G線上のオーガ 作:のの
集合場所は聞いていたが、今日の目的すら聞いていない隼人は、楽しそうに隣を歩いる姫香を見やった。その視線に気づいたのか、姫香はクスクスと笑いながら今日のプランを話した。
流れとしては、友人の誕生日プレゼント購入し、昼食を食べて、午後からはノープラン、とのことだった。
「今日は、私の大切な友人の誕生日プレゼントを買いに来たんだ。」
「それで俺が約に立てることってあるのか?」
「う~ん、私とその子はね、所謂、小学校からの付き合いだからさ、私のセンスだと毎回似たような物になっちゃうんだよね。だからアドバイスをと思って!」
「人選ミスだろ…。言っちゃアレだが、俺は、普通の感性と少し違うぞ」
「……確かに」
「ま、まあ、ここなら人も多いし、迷ったら参考にすればいいんじゃないか」
二人がいるのは県内でも随一のショッピングモール。休日であれば、若い男女・家族連れであふれている。
「とりあえず、色々見て回ろうよ♪」
「あぁ…。あ、それと俺、ここに来るの初めてだから、店の場所とか聞かれても分からないから」
「え、長瀬君、ココに来た事ないの?珍しい~」
「そりゃ、特に用事とかもないからな」
「なるほどね。私は、季節の変わり目とかになると、いろいろと買う物が多くて、時々ココに来るんだ!」
隼人は、姫香の服装を再び見やって、納得したように頷いた。
「そういえば、言い忘れていたけど、古城さん凄く綺麗だ。普段との印象と大分違うけど、そういうのも素敵だと思う」
「え…え、えぇぇ!!!い、いきなり褒めないでよぉ。不意打ちは卑怯だよ!!」
隼人は姫香の服装や髪型に対して、本音で語ると突如として姫香が慌てたように、大きな声を出した。そして姫香の顔は、リンゴのように真っ赤であり、耳元までも赤くなっていた。
隼人が、このような発言をしたのには理由があった。それは、女性と会ったら服装を褒める、といったネット記事を参考にしたが、姫香の挙動が少し変だが喜んでいるみたいで、隼人は、ホッと胸を撫でおろしていた。
「ほら、古城さん、また騒ぐと人目を集めるから、静かにね」
「えぇ~!私のせい?これは、長瀬君が……。うん、わかったよ」
姫香は隼人のせいだと言いたげな目を隼人に向けていたが、周囲の人からの怪訝な視線を見て、これ以上反論するのを止めた。
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嬉しそうにしながら、ルンルン、と駆け出しそうな姫香の隣を歩きながら隼人は考えていた。先ほどから、友人へのプレゼントを購入する目的を見失っているんではないのかと。
姫香はショッピングモールで自分が欲しくなった物が気になって、複数の店に入ったり出たりを繰り返していた。彼女は性格上、色々と目移りしてしまうタイプのようだ。
ある説を聞いたことがあった。男性は論理的に商品やサービスを評価する傾向があり、女性は感情的に商品やサービスを評価する傾向があると。
姫香を見やっていると、なるほど、と頷ける点が多くあった。しかしながら、特段、隼人としても彼女の行動に不満があるわけでもなかった。人との関わりが無かった隼人にとって、何もかも新鮮であり、何より姫香が楽しそうな表情を見ていると、自分も楽しい気分になるからだ。
「欲しいなら買えば?」
「ん~欲しいっちゃ欲しいんだけど、こうやって見るだけでも十分楽しいんだよ!」
「そういうものなのか」
「そういうものなんです~。この商品を買ったら、どう生活が変わるんだろう!、とか色々想像すると楽しくなるんだよ♪」
「楽しんでくれるのは、俺としても嬉しいけど…誕生日プレゼント忘れていない?」
「あ……」
「忘れてた?」
「忘れてた…!ま、まぁ、これから探せばいいんだよ!長瀬君、何かいいの見つけることが出来た?」
友人へのプレゼントを完全に忘れて、自分が楽しんでいたようであった。隼人としては、嬉しい限りであった。そして、気になっていた商品も既に見つけていた。
「あぁ。二店舗前に行ったところの、髪留めとかいいんじゃないか?」
「髪留めか…。確かに、私の友達、最近になって髪伸ばし始めたんだよね。盲点だったよ!」
「なら、良かった。定番と言われたら、次は、エプロンくらいしかネタが無かった」
「エプロンか…イマドキの女の子は、料理しないこと多いから、貰っても困るかもね」
「そうだったのか。だけど、古城さん、毎日弁当作っているんだよな?」
「あれ、言ってたけ?そうだよ~家の食事は、全て私が作っているんだ♪」
フフンと、 自信満々にそう言い放つ姫香は、隼人の前で露骨に胸を張った。彼女の胸は非常に豊満であるため、店の前を通る男性たちがジッと視線を集めていた。
姫香は、美人であり、豊満なスタイルだから男からの視線を集めることに慣れているのか、見られていることに対して気にしている素振りが一切なかった。
「凄いな。俺は、コンビニとかで買って済ませることも多いな」
「え~それじゃ栄養バランス偏っちゃうよ!今度、私が作ってきてあげるね♪」
「い、いやいいから!」
「まぁまぁ。それなりに私も料理には自信があるんだ!」
「なら、今度作ってきてくれるか?」
「うん、任せてよ♪」
姫香は、頑張るぞ、と言い右手を元気に挙げた。隼人の目の前で大きな胸が揺れている。なんだか、少し照れ臭くなった隼人は誤魔化すように、髪留めが売られている店舗に戻ろうとした。
「ほら、早く行くぞ。時間も無いんだから」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ~」
姫香は、とてとて、と隼人の後ろを追った。
****
そういえば、姫香の友人がどういった人物なのかが隼人は知らないため、髪留めのアドバイスが出来ないと考えて、その子の特徴を尋ねた。
「私の友達?」
「そう、俺、見たことないからアドバイスも出来ないんだけど…」
首をかしげている隼人に、あー、と両手を叩いて、姫香は鞄からスマホを取り出して、友人が写っている写真を見せてきた。
「最近、撮った写真があったはず…。はい、これだよ!」
「な、なんというか。活発な子だね!」
姫香といえば清楚系という印象が強かったが、彼女の友人は意外にも金髪に染めており、端正な顔立ちをしたギャル風な女の子だった。
「そうだよ。多分、見たことないよね?私たちとは別の高校に通っているから」
「そうだな。金髪の生徒がいたら流石に印象に残るだろうし」
それからは、姫香が彼女の友人である“上野沙羅”について搔い摘んで隼人に伝えた。
どうやら彼女の性格は、サバサバしている、とのことで自分の考えを曲げることなく、自身が好きな事を通す、と言った自己中心的な性格のようだった。
「でも、スッゴイ気配り上手なんだよ?私が凄く辛かった時も支えてくれたんだ……。だから、沙羅が困っていることがあったら助けになりたいと思っているんだ」
姫香は過去のことを思い出しながら話していて、時折悲し気な表情をしていたため、どんなことがあったかは深く聞けないな、と隼人は思った。
「……そうか。いい友達なんだな」
「うん、そうだよ。それで、沙羅の髪留めいい案浮かんだりした?」
隼人は沙羅という少女の容姿、性格を考えて、似合う商品を考えた。小ぶりで使いやすい商品がいい、と考えて選んだのが、バンスクリップだ。
「これは、どうだ?」
「おっ!バンスクリップだね!確かに、沙羅がしているところ見たことないし、丁度いいかもね。お値段も手ごろだし……ヨシこれに決めた!買ってくるから、待ってて!」
「了解」
姫香は隼人が提案した商品に対し、数秒考えただけで、決めていた。彼女は、どうやら見た目からは考えられないほどに、決断力があるのだろう。
「お待たせ~そろそろ、お昼の時間だね……。実は――」
「少し昼食前に寄りたいところがあるんだけど、いいか?」
「え、いいけど…長瀬君が寄りたいところ…もしかして何か欲しいものでもあったの?」
「まぁ、そうだな。そうは言っても取りに戻るだけだけども」
姫香は可愛らしく首をかしげた。隼人が欲しがっている物を、ブツブツ言葉にしながら、予想しているようだったが、全部外れていた。
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「ここで少し待ってくれ」
「オッケーだよ」
隼人は姫香と一緒に最後に訪れた、アクセサリー店に入った。姫香からの位置では、隼人が何を買っているのかは分からなかったが、アクセサリーに興味を持ったのかな、と考えていた。
「お待たせ」
「全然待ってないから、問題ないよ」
「そっか。それで、昼飯どこに行くって?」
「それがね……嫌じゃなければいいんだけど……ラーメン食べたいです」
「ラーメン?」
「うん…ラーメン食べたいんだけど、一人じゃ入る勇気も無くて、友達にも頼みにくいし…」
「別にいいけど。俺、ラーメン食べたことないし」
「えぇ!ラーメン食べたことないの?男の子なのに!」
姫香がウソだろう、といった疑いの目を隼人に向けた。
「いや、本当だって。あまり外食とか行ったことないし…最後に行ったのも、いつか覚えてないから」
「へ~!長瀬君は、食事に興味が薄いタイプなのかな?なら、早く食べに行こうよ、絶対に美味しいって保証するからさ♪」
「そんなに美味いのか…楽しみだな。ちなみに、どこのラーメン店に行くんだ?」
「えーと、ココから少し歩くんだけど、いいかな?」
「別に問題ない」
「ヨシ!なら、ラーメン食べに行こうじゃないか!」
姫香が元気一杯に右拳を上げたので、釣られて隼人も右拳をオーッと、上げた。
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ラーメン店に向かう途中で、姫香がラーメンについて隼人に解説した。今回行く場所は、ラーメン激戦区。超激戦区から外れた場所にあるといえども、大手チェーン店も近所に開店しているとか。そこの味噌味が美味しい、とのことだった。
そんなラーメン雑学を聞いていると、少し大きめな公園に入った。隼人は先ほど買った姫香への“プレゼント”をラーメン店で渡すのは、少し雰囲気が悪い気がしていた。人間関係の希薄な隼人でも、そのくらいの常識があった。
「ここの公園の真ん中通って、少し歩くと目的地だよ」
隼人が二人掛けのベンチを見つけたので、ココで渡そうと決めた。
「古城さん、少しいいか?」
姫香は隼人の声を聞き後ろを振り返った。すると彼女の目に映ったのは、隼人から差し出されれている綺麗にラッピングされた箱だった。
「えっと、これって?」
「今日の気持ちっていうか…」
「え、私に?」
「あぁ」
目を丸くしてる姫香であったが、先ほどのアクセサリー店での隼人の行動に合点がいった。
「でも、私プレゼント貰うようなことしていないよ?」
「いいんだ…俺としては初めて一緒に誰かと出かけた、こんな経験は今まで初めてだったから、そのお礼だ」
隼人は人にプレゼントを渡すのは、こんなに気恥ずかしさがあるものなのか、と思った。全身がなんだか、火に焙られているよううな、アツさを感じた。
「嬉しい…開けてもいい?」
「どうぞ」
姫香は綺麗にラッピングを外し、箱を開けるとケースが中に入っていた。ケースの中には、薄紫の宝石がついたピアスだった。