無限に広がる空の下で愛を紡ぐ   作:亀半

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4話

 

「……ごめんなさい、取り乱しちゃったわね」

 

数分後、深呼吸をして落ち着いた様子のマミは紡に微笑む。

 

「いーよ別に」

 

紡からしてみれば勝手にマミがはしゃいでいたように見えていただけだろう。実際、こいつ元気だなと思っていた。

 

「それで、本気なの?」

本気(マジ)本気(マジ)。だぁいじょーぶだって」

 

ポケットに手を突っ込みながらコクコクと頷く紡を見てマミは内心不安だった。

 

(この人……本気で戦おうとしているわ。魔法少女と)

 

巴マミは所謂ベテランの魔法少女である。幾度となく死戦を潜り、策を用いて魔女を討伐してきた。友人と呼べる存在も最近二人出来、前よりも充実した日々を送っていた彼女は今回の誘いを自分にも春が来たのか? と浮かれてしまった。──結果は、自分の勘違いであったというオチだが。

 

(魔力……は感じられない。やっぱり、普通の人、よね?)

 

目の前で指をパキパキと鳴らしながら返答を待つ背の高い少年を見てマミはどうするべきか、考えがまとまらなかった。

 

「ったく、しょーがねーな」

 

紡は悩むマミを見てため息を吐いた後、右手を伸ばし、指鉄砲の形にする。

 

「何を──?」

「まぁ見てろって」

 

ニヤリと笑みを浮かべた紡は指先に呪力を集中させ、そのまま弾丸のように放った。

 

刹那、工場跡地に大きな爆発音が鳴り響く。

 

「!?」

 

マミは驚きのあまり口をぽかんと開けたまま固まっていた。視線の先には野球ボールくらいの大きさの穴が開けられており、彼女のよく知る魔法の様だった。

 

「これがオレの力……まぁ、魔法と似たようなモンって感じ。詳しく説明すると長くなるから今はナシ。杏子から聞いたけどアンタってベテランなんだろ? まぁ初心者と手合わせする感覚でやってくれりゃいいよ」

「……分かったわ。そこまで言うのなら、戦いましょう」

 

ふぅ、と軽く息を吐いた後、マミは魔法少女の姿へと変身した。やる気になってくれたマミを見て良いね、と好戦的な笑みを浮かべた紡はかけていたサングラスを外す。

 

「へぇ、魔法少女毎に武器が違うってのは本当なんだな」

 

背丈の半分ほどの長さの16~19世紀頃の西欧で使われていたとされる、古風なマスケット銃にリボン。それがマミの主な武器だった。

 

「貴方が強さに自信があるのは分かったわ。一応、ここ(三滝原)を縄張りにしている以上、簡単に負けるつもりはないわ!」

「ヘッ、上等!」

 

そうして魔法少女巴マミと呪術師五条紡の戦いが始まった。

 

「行くわよ!」

 

高鳴る鼓動、自然と上がる口角。今まで相対してきた魔女とは違う、明確な自我を持った敵。

 

「ハハっ! すげーじゃん!」

 

マミの魔法はリボンを操る事。無数に迫り来るそれらを避けながら紡は冷静にそう結論付けた。

 

(あの持ってる銃も、リボンから派生させたモノ。リボンだけじゃ火力が足りねーから銃にしてるっつー感じか。杏子がベテランって言うだけあるな!)

 

リボンが魔法というだけなら強さは感じない。だが、マミはそれを巧みに操り妨害、攻撃、防御へとうまく活用させている。

 

紡が壁の方へと逃げれば蜘蛛の巣のようにリボンを張って拘束しようとし、離れれば鋭利に尖らせて槍のように飛ばしてくる。お返しとばかりに呪力の弾を放てば盾のように形作られたリボンによって防がれた。

 

戦闘経験はそれほど大きなものなのか、と紡はマミへの評価を大きく上げた。

 

「避けてばかりじゃ、勝てないわよ?」

 

マミも紡の事を観察しつつ一定の距離を保っていた。

 

(大きく仕掛けて来る様子はない……さっきのあの指鉄砲のような攻撃だけが彼の力? ……いえ、それだけだとは思えない)

 

長年の勘で紡に対して何かを感じ取ったマミ。彼女は紡の背後にリボンを作り出し、拘束しようと試みた。

 

「嘘!?」

 

彼女から見て避けられる距離では無かったはずだ。なのに、どういう訳か彼の周りで止まってしまった。

 

「驚いた?」

 

無限を身に纏った紡に、攻撃は通らない。リボンが彼を締め付けようと進めば進むほど、その距離は離れていく。

 

「それが貴方の力なのね……」

「そーいう事。言ったっしょ? 大丈夫だって」

 

自分にはバリアの様なモノがあるからお前になんて負ける事はない。口には出さなくとも表情でそう語られていた。わざわざバリアを貼らず、攻撃を避けていたのも彼がこちらを舐めていたからだ。

 

マミはそこまで考えると、ふつふつと悔しさが内から滲み出てくるのを感じた。

 

だから決めた。

 

「そう……なら、そのバリアが何処まで守れるか、勝負と行きましょう?」

 

魔法少女の魔力にも限界があるように、彼の謎の力にもそれがあるはず。マミはとっておきの技で勝負をつけることを提案する。

 

「んー……ま、いっか。いいよ」

 

もう少し楽しみたかった。口には出さなかったが紡はそう思っていた。

 

「行くわよ!」

 

黄色のスカートからマスケット銃を取り出したマミはそれを巨大化させ、魔力を集中させる。

 

「──ティロ・フィナーレ!」

 

そんなマミの声と共に放たれた巨大な魔力のレーザービームは、不敵な笑みを浮かべる紡の全身を瞬く間に飲み込み、大きな爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

 

⭐︎ ⭐︎

 

 

 

 

 

(威力は抑えたつもりだけど……)

 

勝負を引き受けたとはいえ、相手は魔法少女ではない普通?の人間。謎の力を操るとはいえ、全力の必殺技をぶつけるなど元々正義感の強いマミには出来なかった。

 

──とはいえ、普通の人間が受けたら全治2〜3ヶ月はするであろう威力だったが。

 

(だ、大丈夫よね? 彼、バリアがあるって言っていたし……)

 

砂埃が舞う廃墟の中、一向に姿を現さない紡にマミは焦りを覚えていた。

 

「いや〜〜すげえな。魔法って。思ってた以上!」

 

焦るマミとは対照的に、テンションが上がっているのか大きな拍手をしながら紡は笑顔で現れた。その顔はまるで新しいおもちゃを与えられた子供の様に無邪気だった。

 

「うんうん! 流石ベテラン魔法少女ってだけはあるな! ホントテンションあがったわ!」

 

紡はマミの手を握りながらブンブンと振り続けた。 

 

「そ、それはどうも……?」

 

異性の、それも世間一般でいうイケメンの類に笑顔で手を握られていると脳が認識したマミは、自分でも分かるくらい顔に熱を感じていた。

 

「いや、ほんとすげえと思うよ。あんたの魔法、リボンを操るって感じだろ?」

「ええ、当たりよ。銃だとは思わなかったの?」

「あんだけリボン使われたら気付くっての」

 

紡がそういうとマミもそれもそうね、と笑みをこぼす。

 

「おっと、忘れるとこだった。はいこれ」

 

ポケットに手を突っ込んだ紡が雑に取り出し、マミに向かって投げたのは魔法少女にとって必要なモノ──グリーフシードだった。

 

「何故貴方がこれを……?」

「うちにめっちゃあんだよね、グリーフシード(コレ)。杏子が魔法少女には必要って言ってたし」

 

使うでしょ? と駅前で配られるティッシュのような感覚で渡されたグリーフシードを見てマミは絶句していた。

 

「ちょ、ちょっと待って! うちに沢山って?」

「オレ、暇つぶしで魔女倒してるから結構溜まってんだよね。それ。使い道ねーからダンボールに入れてるけど」

「だ、ダンボール……」

 

魔法少女が命懸けで手に入れるものをダンボールに。雑に放り込まれているのを何となく想像できた。

 

「最近は杏子たちが勝手に使ってるから減ってるけどね。ま、捨てるのも勿体無かったし使い道があるならいいかなって」

 

そう言って笑う紡を見たマミは頭が痛くなった。

 

「あの……佐倉さんと仲が良いみたいだけれど、もしかして、か、彼氏彼女の関係なのかしら?」

 

マミにとって名前で呼び合う仲というのは親友、又は恋人くらい仲の良い男女くらいなものと言う認識だった。故に世間話のつもりでそう聞いてみた。マミは残念ながら異性とまともに話すのは初めてだった為、話題が思い付かず、かつての弟子の名をダシに使ってしまった。

 

「いや、ダチだけど?」

 

悩むことなく言い放つ紡を見てマミはそうなのね、と返すことしか出来なかった。

 

(そうよね……佐倉さんはそう言ったことに興味が無さそうな感じだったし)

 

かつて、コンビを組んでいた少女の姿を脳裏に浮かべたマミは下世話な話だったと反省していた。

 

「そういや杏子はマミの名前出す時気まずそうだったっけ。なんかあったの?」

「ええっと……」

 

勝手に話して良いような内容ではない為、マミは戸惑いながら視線を逸らす。その様子を見た紡はふーん、と首を傾げる。

 

「ま、いいや。それよりさ〜マミってこの後予定ある?」

「予定は無いけれど……」

 

予定など無くて当然だ。マミは当初、勝手に舞い上がってデートの様な気持ちで来ていたのだから。

 

「じゃあ丁度良いな。オレんち来いよ! 杏子もいるし」

「えっ!?」

 

紡は友達は喧嘩をすれば仲直りができると漫画で読んでいた為、合わせておけば何とかなるだろうと、そう思っていた。

 

(ど、どうすれば……)

 

過去に杏子と気まずい別れ方をしているマミにとって、杏子に会うにはそれなりの覚悟が必要だった。

 

「もしもし杏子? おーオレオレ……ちげーよ。菓子の土産なんかねーって。さっきクレープ食ったし──は? 同じの買ってこい? やだよ」

 

(でも、この機会を逃せば私が自分から会いに行くなんて、あるのかしら? 佐倉さんは三滝原には来ないだろうし……)

 

「ゆまには無いのかって? あー……うまい棒で良い?──うっせ! 叫ぶなよ! 分かった分かった。適当にマミに選んでもらうって……いま一緒に居るけど? うん、連れて行こうかなって。あ? お節介は辞めろって? ふーん……ぜってー連れてくわ。覚悟しとけ」

 

ぱちん! と携帯を閉じた音でマミはハッと気付く。

 

「つーわけでぜってー連れてくから」

「え? ちょっ──」

 

紡はマミを横抱きに──俗に言うお姫様抱っこをしてその場から飛び上がる。呪力で強化した身体能力を使い、マミを抱えたままビルを飛び移り高速移動する。驚きや恥ずかしさも相まって叫び続けるマミから目を逸らせば、さぞかし絵になった事だろう。

 

 

 

 

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