ぼっち・ざ・ろっく! フラッシュバッカー   作:空山 零句

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更新遅くなり、失礼しました!
投下します。

新章 #04『リライト』となります。
よろしければ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『リライト』をお聞きになった上で本章をお読み頂ければ一層お楽しみになれるかと思います。

【注意】

ここからオリ主の春樹側の話が増えて、ちょっとしんどめのシリアスなエピソードが多めになります。

(もちろんひとりたちの描写は減りませんし、ひとり×春樹のイチャらぶなエピソードがCHAPTER #33~#36まで在り、虹夏と星歌の描写がCHAPTER #40にてメインでもあります。良ければそちらもお楽しみください)

ただ、この先における全体エピソード #09『夜に惑う星、カラカラ騒ぐ思考を連れて歩く』、#11『Re:Re:』#12『フラッシュバッカー』における非常に必要不可欠な土台のエピソードとなりますので体調と相談しながら是非とも読んで頂けたら、作者の私としても非常に嬉しく思います。



それでは、お楽しみくださいませ。






#04『リライト』
CHAPTER #31 「存在の証明」


 

 

 営業終了後のSTARRYは、どうやらいつもよりちょっとだけ音が大きく聞こえるらしい。それは例えるなら、冷蔵庫のモーター音とか、グラスを拭く布の擦れる音とか、そんな音だ。

 さっきまでお客さんがちょこちょこ入ってたフロアに、今は俺たち五人だけ。人の気配がほとんど無いライブハウスは、どこか熱が消えたあとの寂しさを漂わせている。

 そんな中で、俺は思わず口がヒクッ、と痙攣する。

 

 こりゃ一体、どういう状況だよ。

 

 どこから出してきたのか、大量のポテトチップスに大袋のパーティ用お菓子が机に散乱している。加えてその上には「子どものビール」やオレンジジュース、麦茶のペットボトルも並んでいた。

 そもそも……五人、ってのもまだ慣れない言い方だけど。

 

「という訳で!!! 新メンバー、吉沢 春樹くんでーーーす!! ぱちぱちぱちぃー!」

 

 そうして菓子を並べ終えた虹夏が拍手をしつつ、大げさな声で宣言し始めた。テーブルを囲むように、リョウ、喜多さん、虹夏。そして、ひとりの隣に立つ形で俺もそこに混じっていた。

 

「な、なんなんだよコレ、気恥ずかしいな……」

 

 思わず左手で後頭部を掻く。癖みたいなもんだ。

 ただでさえ「結束バンドのマネージャー」って肩書きがこそばゆいのに、「新メンバー」なんて言われると、もう全身がむずがゆくなって仕方がない。

 

「うへっ、ふへ、へへへ……これで春樹くんも、私達と一緒ですね……」

 

 隣では俺の彼女である後藤ひとりが、なんか怪しい微笑みを浮かべている。いや、笑顔っていうか……にやけ顔っていうか───目が据わってるぞひとり。怖い。笑い方があまりにも癖の塊過ぎる。

 

「そりゃーーだって、この五人で揃うのは何気に初めてじゃん? それに、喜多ちゃんも本調子になったし♪」

 

 虹夏がジュースの紙コップを掲げながらご機嫌そうに笑う。その隣で喜多さんがおずおずと両手を膝の上で握りしめる。

 

「あの皆さん、ご迷惑お掛けしました……すみません」

 

 俯き気味に頭を下げる喜多郁代。

 あれから、ここに着くまでの合間に元々の喜多さんの様子がどうだったのかをリョウ達からは聞いていた。

 やっぱり、ここ何日かの間は、ずっとひとりのことで酷く様子が違っていたらしい。河川敷で見たあの横顔は、目に焼き付いたままだ。

 だけど今の彼女は、どこか憑き物が落ちたような、そんな表情をしているように見える。

 

「……大丈夫。皆、気にしてない」

 

「ッ! ……リョウ先輩。ありがとう、ございます」

 

 そこでリョウが、ぽん、と自然な手つきで喜多さんの肩に手を置いた。口元だけ、わずかに笑っているのが見える。

 当の喜多さんは感銘を受けたような様子で、両手を胸元へ添えてはにかむ。虹夏はリョウのその仕草に気付くと、片手を口へ添えて大袈裟に引いてるみたいなリアクションを見せる。

 

「珍しい……や、山田が喜多ちゃんのことフォローしてる……」

 

「うるさいよ虹夏……」

 

 そう言いながらも、なんだかんだリョウの声はいつもより少し柔らかかった。思わず、そんな二人のやり取りに、俺も小さく苦笑する。

 

「でしょ、ぼっち」

 

 するとリョウが、向かいのひとりへ視線を投げた。

 

「ふへ、ふへへへへ……っ」

 

 ひとりはブンブンブンブンと目で追えない程の速度で首を縦に振っていて、既に顔の原型が危うい。顔の部品、落ちないかそれ。人の彼氏が新メンバーになったくらいで、ここまで顔面崩壊して平気そ?

 

「めっちゃ肯定するじゃん……」

 

 思わず苦笑しながら、俺も子どもビールを一口。

 しゅわしゅわとした炭酸が喉を撫でていく。どこか甘みのあるそれは、アルコールなんか一滴も入っちゃいないくせに、変に胸の奥を火照らせていく。

 たかがライブハウスの打ち上げ。

 それなのに、俺にとってこれはちょっとした「人生の分岐点」のような、そんな気がする。大仰(おおぎょう)な表現が頭をよぎるくらいには、この円の中身が重かった。

 

「じゃあ、近いうちにどこか行くのもいいかもね。春樹の歓迎会も兼ねてさ」

 

 リョウが、コップを指でくるくる回し、さらっとそんなことを呟く。俺は思わず声を上擦らせて首を振る。んな大袈裟な。気持ちは嬉しいけどさ。

 

「おっ! いいねぇ〜!! リョウもいい提案するじゃん、あたしは賛成っ!」

 

「私も賛成です♡ リョウ先輩っ!」

 

 虹夏と喜多さんが揃って片手を上げ、はしゃぐ。

 

「いやっ、わざわざそんなことしてくれなくっていいって、ただのマネージャーみたいなもんだぞ俺は……」

 

 そうして俺の方は手を振って否定する。

 ────そう、“ただのマネージャー”。自分で言いながら、その言葉が舌に引っかかった。

 

「え~~?! そんなこと言わずにさぁ~! まだデビューもしてないあたし達の為にマネージャーになるなんて言ってくれたんだし、それくらいしたいんだもん! ほらほら、今日は飲もうよ。ねっ、春樹くんっ!」

 

 すると虹夏が、無駄にピカピカしたパッケージの子どもビールを無理やり俺の手に握らせてくる。

 

「うわっ!? ていうか虹夏、その子どものビールの瓶どっから出してきたんだよ!? なんかお前酔ってねぇか!?」

 

「にゃははは〜〜〜〜! どうでしょ〜!!」

 

 いや、絶対ちょっとテンションおかしい。

 どうしたこいつ。アルコール入ってないよなコレ。炭酸で酔えるタイプの人種か。多分わざとなんだろうけど。

 そんなドタバタの輪の外側から、ふと現実的な疑問が顔を出す。

 

「……あれ? てか店長さんやPAさんは?」

 

 ふと気になって口にすると、喜多さんが紙コップを両手で持ったまま答えた。鼻の下に泡を付けたまま。その子どもっぽい様子に吹きそうになる。

 

「店長さんは、まだ仕事が終わってないみたいですよ。PAさんも同様に忙しいみたいですし」

 

「あっそうなんだ? 大変なんだなぁ、あの人も。一人で運用とかしてたりするのかな───」

 

「おぅおぅおぅ、人のハコで好き放題してんな虹夏……」

 

 その時。噂をすればなんとやら。

 事務室のドアがガチャリと開いて、低い声がフロアに落ちた。振り向くと、確か、伊地知星歌さん、だったっけ───STARRYの店長が、眉間に皺を寄せながらこっちを見ていた。

 

「げっお姉ちゃん……」

 

 虹夏が分かりやすく気まずそうな顔をする。

 ………ん? あれ、ちょっと待てよ。

 その瞬間、何か嫌な予感がする。ひとつ、確認をするように虹夏へ近づく。

 

「……なぁ虹夏、一応確認な。俺がマネージャーとして入るってことは、あの人には話したのか?」

 

 小声で彼女へ耳打ちすると、「あっ」と気まずそうに目を泳がせた。

 

「一応それは言ったけ………」

 

「………えっ?」

 

 言い終わる前に、店長がズンズンズンとこちらへ歩いてくる。

 一歩ごとに、フロアの空気が揺れる。それはまるで、怪物か何かが近づいてくる音。その刹那、背筋に悪寒が走る。……えっなに、えっ。

 ─────次の瞬間、両肩をガシッと掴まれ、大絶叫ががらんとしたライブハウス内に響く。

 

「ヒェッッ!??」

 

「お前かぁあぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!」

 

「うわぁぁぁああああああああぁぁぁッッッッ!?」

 

 互いに絶叫。思わず俺もけたたましく阿鼻叫喚。

 そして、とんでもない勢いで体が前後にシェイク。さながら視界は洗濯機。首がガックンガックン揺らされて口も開いたり閉じたり。パペット人形かな。

 いやそんなこと言ってる場合じゃねぇ。俺は耐えられず大悲鳴をあげる。

 

「ああああああぁぁいやいやいやなになになになに怖い怖い怖い!!」

 

 ライブハウスの床が揺れてんじゃなくて、揺れてんの完全に俺だこれ。なんつー力だこのお姉さん。永遠に揺さぶられ続けてたまったもんじゃない。いやちょ、痛い、マジで痛い。

 

「男はおまえダメだろ!! 絶対に!! ていうかお前!! どうやってぼっちちゃんを落としたァ!? あぁん!? ほら言ってみろオラァ!!」

 

「何の話ですか急にィィィィィ!?」

 

「ぼ、ぼっぼっちちゃんの、彼氏………彼氏?? 彼氏なんてのはなぁ、わわわ、わ、私は認めないからなッッ!! おい何とか言えェ頼むからァ!!」

 

「うわああああああぁぁっァ!?」

 

 いやなになになに何事だ!?

 完全にぶっ壊れてるこの人。「彼氏」というワードを自分で喚いて発する度に、何やらカタカタと壊れかけのロボットみたいに揺れ動く。どんだけ動揺してんの。

 やだ怖い。誰か助けてお願い。頼むから。

 そのまま目にも止まらぬ速度で変わらず揺さぶられ続け、俺も逃げられない。無駄に肩の力が強くて振り払えない。脳がミキサーに掛けられてるみたいに揺すられ続けていく。

 視界の端で、ひとりが「アッ、ヒッァッァッアッ……!?」とか意味不明な音を発しながら崩壊しているのが見える。

 リョウは、面白そうにこちらを眺めているだけ。面白がってんじゃねえ、止めるの手伝え!!

 

「いやッッッちょ離してくださいよっ、っ、虹夏あぁぁあああぁ!! ちょ、止めてこの人ォォォォ!!」

 

 耐えかねて俺は隣に立つ虹夏へ全力で助けを叫ぶ。人生でこんなにも惨めに人に助けを乞う瞬間、未だかつてあっただろうか。

 

 そこで「あーもう……言わんこっちゃない……お姉ちゃん落ち着いてってば!!」とドン引きしたかのような引き()った声を上げて、その揺さぶりを無理やり止めようと彼女は割り込んできた。

 半ば強引に引き離されたあと、俺の事など眼中に無いかの様に頭を抱えて何やら星歌さんはブツブツと呟く。ヤバい、ヤバすぎるこの人。

 

「だ、大体結束バンドはガールズバンドだぞ………? こんな男がマネージャーだと……?」

 

「し、しか、しかもこ、こんな無駄に顔だけイケメンなヤツが、ヤツが、ぼ、ぼっぼっちちゃんの、彼氏………カレシ、かれ、アァああああああ」

 

 ぶつくさ呟き、恐慌状態のままカタカタと震える彼女に服を整えつつ俺は咄嗟に叫ぶ。言葉が聞き取れない。おお、ヤバい。いよいよ壊れ始めているような。

 

「えっ!? え、今な、何て? なんて言いました今?!」

 

「うっせぇ黙れバカヤロー!!」

 

「いや理不尽ッッッ!?」

 

 なんでなん。り、理不尽っっ……。

 あまりにも至極理不尽極まりない一喝に、俺は思わずビクッと肩を揺らす。何なのこの人。ほんとに一体何なんすか。

 そうして顔面崩壊&半泣きで叫んだ後、今度はぴえんみたいな顔になったかと思うと、星歌さんはひとりのところへ風の速さで飛び込む。

 ひとりもまた顔が崩壊したまま、肩をとんでもなく縦に震わせる。およそ顔の感じがムンクの「叫び」みたいな形。うーん。地獄かな、この絵面。

 

「ねぇぼっちちゃん!? 本当に何処の馬の骨ともいえないこんな奴でいいの!? 大丈夫なのか!? ねぇ、ぼっちちゃん!??」

 

「アッひっ、ひぇぇぇえっあっ………ははははは春樹くんは、そっそんな何処の馬の骨ともいえない人なんかじゃ……」

 

 ひとりもひとりで狼狽しきったまま、虹夏へ必死に「助けて」と言わんばかりに目線を向けて打ち震えている。あっ、口と目のパーツ落ちた。

 

「………虹夏………ゼェ、ゼェ……はぁ、ゼェ……っ、あの、さ。もしかしてお前のねーちゃん、やべー人………?」

 

 息が荒い。

 ぜぇ、ぜぇ、と死に物狂いで死線を抜けてきたみたいな気分になりながら、乱れまくった制服の裾を直す。

 そうしてどうにか半白目で隣の虹夏へ目だけ向ける。一方の彼女は、どこか思考を放棄したみたいな遠い目を明後日の方角に向け、静かに溜め息をつく。

 

「……今更気づいたか……」

 

「えぇ………」

 

 思わず困惑の声が漏れてしまった。

 

「まああの様子だけ見てたらそうなんだけど、店長はこう見えてこのハコ……ライブハウスの運営してる人だから普通に有能な人だよ」

 

「……」

 

「いや、そんなヤベぇ人が今俺の両肩ぶっ壊れるくらいブンブンしてきたの嘘でしょ……?」

 

「……まあ、あんな店長の壊れっぷり、ここに来て私もまだそんなに経ってないけど初めて見た。面白い。ぼっちに対してやたら過保護気味だからメンタル崩壊したのかもね」

 

「………」

 

 続いてリョウが、紙コップを口に運びながらしれっとそう呟く。他人事のように。いやまあ他人事なんでしょうけど。白目で見つめ返す。

 てか、こう見えて、とか抜かすの失礼すぎないかコイツ。次いでぷぷ、と開いた手のひらで無表情のままなのに口元だけなんかニヤけている。なにわろてんねん。

 しかもさっきからリョウはリョウで何してんだ。

 我関せずみたいにボリボリお菓子を堪能しやがって。しっかりと面白がった様子でニヤニヤ顔を更に俺にも向けてくる。こいつ。

 

「まあ、そうだよね。春樹くんからしたらそりゃそういう反応なるよね。あんなヤバいとこ見せたりしてたらそりゃあね」

 

「実はね……結構有名なバンドやってたんだよ、あの人こう見えて……あたしも小さい頃見せてもらった事あるし」

 

「………はい?」

 

 虹夏はゲンナリとした様子で、乾いた笑いを浮かべる。さっきから爆弾のごとく重要な情報が脳に投げ込まれるじゃねえか。

 ……ちょっと待て。

 元バンドマンで、今はハコの店長で、有名だった過去も持ってて、その上でそんなすげー人が今俺の肩ぶん回してたのかよ。癖が強いって。いや癖強はひとりのおかげで慣れてはいるけど限度があるだろ。

 そりゃまあ、その立場ならひとりのことにも、バンドのことにも、口出す資格はあるんだろうけどさ。号泣しまくっている星歌さんも星歌さんで必死にひとりへ弁解を求めて今度は俺の代わりに彼女をシェイクしている。

 ひとりの方は動揺し過ぎて最早人としての形を保てていない。顔の部品が完全に崩れ落ちている。こわい。早く助けてあげなければ。

 

「はぁもう……止めなくっちゃねコレ……」

 

 目も当てられなくなってきたのか、額を抑えてそんな事を呟く虹夏。彼女は両手をパチパチと合わせては、これまた止めに入った。

 

「はいはいはいはーーいお姉ちゃんストップ!! ぼっちちゃん怖がってる!! ていうか春樹くんも壊れかかってるからすとーーっぷ!!」

 

「うるせぇえええ!! これが黙っていられるかぁああ!!」

 

「うっさい!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 やっぱりぴえん顔みたいになっていた涙目の星歌さんの絶叫を、有無も言わせないかのようにとんでもない速度で虹夏が脳天チョップをかます。

 無事、頭頂部に炸裂。

 うおっ、容赦ねぇ。これが姉妹の姿か、これが。

 やがて直撃で打撃を食らったその変な人は、静かにぱたり、とぶっ倒れた。

 

「…………ねぇ、まさかこのひと、死んだ?」

 

 思わず白目を再び剥きそうになりながら、俺は床に転がる星歌さんらしきものを見下ろす。

 

「たぶん生きてる。名無……」

 

「多分……?」

 

 無表情なままお菓子を頬張り、それを飲み込んだ後に前屈み気味に拝むリョウ。そしてドン引きしたまま、苦笑いを浮かべていた喜多さんの温度差ゼロのツッコミが耳に入る。俺は心の中でそっとまとめる。

 ───STARRYの店長、伊地知星歌。

 元有名バンドマン。

 現役ライブハウス店長。

 (多分)ひとりの過保護モンスター。

 ……本来なら多分めちゃくちゃ格の高い人。

 のはずの彼女に対し、俺はめちゃくちゃしょうもない形で第一印象を脳内メモにまとめ終える。

 ひとりは人としての形を失って最早スライム化していて、虹夏は手馴れた様子で「はーいぼっちちゃん起きてねー」と遠目のまま彼女を起こそうとしている。

 なんであんなに冷静なんだあの子。どうなってんすか。

 

「…………………………」

 

 ふらっ、と壁にもたれる。おっと危ない。失神しそうになってしまった。

 少し疲れてるらしい。いや、今日一日だけでも色々あり過ぎて疲れたのはまあ否定しないんだけども。

 カオス。情報量の爆弾。

 さっきもそうだったけど、ほんとこれ、切実に思う。

 このライブハウス。大丈夫なんだろうか。大丈夫なんでしょうかホントに。

 俺、やってける気がしません。誰かほんとに助けてくださいお願いします。

 少しだけこのバンドのマネージャーになりたいとか言ったのを後悔している自分がいる事実は、何一つ、(いが)めそうもなかった。

 

 

 

 

 

 

 これまた閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 数分後。

 とにもかくにも暴走していた店長さんはムクっと起き上がってはひとりと俺を見てはまた倒れ、また起き上がり、また倒れを二回ほど繰り返した。えぇ、なになに怖ァ……。

 なんでしょう、この既視感。

 あぁ、アレだ。昔子どものころにやったRPGとかで見たそれみたいだ。

 何回倒しても起き上がってきて、最終的に『仲間になりたそうにこちらを見ている』とか言ってこっちを見つめてくる敵モンスター。

 いいえを連打したい。こわすぎる。

 そしてやっと何かを諦めたのか。

 よろよろと彼女は頭を抑えつつ、カウンターへ座り込み、まるで何事も無かったかのように溜め息を着いた。

 

「…………はぁ。ったく……虹夏は容赦ねーな……」

 

 いや溜め息着きたいの俺もっすよ店長さん。まあそこはいい。強烈な第一印象もいいところだけど、とりあえず呑み込む。話が進まなさそうだ。

 そこでひとつ、氷が溶けかけたグラスの音だけが響く。

 やっと落ち着いたさっきの空間に戻った感じがした。そして「さて」と一息着いたかのような様子で、こちらを彼女は見つめ返す。

 

「……ごめん、取り乱した。改めて、私はあのちんちくりんの姉で、伊地知星歌。さっき山田が言ってたけど、このハコを運営してる……まあ店長ってとこかな。よろしく」

 

(あっマジでそうなんだ……)

 

「……えっと、吉沢春樹、だったよね、合ってる?」

 

「あ、はい、合ってます……」

 

 星歌さんこと店長は頭をさすりながら、カウンターの外側の椅子へ腰を落ち着けている。冷や汗を垂らしつつ、俺はその言葉に頷く。

 正直店長をやってるように見えなかったなんて呟こうもんなら、今度こそ殺される気がする。黙っておこう。

 一方、視界の脇で「だれがちんちんくりんだー!」と頭のアホ毛を回しつつ、虹夏が不機嫌そうに頬を膨らませて僅かに憤慨している様子が見えた。

 

「……」

 

 どんまい虹夏。

 ていうかあのアホ毛、初めて見た時からずっっと気になってたんだけどなんで自立してるんだろう。……細かい事は気にしたら負けな気がする。まぁそれも置いておこう、なんていうか、もうツッコんだら負けな気がした。

 さっきまでの狂犬みたいな勢いは引っ込んで、星歌さんの冷静なその目は、じっとこっちを観察している。ライトを落としたステージから客席を見るみたいな、およそあの感じだ。

 そして俺はぺこり、と頭を下げて、改まった形で挨拶をする。

 

「……改めて、こちらこそよろしくお願いします。えっと、なんてお呼びしたらいいっすかね」

 

「ん。よろしく。私のことは、まぁ店長と呼んで。……とりあえず、とりあえずは……ぼっちちゃんのことは一度置いとこう。話が進まないから。あとでじっっっくり聞かせてもらうから」

 

「……」

 

 やたらと「とりあえず」と「じっくり」が強調されている事に寒気がする。取り調べされないことを切実に願おう。このあと速やかに命懸けで脱出しなければ。エスケープフロムSTARRYだ。

 いや、そもそも置いとこうで済むレベルじゃないだろ、さっきの。

 心の中でそう突っ込みながらも、もう一度こちらを細めで観察するようにこの人に見つめられて、思わず俺は姿勢を正す。

 

「で、虹夏からは話はちょっと聞いたけど……何、お前……マネージャーやりたいんだって? 結束バンドの」

 

「………はい。そうです」

 

 その問いに、自然と背筋が伸びた。

 さっきまでのドタバタとは別の意味で、真面目に空気がキュッと締まるのを感じる。

 

「ふぅん。で、お前は一体どんな経歴があるの? 履歴書も無いから何もわかんないし」

 

「えーっと、後日持ってきた方がいいっすかね………ていうか、えっ面接ですかコレ!?」

 

「いや、別に今は面接じゃない。ただ、経歴が分からないやつにいきなりそんなマネージャーだなんて役割を任せられないってこと」

 

 星歌さんはストローでリンゴジュースを啜りながら、淡々と続ける。

 なんか、随分と可愛いサイズを飲んでるな。

 好みなのかな。それ多分幼児用のやつだと思うんだけど。そんなことを考えていると、店長はどこか鋭さを感じる横目をまたこちらへ向けてくる。

 その目は、ちゃんと至極真面目な雰囲気のそれだ。触れずらい。

 

「一応、そいつらは割と本気で上目指してる訳だし、ウチのハコにいる以上、いい加減なことはさせる気は無いからね。ましてや、私は一応店長って立場だし」

 

「……!」

 

 ───それを言われて、身が引き締まる。そりゃそうだろう。

 ここはただの遊び場じゃない。そんなことはわかっている。

 このハコを運営する彼女にとっても、結束バンドにとっても、“本番” の場所に違いないはずだ。俺は何となく、隣に居るひとり達へ目線を向ける。

 

「………一応、父が音楽関係だった人間であることもあって、昔から色々教わってました。あと、バンドはよく聞きます」

 

 言いながら、ひとりが椅子の端っこで小さくなっているのがまた視界に入る。そういえば、何気にこの話をするのも初めてか。

 そう。あの子の配信動画から、俺はまた音楽に触り直したんだ。だけどそれを今ここで口に出す勇気は、さすがに無かった。

 

「……最近だと、その……ギターヒーローの動画とか、見ますかね」

 

「ふぅん。まあ、話題だもんね」

 

 ちらり、ともう一度ひとりを見る。まあ、最近だとっていうか、ほぼあの子がアカウントを立ち上げてからの古参ファンなんだけど。

 ひとりは分かりやすくビクッと体を震わせて、頬を真っ赤にしてますます変な顔になった。うん、こういう時のあの子は死ぬほど可愛い。その時。

 店長は何やらこちらを更に一瞬ジッと見つめてきた。

 

「……」

 

「?」

 

 なんだろう、この視線。「あの、何ですか?」と問う。

 俺はその視線に何かを見透かされたように思えて、思わずたじろぐ。少しした後に、静かに彼女は目を逸らし「いや、別に」と小さく呟く。

 

「……なるほど。親御さんがそういう感じだったんだな。まぁそれだけじゃ判断しきれないけど。……なんか弾けるの?」

 

「…………あぁまぁ、家に、色々楽器は置いてあるんで一通りは弾いた事があります。ただ、俺自身にそんな突出した才能は無いですし、それで何かを考えた事は、特に……。なんなら、部活はサッカーとかですし」

 

 言いながら、その瞬間。────胸の奥に古いざらつきが蘇る。

 才能。

 本当に “才能がある” っていうのは、“あの人” みたいな人間のことを言うんだろう。

 小さい頃から散々見せつけられてきた“本物”の音。それと矮小(わいしょう)な自分の音を比べるのは、もうとっくにやめたはずだったのに。それが、酷く鬱陶しく胸中を(うごめ)く。

 

「ふぅん……サッカー。運動部だったんだな。まぁ、音楽にも運動能力は大事だしな。リズム感やら、体力的な部分でも」

 

 星歌さんの声は淡々としてる。

 責めてるわけでも、褒めてるわけでもない。そんな声色。さっきからモニターを見つめたまま、時たまこちらをちらりと見つめてはそんなことを呟く。

 ただ、情報として俺を分解して、並べて、見ている。そんな感じ。

 少しだけ、その言動に胸がザワつく。それが不快な感情だと、一呼吸置いてから俺は気付く。

 

「へぇ……春樹、楽器弾けたんだ」

 

 リョウが、少し意外そうに目を瞬かせる。虹夏や喜多さんも「えっ、春樹くんすごっ」とか「楽器も弾けるんですか……?」と各々驚いた反応を示していた。

 俺は彼女たちへ横目を向け、淡々と返す。

 

「まあ……一応、少しな。特に、ギターとか。それなりに、見様見真似程度に弾けるってだけだよ。楽譜とかも、ある程度読んで軽く演奏する位なら」

 

「正直、リョウ達や…………ギターヒーローには遠く及ばねーよ。素人に毛が生えた程度って所だな」

 

 隣に立つひとりがビクッと小さく震えるのが視界の端に見える。口にした瞬間、自分で自分に線を引いた音もした。触れる機会が多かった。

 それは、多分俺にとって有難い事だった。だから、何が自分に合ってるのかって知りたくて、試したくて、色々弾く機会が昔あったんだ。

 だけど。

 実際にそれに触れたからといって─────努力して弾けるようになったとして。

 それが『()()』に及ぶかは全く別の話だ。

 正直に思うことは、俺にはそんなもんは欠片も無かった、ということ。

 “前に出る側”と、“それを支える側”。

 どっちに居るかなんて、とっくの昔に答えは出している。そう。そのはずだ。

 だけど、その時。

 ズキ、と胸の奥に、石を投げつけられたような、そんな鈍い痛みが走る。

 

「………」

 

「……お前、今の顔」

 

「────はい?」

 

 店長が、いつの間かこちらを見上げていて、ふっと表情を変える。見つめ返す。

 ストローから口を離して、これまた、静かにジッと俺の目を見ていた。

 

「…… “もう前に出る気はないです” とでも言いたげな顔してるけど」

 

「そういう奴が一番厄介なんだよな」

 

「……っ!?」

 

 その瞬間。露骨なまでに無意識に、目を剥いてしまう。

 ───────心臓を指でつつかれたみたいに、胸が跳ねた。

 厄介? 何言ってんだこの人。ザワつく。また、肺辺りを苦いものが駆け抜ける。知りもしないくせに、なにを、分かったようなことを。

 

 前に出る気は、ない。そう決めた。

 

 才能がないから。

 

 声が、聞こえる。お前にはあの背中には追いつけない。

 

 そう。追いつけない。

 お前になんて無理だろうが。

 

 ────響く、黒い声。後ろから聞こえてくるそんな声が、瞬間的に、的確に心臓を抉ってくる。そうやって自分で自分を納得させて、サッカーだの受験だの、“普通の人生” に乗り換えた。それを、この人は。

 もしかして、と思う。目を見開ききったまま、舌が乾く。

 まさかこの人は、それを全部見透かした上で「厄介」だと言ったんじゃないだろうか、と考える。

 

「それ、は……どういう、意味ですか」

 

「………自分が一番分かってるんじゃない? そういうの」

 

「…………」

 

 思わず強く睨みそうになって、見開いた瞳を僅かに硬直させた後、すぐに俯いて逸らす。やがて、目蓋を強く閉じてから再び開く。

 そうしてもう一度、互いに、視線を交わす。彼女は視線をまるで逸らさない。なんだ、この人は。何を考えている。

 その視線の意味はなんだ。

 頬に汗が伝う。生唾を飲み込む。俺はどうしてか、この人から目を背けられない。

 だけど、ふと視線を伏せた彼女はひとつ、小さく息をついてノートPCの方へ向き直る。すると、拍子抜けするほど呆気なくその目線は外された。「……まぁいいや」と。

 星歌さんはそうして飲み終わった様子のりんごジュースのパックを潰す。

 

「んじゃ、とりあえずお前を試してやるよ。これから三日間、結束バンドの世話をみてもらうからな。その間、ちゃんと仕事ができるようなら採用してやる」

 

「みっ、三日………ですか?」

 

 思わず聞き返す。

 三日って数字が、やけに重く響いた。

 たった三日。されど三日。

 そこで俺の “ここに居ていい理由” が、決まる。

 

「そう。三日。三日以内にお前の人間性や、結束バンドに対する思い、そして実力。ウチのハコで働いてもらいつつ、総合的に判断させてもらう」

 

「もちろん、手渡しで金は出す」

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!? 春樹くんは私達のマネージャーになってくれるのであって、STARRYに働きに来てる訳じゃないからね!?」

 

 虹夏が慌てて割り込んでくるが、星歌は眉間に皺を寄せて一蹴した。

 

「あ? そんなこと分かってるよ。実際マネージャーをやれるかどうかも重要だけど、それより、何よりもお前らの活動に支障が出てもらっても私としても困んの。それを確かめるにはウチで働いて貰うのが一番でしょ。異論ある?」

 

「まぁ……一理はあるね」

 

 リョウが手を顎へ添えたまま、無表情で納得する。

 喜多さんは「よ、吉沢くんは信用出来る人だと思います……そこまで試さなくても」とかフォローしてくれている。優しいかよ。

 

「信用できるかどうかは私が決めるの。喜多は黙ってな」

 

 星歌さんはそんな喜多さんの言葉を一蹴するようにPCの画面に何かを打ち込む。喜多さんは縮こまったように「すっすみません……」と後ずさった。

 

 そして、キーボードを打ち終えた店長は、やがて改めて俺の方へ向き直る。

 

「吉沢。選べ。お前が本気でうちのバンドのマネージャーをやるってんなら私の提案を呑んでもらう。選択権を与える」

 

「このまま私の提案を呑むか、それとも断るか。どっちがいい? あんたの好きなように選びなよ」

 

「…………っ……」

 

 思わず、息が止まる。

 真正面から、目を射抜かれた。

 この人の目は、ステージのスポットライトみたいのよう。逃げ道を全部洗い流して、それでも立っている奴だけを照らす。そんな眼差しだ。俺は、俯きかけた視線を、無意識に横へ滑らせる。

 

「………」

 

 その先にいたのは、ひとりだった。

 彼女は相変わらず椅子の端で、ぎゅっとギターケースのストラップを握りしめている。俺と目が合った瞬間、またビクッと肩を跳ねさせた。

 

「ひゃ、ひゃぃ……」

 

 情けない返事と一緒に、顔を真っ赤に染める。

 

「………」

 

 ……なんでそんな反応になるんだよ。可愛いなもう。

 でも、その震え方は、きっと “怖さ” だけじゃないんだと思う。

 俺は、この子にもう一度救われた。地下の画面越しだけじゃない。現実のライブハウスで。だったら────今度は俺の番だ。

 虹夏は言ってくれた。

 私達()()全員仲良く結束バンドをデビューさせて欲しい、と。

 

「───────」

 

 俯いて、拳に力が自然と入る。腐った心と、薄汚い自らへの裏切り。

 逃げたい、と囁く声がどこかで響いた。

 その瞬間、強く歯を噛み締め、拳を握り込んで俯く。その感触へ、覚悟を示す。

 

 ふざけんな。

 俺は、また逃げるのか。

 

 軋んだ痛みと、その想いを吐き出すように意志を固める。

 俺は─────逃げたままの過去を盾にして「裏方だから」と言い訳して。「自分に意味なんてない」と勝手に限界を決めた。

 俺は “偽り者” 。裏切り者だ。

 自分の心を偽り、自らの声に蓋をした。逃げて、俺には才能なんかなかったから、と(うそぶ)いて、向き合う事すらも放り投げた。

 そんな奴が、音楽の世界にまた足を踏み入れる資格なんてあるはずが無い。正直、本音を言えばそう思う。

 

 だけど。

 

 だけど、それでも。

 俺は、ひとりを守りたい。ひとりが大事にするものを、一緒に守ってあげたいんだ。

 虹夏が言ってくれたんだ。五人目として、迎えたいって。

 それに加えて、こうも思う。

 これはそんな自分を、もうこれ以上、嫌いにならなくて済む最後のチャンスかもしれない。そんな自分を書き換えられる最後のチャンスかもしれないんだと。

 

 俺は、こんな自分のままで、この星座の中には居たくない。

 

 だったら、やらないと。

 

 伏せていた視線を上げる。腹筋と肺にありったけの力と熱を注ぎ込んで、星歌さんを見つめ返す。

 

「………………………やります。やらせてください」

 

 自分でも驚くほど、声はまっすぐ出る。

 

「俺は、ひとりを支えるために……結束バンドの彼女達の応援をする為に、ここに居るんです。その為なら、それを証明する為なら、何だってやります」

 

 “証明”。そうだ。

 その言葉を口にした瞬間、胸の奥で何かがカチリと音を立てた。

 ここに居る理由。それはこんなクソみてぇな俺が、このハコと、このバンドと、この子の隣に立っていい理由だ。

 

 

 

 

 俺は何のために。

 俺は誰のために。

 

 今、ここに立っている。

 

 ひとりを、守るって誓った。なら、だったら、やれ。

 闘え。逃げるな。向き合え。

 

 証明しろ─────俺は、俺自身を此処(ここ)に示せ。

 

 自分の存在理由を、この場所に。

 

 

 

 

「…………」

 

「………ふぅん。いい目するじゃん。度胸はあるらしいね」

 

 星歌さんは数秒間俺を見つめたあと、わずかに口角を上げる。どこか不敵な笑み。でも、そこには期待を感じさせる。

 

「まぁ、しっかり観察させてもらうからな。口だけならなんとでも言える。お前がこの店や結束バンドにとってプラスになる存在かどうかを見定めてあげるよ」

 

「……構いません。それでお願いします、店……星歌さん」

 

「仕事ん時は店長と呼べ」

 

 星歌さんは、そうして目を細める。だけどその目は、さっきより少しだけ柔らかい。

 

「ま……じゃあ、そういうことで決まり。その心意気は買うぞ。だけど覚悟はしなよ、私は甘くないからね」

 

 覚悟、ね。

 とっくに一回、全部投げ出して逃げた人間に、そんな大層な言葉を使っていいのかは分からない。

 それでももう一度だけ、と思う。

 もう一度だけ、大切な人の為に、信じてみたいと思ったヤツらにここで賭けてみたいと思う。店長はノートPCをパタ、と閉じる。

 

「んじゃ、明日から早速働いてもらうからな。色々用意はしておいてやるから今日はもう帰りな。こんな時間だしな」

 

 そう言うと、彼女は壁の時計を顎で指す。針は九時を指そうとしていた。

 

「あっやば……! ぼっちちゃん、電車!」

 

「へ? あ、ぁああぁぁあ!? 忘れてたぁぁああ!!」

 

 虹夏の声で、ひとりが慌てて荷物を掴む。

 

 そして落ち着きかけていたSTARRYの夜が、また少しだけ騒がしくなる。

 こうして、「新しい世界」だとか「第二章」だとか、そんな大げさな言葉で呼びたくなる三日間が、静かにカウントダウンを始めた。

 さっき、俺のことを歓迎してくれていた時に、ほんの少しだけ予感じみたような感覚で「ここは人生の分岐点かもしれない」とか考えた気がする。

 だけど、今、この瞬間になって思う。

 多分、その予感は当たっていた。きっとこれは、起死回生の時。

 俺にとって、向き合わなければならない瞬間が、きっと今なんだ。

 それは、静かに幕を開いていく。

 

 俺自身の、存在の証明を賭けた三日間が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

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