以前、お会いしたかもしれませんから。   作:泡沫

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黒服以外のゲマトリアが主要キャラになってる作品ってあんまりないですよね。もっと増えて欲しいです。

と、そんな思いで書いてみました。



ルネ・マグリット

 

 どうしてこうなってしまったんだろう。

 

 目の前······否、背中越しで議論を交わす声を聞きながら、ふと思い返す。

 

 始まりのことは自分でもよく覚えていない。今考えると転生、或いは憑依。そういった類のものだったのだろう。

 

 死んだ際の記憶もなければ、前世の自分のことも曖昧だから、この仮説が正しいのかはわからい。

 

 ただ、ぼんやりと記号だけの世界を眺めていた。頭の隅に残る物語の記憶を不思議に思いながら。

 

 そうしている内に意識が反転するような感覚を覚えて、気が付けば彼の手の元に居座っていた。

 

 虚像と非実在。自らによってのみ存在することが叶わない故の現象。その事に不満を覚えたことは無かった。多少の不自由さはあるものの、相棒である彼がよくやってくれている。

 

 では何が不満なのかと問われれば、この立場やテクストそのもの、といったところだ。記憶に残る青春の記録(ブルーアーカイブ)の中では、最終的に私の存在が塗り替えられていた。さすがに許容しかねる事態である。

 

「そういうこった!」

 

 そして、これまでの話で察した方もいるかもしれないが、私の名は······

 

「······ゴルコンダはどう思われますか?」

 

 ゴルコンダ。ゲマトリアと呼ばれる物語の悪役へと成り果てる組織に所属する者。

 

 更に、最終編を迎えた暁にはフランシスへと入れ替わり、地下生活者に殺される運命が待ち受けている者でもある。

 

 誰か助けてクレメンス。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 黒服······自身の記号そのものを名前とした彼の質問について考える。ゴルコンダとなってからは世界の見え方が少しだけ変わった。

 

「······複製(ミメシス)で観測できた神秘の裏側、恐怖。それらをキヴォトス最高の神秘に適用させる実験······ですか。······前提の話にはなるのですが、そもそも彼女を手に入れる算段がついているのでしょうか?」

 

「ふむ······ゴルコンダの手を借りることができればいくつか手順を省略できそうですが······そのつもりはないのでしょう?」

 

「そういうこった!」

 

 黒服には落胆した様子も怒る様子も見られない。初めからそのつもりだったのだろう。

 

「しかし、問題はありません。そちらの手筈も順調に進んでいます。もう少し時間がかかるでしょうが、カイザーグループを動かすことで滞りなく実験を行える予定です」

 

「······ああ、アビドス砂漠にはアレが眠っていましたね。プレジデント······支配者を目指す彼は興味津々、と言ったところですか」

 

「ええ。感謝していますよ、ゴルコンダ。あの取引は非常に有意義なものでした。寧ろ、あれ程の情報の対価が彼女でよかったのでしょうか?そもそも、私に許可をとる必要性もなかったように思いますが」

 

 黒服の言葉でもう一つの悩みを思い出した。失敗した時のための切り札として用意してみたものの、彼女の性格も相まって扱いにはほとほと困り果てている。

 

 それは兎も角。

 

「マダムのように領地としているわけでは無いとはいえ、先にアビドスへと目を向けていたのは黒服です。何も告げずに推し進めるのではなく、契約に則るのが仲間に対する礼儀でしょう」

 

「そういうこったぁ!」

 

 黒服は納得したように頷いている。実際、軋轢を避ける以上の目的はなかったため、納得してくれて助かった。

 

「······話が逸れましたね。ひとつ、実験についての助言を。──前提を疑い続けてください。全ての概念を変えてしまうような。そんな存在がキヴォトスに到来する日が近づいています」

 

 このくらいのリップサービスは問題ないだろう。そう思っての言葉だったのだが、議論を交わしていたもう1人の男がギィギィと音を立てている。

 

「色彩の到来が近いのだろうか······?未だ、太古の教義もグレゴリオも調整中で、抵抗する術を用意できてはいないのだが」

 

 マエストロ。双頭の木人形を肉体としている芸術家。

 

 彼とは話が合うこともあり、ゲマトリアに所属している同士の中では最も仲がいい。互いにインスピレーションを与え合っている。

 

「失礼しました。色彩のことではないのです······連邦生徒会長が失踪したことはマエストロもご存知でしょう?言わば、その後釜とも言える存在がキヴォトスの外からやってくるのです。それが、この箱庭(キヴォトス)のテクストのようです」

 

 キヴォトス、と言うよりブルーアーカイブという世界にはなるが、流石にそのまま伝える訳にはいかない。それに、私の認識ではこの2つに大した差もありはしない。

 

「しかし、その者が齎す影響は色彩と変わらないのではないか?」

 

「それは······」

 

 ······あまり、考えてこなかった視点だ。

 

 先生は、生徒が生徒であるための存在で、色彩は生徒の存在を反転させ、本質を剥き出しにさせる存在。そういうテクストを含んでいる。

 

 だとすると方向性が違うだけで、根本的な違いはないのかもしれない。もちろん、生徒個人の幸せや、世界がどうなるのかという観点から見るとその限りではないが。

 

「なるほど、なるほど。やはり、マエストロとの会話は有意義なものですね。先程の考え方は私では思いつかなかったでしょう」

 

「そういうこった!」

 

 全くもって愚かだった。前提の知識から先生という存在を絶対視しすぎていたせいで、テクストを読み解くという本来の役割すらまともに果たせていない。

 

「しかし、心配する必要はありません。何せ、彼の超人が選んだ人材ですからね。神秘が消えゆくこともありえないでしょう。寧ろ、マエストロも気に入ると思いますよ」

 

「ほう······?新たな理解者になり得るということか?ならば、太古の教義の調整を急がねばならぬな。先に失礼する」

 

 ギィギィと音を立ててマエストロが去っていく。黒服も先の言葉で満足したのか実験へと戻って行った。

 

 さて······最後に、気が重い作業が残っている。

 

「では、技術の提供をお願いしますね?ゴルコンダ」

 

「ええ······心得ておりますよ、マダム」

 

 マダム······またの名をベアトリーチェ。赤い身体に純白のドレス。頭部には複数の眼を持つゲマトリアの紅一点。

 

 正直、苦手だ。

 

「ヘイローを破壊する爆弾······ですか。素晴らしい技術です。これであの予言の大天使を葬れますね」

 

 ヘイローを破壊する爆弾。それは、私ゴルコンダを代表する作品だろう。しかし、私が望む話には似合わない存在でもある。

 

 ベアトリーチェには渡したくはなかったものの、それはゲマトリアとしても、ゴルコンダとしてもありえない選択肢だ。そこまでテクストに反した行動を取るつもりはない。

 

 そうした葛藤の末に多少の細工をして彼女に提供することに決めた。この爆弾が似つかわしくないのは確かだが、乗り越えるべき壁として最適なのも事実。必要不可欠なのだ。

 

「あとはマエストロの戒律を利用した守護者達ですか············芸術等というこだわりを捨て、兵器としてのみ活用すれば、もう少し早く計画を進められるというのに······何を手間取っているのでしょうか」

 

「·········」

 

 こういうところがどうしても苦手だった。

 

 無論、兵器には兵器なりの機能美がある。そういった効率のみを重視するベアトリーチェの考えを理解することはできる。

 

 ·········理解はできるが、どうしても合わないのだ。

 

「では、私も失礼します。トリニティにあの者を送る必要がありますから」

 

 そうして、ベアトリーチェも去っていき私だけが残る形となった。1人で残っても仕方がないため自分の拠点へと戻ることに決めた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 拠点とは言ってもよくある家屋と変わらない。ただ、普通では認知できないテクストを付与しているため、隠れ家としては抜群の機能を誇っている。人を隠すのにも最適だ。

 

「あっ、ゴルコンダさん、デカルコマニーさん。おかえりなさい!」

 

 おっと······悩みの種が。

 

「······ええ。ただいま戻りましたよ。ユメさん」

 

 梔子ユメ。本来ならこの世界を去り、冥界の王になるはずだった神聖。

 

 彼女を助けた理由は大きくわけて2つ。

 

 1つ目は、神聖の頂点に立つ暁のホルスによる世界の滅亡を防ぐための切り札になり得る存在であること。

 

 あとは······単に、彼女がいなくなった世界が好みの物語ではなかったから。仮にも青春の物語なのだから多少の救いはあって然るべきだろう。

 

 そして、そんな軽率な考えで行動したことを後悔している。

 

 正直、彼女にどうやって接するべきなのかがわからなくなってしまっているのが本音だ。

 

 見た目もかなり不気味な部類であるという自覚はあるし、実質私が行っているのは監禁だ。

 

 それに加えてテクストとしても悪い大人と生徒という関係なのだから、彼女と仲良くなれるはずもないのに、どういう訳かその理屈が全く通じない。そのせいで一時期は己の解釈に対しての自信を失くしていた。

 

 何度も悪い大人であることを説明してもこちらと仲良くなることを諦めようとしないし、どういうわけか執拗に私の顔を見ようとしてくる。

 

『えへへ、そろそろゴルコンダさん達のお顔を見たいなあって!』

 

『·········何度も説明していますが、私共はそういう存在なのです。ですから、いくらそうおっしゃられても······ユメさん?私をベタベタと触るのはおやめください。デカルコマニーも困っていますので······』

 

『そ、そういうこったぁ!?』

 

 

 

 

 

 そんな会話を思い出して、溜め息をついてしまった。全てが想定外だ。

 

「あれ?溜め息なんて珍しいですね!」

 

「······ユメさんについて考えていると、つい」

 

「そういうこった······」

 

「ええ!?私のせいなんですか!?······ひぃん」

 

 デカルコマニーも心なしか疲れた様な声を出している。初めて聞いたよ、そんな声。

 

 まあ······それも仕方ない。助けた私の責任だ。大人としても、個人の考えとしても、中途半端なのは気に食わない。

 

 演者の1人として介入することを決意しているのだから、ある程度の苦労は受け入れよう。その先で、望む物語を見られるのなら十二分にお釣りが来る。

 

 ご都合主義?努力と友情で苦難に打ち勝つ青春の物語(ブルーアーカイブ)?大いに結構。

 

 そんなお話を特等席で楽しむとしよう。そのために、様々な準備を整えて来たのだから。

 

「ふふ·········楽しみにしていますよ。先生」

 




続きません。私よりも発想力に優れた誰かにこの作品を託します。

楽しみにしていますよ。先生方。
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