G線上のオーガ 作:のの
木刀を白刃取りの要領で、手に取っている隼人だが、そこから反撃することもなく手を離して姫香から距離を取った。
「いやぁ古城さん強いな。流石無敗の女王というだけはある」
「……なに運よく私の居合斬りを掴めたからって、そんな勝ち誇っているの?それに、木刀を掴んでから、長瀬君は打撃や組技すらしてこない…。君は、最大のチャンスを逃したって分からないの?」
姫香は鋭い視線で睨みつけながら、苛立ちを隠さずに話していた。自分が勝ったと思ったのに隼人に木刀を掴まれて居合斬りを阻止され、更に、その余裕そうにしている態度が気に食わないのだろう。
「そうか?『一度ある事は二度ある』って聞いたことないか?」
「それを言うなら、『二度あることは三度ある』だよ。まぁ二度目もないけどね」
二度あることは三度ある、とは物事が繰り返されるため、同じようなことが起こらないように注意すべきことを意味する諺だ。隼人としては一度の成功で十分再現可能だ、と姫香に伝えているのだ。そして、それを理解した上で、二度目はないと姫香は意気込んでいた。
「そうか……。なら見せて貰おうかな。来なよ」
「……ツ!」
隼人に挑発されていると理解していた姫香は、顔を歪ませながら突撃していた。今度は居合斬りの構えではなく、剣道らしい中段構えのままである。ここから上段斬りや突きなど多種多様な技が出すことが可能だ。
つまり姫香ほどの技量を持っているならば、読み切ることは不可能だった……普通なら。
「ハァァァァ!」
姫香が勢いよく隼人に突っ込んできた。これは自分なら隼人の攻撃を的確に躱すことが出来ると踏んでのことだろう。
そして姫香が突っ込んでくるのと同時に隼人は姫香の腹部目掛けて前蹴りをした。これも予想通り、紙一重のように蹴りを体のひねりのみで躱された。
(これで決めれる!!)
姫香は自分が狙い通りのカウンターで、隼人の顔面目掛けて突きをしようとしていた。組手とはいえ、隼人は面もしていないので怪我をさせてしまうだろう。しかし、手加減しようとする気が今の姫香にはなかった。最初であったら、他の場所に突きでも入れようと思っていただろう。
それほどに隼人への苛立ちが頂点に達しており、今までの人生で最大級の苛立ちであった。
姫香という女の人生は、挫折や苦悩というものとは無縁の人生であった。彼女という人物を一言で表す、と完璧であった。学年一の学力と剣道において公式戦無敗。そして、モデルや女優顔負けの類まれなる容姿。男女問わず愛される性格。
特に彼女は戦闘というものが好きであった。亡くなった両親たちの影響も大きく、幼いころから剣道を始めたが、相手との駆け引き技の出し合い。全てが彼女を魅了した。そして天性の才能により身に着いた能力が、“少し先の未来”を予測するというものだ。
これは、隼人の予想通り相手の筋肉や視線・趣旨趣向などを観察し予測するというものだ。しかし姫香は、これを無意識の領域で行えていた。高校生になってからは、意識しなくても体が勝手に避けたりすることが出来るのだ。
だから、隼人がどれだけ戦略を立てても自分の才能が負けることはない、と思っていたのに……。
隼人は顔に迫る木刀の先が迫っていながらも、笑っていた。その笑みは、まるで避けることが出来ると言わんばかりであった。
表情とは裏腹に隼人は少し安堵していた。
(予想通りで良かった……)
隼人は姫香の目のみを見ているのだ。相手と戦うときに目を見るというのは常識だ。しかし常に目を見ているわけではなく、相手の手や動きを観察したりするもので、目のみ見続ける者はいない。
しかし――隼人は姫香の目のみ見ていた。手や木刀などは一切見ていない。
これは姫香のとある“癖”が関係していた。
予想していた隼人は姫香の攻撃を紙一重で回避する。
――ヒュン っと木刀が空気を裂くような音がしたのを隼人は左耳で聞いた。
(お~怖い怖い。しかし気持ちいいものだな、少し未来が読めるというのは!)
「な、なんで!!これじゃ、まるで――」
道場内に姫香の叫び声が響いた。姫香は信じられないと言った顔をしていた。
「まるで、私のようだ?ってか?」