以前、お会いしたかもしれませんから。   作:泡沫

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要望の感想が嬉しかったので忘れられた頃にひっそりと。

時系列は対策委員会2章の最終盤を想定しています。



ルイ・スクテネア

 

 

「……この先に、暁のホルスが?」

「ええ。契約の上で、ようやくキヴォトス最高の神秘が手中に収まりました。以前話した通りの実験を行う予定です」

 

 とある砂漠にある校舎の廊下を、2人の人物が歩み続ける。片や首から上が存在しないコートの男性。その手に持っている絵画から声が響いていた。もう一方は黒いスーツに身を包んだ身体まで黒ずくめの男性だった。

 

 スーツの男性は機嫌が良さそうな雰囲気を纏いながら尋ねる。

 

「しかし意外ですね。ゴルコンダはオシリスに目を向けていて、ホルスには興味がなかったのでは? 」

「概ねはその通りです。ただ、この現状を見ていた彼女から伝言を頼まれましてね。ついでに軽い手荷物も。今回のこれは、おつかいのようなものです」

 

「そういうこった!」

 

 その返答に納得して頷こうとしたところで、目的の部屋まで辿り着いた。

 

「なるほど、彼女から。…………ここです。着きましたよ、ゴルコンダ」

「ありがとうございます。黒服も聞いていかれますか? とはいえ、特に重要なものではないのですが」

「いえ、遠慮しておきましょう。暁のホルス……ホシノさんが私の姿を見てしまえば怒りに囚われて対話を望めないでしょうから。それに、先約もあります」

「…先生、ですね?」

「………ゴルコンダ。貴方の情報網にはいつも驚かされてばかりですよ」

 

 ゴルコンダと呼ばれた彼は、やれやれといった風にため息を吐きながら首を振る黒服の姿を見てどこか満足そうだった。

 

 黒服が言葉を続ける。

 

「先生は、そんな貴方が事前に知らせてくれた相手ですからね。それに、かの連邦生徒会長が指名した人物でもあります。どのような傑物なのか今から楽しみですよ」

「傑物……傑物…? いえ、まあ、そうですね。そう言った側面も……いや、しかし、あれら(メモロビ)は……」

「? どうしました? そこまで歯切れの悪いゴルコンダも珍しいですが」

「ああ、いえ、どうかお気になさらないように。彼女の伝言のことを少し考えていただけですので」

 

 誤魔化されている気はするが、何か彼にも事情があるのだろう。誤魔化された内容もきっとゲマトリアに対する不義理ではないはずだ。ゴルコンダに対してはそれくらいの信頼があった。これがベアトリーチェ相手ではこうはいかなかったかもしれない。

 

 そこまで考えた黒服は、ゴルコンダとデカルコマニーに別れの挨拶をして、先生との約束の場所……オフィスビルの一室へと向かう。

 

 

 

「………すごく、気が進まない」

 

 残された一枚の絵画がそう呟いて、暁のホルスが囚われた部屋へと入っていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ホシノは深い後悔の中にいた。

 

 自分が犠牲になればいいと思っていた。先輩を助けられなかった。後輩のために何かを残すことが出来なかった自分が犠牲になるのが正解だと信じて疑ってもいなかった。

 

 その結果がこのザマだ。アビドスの問題は解決しない。身柄は拘束されていて、もう二度と外に出ることも叶わないのかもしれない。

 

 絶望と諦念が身体中を襲っていた。

 

「ユメ先輩……私は、どうすれば……」

 

 ──よかったんですか。

 

 そんな声は部屋の扉が開いた音に遮断される。

 

 また黒服が入ってきたのだろう。そう思って、警戒心と敵意を剥き出しにして睨みつける。

 

 しかし、部屋の中に入ってきたしてきた人物の姿を見て、少し怯んでしまった。自分と黒服に対する怒りがなければ間違いなく悲鳴を上げていたと確信できる。

 

 何せ、彼は首から上が存在しないお化けのような存在だったのだ。黒服も大概人間とはかけ離れた異形の見た目だと思っていたが、目の前にいるの彼はそれ以上の不気味さだ。

 

「………誰…?」

 

 努めて冷静に、ホシノは尋ねた。まともな言葉が出てきた自分を褒めたい気分だった。

 

「背を向けた状態での挨拶となるご無礼、どうかお許しください。何分私には、これ以外の方法がありませんもので。……私はゴルコンダと申します」

 

「まあそういうこった!」

 

 質問をしてみたところ、二人分の声が返ってきてホシノはますます混乱することになった。ついでに、背を向けた状態という言葉の意味も分からない。

 

 顔がないから分かりづらいものの、コートの形を見るに正面から向き合っているはずなのだが。

 

 

「……ああ、失礼。彼はデカルコマニー。私の身体を代行してくれています。私達は言うなれば、お互いがお互いに実在と非実在を象徴する相棒であり、記号であり、それが、この世界に存在するためのテクストなのです」

 

「そういうこったぁ!」

 

 半分以上は理解ができなかったが、彼──彼ら?の言葉を聞いて、絵画が自分に話しかけているものの正体だと気づく。絵画に通信端末でも埋め込まれているのだろうか。………いや、そんなことはどうでもいい。

 

 目の前にいるのがお化けでもなんでもないただの大人だと分かって、怒りがフツフツと再燃してくる。

 

 この状況でわざわざ自分に会いにやってくるくらいだ。きっと黒服の仲間か何かなのだろう。あいつとお似合いの不気味さでもあるし、黒服が好みそうな言葉遊びでもあった。

 

「……何の用なのさ」

「ホシノさんに向けて、伝言を頼まれましてね。状況的に断るわけにもいかず、 こうしてここまでやってきた次第です」

 

 その言葉に対して、ホシノは鼻で笑った。

 

 黒服の仲間なんかに弱っているところを見せたくなかったからでもあり、どうせ黒服からであろう伝言に微塵も興味が湧かなかったからでもある。

 

 さっさと伝言とやらを告げて、どこかへ行ってしまえばいい。

 

 そんな余裕は次の言葉で崩れることになった。

 

「ホシノさんの先輩……梔子ユメさんからの伝言を預かっています」

 




もう少しだけ続きます。
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