異世界より、親愛なる家族へ   作:飛び回る蜂

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いつか兄が兄でなくなる日まで

「予言の正体はこの世界を外から俯瞰した未来の一つ……お、俺にはいまいち理解が及ばないな……」

 

 

 ゲームと言っても伝わらない為伝えるのに大変な苦労をしたが、前世から今生の生い立ちまでを説明することに何とか成功した。

 この世界を俯瞰して見た場合の盤上遊戯があり、それにそった台本があり、弟はそのプレイヤーであった。

 したがって世界で何が起きているのか、何が起こるのかを概ね把握しており、またその主人公である英雄やそれにまつわるエピソードについても同様である。

 この世界がそのシナリオ通りに進んでいるのなら、彼らに降りかかる困難や試練、探し物の位置からあまり人に知られたくない秘密まで情報として知っていることになる……という筋書きだ。

 場合によって自分の結婚相手が変わるということにとても微妙な顔をしていた英雄であったが、少なくとも今の自分とは関係ないことだと割り切り情報の精査に集中していた。

 

 

「戦の無い世で過ごし、しかしてその高潔なる倫理を失うことなく酷な戦場を駆けた者。飽食の時代に生まれ育ちながらも飢えと恐怖の中を生き抜き、勇気を奮い英雄を導いた心強き者。なるほど、兄妹共に英雄であったとは余も見抜けなんだ」

 

「信じて、くれるんですか?」

 

「差異こそあるが、余と此奴の通信内容を知っておる時点で最早疑いようも無い。あれは他者から容易に観測できる代物ではない故な。むっ、まさか余のスリーサイズも知っておるのか!」

 

「いや、まぁ、一応公式設定がありますね……王子人気でしたし……」

 

「そうか。余の玉体に恥ずべきところなど無いが、やっぱりちょっと恥ずかしい。内緒にするように」

 

 

 そういうこと言わなくていい、と言いたいところだがそうもいかない事情がある。

 王族からすれば自分の習慣や体形、体質、好物を知られていることは決して無問題ではない。これら情報を利用した政争、スパイ活動に利用されるリスクは十分にあり得る。

 戦争は終わった。しかし彼らの戦いは兵士と違い正真正銘死ぬまで終わらない。生活習慣一つとっても他人に知られるのはリスクとなる。

 この御方がそこまで気にしているかは分からないが、油断するべきではないだろう。

 

 

「ちょっと待て、ということは俺達の旅路を見てたってことは、宿でのことも知っているのか!?全部!?」

 

 CERO:Cなのでそういうのは無いと思いますよ。

 

「せろ……?ま、まぁ見てないならいいんだ、うん。ほら、ちょっとアレなこともあったから、うん」

 

「3人共好きになっちゃってどうしたらいいのか悩みに悩んだ挙句お嫁さんの名前呼びながら筋トレしてたのが3人に聞かれて誤解されてたイベント(とき)のこと言ってます?」

 

「うわーっ!!やめろ!やめてくれ!!えっ、聞いてたのかよあいつら!?だから3人共あんなに余所余所しかったのかよッ!!聞いてたなら言えよッ!!」

 

 男が自分達の名前呼びながら部屋で励んでて、何してたかなんて聞けるわけないでしょう……。

 

「うわぁ、そこまで悩むなら全員抱けよ英雄。いや抱いたのか。その結果妹の婿になったわけだ、わはは」

 

 

 何笑とんねん。言葉にはせず胸の内に秘めておく。相手に非が無い時の軽口はまだ怖い。

 思ったより前向きに受け取ってもらえたのは有り難いが、まだ油断はできない。

 俺の目的は弟と共に暮らすことだ。これはまだその前段階の話に過ぎないのだから。

 さて、どうやって話を持っていったものか。

 

 

「『天使』さんはその子を家族として迎えたいんだろ?協力するよ」

 

 ……え。よ、よろしいのですか?

 

「余としても異論はない、むしろ都合良く話を持ってきてくれた。丁度今回の旅路を本にして民衆向けに出版する予定でな、そこに内容を付け加えさせよう。大増ページだ。『英雄』を救いし『予言者』と『天使』の義兄妹、これは飛ぶように売れるぞ」

 

「俺達もあちこちで色々聞かれて大変だったから、国から公式な書籍の出版を依頼していたんだ。内容は俺達も確認して、出来る限り公正なものにしてもらう予定で……2人が関わってくれるなら、俺としても嬉しい」

 

 

 戦場や旅路は違えど、俺達は仲間だろう?そう笑顔で答える英雄に、俺の目には眩く映った。

 そうか、出会う人出会う人を仲間にする勇者のカリスマというのはこの光を言うのか。

 俺には無く、彼や王子殿下にはあるもの。人を惹きつけ、善意で人の為に行動するそれが、俺の目には酷く羨ましく映る。

 けれど今は同じくらい、彼の為人(ひととなり)を信じたいと思っている。

 王子殿下は恐らく今の立場をより盤石なものとする為、この出版をプロパガンダの一環として利用するつもりでもあるのだろう。

 そうでなくてはこんなあやふやな話、普通即決は出来ない筈だ。多くの状況証拠がその事実を固めていたとしても、真実は彼らが本の中で語ることになるだろう。

 しかしこれは渡りに船だ。その話に乗らせてもらおう。

 

 

「その過程で『予言者』には俯瞰して知っている知識を全て教えてもらうぞ。『英雄』の未来が派生するのなら、その過程で未だ取り除けておらん脅威があるやもしれん。それ次第では報酬の増額も視野に入れよう。頼めるか?」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

「うむ。『天使』には戦場では見たものを、現場で生き抜いたお前達だけが知るそれを聞かせてもらう。……一応確認だが、できるな?」

 

 もちろんです。ご助力に心から感謝します。

 

「あとはもう少しその態度が柔らかくなれば言うこと無しだな。まぁ、お堅い天使らしいと言えばそうかもしれん。これはこれでありだ、許す」

 

 

 気安く接するのはまだ無理だ。短い期間だったとは言え社会人だった身として、社長どころではなく国家元首と対面して気安くできる程強靭な心をしていない。

 だが思っていた以上に話はあっけなく進んでしまった。『英雄』に自伝か、殿下に国で歴史書を書いてもらおうと文言を考えていたのだが、取り越し苦労だったようだ。

 都合のいい展開にはなったが、どの道を選んでも楽なことなどない。まずはインタビューを見据えて内容を考えなくてはならないな。

 

 

「して話は変わるが『予言者』よ。お前のいた場所では余らの絵物語は人気であったのだろう。どうだ?実物を前にして言うことはあるか?」

 

「感無量です本当に。生きていてくれて本当にありがとうございます」

 

「王女殿下にも言われた言葉の筈なのに、何か微妙に意味の違いを感じるんだよな」

 

「人気トップ1、2の英雄と王子殿下にお会いできて本当に……本当に嬉しい……ありがとう……」

 

 改めて俺と弟を引き合わせてくれて、そして急な依頼を請け負ってくれて、本当にありがとうございます。お2人には感謝してもしきれません。

 この恩は必ず返します。

 

「余はいずれこの国を統べる。そしてこの国の臣民を救ったのはお前達だ。報いるのは国家として当然の事であろう」

 

「助けになれて本当に良かったよ。……『天使』さんも変わったな。晩餐会の時の貴方は、悲しみと孤独に取り残されたような顔だった。今の方がずっといい顔だ」

 

 

 そんな自覚は無いが『英雄』が言うならそうなのだろう。そこまで考えて、俺はようやく今生の両親の事を思い出した。

 2人にはどう説明したものか……まぁこちらは追々でいいだろう。愛国心溢れる2人のことだ、弟を受け入れられないと言う可能性も捨てきれない。

 成人もした、誰と暮らしどのように過ごすかは自分で決める。俺は何があっても弟を守ると決めたのだ。

 

 

「……いい顔、だと思う。なんか狂気っぽいけど、先日よりはまぁ、うん」

 

「兄さん、覚悟キマってる目だね。かっこいいよ」

 

「ちょっと引く」

 

 うるさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということでまずは家を買おうと思う。

 

 

「何がということで?」

 

 

 現在俺が拠点としている街に戻るべく、馬車で揺られながら隣に座る弟に切り出した。

 これは必須だ。可及的速やかに叶えなくてはならない。絶対に叶える、絶対にだ。

 というのも家の購入は弟を見つけた瞬間から考えていた。今は務めていたのが運送屋ということもあり、拠点の街に集合住宅の一角を借りて暮らしている。

 しかし弟の安全を考えるなら住宅購入一択だ。それ以外ありえない。この世界の治安は現代社会とは全く異なるのだ。用心に越したことは無い。

 それは弟も良く分かっている筈。幸い退職金はほとんど手つかずで残っている。王都の一等地ここそ無理だが、そこから幾分離れた地に小さな家を買う程度なら問題ない。

 その上でその街で働いて生きるか、あるいは自営業を営むかだが、弟に何かいい案はあるだろうか?

 

 

「兄さんの中で家買うのは確定事項なんだね。なら、そうだね……」

 

 現代の知識を利用して、まだ誰も思いついていないようなものがいいな。

 

「それは難しいかも。この世界の魔法の在り方は僕らの知る科学のそれに近い。とって代わっていると言っていい。となればその手のエキスパートなんて世に大勢いる、僕らのアドバンテージは、思っている以上に全然無いよ」

 

 もっともだ。何かしら技術特許を手に入れて使用料取るのは?

 

「魔法式のコンロと冷蔵庫、あのレベルで魔法と技術が融合した世界でそれは難しいと思う。少なくとも今の僕には無理」

 

 知識チートも中々上手くいかないもんだな……。

 

「それこそフィラメントや内燃機関を発明するくらいしないといけないかもね……それもすぐ魔法にとって代わられそうだけど……」

 

 

 何とかして持っている知識から有用なものが無いか意見を出し合ってみるも、目立った成果は出てこない。

 しかし家を買う以上自営業は中々悪くないのではないかと思う。

 貯金の大半は家に使うだろうから、ある程度継続して得られる収入が必要だ。

 国から先の書籍が出版されれば多少利益を回してもらえるかもしれないが、それが手元に来るのも当分先の話だろうし、あまり当てにするべきではないだろう。

 ……いっそ護衛業か秘境探索業でも立ち上げるか?戦える人手の当てはある。上手くいけば退役した皆の新しい居場所を作れるかもしれない。

 

 

「それいいね。この世界は鉄とか電気に頼らない分、魔力の籠った鉱石や植物に価値がつく。その鉱脈だったり、霊脈っていうのかな。まだ発見されてない秘境の素材とかはすごい価値がつく!」

 

 秘境探索稼業か。いよいよファンタジーらしくなってきたな。

 

「秘境周辺は魔力で変質した危険な動物もいるし、モンスターと言えなくも無い。なら、僕達の職業名は冒険者だね」

 

 悪くない。よし、戻ったら家になる拠点探しを最優先、その間に地図を用意する。知ってる範囲で霊脈のマッピングを頼む。

 

「オッケー。楽しみになってきたね」

 

 

 楽しそうに未来への展望を話す弟を見て、ようやく人心地つく。

 動くこともままならなかった弟が元気になって、明日の事すら考える余裕のなかった俺も前を向こうとしている。

 まだ俺は自分の過去から見て見ぬふりをしているだけかもしれない。だが、今それを考えるのはやめた。

 今は新しく生まれた目標を達成する事、そして弟と共に今度こそ平和に暮らすことだけを考えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時は知る由も無いが遠くない未来、俺達は何度もトラブルに巻き込まれることになる。

 時に現地調査で肥大化した魔獣に襲われ大怪我を負い、時に経営難に頭を悩ませ、時に弟の可愛さに何度も目が眩み、時に公式書籍が想定した以上に莫大な金額でかえって扱いに困ったり、時に弟に結婚を迫られたり、幾度も修羅場を潜ることになる。

 今は知る由も無いが、例えどんな未来が待ち受けていたとしても、俺達は幸福だったと言って見せるだろう。

 

 

「楽しみだね」

 

 あぁ、楽しみだ。

 

 

 さぁ帰ろう。そうしたらまた、笑って明日を迎えよう。

 今の俺達にはそれが出来るのだから。出来るうちに楽しもうじゃないか。

 

 




短編なのでこれで完結です。ここまで読んでくださりありがとうございました。
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