G線上のオーガ 作:のの
学生にとっての土曜日は次の日も日曜日だからか、好きな人も多い曜日だ。もちろん、隼人も例外ではなく、一番好きな曜日は、と聞かれると土曜日と答える。
隼人の“暗殺”の仕事は、毎日のようにあるわけでもなく月に多くても数回あるかないかくらいの頻度である。
暗殺がない休日であっても、体を鍛える、ターゲットの情報収集、射撃や格闘等のトレーニング、やることが多い日であった。基本的に、これらのことをしていると、あっという間に一日が終わる。しかし、今日という土曜日は普段とは違った。なぜなら――姫香から遊びに誘われているからである。
事の発端は、先週の採血事件からであった。あの後、拗ねた姫香の機嫌を取るために、何でもすると言った隼人に、一緒に出掛けて欲しい、と言われたのだ。
休日はやることが多いため、姫香の誘いへの返答に少し迷っていると、姫香の表情が次第に暗く沈んでいくのを感じたため、隼人は慌てて了承してしまったのだ。
(まぁ一緒に出掛けるだけで、あれだけ喜んでくれるなら、願ったり叶ったりだ)
隼人の了承を聞いた姫香は、瞳がキラキラと輝かせながら、「やった!」と拳を握って喜んでいた。
微笑ましそうに見ている隼人に気づいた姫香は、ポッと顔を赤く染めて照れ臭そうにしていたのも印象的だった。
そんな普段とは違い、学生らしい遊び方を出来ることに、隼人は姫香に心の底から感謝をしたい気分であり、姫香以上に今日という日を心待ちにしていた。
*****
体育をサボってから時々隠れながら交流のある姫香と隼人であったが、一緒に二人で出かけるというのは初めてであった。
姫香は学校一と言える程に美少女だ。そして性格もいいため、友人も多い彼女は休日でも予定が詰まっていた。そんな彼女から誘われたのだから、隼人といえ男、気持ちが高揚するのは仕方がない。。
予定時刻の二十分前。さすが土曜日であった、街中は人でごった返しており、どこにいても人の声が耳に入ってくる。隼人はこういう人混みの場所に来ることがないため新鮮な気分でいた。
隼人が待ち合わせ場所の時計塔前に着くと、既に姫香が座っていた。
時計塔を中心に、石造りの円状の椅子があった。数人の家族連れも、そこに座っており、姫香も同様に座りながら、手鏡を見て、髪などを確認している様子だった。
予定時刻より少し早く着いた隼人であったが、姫香に先を越されていたようだ。なんて謝ろうか、と考えながら姫香に声をかけようとすると、彼女の周りに二人の男が現れた。
「ねえねえ、君、高校生?」
「かわいいね?これから一緒に食事でもいかない?」
笑顔と共に声をかけた男性たちは、オシャレな格好をしていている少しチャラい感じの大学生だろう。きさくに、慣れた様子で、姫香に話しかけていた。
「そうですよ。でも、人を待っているので、ごめんなさい♪」
姫香ほどの容姿とスタイルなら、こういったナンパには慣れているのだろう。動揺した様子もなく、返答していた。
「そうは言わずに、緒に来いよ!」
姫香の返答が気に食わないのか、短気な男が彼女の肩を掴もうとした。しかし、姫香が掴み掛かろうしてきた男の手首を素早く掴み、捻り上げていた。
「い、イテェェ!!!」
「お、おい!大丈夫か?お、お前、離せよ!」
(驚きだ…古城さんが武道を修めているのは知っていたが、動きが鮮やかすぎる)
姫香の達人のような、綺麗な動きを見て、その動きに思わず関心させられていた。
しかし、これ以上騒ぎになると、この後の予定にも影響が出そうなので、そそくさと近づき、姫香に掴まれていない方の男の肩を少し力を入れて掴んだ。
「あ、イてぇ!離せ!!!」
隼人が掴んでいる男は、両手を使い、自身を掴んでいる隼人の手を外そうしていた。男を無視しながら、姫香に声をかけた。
「ごめん、待たせたか?」
「ううん、今きたところだよ♪」
男の手首を捻りながら、にっこりと微笑えんでいた。男が痛みに堪えている場面が無ければ、見惚れていただろう、と隼人は思った。
「一応聞くけど、知り合い?」
「まさかぁ~。私が、ナンパされてて不安になった?」
「いや、ソレを見て、安心感しかないな」
「えー、逆効果だ!あ、私の待ち人さんが来たから、ナンパは他所でして下さいね!」
姫香は男達たちに、これ以上自分達に関わるなと、釘をさして掴んでいる手を離した。隼人もソレを見て、掴んでいる手を離した。
「チ……クソ女が!」
「お、おい。やめておけ!コイツ、あの長瀬隼人だ……」
「長瀬……あの、長瀬だってか?」
完全に頭に血が上って、姫香に襲いかかろう、としていたが、もう一人が隼人の名前を出した。そして、二人の男が隼人の顔と体を見やった。
鍛え抜かれたと一目で分かる筋肉と190cmは超える身長。まるで人を殺したことがあると言われるほどに、鋭い目つき。
「そうだ、多分、お前らが想像している長瀬だ。どうする、ここでヤルか?」
隼人が二人の男を怖がらせるために、肩をグルグルとゆっくり回し威圧的な口調で話した。
分が悪いと判断した二人は、姫香と隼人に痛めつけられた部分を抑えながら、その場を立ち去った。
しかし、流石に人目が多い場所で、揉め事を起こしたので、周囲の人間から痛いほどの視線を感じた。
人目が多い場所に普段から来ることもなく、知らない人間から、これほどの視線を浴びたことがなく気分が悪かった。直ぐにでもこの場から去りたいため、姫香の手を取った。
「行くぞ!」
「……うん♪」
姫香は隼人に手を取られて、少し驚いたのか、ビクンと肩を震わせたが、すぐに満面の笑みになり隼人の手を拒むことは無かった。
****
時計塔から少し距離を置いて、隼人は手を離し、姫香に向かい合った。
「悪いな、どうにも、周囲の視線に耐えきれなくて」
「ううん、私も見られてて居心地悪かったからいいよ。そ・れ・よ・り、私の手握ったよね?」
「う、あ、あれは……」
隼人はどう言い訳をしようかと、言葉に詰まりながら思考したが、上手い言い訳を考えつかなかった。その様子を見やっていた姫香は、隼人が考えていることを理解していたのか、クスクスと楽しそうに笑った。
「いいよ、気にしてないから。それとも、今日のデート中、私の手握っておく?」
姫香は小悪魔の如き提案をしてきた、彼女ほどの美貌に言われると男である隼人にも流石に魅了されていた。
「……」
「ごめんごめん。揶揄いすぎちゃったね!」
「あぁ…心臓に悪いから出来ればやめてくれ。…今日の古城さんは、ゆるふわ、な感じだな」
「ゆ、ゆるふわ!!」
ナニソレー、と腹を抱えて姫香は大笑いしていた。隼人からしたら、彼女の服を褒めたつもりでいた。
白を基調とした可愛い目のワンピース。その上から薄い青色のカーディガンを羽織っている。足元はヒール付きのサンダルで、シンプルな装いだ。休日用なのか、髪型は少し高めのツインテールだ。
「そんなに笑わなくても、いいじゃないか……」
「いやぁ、ごめんね。服を褒めてくれたんだよね?ありがとう♪今日のために気合い入れたんだよ!」
「……その髪型もいいな」
「お、これでしょう?普段しないからね。今日の特別仕様だよ♪」
くすくすと笑う姫香はとても魅力のある女の子だった。
「そうなのか。また機会があれば別のも見たい」
「え……うん、わかったよ。でも、長瀬君、意外だなぁ。ジャージとかで来ると思っていたのに」
「いや、流石にな…。まぁこれ以外の服は持っていないけど」
オシャレな白のシャツの上に、黒のジャケット、下はジーパン。全体的に清潔感のある服装であった。