G線上のオーガ 作:のの
「ピアス…」
「古城さんが、ピアスの穴、開けているのが目に入ってな。それに、さっき店で、そのピアス気になっていたみたいだったから……もしかしてダメだったか?」
隼人は姫香へのプレゼントが失敗したのではないか、と内心ドキドキであった。
「ううん、違うの。凄く嬉しいんだけど、なんて表現すればいいのか、分からなくって……ありがとう、大事にするね」
「おう、喜んでくれたんなら幸いだ」
「あのね、これ付けて貰ってもいい?」
姫香は、髪を耳にかける、その仕草が隼人の心臓の鼓動を早くさせた。少し耳元が赤くなっていたが、隼人がピアスを付けやすいように髪を抑えた。
「俺がか?」
「うん…ダメかな?」
「分かった…」
姫香が片手で持っているピアスの箱から一つピアスを取り出した。ピアスの穴は小さいし、何より隼人は付けること自体、初めてなので、かなり緊張しながら、慎重な手つきで彼女の耳に手を近づけた。
風がふわりとその香りを運んでくる、シトラス系のさわやかな匂いが、とても彼女に似合っていると思った。
頬に微かに触れる手が、耳の裏を触る指先により、姫香はくすぐったくて体が動きそうになった。それを堪えるように、唇をギュッ、と結んだ。そしてピアスがカチリと留められる音がすると、隼人の手が離れた。
「もう片方も…」
「はい」
隼人は敬語になっていた。これではまるで、女王とその下僕のような関係だな、と思いながらも素直に、最後のピアスを同じようにして付けた。
「……綺麗…」
手鏡で自身の耳元を見やって、姫香はボソッと感想を述べた。流石に、この距離なので聞こえているし、隼人も同様の感想であった。
改めて隼人は、姫香を見やった。スラっとしたスタイルにツヤツヤの長い髪、アイドル顔負けの美貌。そして黒髪と調和のとれた、薄紫のピアス。また一段階、彼女の魅力が上がったように、感じていた。
彼女が呟いてから、一分程が経過しただろうか。未だに姫香は自分の耳元や髪を弄ったりしていた。それほど気にいってくれたのだろうが、流石に時間も押しているので声をかけた。
「古城さん、そろそろ行こうか」
「え、あ、うん!そうだね。いやぁ改めて、ありがと。凄く嬉しかった」
「気にすんな」
姫香は、ツインテールからポニーテールに髪型を変えて、よりピアスが見えるような髪型にしていた。買ってくれた隼人への気遣いであった。
****
目的のラーメン屋に到着した隼人たちは、店に入った。どうやら昼時を少し過ぎているためか、並ぶことは無かった。
店内に足を踏み入れると、むわっとした熱気と共に、ぎらぎらに脂ぎってそうなとんこつの香りと芳ばしいブシの香り、ネギやにんにくといった香味の香りが混ざり合った、暴力的なまでのかぐわしい香りが鼻腔と脳髄をこれでもかと刺激してくる。
「何名様すかー?」
「二人です」
「お好きな席どうぞー」
初めて入ったラーメン店をキョロキョロと見ている隼人に、姫香は「こっちだよー」と手招きする。店内の香りに気を取られていた隼人と姫香の二人は隣合って座った。
「ご注文は?」
「味噌豚骨特盛、濃いめ」
「え、じゃあ、同じの」
「はいよ」
姫香が注文した内容と同じ内容を注文した。どう注文すればいいのか分からなかったのもあるし、詳しそうな姫香に任せればいい、という判断もあった。店の壁に貼られたメニューから推測するに、大盛りの上が特盛なのだろう、と推測していた。
「お水どうぞー」
店員がコップを二つ差し出す。躊躇いもなく受け取る姫香。そして遅れて、恐る恐る隼人が手に取った。
それからすぐ、姫香たちの前に置かれる味噌豚骨特盛・濃いめ。
隼人は目を見開いた。店内に入った時のゴツゴツとした匂いは、角が取れ洗練された食欲をそそる匂いに変わっていた。しかしながら、コレを学園のアイドルである、姫香が食べれるのだろうか、と不安になった。
隼人は隣にいる姫香の真似をするように、割り箸をパキッと二つ。初めて見るレンゲにスープを汲み、ふーっと息を吹きかけ、麺を食べた。
――――舌に広がる旨味。
(あ、美味しい…)
初めて食べる味であったが、隼人は姫香と同じように、ズルズル、と面を啜って食べてた。意外にも男である隼人より姫香の方が食べるペースが速かった。それなりに大食漢である隼人であったが、それでも特盛の量は満足感ある、と感じるほどであった。
姫香、隼人、完食。
初めてのラーメン屋、意外と大食漢である姫香の姿。隼人は満足感に包まれて店を後にした。