「ふりゃさん、お聞きしたい事が」
「ん?どったのセサド」
私をセサドと呼ぶのは野原と呼ばれた拠点を運営する、青い短髪の青年の愛称ふりゃさんだ。私はそんなふりゃさんに聞きたい事があり、池でのんびり釣りをしている所を尋ねに来た。
「なぜ……私を勧誘したんですか?」
今も困惑していることを口にした。これが本当に分からない。
彼は冒険者1位の強さと言われたヴェルナを上回る強さで、その強さは最早Sランクの枠じゃ収まらない程にまで逸脱している。
ネフィアで手に入れた神器と呼ぶに相応しい武器や防具を彼は奇跡品質と酷評して大半を鍛冶屋に出荷して売り払っており、冒険者の市場を混乱させたのは記憶に新しい。
「んーそっか、君たしかエレアで長寿だもんね」
「うっ……」
そこ触れられたくは無いんですが……。
エレアである私はエレアというだけで至る所で迫害されて、今までどのパーティに入れて貰う事が出来なかった。
それどころか石を投げつけられる始末で、村八分ならぬ大陸八分でどの宿屋も使えず、野宿での活動が基本でその日暮らしが精一杯の底辺冒険者のひもじい日常を過ごしていた。私たちの住処である異形の森を出たエレアが送る日常と言ってもいいかもしれない。
「ごめんごめん。自分は種族で差別はしないからねぇ」
「それはココに来てそれを身に染みてますが……」
そう、ここを運営している彼の拠点ではエレアと言う事での差別を許していない。もしすれば彼の魔法というには余りに暴力的な魔力の塊が飛んでくる。
ただ、だからと言ってエレアにとっての逃げ先かって言われるとそうでもない。前に私というエレアが住んでいるってだけで住まおうとしてきたエレアを追い返していたし、エレア撲滅といった過激派が襲撃してきた時には混沌の球を唱えて全員を躊躇なく混沌に落とした。
良くも悪くも個を見る人なのだろう。
「あの時は冒険のメンバーが足りないって事で勧誘しに来てたんでしたっけ」
「そうだね。誰かしら加入させたいなってなってね」
運命の転機と言うべき日が来たのは今でも覚えてる。
冒険者が集うパルミアの酒場で彼が来た時、それまでの騒がしい雰囲気が静まり、彼のパーティに視線が一点に集中していた。
そして冒険者を雇用すると受付に言った時、静まり返った酒場は我先にと自身を売り込む冒険者で溢れかえり、遠巻きに見ていた底辺冒険者達と私はその現場を見て圧倒されていた。
今を生きる伝説と呼ぶべき人の名声はAランクやBランクを容易に動かせるのかと嫌でも思わされた。
「冒険者の強さなら私は下から数えた方が早いDランクですよ?」
「ま、強さで語るならそうだね」
「自身を売り込むAランクやBランクがいたのに、なぜ私の元にきたんです?」
しかし目の前にいるふりゃさんはそんなAランクやBランクに目もくれず、真っ先に酒場の隅っこにいた私の所に来て勧誘していった。
当然、冒険者達からの反感が凄く、罵詈雑言が彼にのしかかった。なぜエレアをメンバーにするのか、高ランクである自分らを差し置いてDランクを採用するのかと、女だから性奴隷にでもするのかと、これでもかと彼を罵る声が止まらなかった。
ただその時、魔法使いである彼はあえて魔法を使わず、肉弾戦で全員を叩きのめして物理的に黙らせにかかった。
冒険者たちも対抗するも彼は一つ一つ回避していき、命中しても物ともしない体幹の強さを見せノックアウトさせていき、死屍累々となった酒場に、血に染まった彼の拳を見て皆震えあがっていたのが印象的だ。
「ん?恩返し」
「……恩返し?私なにかしましたっけ?」
記憶にない。
困ってる人を助けても口汚く罵られて仇で返されるのが基本だったから、誰かを助けて恩を売った覚えが無い。だけど彼の口ぶりからして何かしらの恩を返してくれてるって事だろうか。
「オルヴィナの温泉で溺れそうになったバカを覚えてない?」
「……あー何か居たような気がします」
彼がいうオルヴィナとは、葡萄のワインが名産品として売り出され、併設された露天温泉がある町だ。ただそこは脱衣所が男女共有で混浴だから活用する人はあまりいないのだけども……。
ただ、その温泉で眠り込んで溺れていた人がいるのは覚えてる。癒しのジュア様を信仰している私は思わず防衛反応が働いてその人にレイハンドで緊急回復を使用した覚えがある。そういえば、その人からは罵られた記憶が無いな……。
「あれ、自分」
「……冗談ですか?」
「冗談は言わない主義だよ」
今を生きる伝説が、温泉で溺死しかけたとでも言うのか?だが、唯一罵倒された記憶が無いのがその一幕だけで、しかも何年も前の話だ。それを覚えてるとなれば当事者くらいだろう。
え、サラッと言ってるが、まさか本当に彼がその時の助けた人……?
「その時に助けられた恩から、強くなってパーティに勧誘しようって決めたって事よ」
「……足引っ張りますよ?」
「劣悪な環境で過ごしてたから強くなれてないだけだよ」
劣悪な環境だったのはまさにその通りだろう。野ざらしで寝ていた昔と違い、今は王様が使うベッドを彼は自作し、拠点にいる皆に例外なく提供し、それを私も使う事が出来ている。
場合によっては自生された実を摘み、生肉や何の部位か分からない部位を食べて食いつないでいた時から一転、極上品の料理を振る舞われ、餓えに苦しむ事が無くなった。
昔と比べて明らかに魔力の巡りが良いし、筋力が付いたと思う。ガサガサだった肌も潤いを取り戻してハリがある。
「ま、自分のお気に入りに入ってるから、強くならなくても此処の拠点でのんびり過ごして居れば良いよ」
天井人と言える人からお気に入りと言われ、寄生を許可されるなんて、甘い誘惑どころじゃ無いだろう。これを抗える人はいないと言える。
でもこの言葉に甘えて堕落してしまえば切り捨てられる事案が起きた時、その時今度こそ破滅しかねないと思うとこの誘惑に乗ってはいけない。意思を強く持たなければ。
「いえ、なら私も貴方から受けた恩を返す為に強くなろうと思います」
「そう?物好きだね」
軽くだが、ふりゃさんは笑顔を見せてくれたのは嬉しいが、同時に心臓に悪いなと思う。
彼の魅力は天井知らずで微笑みかければ、一般の女性はそれで魅了されてしまい篭絡する。それに抗うのは大変なのだが、彼は気づいて……気づいてないな。興味が有り、かつお気に入りにならないと目もくれない。
「ま、今はどこかに冒険する気が無いから、のんびり過ごそう」
そう言ってカバンから釣り竿と釣り餌を取り出した。黒い釣り竿だが、これ何で出来てるのだろうか……名状しがたい物質で作られてる気がする。が、手に持って使わせてくれるって事は害は無いんだろう。
「ではお供します」
彼の横に座り、釣り糸を池に垂らした。
欠伸をする彼を横目に静かに誓う。この環境に甘えず、恩を返せるように強くなろう、と。
PCが温泉で溺死した際にレイハンドで蘇生してくれた恩をネタにした短編
覚えてるアビリティが混沌の矢、闇の矢、重症治癒、レイハンドと普通に強い子ですが、なぜかDランクだった冒険者です。
今はSランクになってますよ