無限に広がる空の下で愛を紡ぐ   作:亀半

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5話

 

「ちょ、ちょっと! 降ろして!」

「やだ。なんか逃げそうだし」

「逃げないわよ! お願い、恥ずかしいの!」

 

まさかマミもお姫様抱っこをされながら移動するとはカケラも思っていなかったため、顔から火が出るくらい恥ずかしかった。紡が高速で移動している為、一般人が見る事が無いのが唯一の救いだった。

 

「着いた」

 

マミの叫びを鼻で笑って聞き逃していた紡はある地点でピタリと止まり、マミを降ろす。

 

「こ、此処は?」

「ケーキ屋」

「へ?」

「レコンパンスだって。見てこれ、レビュー良い」

 

笑みを浮かべて自身の携帯を見せる紡。遠慮がちに覗いてみれば、誰かが書いたブログが載っていた。

 

『店員さんも愛想が良く、ケーキの味もピカイチ! 一度食べてみては如何でしょう?』

 

ケーキの種類から各々の味の感想、店内の飾り付けなど個人のブログとしては事細かに書かれたそれは、読んだ人が足を運んでみようと思えるくらいの熱量だった。

 

「杏子はまだしももう一人、うるせーの(ガキ)が居るからな。一人で美味いもん食ったらすぐ泣くんだぜ? ギャン泣き。うるせーったらありゃしねえ……ま、此処のケーキ食いたかったし良いけどね」

 

(後者が理由ね……)

 

この短時間の間でマミは紡がなんとなくだがどんな人物か分かり始めていた。ポケットに手を突っ込みながら歩く姿は柄の悪い不良そのものだが、なんだかんだ杏子やゆまという子を気にかけているのだろう、と。

 

「オレが4個であいつら一個ずつでいっか。マミはどれ食うの? 奢るよ」

「そんな、奢ってもらわなくても……」

「まーまー固いこと言わなくていいって。ついでだし、好きなの選べよ」

 

紡は既に本日のおすすめと書かれたケーキ、無難なショートケーキやチョコレートケーキ、モンブランなどを店員に注文していた。

 

「えっと、じゃあ──」

 

もたもたしていると迷惑になると考え、マミもとりあえず欲しいケーキを伝える。

 

「うし! んじゃあ行こうぜ」

 

箱に詰められたケーキを嬉しそうに持ちながら紡はマミに言う。店を出てからすぐ、マミが後ろをついて来ていないことに気付いた紡は背後を振り返る。

 

「何してんの?」

「あ、貴方が変な行動をしそうで警戒してただけよ」

「そんなに恥ずかしいの? お姫様抱っこって。電車乗るより早かったし良いじゃん」

「恥ずかしいに決まってるでしょ!」

「ふーん」

 

自分から聞いておいたくせに、興味なさげに歩き始めた紡を見てマミはため息を吐く事しか出来なかった。

 

「あ、あの……」

 

ケーキが崩れるのが嫌なのか、普通に電車に乗ると言った紡についていく事数分。マミは口を開いた。決して、無言の間に耐えられなくなったわけではない。

 

「何?」

「その……五条さんは幾つなのかって気になって」

 

160cmほどのマミが見上げるくらい高い身長に日本人離れした容姿。思えばほとんど自己紹介などをしていなかった。

 

「15だけど?」

「え!? お、同い年だったの!?」

 

高校生だとばかり思っていたマミはまさかの同学年だった事に驚きを隠せなかった。

 

「めっちゃ驚くじゃん、ウケる」

「てっきり高校生くらいなのかと……」

「あーそれ、よく言われるわ。杏子にも驚かれたし」

 

それはそうだろう。とマミは愛想笑いをしつつ心の中で呟いた。

 

「あ。そーだ。マミってベテランって言われてるだろ? 他の魔法少女の知り合いいねーの? オレ、もっと他の魔法見たいんだよね」

 

マミの戦闘スキルや魔法にはとても良い経験を得られたと紡は感じていた。魔女たちを潰していくのもいいが、どこまで行ってもこれくらいか。で落ち着いてしまう。故に紡は求めている。刺激という名の戦いを。

 

「ごめんなさい……あまり魔法少女の知り合いは居ないの」

 

マミが申し訳なさそうに言うと、紡もそっか。と呟いた。

 

「やっぱ競争激しいんだな」

「そ、そうね……出会った事はあるけれど、私の名前を聞いて帰る子もいるし、縄張りだって認識されているからか三滝原自体に来ることが無いのかも……」

 

(やっぱ何か怪しいよな〜あのきゅうべぇ(白いの)。漫画とかなら地球を守るために戦う! ってのが多いけど、実際のところ魔女相手に狩りして生活してるって感じだし)

 

──魔法少女は願いから生まれる。そういう存在なのさ。

 

きゅうべぇと呼ばれたナマモノはそう言った。

 

(マミの言い方だと結構他の魔法少女と出会ってるっぽいし、そんだけいるなら魔女なんか狩尽くされててもおかしくねーよな? オレも結構な数倒してるし。やっぱ何かあるな。魔女(・・)の発生条件とか……)

 

「あ、そう言えば……」

 

考え込んでいた紡は何かを思い出したようなマミの声を聞いて、それを中断する。

 

「どうかした?」

「ええっと、ウワサで聴いたことがあるの。その、魔法少女が救われる(・・・・・・・・・)町があるって────」

 

マミは人伝に聞いた話をふと思い出した。所詮はウワサだろうと聞き流す程度だったが。

 

「───へぇ?」

 

 

その一言は、紡の今後を左右する。

 

 

 

 

 

⭐︎

 

 

 

 

 

「ツムグおそーい!」

 

畳の香りがする和室にてクラシカルなワンピースを着た少女が一人、手足をバタバタとさせながら部屋の主を待っていた。その周囲には紡が普段食べているような甘味の空が落ちている。

 

「あんま暴れんなよ、埃が舞うだろ」

 

そんな少女の様子を頬杖を突きながら見ていた少女──杏子は本日何度目かのため息を吐いた。

 

(あいつが一言で止まるような奴だとは思っては無かったが……まさかマミを連れてくるなんて)

 

他の魔法少女の名を聞かれて咄嗟に答えてしまったのが運の尽き、なのだろうか。

 

「ねえキョーコ! マミって人はキョーコのお師匠様なの?」

 

寝転びながら少女──ゆまはそう問いかける。

 

「一応……な」

 

まだ魔法少女になって間もない頃、杏子はマミに出会い、その様に惹かれ、弟子となった。楽しく無かったと言えば嘘になる。

 

「すごーい! じゃあゆまの師匠の師匠だから……大師匠ってこと?」

「……まぁな」

 

11歳のゆまは興奮冷めやまないと言った感じで目をキラキラと輝かせていた。

 

(あたしも……こんな目をしていたのかな)

 

マミと自分の関係、自分とゆまの関係。

 

「……腹、括るしか無いか」

 

五条紡に半ば無理矢理家に住む様に言われてそれなりの月日が経つ。中学生の杏子が一人、アテもなく暮らすことすら危うい世界で、ゆまも連れてとなると、心をすり減らす様な行為に身を染めるしかなかっただろう。

 

『住むトコねーの? ふーん……じゃ、うち来れば? そのゆまとかいうガキと一緒にさ』

『はぁ?』

『杏子も知ってるだろ? うち、広いしデカいから部屋なんか余まくり! 住まれたところでノーダメな訳』

『そこまで世話になる義理は──』

『無理だろ実際。ゆまってガキと二人で家探すなんて。気にすんな、オレたちダチだろ? これも取引のウチって事で』

 

そんな会話があり、杏子は現在も五条家に世話になっていた。初めの頃は何度か出て行こうとした時はあった。だが、その度にゆまが泣き、紡が煽り散らかすと言うコンボが発生した為、今は考えていない。

 

(実際、そこらのホテルより待遇良いしな……)

 

決まった時間にご飯は出るし、布団もいつもふかふかで風呂も広く、使用人たちも深く干渉して来ない。オレのダチだから蝶よりも花よりも丁重に扱え。と言ったことが大きいのだろう。

 

「あ! ツムグ帰ってきたかも!」

 

寝転がっていたゆまが突然立ち上がり、玄関の方へと走っていった。杏子もそれに釣られ耳をすませば、何やら大声で誰かが話しているのが聞こえてきた。

 

『おかえりー!』

『おう』

『あ、ケーキ! ゆまのある?』

『あぁ、あるぜ。感謝しろよ?』

『やったー!』

 

ゆまは紡にかなり懐いており、恐らく兄の様に思っているのだろうと杏子は見ていて感じていた。

 

『貴女が大師匠?』

『だ、大師匠?』

『うん! キョーコの師匠だから大師匠! ゆまね、キョーコの弟子なの!』

『そう……佐倉さんが……』

 

そして、聞き覚えのある声。杏子はホントに連れてきやがった、と小さく溢した。

 

「よ、杏子! 見ろよこれ! この前レビュー良いって言ってたケーキ屋の奴」

 

得意気にケーキの入った箱を見せてくる紡と、肩にしがみついているゆまの姿があった。

 

「ゆまはショートケーキ!」

「ダメ。ショートケーキはオレの」

「えー! じゃあこれは?」

「それもオレの」

「ツムグずるい! ゆまもいっぱい食べたい!」

「バーカ、オレは常人より糖分使うんだからこれくらい普通なの!」

「ずるいずるいずるいー!」

「分かった分かった! 耳元でうるせーな! ショートケーキ食ってろ!」

「わーいやったー!」

 

まるで実の兄妹のように戯れ合う二人を見て杏子はフッ、と笑みを浮かべる。

 

「ひ、久しぶりね……佐倉さん」

 

紡とゆまの争いが始まって少し間が空いた頃、マミが恐る恐る顔を覗かせた。

 

「あぁ……久しぶりだね」

 

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