ぼっち・ざ・ろっく! フラッシュバッカー   作:空山 零句

33 / 79




現在に夢や希望がなくても───強い眼差しが闇を照らし出す

何処かに独り消えそうな夜でも


光射す朝までは


- ASIAN KUNG-FU GENERATION 「惑星」-






CHAPTER #29 「惑星(ほし)

 

 ◆

 

─ Side Hitori ─

 

 あの日のことを、私は今でも忘れたことなんかない。

 九月五日、一か月前。─────喜多ちゃんのおかげで、『星座になれたら』が生まれたあの日。

 

 商店街の灯りが一段、二段と背後へ沈んでいって、夜の(とばり)がゆっくりと私の肩口に降りているのが分かった。

 コツ、コツ、と響く私と喜多ちゃんのローファーの音。

 下北沢駅の西口へ向かう細い通りは、どこもかしこも金平糖みたいな光で滲んでいた。昼間だと人に次ぐ人ばかりで怖かったこの場所が、夜のこの時間だととても綺麗に感じた。それが慣れによるものなのか、喜多さんが隣で歩いてくれてたからなのかは、思い出せない。

 

 革靴の足裏、アスファルトのざらつきが小さく跳ね返る。

 

 喜多さんが、ふいに足を緩めた。

 横顔だけがこちらをかすめて、短く息を吸う気配がした。

 

「………ねぇ、後藤さん、私……ね」

 

 ローソンの入口横を通る。看板灯に内蔵されたLEDの淡い光が、私達の横顔を照らす。言葉を呑み込んで喉の奥に仕舞い込もうとする喜多さんの顔が、朧げに揺れる。

 私は立ち止まり、肩紐を握り直してから、慌てて横に並ぶ。

 

「? 喜多さん、何か言いましたか……?」

 

 目が合いかけたところで、彼女は微笑んで、小さく首を振る。

 笑顔はいつも通りなのに、それはどこか、水面のゆらぎみたいに儚い。

 

「……ううん、何でもないっ」

 

 えへへ、と笑って、軽く地面を蹴って走り出す喜多さん。

 それはまるで、鈴みたいに綺麗な声。秋の空気に溶けていく、(きら)びやかな音そのもの。その背中を追いかけるみたいに風が肩を通り抜けて、私の髪の先だけが置いていかれる。

 そうして私達は下北沢駅西口の階段の手前に辿り着く。そのタイミングで、丁度踏切の赤が点滅する。警報灯の貴金属のような音と共に、電車の警笛も私の耳に届く。

 線路の向こうは薄い霧のフィルムを一枚かけたみたいにぼやけていて、遠くの住宅街の窓明かりが星座の欠片みたいに散っていた。

 喜多ちゃんがふっと脇へそれ、踏切の近くへ駆け寄る。私は慌てて名前を呼ぶ。

 

「き、喜多さん、待ってください……!」

 

 立ち止まって振り返った彼女は、微笑みながらこちらを見つめる。

 右肩越しに私を見て、それからふと夜空へ視線を向ける。整えられた絹みたいな髪が揺れながらそのまま、彼女は宙を左の人差し指で指差す。

 

「後藤さんっ……ほら! みてみて!」

 

「すっごく綺麗よ……あの星!!」

 

 星、と呼ばれた先を辿る。

 淡く灰色の絵の具で描かれたような雲が漂う藍色の空に、細い糸を縫うように、いくつかの光が並ぶ。その中で一際輝く『一番星』が私にも垣間見えた。

 点と点が線になり、線が形になる。

 私の胸の奥でも、ばらけた音符みたいな感情が互いに手を取り合って、まだ名前のない旋律に変わっていく。喜多さんは私へその星座を示したあと、見蕩(みと)れているみたいにじっと宙を仰ぐ。

 

 カン、カン、と踏切の警報が夜へ矢印を打ち込む。

 

 風がまたひと息、頬を撫でる。

 青白い透明な光の粒の間を通り抜けるように、電車の車体が上流の激流みたく景色へ滑ってきた。鉄と空気を割くような風の音が混ざって、世界の輪郭が一瞬だけ白く滲む。

 その手前で、彼女がまた振り向く。

 満面の笑み。それはまるで、夜景の粒子を細かく映したみたいな瞳。頬に落ちた信号の赤が、星の一部みたいに見えた。

 

「────まるで、あの星座……」

 

「────────────みたい………」

 

 彼女の小さな囁きは、通り過ぎる車輪の音にさらわれて消える。

 快速列車は物凄く長くて、そこから先の声が全く聞き取れない。

 私は返事を探して口を開いたのに、声の置き場所が見つからなかった。

 

「……ぇ、喜多さん……?」

 

 やがて、長かった電車が遠ざかる。

 残された空気はその残響を残す様にやわらかく震えて、静けさの膜が一枚、私たちに降りてきた。

 彼女はギターケースのハンドルを両手でそっと握り直し、少しだけ肩を落として、また微笑みかけてくれた。

 その笑みは、嬉しいのに。どうしてか、どこか痛みを孕んでいて、私の胸の内側で糸がきゅっと結ばれる。

 視界がわずかにぼやけた。私は自分でも気づかないまま、ケースの持ち手を強く握りしめている。

 どうしてか、分からない。喜多さんが夜空の『あの星』に見蕩れていたみたいに。

 私は多分、きっと─────そんな喜多さんの姿に、見蕩(みと)れていたのかもしれない。今なら、そう思う。

 

「──────────っ」

 

「……ぁ」

 

 頬を何かが伝う気配に、その時の私の意識が遅れて追いつく。

 つんと冷たい雫が、皮膚の上でゆっくりと形を変えていた。

 

「……? えっ、ご、後藤さん!? な、泣いてるの!? どうかした!」

 

 喜多さんの声が近づく。

 慌てて手のひらを頬に当てると、指先が濡れていた。どうして、と胸の内側で言葉が跳ねる。

 

「へ……? ……あれ……」

 

「わ、たし……なん、で……?」

 

 泪の跡を親指で拭うと、そこだけ体温が戻ってきた。

 恥ずかしさが遅れて押し寄せて、私は小さく息を吐く。

 

「だ、大丈夫? 後藤さん」

 

 喜多さんはそんな私へ心配そうに綺麗なハンカチを渡してくれた。整えられていて、私の芋ジャージとは比にならない程にそれは清楚感を演出する。

 

「……す、すみません……急に……」

 

 少しだけ躊躇(ためら)ってから、瞳の水滴を拭き取る。そのハンカチを貸してくれた喜多ちゃんへぺこりと小さく頭を下げる。

 

「……なんでも、ないです。少し、目が乾いてた、のかな。大丈夫、です」

 

 そう言って笑うと、心臓の音が一拍、落ち着いた。けれど胸の真ん中では、たしかに何かが明滅している。さっき夜空に見た光に、とてもよく似た、ちいさな灯り。

 

「……そっか、良かった」

 

 喜多さんも微笑んで、私の隣に並んだ。二人で並んで見上げる空は同じ景色のはず。でもどうしてか彼女と一緒だと、深さが少しだけ増してる様な、そんな気になる。

 

「あっあの、ハンカチ、すみません」

 

「いいわよ、そんなの全然!」

 

「あっ洗って、お返しします……」

 

「いいのにそんな……ふふっ。ごめんね、後藤さん」

 

「あっいいえ、私こそ……あっありがとう、ございます。喜多さん」

 

 喜多さんが謝ることなんてないのに。

 この人は、いつも本当に優しい。時々グサッとくる言葉を無意識に投げられるけど、そこに悪意なんか欠片も無いことは、多分私がいちばんよく知ってる。そんな気がする。

 そうやって喜多さんのハンカチを預かった私は、それをそっとポケットに仕舞う。まるで、大切な宝物のように。

 息を吸い、言葉の位置を慎重に探す。喉の奥に灯ったちいさな光を、消さないように。

 

「…………喜多さん。私、多分ですけど新曲、書ける気がします。きっと、今日帰ったら、すぐに」

 

「できたら………結束バンドの皆にも、喜多ちゃんにも、絶対に見せたいです。また、見てもらえますか?」

 

「────え」

 

 それを聞いた彼女の目がぱっと大きくなる。

 星の瞬きがそのまま瞳に移ったみたいに、明るい。

 

「……っ、本当?」

 

 その大きな瞳に少しだけたじろぐ。でも、胸の奥に喜びと小さな自信みたいなものが、その時の私には芽生えていた。きっと、それを形にできる。そんな確信じみた思いが、珍しく私の背中を押してくれた。そのまま、喜多さんへ頷く。

 

「はい……! 絶対に書き上げます。だから、その時は見てもらえると、嬉しいです」

 

 言い切った瞬間、胸の中で何かがコトリと定位置にはまった。

 名もない旋律が、私の方へ一歩、近づいてくる。夜空の星座は黙ったまま、でも確かに、こちらを見ている。

 

「………っ、うん!!」

 

「楽しみにしてるわね、後藤さんっ!」

 

 そう言って、喜多さんは満面に笑いかけてくれた。それは、こんな私の曲を心から、楽しみにしてくれていると分かる笑顔だった。

 そうして私たちはしばらく、言葉を持たないまま空を見上げた。踏切の赤はやがて白に変わり、街のざわめきが戻ってくる。けれど耳の奥では、まだ別の音が鳴っていた。

 はじめましてのはずの曲が、まるでずっと前からこの世界のどこかに眠っていたみたいに思う。胸の中に、言葉と音が確かに形となり始めていた。

 まるでどこか遠くの孤独な惑星(ほし)の軌道が、ゆっくり変わりゆくみたいに。

 

 

 

 

 

 

 それは確かに、喜多ちゃんがくれたもの。喜多ちゃんが居なければ、あの時の言葉は私には降ってこなかった。

 

 今までの私じゃ、絶対に書けない歌詞だった。

 

 喜多ちゃんに。虹夏ちゃんに、リョウさんに。

 みんなに伝えたいと願った────私の、本当の気持ち。私の本当の感謝の想い。

 だからきっと、これを伝えるのは間違ってない。みんな、喜んでくれる。喜多ちゃんも、きっと。

 

 本気でそう、思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国道、自動車が行き交う道路。その交差点。

 私の事なんてまるでどうでもいいと言わんばかりに、通り過ぎていく景色。

 崩れ落ちたままの膝に、アスファルトが冷たく貼りつく。吸い込んだ息だけが胸の奥で軋んで、ひたすらにその奥をズタズタに裂いていく。

 動けない。ギターケースがまるで(なまり)みたいに重くて、どんどん私を地中に埋めてこようとしてくるみたいだった。

 

「………………喜多、ちゃん………」

 

 きっと、もう届かない声。

 自分でも分かるほど、その声色は止まらない涙と一緒に(かす)れていた。

 視界のふちが滲んで、私を置いてきぼりにしていくみたいに行き交う車のライト。それは、私の涙を小さな硝子のように一枚ずつ光らせては視野から消えていく。

 喉の奥が焼けて、名前を呼ぶ声だけが、まるで自分のものじゃないみたいに掠れていた。

 肩で息をするたび、背中のギターケースが無駄に重く揺れる。

 どうして、どうして。

 胸の中で繰り返す問いは、答えのない穴を広げるだけ。

 心が、まるで色彩(いろ)を棄てていくみたいだった。

 

 私は、何を間違えたんですか。

 どうして。なんで──────私は、私はただ。

 

 喜多ちゃんに、笑って欲しかっただけなのに。喜多ちゃんを、助けたかっただけなのに。

 

 額を落として、両手でスカートの端を握りしめる。指の節が白く、強く変色していく。

 鼓動はばらばらで、数えようとしてもどこかで落っこちる。

 あの部屋で握った温度、離れていった指先、吸音材が息を止めたみたいに静かになった空気───────思い出すほど胸の奥で嫌な音が鳴り響いては止まらない。

 

 嫌だ。行かないで。そんなつもりじゃなかったのに。

 

 勇気を出したら、届くと思っていた。

 春樹くんが見せてくれた花の色を、私も誰かに渡せるんだって、信じたかった。だから言葉を選んだ。

 だから真正面から、喜多ちゃんへ「本当」を渡そうとした。

 それなのに。

 それなのに、どうして、どうして喜多ちゃんは、あんなに傷ついて悲しんで、泣きながら出ていってしまったんだろう。

 せっかく。

 せっかく、勇気を、出せたのに。春樹くんみたいになりたくて。

 こんな私なんかでも、助けてもらった分くらいは助けたくて。恩を、返したくて。──────たすけたかっただけなのに。

 いたい。

 胸の奥が、張り裂けそう。悲しくて、涙がなくなりそう。

 いたい、いたい、くるしい。

 息が、まともに出来ない。苦しくて、痛みがなくなりそう。

 くるしい。いたい、いたい。

 知らなかった。

 こんなに、こんなに誰かを傷つけることが、かなしくて、つらくて。

 

 ───────こんなに、こわいことだったなんて。

 

 顔を上げられない。地面の黒が、重力の井戸の底に堕ちていくみたいに深くなっていく。

 さっき見失った背中が、そのまま落ちていく気がする。

 必死に、大切な彼女の後ろ姿へ手を伸ばそうとする。

 でも、それはもう二度と見つけられなくなってしまうような、そんな気がして、息すらもまともに出来なくなっていく。

 

「はぁっっ、ぁ、ああ………ううっ、ぁ……………」

 

 私の、せいだ。

 わたしの、私の、私のせいだ────────!!

 

 私が、また調子に乗った。

 分不相応に、誰かを助けたいだなんて望んだからだ。私なんかが、そんなこと、()()()()()()()はずなんか無かったんだ。

 交わっていいはずなんか無かった。

 そもそもが、間違いだった。

 永遠にあの星座────結束バンドの皆に、喜多ちゃんみたいな、春樹くんみたいなあんな、眩し過ぎる「光」にこんな私なんかが。

 触れていいはずなんか無かった。

 皆と、一緒にいたいだなんて、やっぱりそもそも望むべきなんかじゃなかったんだ。

 

 願ったりなんかしちゃダメだったんだ。

 

 どうして、どうして私達は出逢ってしまったんだろう。

 アスファルトに押し付けた両手に砂利と細い石が触れて、酷く痛む。でも、そんな痛みすらどうでもいい。喜多ちゃんを、あんなふうに傷つけた痛みに比べれば、こんなもの。

 リフレインが叫んでる。心の奥で、こんなことになるくらいなら、と何度も何度も反響して反芻(はんすう)が止まらない。

 

 こんなふうに、喜多ちゃんを傷つけるくらいなら。

 

 こんなことなら、こんなことなら、最初からそんなこと、思い込むべきじゃなかったんだ。望むべきじゃなかった。

 私みたいな最低な人間、私みたいな、こんな人間なんか────── 一生、あの押入れから出てくるべきなんかじゃなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 最初から、さいしょから。

 

 

 私なんか、わたしなんか、居なければ良かったのに。

 

 

 

 

 

 

「───────ひとり」

 

 目の前で、靴音が止まった。乾いた靴底が、路面に吸い付く気配。

 風向きが変わって、誰かの呼吸が私の呼吸と重なる。右横で、視界の端に革靴だけが映り込む。

 名前を呼ばれた気がして、でも耳は信じないふりをする。

 そんな。どうして。

 頬を伝う涙が冷えて、顎で固まる。震えながら、声の方を微かに見上げる。

 息を荒くした春樹くんが、そこには居た。

 

「…………………………はる、き、く………」

 

 その声は、私を何度も抱きしめて肯定してくれた時と同じ温度を持っていた。その優しくて、陽だまりのようなこえを聞いた瞬間に、喉の奥で固まっていたものがほどけそうになる。

 ほどけたら、崩れる。崩れたら、もう立てない。

 だから俯く。すぐにまた、目を逸らす。それに、もう、私なんかが、春樹くんに触れる資格もきっと無い。なによりも。

 

 嫌だ。見られたくない。こんな顔。

 

 肩に影が差して、私の背にふわりと乗る風。

 冬へ向かう気流の冷たさが、少しだけ遠のく。

 膝の横に、同じ高さの気配。彼はしゃがみ込んで、私の視界に入らないように、少しだけ離れて優しく呟く。

 

「ここ、うるさいよな。車の音で、ひとりの声が流れちまう」

 

 こんな時まで優しい冗談みたいな言い方に、胸の奥がきゅっとなった。

 言葉が溢れて、でもうまく形にならない。

 私は唇を噛む。言わなきゃ。言わなきゃいけない。声が震えて、止まらない。形をまともに保てない。

 

「……私、きっと、間違えました…………」

 

「わたし、きっと、きっと、喜多ちゃんを……傷つけ、たかもしれません。分からないんです。どうして逃げちゃったのか、どうして私は、こんな、ことに……なったのか………」

 

 ひとつ出した言葉の後ろから、次の言葉が雪崩みたいに追いかけてくる。手が震える。また喉と鼓動が震えて、止まらない。

 しゃくりあげる音が恥ずかしくて、でも止められない。

 

「わ……私、はっはるきくんが、教えてくれたから………」

 

「勇気を、出したいって、思ったんです」

 

「私みたいな、こんな人間でも、もしかしたら、もしかしたら、誰かを助けられるのかなって、そう………思ったから。そう、春樹くんが教えてくれたから………」

 

「………うん」

 

「………そう信じたかった。信じたかったんです。だから────でも、でもそんな事無かった………」

 

「私なんかが、そんな分不相応な事、考えちゃいけなかった」

 

「伝えたかったんです!! 喜多ちゃんは、大切な人だって、私にとってずっと憧れで、喜多ちゃんみたいになりたくて!!」

 

「………っ、私にとって、大切な、大切な友達って、伝えたら………」

 

「そしたら、喜多ちゃんは、走り出して、しまって………どこかに行ってしまったんです」

 

「きっと、きっと……私の、せいだ………私の、私のせいなんです………!!」

 

「わっ私がそんな、くだらない勇気を出したせいで、喜多ちゃんはきっと傷ついた………!!」

 

 叫ぶ。とうとう抑えられなくて両手を硬く握り込みながら、どうしようもなく情けなく叫びながら、私は思う。

 自分で自分が、赦せない。呼吸ができないほど、息が荒い。真水の中で溺れていくみたいに、そんな苦悶(くもん)が肺にまで入り込む。そのまま、泣き叫ぶ。

 

「こんな結果になるくらいなら……」

 

「だったらっっ……最初から……勇気なんて、出さなければ……」

 

「ッッ………こんなことになるなんて分かってたらぁっっ……!」

 

「こんな、こんな私なんかが、助けたいなんて、思ったりなんかしなければ!!!」

 

「自惚れて、調子になんか乗ったりしなければッッ! そんなこと、考えたりなんかしなければ、こんなことにならなかったんじゃないかって……!!!」

 

「……………わ、私には……そんな資格なんて、なかった……」

 

「私なんかが、思っちゃいけなかった……っ!!」

 

「私なんかが、…………思い上がったり、しなければ………」

 

「あっ………っ、うっ、わ、私は、やっぱり、ダメなんです。私なんて、居なければ………大好きで大切な人を、傷つけなくて済んだのに─────私なんか」

 

 

 

 

 

 

「私なんか……居なければ良かったのにッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 風が静かに鼓膜に響く。

 視界の端に、彼の手が見える。

 

「っ!」

 

 思わず肩を震わせてしまう。

 私の両手の上に、それはそっと重なる。怖い。怒られる。咄嗟に、無意識に、そう思い込む。だけど。

 ────────怒られるどころか、大きさの違う体温が、指の震えを少しだけ遅くしてきた。そっと、まるで新雪のように、春樹くんからの言葉が落ちる。

 

「そんなことないよ」

 

「…………………え?」

 

 短くて、はっきりした音。それは、切なくて悲しそうで、でもとても暖かい音。

 私はそれを聞いて、目を見開く。

 それは私の否定を、正面から止める音。顔は上げられないのに、言葉だけが真っすぐ胸に入ってくる。

 こんな惨めに泣き喚いた私を見捨てることだって、出来るはずなのに。なのに彼はそれどころか、私の手をより強く握ったままそっと呟く。

 

「そんなはずない」

 

「間違えてなんかない。君は逃げなかった」

 

「逃げなかったから、今ここで泣けてるんだ」

 

 忘れていた呼吸の仕方を、その言葉が思い出させる。吸って、吐いて。彼の声に合わせて、波の高さが少しずつ揃う。

 きっと、今の私はぐしゃぐしゃの顔。涙できっと目が真っ赤で、そして鼻水も出ていて、どうしようもなく最低な顔のまま。見せられない。顔を上げられない。そのまま、私は口(ごも)る。

 

「でも、………でも、っ、それが、っ……!! その結果が……!!」

 

「結果は、まだ途中だよ」

 

 重なる手に、ほんの少し力がこもる。

 まるでそれは、繋ぎとめるための力加減。

 

「君が勇気を出したことと、誰かが痛くなる瞬間。それが同時に起こることは……どうしても、あるんだよ」

 

「世界はたまに、そういう意地悪をする。でも、それが “勇気を出した君が悪い” っていう証拠になんてならない」

 

「ひとりは、悪くなんかないんだ」

 

 鼓動のばらばらが、少しだけ揃っていく。

 頭の中のざわめきが、信号の周期と同じくらいの間隔を持ちはじめる。胸の奥に、言葉の置き場所ができる。

 私は、必死にそれを否定する。何度も、何度も首を横に振る。

 

「違う、違うんです!!! 私のせいなんです!!」

 

「……私、怖いんですっ!! また、間違えるのが……っ、あの時の、喜多ちゃんの顔が頭から離れない………っ!! あんな顔、させたくなかったのに……!!」

 

「─────間違えることは別に悪い事じゃない」

 

「間違ってもいいんだ。大切なのは、間違った()()()のことだよ」

 

「……!!」

 

「君はちゃんと頑張ってる。俺は知ってるよ。君がちゃんと前に進もうって、変わろうって自分なりに努力してること。ちゃんと分かってる」

 

「それに、怖いって言えるなら、君はもう前の君よりもずっと前にいる。怖いのに、怖くても、ちゃんとひとりは逃げないで呼びかけたんだろ? 自分にできることを、頑張ろうとした」

 

「それは、立派なことなんだよ。それが “今” の君の姿だよ」

 

「え………?」

 

 彼の言葉は、私が自分に向けた刃を、一枚ずつ鞘に戻していくみたいだった。今すぐ全部なんて、無理。それでも、一本ずつ、静かに収めようと一緒に手を取ってくれる。

 リョウ先輩が、似たような事を私に伝えてくれたのを、一瞬思い出す。

 

『正しいかは本当の意味では分からなくてもいい。正解を、ひとつずつ一緒に探すこと』

 

『きっとそこに意味がある』

 

『それだけは、忘れないで。ぼっち』

 

 三日前に、リョウさんが私に言ってくれた言葉。大切なのは、間違ったその後。正しいかどうかに意味があるわけじゃない。本当に大事なのは、()()()の事。探そうとする()()。その本当の意味は、こういう事だったのかな。

 彼女の言葉と一緒に、春樹くんのその言葉も胸へ静かに染みていく。

 ねぇ、ひとり、と彼はやさしく囁く。

 

「顔、上げられる……?」

 

「………っ!」

 

 ゆっくりでいい、と呟く、彼の間。

 私は躊躇(ためら)う。怖い。見られたくない。硬直してしまう。

 

「……………………」

 

 でも、春樹くんは待ってくれる。やっぱり、()かさない。この人は、急かしたりなんてしない。

 秋の風がまたひとつ吹いて、前髪を揺らす。

 必死に、ジャージの袖と、親指の付け根で目尻を(こす)る。鼻を何度も(すす)る。

 意を決して、私は少しだけ顎を上げた。

 

「…………」

 

 滲んだ街灯が二つに割れて、その向こうに、いつもの温かくて、哀愁(あいしゅう)に溢れたような、そんな眼がそこにはあった。

 まっすぐで、でも押しつけじゃない、私を見失わない視線。

 それは、私が確かに好きになったこの人の瞳。春樹くんは、眉を八の字にしたまま、また優しく笑いかけてきた。

 

「大丈夫だよ、ひとり」

 

「君は、ちゃんと選んだんだ。それが痛いのは、君のせいじゃないよ。だから、ここからどうするかを……いっしょに考えよう?」

 

 大丈夫だよ、の声はどうしようもなく(ぬく)くて、私の冷たく凍っていた冬のダイヤモンドのような心を()かしていくみたいだった。

 暗く、黒く狭窄(きょうさく)していた視界が、ゆっくりと白く開けていく。それはそっと、光の中へ手を引かれていくみたいに。

 胸の中の穴は、塞がってはいない。

 風はまだ吹いている。その(あな)へ気流が吹き抜けていく。

 ─────でも。まるでそんな孔の底に、そっと薄い板が渡されたみたいに、落ち続ける感覚は止まる。呼吸が、少しだけ静かになった。涙声のまま、私は問い掛ける。

 

「……」

 

「……わ……私、は……どうすれば………いいんでしょうか………」

 

「……」

 

 やがて、そっと瞳を伏せる春樹くんは、私の両手をしゃがみ込んだ顔の前まで持ち上げる。

 硬くて、(たくま)しくて強さを感じる手。その手は、とても暖かい。彼は伏せていた表情から、細く瞳を開いては続ける。

 

「……まずは、君の手を温める」

 

「次に、今の気持ちを……全部、言葉にする。 “助けたい” って思った君の気持ちも、“怖い” って思う君の気持ちも。どっちも本当」

 

「だから、まずは……それを認めてあげよう?」

 

「自分を─────(ゆる)してあげようよ。話は、そこからだ」

 

 認める。自分を、認める? 赦しても、いいのかな。こんな私を?

 重ねた手に、もう一度、ゆっくりと熱が戻るのを感じる。指先へ、血が通っていく。少しづつ、神経の回路が開いていく。

 私はやがて小さく頷く。涙はまだ止まらない。止まらなくても、いいのかもしれない、そう思えてくる。

 

「それから、喜多さんのことは……君がもう一度、君の言葉で話せばいい」

 

「わたしの、ことば、で?」

 

「そうだよ」

 

「俺には、これだけは分かる。……俺、思ったんだ。少なくともあの子が逃げたのは、君からじゃない。だって、逃げる以外の方法もあったはずなのに、敢えて彼女は逃げ出した」

 

「これは、ただの俺の予感だから……当たってるかは保証はない。でもね、思うんだ。あの子は、あの子自身の痛みから逃げたんじゃないかなって」

 

「──────だから、君が傷つけた訳じゃないんだ、きっと。そんな気がする」

 

「………え………」

 

 その言い方に、胸の奥が微かに鳴った。私が知らない領域の話を絶対に決めつけたりはしない。それでも、それは臆すことなく真っ直ぐに発せられる声音だ。

 春樹くんは私の両手を握りながら「ひとり……深呼吸。ゆっくり息してみて」と囁く。

 

「……はい」

 

 私は息を整える。吸って、吐いて。もう一度、吸う。そんな私の様子を見て、柔らかく春樹くんははにかむ。

 

「……うん。そうだよ、偉い」

 

「……ゆっくりでいいから、君の歩幅で戻ろう。ね? ここから。ゆっくり」

 

 立ち上がる前に、彼はもう一度右手で私の手を包み込む。

 私は握り返す。冷たさはまだ残っている。だけど、もうさっきほど怖くない。膝に残った痺れが、少しずつ現実に戻る合図になる。

 そこで、彼は少しだけ言葉を切って、私の目の高さにゆっくりと視線を落とす。

 やがて指先が、ためらいがちに私の肩へ触れる。

 距離は近いのに、無理に抱きしめたりはしない。まるで私が逃げないのを確かめるみたいに、そっと。すると、そのまま春樹くんは、静かに決意を込めたような表現でハッキリと呟く。

 

「─────ひとりが間違ってるなんて、そんなこと、俺は絶対に認めない」

 

「そんなこと、絶対に誰にも言わせない」

 

 胸の真ん中に、はっきり落ちる音。心臓が一拍、強く鳴った。

 

「ひとりは、間違ってなんかいない。何度だって言う。君は頑張ってる。偉いんだ。今だって」

 

「ずっと、ずっと自分を認められなくて、殻を破れなくて苦しんでた君が、そうやって誰かの為に、頑張ったから、それだけ本気で泣けてるじゃないか」

 

「それは絶対に無駄になんかならない。その “痛み” は、君を確かに前に進めてくれてるんだ」

 

「君は、自分のためだけじゃなくて、“誰かのため” にここまで頑張れたんだよ。それが、そんな人が間違ってるはずなんかない!」

 

「……ひとりが居なかったら、俺は、今ここにいないんだ。生きていけなかった」

 

 私は、強く、つよく目を見開く。春樹くんが、初めて私に思いを伝えてくれたあの日と同じ、言葉。でも、今は────あの時よりもずっと、ずっと自然に、彼の言葉が胸に染み入ってくる。そのことばを、信じられる自分がいる。

 言葉の温度が、私の手の甲から腕へ、胸へとじわり広がる。

 

「俺がどんなにしょうもないこと言っても、何を話しても、ひとりが笑ってくれるから、俺、今ここで頑張れてるんだよ?」

 

「俺は、君がいてくれたから救われたんだ。生きていいって、思えたんだ」

 

「君が救ってくれたんだ。だから、おねがいだから。自分なんて居なければ、なんて……もう、そんなかなしいこと、いわないで」

 

「………………聞いて、ひとり」

 

「─────君はもう、独りぼっちなんかじゃないよ」

 

「俺が、この先、ずっと、ずっとずっと……ちゃんと側にいるから」

 

 喉の奥がまた熱くなる。私はただただ、その言葉を聴く。また涙が、どんどん大きく見開いたままの瞳から溢れてくる。

 けれど今度は、さっきとは違う熱。止まらなくて、でも、心がたしかに救いあげられていく光そのもの。

 

「どれだけ落ち込んでも、どれだけ悲しくても、どれだけ泣いたっていい。泣いてもいいんだ。立ち止まってもいいんだ」

 

「でもね……「自分なんてもう要らない」だなんて、二度と言わないで。そんなことないんだ。絶対に。俺にとっては、君が必要なんだ」

 

「俺は何度だって、君がその事を忘れてしまっても、何度だって君に伝える。絶対に君のこと、見捨てたりなんかしない!」

 

「悲しい時は、ちゃんと悲しんでいい。泣いてもいい。でも、その全部を、俺が受け止めるから」

 

「君が “居ていい” 世界を、俺が守る。世界でたった一人の……君の居場所は、絶対にここに在る。俺が、その場所を作る!」

 

「……………っ、ぁ、あぁっ、うっ、ううっ………」

 

 嗚咽(おえつ)が勝手に、口から零れていく。

 どうして。どうして、このひとは、いつも、いつもいつも。

 そうやって、わたしのいちばんほしいことばをくれるの。

 ずるい、ずるい、そんなの。

 

「うっ、ぅあああ、ぁああああああっっあああっ………!!!」

 

 肩に置かれた手で、そのまま私をまた彼は抱き寄せてくれる。泣き叫ぶ、こんな最低な私を、全部受け止めてくれるかのように。私の背骨が、その力で立ち上がる位置を思い出していく。

 

「……ごめんな。俺がいることで、君を余計に苦しめたりしてたらって思うと、すごく怖い」

 

「でも、それでも伝えたいんだ。君は “ここ” にいてほしい」

 

「どんなに苦しくても、悲しくても、それでも、生きていて欲しいんだ」

 

「俺が、心からそう願ってる。だから、お願いだから、それを忘れないで」

 

「ッ……………っうううっ」

 

「………っ、はいっ…………はい………!!!」

 

 何度も、何度も鼻を啜る。どうしようもなく、ひっく、ひっくと嗚咽が止まらない。春樹くんは、抱き締めてくれていた私の肩から、そっと離れる。

 そのまま、額を近づけてくる。思わず反射的にビクッと肩が動く。少しだけおでこをくっつけるみたいに近づいた。とく、とく、と強烈な鼓動が胸の中に響いて、変な声が出てしまう。

 

「………ぁ………!?」

 

 涙でどうしようもなくなってる私を、そんな事なんてまるで気にしないと言わんばかりに、そっと寄せてくる。

 

「………ッ、ぁ、ぅ…………あっ…………」

 

 それは、ほんの少しでも油断したら、唇が重なってしまいそうなほどの距離。

 やだ、ちかい。近い、です。春樹くん。

 心臓が跳ね回る。だけど、それは全く嫌じゃなくて。今はそれ以上に、もっと、もっと、このひとの声を、この距離で聴いていたい。こうしていてほしい、とただそう願う自分がいる。

 肌じゃなくて、呼吸と視線の距離を合わせるみたいな、そんな額の熱と共に春樹くんはまた囁く。

 

「ねぇ、ひとり。………俺はね、君のこと、絶対に守るって決めてるんだ」

 

「君が泣いてる時は、俺が隣で泣くし」

 

「君が笑ってくれた時は、何より幸せなんだよ」

 

「そんな君が、大好きだよ。君の、全部が好き。大好きなんだよ?」

 

「だから、どんなに辛くても、逃げたくなっても、ひとりが俺を信じてくれる限り、俺も絶対に離さない」

 

「君の涙も、後悔も、全部、俺が一緒に抱える」

 

「もう独りになんてさせない。俺がいるから」

 

「誰がなんと言おうと、俺はずっと、君の味方だよ」

 

「それを……それだけは、絶対に忘れないで」

 

 言葉が、落ちてこない。やさしさと、すきで満ち満ちた、やさしくて温かい気持ちだけが、ただただ光の粒みたいに溢れてくる。胸の奥で固まっていた氷が、それによって静かに解けていく音だけがした。

 さっきまで同じ形でしか鳴らなかった鼓動が、少しだけ、いつものリズムに戻っていく。

 そうして、静かに彼は額を離す。身体も、離れていく。まるでそれは、もう大丈夫だよ、と言わんばかりに。

 私は見開いたままの瞳で、そのまま彼を見つめ直す。春樹くんも、切なげな表情のまま、そうしてまた微笑み返してくる。

 

「………」

 

 互いに、数秒程見つめ合う。

 いつから、だったろう。

 前まで、あんなにも人の顔を見るのは怖かったのに。だけど────今は、春樹くんのおかげで、春樹くんだけは、ずっと、こうして見ていたいって、思うようになった。それは一体、いつの瞬間からだったんだろう。

 

 そうして、ジャージの袖で何度も涙を拭う。

 

 鼻を啜り終えて、一度ゆっくりと目蓋(まぶた)を閉じる。そして、そのままもう一度目を見開いて視界を上げる。たぶん、きっと少しはマシになった顔で、決意を固める。

 春樹くんがくれた、支え。

 こんな私を、肯定してくれた彼の気持ちを、無駄にしたくなかった。

 だから、だから───私は。

 

「……春樹くん」

 

「ん」

 

「あっ………ありがとう……」

 

「──────あの、春樹くん」

 

「春樹くんに、ちゃんと、伝えたい言葉が、ある、んです」

 

「うん」

 

「春樹くん……聴いて、くれますか?」

 

「もちろん」

 

 ひとつひとつ、温もりとリズムだけを確かめ合うように、私は言葉を重ねる。

 春樹くんの相槌を聞いて、静かに、少しだけ目蓋を閉じる。そして、ゆっくりと、呟く。

 ────私の、本当を。丁寧に、そっと呟く。

 

 

 

 

 

 

「………………大好きです」

 

 

 

 

 

 

 それは、自分の意思で出てきた言葉。

 今までの自分じゃ、きっと言えなかった。私を、ずっとずっと救ってくれる春樹くんがくれた言葉。精一杯の、間違いじゃないと本気で思える想い。それを、伝えてもいいんだ、って思えたから。

 だからもう一度、あなたに伝える。

 

 だいすきです。春樹くん。

 

 私、春樹くんが隣にいてくれてよかった。

 あなたに出会えて、よかった。心から、そう思います。

 

 彼はそれを聞いて、今度は満面の笑みで「俺もだよ」とだけ返してくれた。

 

 その笑顔に、世界が開けていく。あんなにも、真っ暗で輪郭が閉じていたはずの視界が、果てしなく真っ直ぐに見開く。そしてまた、自身の音の赴くがままに、春樹くんへ伝える。

 

「……私、もう一回、喜多ちゃんを探します。ちゃんと、私の言葉で」

 

「伝えたいんです。ちゃんと……喜多ちゃんの言葉を、聞きたいんです」

 

「─────よく言った。それでこそ、ギターヒーロー……後藤ひとりだ」

 

 彼はそうしてニカッ、とまた眩しく笑う。

 その笑顔を見て、私も、自然と頬が綻ぶ。この人は、本当に不思議な人。私には無い光を持ってる人。

 あんなに苦しかったのに、悲しかったのに。

 まるで光で道筋を照らされたみたいに、私の世界は今となっては夜の中でも晴れ渡っている。まるで、太陽みたいな、そんな人。

 

「一緒に行こう? 俺も、探すから」

 

 そう言って、彼は手を伸ばしてきてくれた。

 

「─────はい」

 

 取るに足らない、私なんかの手。

 でも、彼はそれでも私の手を、また取ってくれる。私はその手を握り締めて、立ち上がる。

 大丈夫。きっと、大丈夫。

 たとえ、世界がこの先どんなにつらいものでも。

 たとえ、悲しみの先に孤独があっても、もう私はきっと独りじゃない。

 もし大丈夫じゃなくても。

 今はこの手を掴んでいれば、たぶん大丈夫に辿り着ける。そんな気がした。

 そのぬくもりを、今度は手から手へ。きっと今、それをいちばん必要としてる人の所へ、届けたいと願う。

 

 待っていてください。喜多ちゃん。

 

 

 

 

 

 いま─────行きますから。

 

 

 

 

 

 












 次回、#03『星座になれたら』最終回です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。