
「さ、さやかちゃん!?」
「話戻すけどさ、巴マミの連絡先分かる? それ知ったら帰るしさ」
「え、ええっと……」
桃色髪の少女はさやかと呼ばれた少女が頭を抱えているのを心配そうに見つつも、紡が悪い笑顔(少女目線)をしているのでどうすればいいのか分からなくなっていた。
「あー、じゃあさ。巴マミに佐倉杏子の使いで来たから時間空いてたら連絡くれって言っといてくんない? これオレの番号ね」
「え? あ、あの……」
半ば押し付ける形で番号が書かれたメモを少女に握らせた紡は用は済んだとばかりにスタスタと去っていく。
「な、なんなのアイツ……! まどか、怪しいからその紙捨てときなよ!」
「う、うーん……でも、なんだかマミさんに用があるのは本当みたいだし──」
そんな会話を尻目に欠伸をしながら去っていく少年の姿を少女──
(あの人……何処かで見たような?)
初めて会った筈──なのに、どこか既視感を覚えたまどかは悩みつつもマミにメールを送ることにした。
⭐︎
「
まどかがマミに連絡を取っていた時、紡は甘い匂いに釣られて屋台のクレープを買って食べていた。すでに彼の隣にはクレープの包装紙が3個ほど置かれていた。
「ん?」
4個目に手を出して食べている最中、紡の携帯電話が震える。確認すると番号だけが表示されており、誰からかは分からなかった。
「もっしもーし! わりぃ! 今クレープ食べてるから切るわ」
『え? あの、ちょっ──』
クレープに舌鼓を打っていた紡はクレープを優先し電話を問答無用で切った。直後にもう一度通話が掛かってきたが当然無視をする。
紡がクレープを食べ終わったのはそれから10分ほど後であった。
「もしもーし」
『……もしもし? ええと……貴方が佐倉さんからの使い、で間違いはないかしら?』
切られた上に待たされたマミの声は若干低く、少し怒っているのが分かった。
「そ。五条紡ってんだけど、そういうアンタは巴マミでいい?」
『ええ。それで……何の用かしら?』
「用? 無いけど」
あっけらかんと言い放つ紡に電話越しのマミは理解できずにへ? と少し間抜けな声をあげた。
『あ、貴方が佐倉さんに何か言われて来たって鹿目さんに聞いたのだけど……』
「あーそうだったそうだった。それ、建前ね。オレがあんたに興味あったから会いたかったの。あ、これも用に入るか」
『きょ、興味?』
電話越しの声が何処か上擦ったような気がした。
「出来れば直接会いたいんだけど、会える日教えてくんね?」
『ちょ、直接!? い、いいわよ?』
魔法少女の魔法が見たかった紡は直接見せてもらわないと意味がない。そういう意味合いでの言葉だったのだが、マミは何かを勘違いしてしまったらしく、彼女の脳内では別の事だと捉えられていた。巴マミは多感な時期だった。
電話越しにも伝わるくらいソワソワした様子のマミに紡は変わったやつだな、と思いつつも会う日程を取り決めたのだった。
──数日後。
杏子とゲームセンターに行ったり、話題のスイーツを食べに行ったり、杏子の弟子だと言い張る小さな子供の相手をしながら時間を潰していた紡は巴マミとの約束の日、その時間に大幅に遅刻していた。
「くっそー杏子のやつ! あそこで貧乏神押し付けるか普通?」
ブツクサと呟きながら目的地へと向かう紡だが、急いでいる様子は全くなく、むしろ段々遅くなっているくらいだ。この日を思い出したのもゲームをしていた杏子から『なんか用事あるとか言ってなかったか?』の一言が無ければ完全に忘れていただろう。
「お……アレが巴マミか。本当にドリルじゃん」
数分後、待ち合わせの場所に着いた紡は当人が聞いたら怒りそうなセリフを吐きながら近づいていく。
「おっはー。アンタが巴マミでいい?」
白い無地のシャツに黒いパンツと洋服店のマネキンが着ていた物をそのまま買って着てきた真っ黒なサングラス姿の男に声を掛けられた少女は少し肩を揺らしながら振り向いた。
「え……ええ! 私が巴マミよ」
巴マミは今日という日の為に気合いを入れて準備をしてきていた。具体的にはいつもの1.5時間くらいは身なりに気を使うくらいには。
「オレが五条ね。よろしく〜」
「よ、よろしくお願いします!」
巴マミから見て五条紡という人物は容姿に長けていた。おまけに背も高く、まるでモデルのようだと思っていた。
「何で緊張してんの? ウケる」
緊張した面持ちのマミを見てフッと笑う紡を見てマミは少し顔を赤らめる。
「んじゃあ行こうぜ。人目がすくねー方がいいし」
「えっ!? も、もう!? そんな……私たち、会って間もないのに早すぎると思うわ!」
「ハァ?」
何を言っているか理解出来なかった紡は首を傾げる。
「ま、いいや」
第一印象で巴マミ=変わったヤツ認定した紡は頭を掻きながら歩き出す。紡としては実力と魔法が見れれば他はどうでも良かった。
「あ……ま、待って!」
マミは歩き出した紡を見てハッと我に帰り、駆け足で追いかけた。
⭐︎
歩く事数十分。無言で目的地に進む紡とチラチラと顔色を伺いながら何か会話をしようとするマミだが、一見不機嫌そうに前を歩く紡に中々話が切り出せずにいた。
「着いた」
立ち止まった場所は過去に経営難で倒産した工場の跡地だった。
「んじゃあ早速だけど変身してくんね?」
「変身?」
「そ。魔法少女に」
紡が魔法少女という単語を出した事でマミは驚く。
「何故、貴方が魔法少女の事を……?」
「杏子から聞いた。アンタがつえー魔法少女だって事も」
「佐倉さんが……」
杏子の名前を聞いたマミは何か思うところがあったのか、少し考え込む。そして、今までの自分の行いがまるで走馬灯のように脳裏を駆けていった。
「あ、あの……貴方の目的は何なのかしら?」
「あれ? 言ってなかった? アンタの魔法が見たいからちょっと戦ってほしいんだよ。オレと」
「た、戦う? 貴方と?」
「そ。あー、オレの事心配とかしちゃってる感じ? 大丈夫大丈夫。オレ、最強だから」
自信満々に言い放ち、笑みを浮かべる紡を見てようやく自分の勘違いに気づいたマミは顔を真っ赤に染め、その場でしゃがみ込んだ。
「何してんの」
「言わないで、聞かないで!」
おませな少女 巴マミはこの日を生涯の黒歴史認定し、絶対に墓場まで持っていくと心に決めた。