G線上のオーガ 作:のの
ここで待てって、と言われ、隼人は道場に案内されていた。女の子である姫香は着替えと色々と、あるのだろうと勝手に納得し、特にやることもないので道場内を見やった。
姫香が掃除しているのか、鏡のように磨かれた床と、竹刀と木刀が飾られている壁が広がっていた。神棚の前には二振りの真剣のように見える日本刀が置かれていた。
隼人は木刀を手に取った経験はあったのが、竹刀は初めて見たため興味津々で竹刀を手に取った。お~っと内心声をあげた。
竹刀とは、読んで字のごとく剣道の稽古で使用する、日本刀を模した竹製の道具だ。
軽く、ブンブン、と片手で振ると、心地よい風切り音がした。
「お~随分と様になってますなぁ!」
道場内に綺麗な声が響いた。隼人は声のする方向を振り向くと、着替え済ませた姫香がいた。
美少女とは何を着ても似合うらしい。白い木綿の稽古着と、紺色の稽古袴。長い髪をポニーテールにしたら、凛々しい美少女であった。
しかし彼女の不敵な笑みから闘争心丸出しなのが、滲み出ていた。早く隼人と闘いたい、そんな欲望が溢れているのだ。
姫香という女は、戦闘狂な一面もあり、普段の天真爛漫というか明るく楽しい雰囲気とは違って、ギャップというのを感じた。
これが――ギャップ萌え、というやつか!
ギャップ萌えとは、場面によって印象が異なることによって、その人に強く惹かれること、と隼人が教室内で寂しく寝たふりをしていた時に、女子たちが話していたのを盗み聞きしていた。
「……」
「なんか、変なこと考えていない?そ・れ・と・も私に見惚れちゃった?」
「あぁ……これがギャップ萌えってやつなんだな!」
「ぎゃ、ギャップ萌え?アハハ、そうかもね!私が本気を出そうとすると少し性格変わるって、沙羅も言ってたからね♪」
口調はそこまで変化がないが、纏うオーラというのか雰囲気が別人のようであった。ショッピングの時の姫香が明るい雰囲気、とするなら、目の前の姫香はは冷たい雰囲気を纏っていた。
「……そうか。話してばかりじゃなくて、そろそろ、やりたいんだろ?」
「お、分かっているじゃん♪勝負の方法は――」
「ルール無し、先に攻撃を当てた方の勝ち…。こっちの方がいいんだろ?」
先ほどは寸止めでやると言っていた姫香であったが、彼女の纏う雰囲気は明らかにそれ以上を求めていた。その証拠に隼人の言葉を聞き、ニヤリと獰猛な獣のように笑った。
「うん、いいね!そうしようか。やっぱり、長瀬君は、最高だよ♪」
隼人は羽織っていたジャケットを脱ぎ、鍛え抜かれた太い腕を露わにした。そして、壁に掛けられていた木刀を二本手に取って、感触を確かめながら姫香に対面した。
「こっちの準備出来たが?」
「私もいつでも問題ないよ」
相対するのは二人の男女。
分厚い筋肉に覆われた肉体と佇まいから分かる安定した体幹。豊富な戦闘経験を思わせる落ち着いた雰囲気を感じさせる少年。
美しい顔と白い肌、楽しそうな表情を崩さず、居合の構えをとった少女。
まだ開始してもいないが、気配の鋭さ、隙の無さは、今まで戦ったどの人間よりも上だと隼人に確信させた。