異世界より、親愛なる家族へ   作:飛び回る蜂

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兄から妹へ、不変の愛を誓う

 他愛も無い話は続いた。ずっと独りで過ごしていた弟は人恋しかったのだろう、その生い立ちを少しずつ聞かせてくれた。

 聞けば今の年齢は12から13らしい。生き延びるのに必死で細かい数字は忘れてしまったそうだが、どうやら俺とは生まれた年代が10年以上違うようで驚いた。

 だからこんなに小さくか細いのか。そう言ったら「ご飯もあんまりなかったから、ね」と言われあまりに悲しい気持ちになった。

 

 弟にとって最悪の始まりは、そして原作における敵国に、そして戦争の始まる瞬間に生まれてしまったことだ。

 なにせ弟はこの世界で起きている戦争の結末を知っているのだ。もっと早くに生まれていればそれに備えて亡命の手段を講じたり、戦う術を身につけることも出来た筈だ。

 更に運が悪いことに、弟が生まれたのはあまり治安のよくない地域だった。これではまともに勉学に取り組むにも難しい。

今使用できる隠蔽の魔法も必死に捨てられた書籍から情報を書き集めて自力で習得したと言う。

 英雄達を欺く程とは凄まじい才能だと言いたいが、生きる為に必死で会得したそれを手放しに誉めるのは少し、違うと思った。

 

 戦える大人達が戦争に駆り出される中、残された少年少女らがどんな目に合うかを弟はよく知っていた。自分の境遇を正しく理解した弟が取った行動は、隠れることだった。

 どうして知っているのかとは聞けなかった。ゲームの知識と言われればいいが、そうでなければと思うと、聞くのが怖かった。

 拾い集めた新聞から「あのネームド将軍が生きてるってことは、戦争はまだ当分続く」と明確に当たりを付けた弟は、出来るだけこの国の人間に関わらない様、生まれた都市から遠いこの街へ逃げ、息を殺して静かに暮らしていたらしい。

 もっとも、それも途中からうまくいかなくなっていたようだが。

 

 

「この国は戦争の為に沢山の物資を注ぎ込んでた。僕の想像していた以上にいろんなものを犠牲にして、この国の戦争は成り立っていたんだ」

 

「戦争が続くにつれて、この街から物が減っていった。飢えた子供達は攫われるか、ほんの少しの希望に賭けてこの街を出ていった。誰も帰って来なかったけど、ね」

 

「僕は食べ物をあんまり取らない体質っぽくて……けど作中そんな種族いたかな……?うん、それはいっか。この地域の気候は安定してるし、最低限寝床さえあればしばらくは死なないと思って、誰も寄り付かない廃屋だらけのここは丁度良かった」

 

 

 話を聞くたびに腹の内が底冷えするような寒さに襲われる。

 噂で聞いたことがある。人攫い、並びにヒューマンマーケットがこの世界のどこかに存在するらしいと。

 その一人に弟が巻き込まれなくて本当に良かった。こうしてなんとか間に合って本当に良かった。

 固くあるべきと思っていた俺の心はぐずぐずになってしまったようで、弟を抱きしめることでしかその安心を得ることが出来なくなってしまった。

 

 

「兄さんの噂、こっちにまで届いてたよ。敵には破壊と再生を齎す『悪魔』がいるって」

 

 あ、悪魔?自国じゃ『天使』って呼ばれてたが……どっちも嫌だな。

 

「え~天使って顔じゃなくない?兄さん、かっこいいし」

 

 かっこいいもんか。たくさん殺して、たくさん見殺しにして……今だって、こんなに遅くなった……。

 

「気にしすぎ。誰も悪くないよ。それに今はすごく心強い。僕の持ってる知識は、もう役に立たないからさ」

 

 

 弟はこの世界について俺よりずっと詳しい。だがそれはあくまでエンディングまでの話だ。

 その後の話、エピローグは好感度やカルマ値でかなり分岐するらしく、今回の世界はハーレム結成に全ボス撃破、つまるところ最高のハッピーエンドを迎えた世界線とのことだ。

 そしてその後の物語は存在しない。エピローグで話は完結だ。ファンディスクや外伝、プロデューサーによるその後が語られたりなんてことはない。

 この世界の未来は全くの未知数。一つだけ明らかなのは戦争は終わり、しばらくは平和な世界が続くと言うことだけだ。

 だから、これから立て直すまでの生活は俺に掛かっている……のかもしれない。

 

 

「ふふ……『天使』が突然、1ミリも似てないガリガリの幼女連れて来て「これから弟と暮らす」って言ったら、まず間違いなく心の病気を疑われる、ねぇ」

 

 堕天とか言われるかもな。でもいいよ、家族の健康と無事が最優先だ。

 

「なにそれ、ブラコン?前はそんなでもなかったじゃん」

 

 なんて言ってくれてもいい。俺にとって、お前はたった一人の兄弟なんだ。

 弟を守るのは兄として当然だ。命を懸けてでも守ってみせる。

 

「なにそれ。兄さんって、そんなに僕の事好きだったっけ……?」

 

 

 抱きしめている腕の内から、小さな嗚咽が胸に零れた。

 かつて前線基地で俺が皆の前で本音を吐き出した時のように、弟も少しずつ言葉を溢し始めた。

 

 

「物語の始まり、主人公の村は彼らに略奪される。何度もスチルで見たよ。でも、戦果だって、人の生首を掲げている人達を見て何度も吐いちゃった。今も……たまに彼らの顔を思い出す」

 

「でも諦めたくなかった。この街はいつか必ず『英雄』が通るから、せめてその時まで情報を集めて待とうって。ね、ちゃんと僕に出来ることをやったんだよ?そしたら本来11年続く筈の戦争が9年で終わったんだ」

 

「……ずっと、水と残飯を少しずつ漁って生きて、やっと戦争が終わって……そしたら、何でこんなことして生きてるんだろう?って、思い始めちゃって……役目が終わった今、こんなに苦しんで生きる意味なんて、あるのかなって、思っちゃって……もういっかって、何も食べたくなくなって……」

 

 

 震える弟を、もう少しだけ力強く抱きしめる。俺の体温が少しでも弟へと伝わる様に、怖いものはもう遠くだと思ってくれるように。

 場所は違えど、俺達はこの世界で一番苦しい所で育って来た、

 俺は戦争の真っただ中で必死に足掻いて、弟は貧困と圧政に苦しみながらもがいて生きてきた。

 地獄を生き抜いてきたんだ。ここはもう地獄じゃないんだ。

 これだけ苦しい思いをした弟が報われない世界などであってはならない。

 ああそうか、そうだ。ようやく分かった。

 

 俺達は報われていいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言うことで、この子は俺の弟です。何か問題はありますか?

 

「何を言っているのかね君は」

 

 

 弟を無事連れ帰った俺は、念のため事前に手紙でアポを取ってから法曹の彼女に相談することを決めた。

「弁護士が本職ってワケじゃあないんだがね……」と呟いていたが、隣に座る弟にクッションを差し出してくれる親切な御仁だ。

 今回の件について的確なアドバイスをくれることは間違いないと判断した。

 もちろん、弟まだ歩行に難がありそうだったので抱きかかえて連れて来た。弟は少し恥ずかしそうだったが、少しでも兄らしいことをさせてほしいと言ったら言葉に甘えてくれた。

 最低限清潔な衣服は道中購入したので、彼女の事務所を汚す心配はない。

 

 

「はぁ……1点除いて概ね問題は無いと考える。身体と心の性別が違うというのはこの国でも稀に見る症例だ。慎ましく生活する上で、そこが問題になることはまずないだろう」

 

 病とは少し事情が違うのですが……ではその1点と言うのは?

 

「君の誘拐だが」

 

 なぜ?

 

「何故っ!?戦争直後の国から子供攫ってきて何故と言うのか君はっ!?」

 

「合意の上でも、ですか?」

 

「君は元軍人相手に「合意だと言え」と言われて抵抗できるのかね?」

 

「むりです……」

 

 

 しまった、弟を安全な場所に連れてくることだけ考えていて盲点だった。

 だが弟を無体な目に合わせたことは一度も無い。道中着替えも買ったしできるだけ食事もとってもらった。

 その成果か少しずつ回復し、少しの時間なら自分で歩くこともできるようになっていた。本人は「回復早すぎない……?」と訝しんでいたが、流石は俺の弟だと褒めてやりたい。

 呆れた彼女は人差し指を立てて俺の目の前でゆっくりと説明を始めた。

 

 

「……はぁ、いいかい。自分の立場を分かっていなさすぎる君に私が分かりやすく教えてあげよう。君は今救国の英雄の一人として数えられている。あの晩餐会からずっと君の事は話題になりっぱなしだ。今どこで何をしているだの、結婚相手はもういるのかだの、あの日少し話しただけの私にさえ根掘り葉掘り聞いてくる。それくらい、今の君は時の人なんだ」

 

 世間が暇そうで何よりです。

 

「痛快な物言いが心地いいね。そんな人間が先日まで戦争していた国で混乱に乗じて子供攫ってきたなんて知られてみろ。世の連中は君をロリコンの犯罪者と蔑むか、うちの子も攫えだの言い出すぞ」

 

 

 前者はせめてブラコンだろと思うし、後者は論理的に考えておかしいだろう。だが言われた言葉をじっくり反芻する。

 確かに、言われてみれば今の弟と血は繋がっておらず、当然ながら外見は全くと言っていい程似ていない。

 目元も髪の色も体格も、そして性別も違う。……まさか世間一般ではこれを『赤の他人』でしかも『幼女』を攫ってきたと言うのか……!?つまり倫理的におかしいのは、俺の方ということになるのか……!?

 

 

「ようやく気付いたか。生き別れの家族に会えて嬉しいと言う君の気持ちに、私も水を差したくはないんだがね……」

 

「信じては、くれるんですね」

 

「人の不幸で飯を食っている自覚はあるが、君達の涙痕を疑う程人でなしではないよ。ましてや彼の善性は、今やこの国の誰もが知るところだ。それに当時の彼を少しでも知っているなら、嘘をついている等と口が裂けても言わないだろうね」

 

 

 現に私の友人は彼に心酔し切っているから。そう言う彼女は頭が痛そうだった。

 聞けば俺とは10も歳が違うと言うのに、時折俺と会う予定が無いか、あるなら同席していいかを聞きに来るらしい。

 なんだそれ初めて聞いた。けど俺としては当時の事を振り返って話せるいい機会になるし、一度会ってちゃんと話をしたい気持ちはある。

 今はそれくらい気持ちに余裕がある。今度予定を合わせる旨を伝えてほしいと告げると、一度溜息を吐いてから了承してくれた。

 

 

「……さて、本題に戻ろう。問題解決の為に策はあるかい?」

 

 ありません。家族と過ごすことで頭がいっぱいです。

 

「このバカ……失敬、それを成し得る為に頭を使えと言っているんだよ」

 

「言葉の使い分けが上手ですね」

 

「ありがとう」

 

 

 しかしあれだぞ。自分で言うのも何だが子供を誘拐してその正当な理由を作れと言っているようなものだぞ。

 それがまかり通るなら人攫いは悪とは呼ばれず、大手を振って外を出歩くだろう。だがそれは現実になっていない。

 この世界の法倫理が上手くいっていることに喜ぶ傍ら、まさかどうすれば血のつながっていない弟を合法的に家族に出来るか考えることになろうとは。

 

 

「問題なのは手段ではなく、何故その子でなくては駄目だったのかという点だ。その子は『天使』である君が突然敵国の中心までその足で向かい連れて来た子供だ。それに見合う理由が必要になる」

 

 ……偶然出会った身元不明の子供の引受人になった、というのは?

 

「理由としては弱い。ならその子でなくて自国の子を迎えるのが筋だと言われるだろう」

 

「これが二国間の友和の象徴になる、とかは?」

 

「君はそうなりたいのかい?」

 

「……ううん。静かに暮らせれば、それがいい、です」

 

「ならそうするべきじゃない。しかし……どうしたものかな。法的な問題ならどうにかできるが、この手の問題は国民感情が絡む。私ではあまり力になれない分野だ、すまないとは思うが」

 

 

 彼女は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。

 しかし彼女が謝る必要は全くない。元はと言えば俺が考え無しに家族を迎えに行ったのがいけないのだから。

 元敵国の真っただ中に何の隠蔽をすることもなく単身で訪れるなど、冷静になった今考えれば危険な行為だったと反省している。

 もし万が一、何かの間違いがあってそこで自分が死んだら?弟を見つけられず失意に暮れ、その果てに野盗にでも襲われて殺されていたらどうなっていた?

 自分を救国の英雄等と思っている人達がどう行動するのかは想像に難くない。『英雄』達の奮戦を全て無に帰し、大げさな話ではなくもう一度戦争へと発展していた可能性は十分にあった。

 所詮一兵士に過ぎない俺の行動など然して意味はない、そういった考えはもうこの際するべきではないのだろう。

 それにこれからの俺の風評は弟に影響する。俺一人が悪者になる分には構わないが、弟が傷つくのだけは許容できない。それだけは断じて防がなくてはならない。

 何か無いだろうか……こんなことになるなら兵士辞めた後は政治家にでもなるべきだった。

 

 

「兄さんが僕の事好きすぎる。すごく嬉しい」

 

「彼は昔からこんなに過保護だったのかい?」

 

「いいえ。僕達、昔はすごく平和で安全な所で生まれ育ったから、その反動もあると思います。僕も兄さんから離れたくないと思っています」

 

「そうか……」

 

「兄さんはすごいなぁ。あの『英雄』と名声で並ぶなんて。本当にすごい」

 

 

 弟に言われるなら、それも誇らしく思える。こんな俺でも生きていていいんだと、そう感じさせてくれる。

 生前(というと語弊があるかもしれないが)俺はあまりよい兄ではなかった。

 兄として恥ずかしくない様努めて真面目に生きてきたつもりではあったが、かえってそれが弟を寂しがらせたこともあった。

 人生これからだというところで死んだ弟が、こんな過酷な運命で終わっていい筈がない。

 なんとしてでもこの局面を乗り越え、弟が大手を振って外を歩ける世界に……そうか、彼等ならば出来るかもしれない。

 

 

「何かいいアイデアが思いついたのかい?」

 

 リスクはありますが。しかしこれなら最も良い形で弟を守れる……と思います。

 

「一応聞いておこうか。何をする気だい?」

 

『英雄』に一筆書いてもらうんです。真の仲間『予言者』のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 善は急げ、すぐに『英雄』宛にアポを取り面会の許可をもぎ取る。

 少し面倒な手順を踏む必要もあったが、恐らくこれが最善であろうことを考えると惜しい手間では無い。

 それに彼には弟と俺を引き合わせてくれた大恩がある。感謝の言葉を直接伝えなくては俺の気が済まない。

 そうして勇者達が現在滞在している王城の一室まで、メイドさんの案内の元通されることになった。

 幸いなことに弟の回復は順調に進んでおり、今では少しの時間なら歩行を難なくこなせる程だ。

 救出からまだ3週間程だと言うのに、初めて会った時の虚弱ぶりが嘘のように回復している。俺の弟はやはり凄いのだ。

 

 

「本当なんなんだろねこの身体……それはそれとして、恥ずかしいんだけど……」

 

 不本意なのは理解している。だが城内を出歩く以上それ相応の装いが求められることは分かってほしい。

 ……分かってる。そういうことを言いたいんじゃないよな。だが今後の事を考えると今の性別に合った物を着ることにも慣れておくべきだと思う。

 

「なんだかすごく恥ずかしいことをしている気分。脚の間に空気が通うのは変な感じで、落ち着かない。下着も……」

 

 

 弟の衣装は服屋で急遽仕立ててもらった、この国の貴族女子に人気の衣装だ。

 ディアンドルに近いが実用性よりも装飾に振っており見栄えがいい。翠の意匠とブローチが輝き弟の立ち姿を可憐に彩っているのも特徴的だ。

 大和男子たる弟としては非常に不本意ながらも、時折スカートのすそを翻したり後ろ手を組んでみたりと満更でもないように見える。

 兄として忌憚のない意見を言わせてもらうなら、よく似合っていると言ったところだ。

 しかし時折袖やスカートから覗く弟の腕脚はとても細く、触れれば折れてしまいそうだ。これはとても危ういと言わざるを得ない。

 これは一刻も早い栄養摂取が必要だ。いずれ王城の給仕の方々とも是非話をさせていただきたい。

 王族の食生活を厳格に管理している彼等なら、弟の適切な食生活を導き出してくれるに違いないだろう。

 決心を胸に誓い歩を進めていくと、煌びやかな応接間に通される。

 

 

「もうすぐお二方が参られますので、こちらで今しばらくお待ちくださいませ」

 

 

 ソファに誘導された後、静かな礼と共にメイドさんは去って行った。

 弟と談笑しながら待つこそ数分、向かいの扉が開き待ち人が現れる。

 俺があの地獄に足を踏み入れることになった戦争、その首謀者と言っていい国王陛下の息子に当たる、この国の第一王子。そして先日もあった英雄の2人だ。

 すみやかに立ち上がり敬礼をすると、寛大な言葉と共に礼を返される。

 

 

「公的な場ではない、そう固くなるな」

 

 はっ、光栄の至りです、王子殿下。

 

「気にするなと言うておろうに……ほれ此奴を見ろ。今すぐ肩を組めと言ったら組む男だぞ」

 

「王子とは戦果報告で顔出す度に友達みたいな距離感で話すじゃないですか。すっかり毒されちゃいましたよ」

 

「今余の前で毒と言ったか?王族の前で?」

 

「わーッ!今の無し無し!」

 

「ハハハッ!愉快な奴よ」

 

 

 フ、フランクすぎる。相手はほんの一言言葉を間違えれば一瞬で首が飛ぶ相手なんだぞ。

 どうして英雄殿はこんな気軽に……と考えていると後ろすぐ傍に控えていた弟が俺にだけ聞こえるよう小さな声で呟く。

 

 

「ゲームでは作戦ごとに戦果報告を挙げるんだけど、中盤以降高頻度で報告中に首を突っ込んで来るんだ。最後には余こそが英雄一番のファンだからなとか言う。一部のプレイヤーから王との乙女ゲーと言われる原因」

 

 

 俺の知る人物像と大きく違うな……だが、弟がそう言うならそうなのだろう。

 確かに俺が同じ立場なら、日々戦況を覆す為に快進撃を繰り返すエース部隊と連絡とりあってたらファンになってしまうかもしれない。

 エース達が単騎で戦況を左右する日々は国にとってハラハラする日々だったろう。

 彼らが敵の首魁を討った時どれほど喝采したのだろうか。弟なら知っているだろうか。

 向かいのソファにどかりと王子が座り、そのすぐ後『英雄』も許可を貰うことなく座る。

 流石にそれはマズくないか……?と思うも、王子殿下は笑うだけで特に何も言わない。それどころか俺達にも座るよう促す。

 

 

「客人を放置して余達だけで盛り上がってはいかんな。叙勲式以来だ、息災か『天使』よ」

 

 はっ。王子殿下に置かれましては……。

 

「あぁよいよい。お前達も座れ、余の英雄達よ。お前とはずっと、そうずーーーっと話してみたかったのだ。この間の晩餐会の途中退場に余がどれ程心を痛めたか」

 

「やけ酒してましたもんね」

 

「当たり前であろうがッ!『天使』よ、余は悲しかったのだぞ。お前が兵を辞め一庶民に戻ると言った時と同じくらい悲しかった。しかし政から離れたいという願いもまた理解できる。故に引き留められんかったが、こうして再び会えて嬉しいぞ」

 

 

 大袈裟とまでは言わないが、俺には過大な評価ではないかと思う。

 戦線維持は俺だけの功績ではないし、そもそも俺がしたのは清潔の維持と簡素な手当だけだ。

 それに尽力していたのは俺だけではない。ならば俺だけがこのように言われるのはズルではないか。

 ……こんなワガママを考えられる程度には精神が回復したと喜ぶべきだろうか。

 だが今日の本題はそこではないのだ。俺のことなど全く以てどうでもいい。

 

 

「して今日の要件は……そこの幼子か?」

 

 はい。俺の弟です。ご挨拶を。

 

「は、はじめまして」

 

「ほう!……ふむ、にしては髪も目つきも、目の色も違うな。というか女児ではないのか?まさか……いや、安心しろ『天使』。余は偏見で接したりはせぬ。たとえお前が腹違いの弟に女装を強いて王族に見せびらかすヤバい性癖があったとしても……な!」

 

 ぶん殴りますよ。

 

「王族をっ!?」

 

「兄さん落ち着いて、言葉があまりに足りてないから」

 

「いや待ってくれ。その声、君は……まさか『予言者』なのか?」

 

 順を追ってご説明します。少し長くなりますし、荒唐無稽かとは存じますが全て真実です。どうか聞いていただきたく。

 

 

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