ぼっち・ざ・ろっく! フラッシュバッカー   作:空山 零句

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 新章 #05『ソラニン』開幕です! 大変お待たせしました!
 ここんとこシリアス一辺倒だったのでここいらでギャグをひとつまみ。

 この新章は主にぼっちと春樹の本格的なデートがメインとなってきます。それまでの前置きも含め、よろしければお楽しみ下さいませ。

 月曜日、金曜日の19~20時に更新予定です!
 進捗次第では更新が遅れる場合もございます。あとがきにて記載しますのでご確認くださいませ。

 あとイイネクレーッ! イイネクレェェ!! 感想クレェェ!! と最近私の中の承認欲求ボジラが暴れ回ってるので沈静化にご協力頂けませんでしょうかなにとぞ。

 それでは、お楽しみくださいませ。









#05『ソラニン』
CHAPTER #45 「ひとつの通知音から」


 

 

 春樹くんがSTARRYでお姉ちゃんに本格的に認められたあの日から、もう二週間……というか、ほぼ三週間目。

 あたしはお気に入りのAirPodsでいつもの音楽を聴き、しゃこしゃこ歯ブラシを動かす。

 

(今日の朝ごはん何にしよっかなぁ)

 

 そんな何気ない事を考えながら歯磨きをしていて、ついでに洗面所横の今日のカレンダーをめくろうとする。後ろからトン、トンとフローリングを歩む音がして振り向く。おはよ、とお姉ちゃんが部屋から出てきていた。

 

「虹夏、朝ごはん今日は任せていい?」

 

 お姉ちゃんはぬいぐるみを抱えて大あくびをしながら、テレビの前のソファに座り込む。死ぬほど眠そうな感じだ。昨日も夜遅くまで家に帰ってからも何かしてたみたいだし。忙しい姉だな、相変わらず。

 あたしは奥歯を磨きつつ鏡へ視線を戻して「んー、いーよー」と言葉を返す。

 

「お姉ちゃんは何がいい〜?」

 

「なんでも……」

 

「なんでもがいちばん困るっていっつも言ってるでしょ、なんかリクエスト言え」

 

「んー……じゃあぼっちちゃ………」

 

「……………………」

 

 一瞬、あたし達の合間に変な沈黙が混じる。

 数秒だけ空気が凍った後、お互いにそっと目を向ける。目が合う。お姉ちゃんはあっ、という変な顔をしていた。

 

「……………………」

 

「は?」

 

 聞き間違いかな。なんか今変な単語が。

 思わずピタッ、と歯ブラシも止まったままあたしは硬直する。

 

「ゲホッごほっごほごほっ、………わ、私、なんか変なこと言った?」

 

「………」

 

 目が細くなるのを感じながら、寝ぼけて変なことをほざいたのであろうお姉ちゃんを洗面所から眺める。誤魔化して咳き込んでも無駄だぞ。

 

「………卵焼きでい?」

 

「よ、よろしく」

 

 なんで顔赤くしてんねんこの姉。

 何も聞かなかったことにしてあげよう。そう思いながら口をすすぐ専用のマイカップへ水を注ぐ。冷たい水が、まだぼんやりとした眠気と覚醒前の肌へ伝わって、シャキッとした意識にリンクするのがわかる。

 それにしても、とあたしはうがいをしつつ考える。ふと、先程めくろうとしたカレンダーの日付を見つめた。

 

「………」

 

(時間経つの早いなぁ。なんか、今月は特に色々あったし)

 

 そういえばぼっちちゃんと春樹くんが付き合い始めてからも、ちょうどそろそろ三週間目くらいだっけ。ぼっちちゃんが彼に告白されたのも、秀華祭ライブが終わって大体一週間後だったはずだし。

 今思うと、あの一週間の出来事の密度は今振り返ってみても頭おかしかった。どう考えても色々出来事が重なりすぎにも程がある。

 だからある種、この二週間の穏やかさ位でむしろちょうどいいまであったかもしれない。

 

 なんていうかそれは、とにかく彼がマネージャーとして本格的にあたし達のサポートとぼっちちゃんのケアしてくれるようになってから、最近思うようになったことだ。

 

 ここの所、ふとした瞬間に「あっコレ今、青春してるな……」ってあたしから見ても思わせられる場面が多くて、猛烈に見てる方まで胸がむず痒くなる思いだった。

 なんか見てる方まで気恥ずかしくなる。

 言うなれば何見せられてんだあたし、って感じかも。

 

 一方の春樹くんはといえば、マネージャー業もすっかり板についていた。

 STARRYの裏方としても、結束バンドの一員としても────もう完全に、彼はあたしたちの中で「いつもの景色」の中の一部分になりつつあるのをあたしはハッキリと感じていた。

 

 ─────そんな、十月二十四日の放課後。

 

 お客さんがいないSTARRYの奥。そこでいちばん目立ってるのはでっかい丸い時計と一緒に、壁の端っこで組まれた赤いアーチだ。

 あれはまるで、ステージに降りる人を捕まえる輪っかみたい。さながらひとたび足を踏み入れたら最後、「やっぱやめます」なんていう返却は効かないみたいな、そんなやつ。あんまり気にしたことなかったけど、お姉ちゃんの趣味、絶対入ってるよね。

 一方で時計の針の音は、普通全然聞こえないのに、ライブの日はあれを見るたび心臓の方が先にカチカチ鳴る。

 

 今みたいに練習前の時間の秒針は、やけにのんびり回ってる気がする。

 

 多分だけど、リハ押してる日は絶対あいつ、わざと早歩きしてるんだろうなぁ、だなんてボーッとその子を見つめながら考えた。

 

 あたし達はバイト前に早めに掃除も終わらせ、喜多ちゃんが買ってきてくれたお菓子と一緒にだべりタイムを迎えていた。

 ポリポリとポテチを齧り、結束バンドの四人でこうしてテーブルについてパイプ椅子に座り込むのは割と至福の時間。

 

 結成して半年を迎えるあたし達にとっては、これはだいぶ見慣れた光景になってきたように思う。

 

 ちなみに春樹くんは、正式にサッカー部の退部手続きをするとかなんとかで、今日は遅れるらしい。ぼっちちゃん談。

 そういえばその話、まだしっかり聞いてなかったっけ。ちゃんと聞いてみないとな、今度。

 

 そんなことをふと思い、ぐびりとレモンジュースを飲み干す。

 

 さて、それは一旦置いとくにして。

 今はそれより別の話題が現在のあたし達のトークテーマだった。以上、数秒間のあたしのイメージ描写終わり。

 そうして、ふと、そんな穏やかな時間を崩す様に。

 

「えっっっっっっ!? ひ、ひ、ひ、ひとりちゃんが……」

 

 ────カウンターが派手にきしむレベルで、あたしからの言葉を聞いた喜多ちゃんがガターンって立ち上がった。

 余りの勢いにカシャン、とパイプ椅子が背中からぶっ倒れる。漫画みたいな擬音だとは思うけどホントにそうなんだから仕方ない。

 

「あっ、ァッ、アッう、ぁ、あの……」

 

 ぼっちちゃんはといえば、例によって例のごとく顔面崩壊モード。いつもの。

 口をパクパクさせて、こっちから見てても大丈夫なのかこの子は、と心配になるくらいヤバい震え方。

 

「で、で、でで、デートですかぁあああああぁあああああ!?」

 

 喜多ちゃんの声が、ものすんごい音速で全体に響く。STARRYの天井は、手を伸ばせば届きそうなくらい低い。

 だからなのか、声を出すとすぐそれが跳ね返ってきて、自分の言葉に自分でビビる時があるくらいだ。

 もしかしたら喜多ちゃんの絶叫は道路まで響いてるかもしれない。外を歩く人が振り返ってないことを祈るばかり。興奮し過ぎでしょ。

 

「ァッ……アッ……ハイ………」

 

「……」

 

 ぼっちちゃんは今にも昇天しそうな声で、か細く返事をしてる。

 目なんかもう、完全にぐるぐるしていた。これはひどい。かわいいけど、だいぶ危険な状態。いや、まあいつも割とこんなんな気もするけど。

 カウンターの端っこで、一方のリョウはいつもの糸目のまま、紙パックのジュースをちぅー……っと吸ってる。

 確かアレ、お姉ちゃんからかっぱらったヤツ。後で殺されそう。

 肘をカウンターに乗せて頬杖ついたまま、他人事みたいな顔してるけど、コレでちゃんと話は全部聞いてるんだよなこいつ。

 で、肝心のあたしはというと、ぼっちちゃんの横で苦笑い。……いやまあ、そりゃそうなるよね、って感じで話をしている。

 

「どどどどどどういう流れで!? 説明を続けてください伊知地先輩ぃ!! ホントなら、これ以上なくThe青春じゃないですか!!」

 

 喜多ちゃんが目をキラッキラさせながら、あたしに詰め寄ってくる。

 さっきまでお上品な「高校生の夜のスキンケア」って顔してたのに、一瞬で「恋バナ大好き女子高生」にクラスチェンジしてるの、ほんとブレない。うわっなんか眩しい。キターン、とかいう擬音が脳内に聞こえる。なにこれ、怖っ!

 

「グハッッァァァッァッ!!」

 

 隣でぼっちちゃんが、陽のオーラに焼かれた吸血鬼みたいな悲鳴を上げる。

 

(きっ喜多ちゃんの陽のオーラが相変わらず眩し過ぎるゥ!!)

 

 ────的なこと思ってんだろうなきっと。最近ぼっちちゃんの脳内声が聞こえてくるんだよね。必死に悶絶しまくり、両手で顔を隠しながら、そんな彼女は本気で目を守りにかかっていた。

 その様子がもうなんていうかこう、完全にツチノコ予備軍で、見ててちょっと面白───いや、かわいそう……いや、やっぱりちょっと面白かった。ごめんぼっちちゃん。

 

「落ち着いて喜多ちゃん! 今から説明するからさ。まあ、事の要件としては昨日、ぼっちちゃんからLOINEが来てさ?」

 

 あたしは汗をだらだら垂らしながら、両手をひらひらさせてなだめつつ、なんとか話を戻す。

 ─────それは、そう、昨日の夜。

 その全ては、ひとつの通知音から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 回想。昨日の夜十時くらいだっけな。

 それは、課題を終わらせて、ドラムの基礎練でもしよっかなーってタイミングだった。AirPodsを外してボールペンをノートの上に投げ捨てて、伸びをしまくる。そんな時、ふとあたしの手元で、スマホが小さく震えた。画面には「ぼっちちゃん」の名前。

 

「あーれ。ぼっちちゃんじゃん……珍しいな、あの子から連絡してくるなんて」

 

 つい、独り言が漏れる。

 あの子が自分から連絡してくるなんて、出会って半年の今日に至るまで真面目に数えるほどしか見たことがない。通知だけでちょっと身構えちゃうレベルだ。

 

『あっあの虹夏ちゃん』

 

 そんな一言がポコ、とLOINEのSEと共にメッセージ画面に浮かぶ。

 いきなり敬語混じりなの、ほんと相変わらずでかわいい。

 

『どしたんぼっちちゃん! 自分から連絡してくるなんて珍しーね!?』

 

 そうフリック入力で返した瞬間、既読がついて──

 

『あっはい、すすすすみません』

 

『今って迷惑でしたか』

 

 画面の前で、思わず苦笑いしちゃう。

 頑張って打ってるんだろうなぁ。

 

『んーん〜! 全然! 課題やって、ドラムの練習して寝ようかなーって思ってたとこだし、全然いいよ〜! んで、どしたの??』

 

『あっありがとうございます』

 

 スタンプが飛んできた。

 熊が土下座してる、なんか妙にクセの強いやつ。

 

(ずいぶん独特なスタンプ使ってんなぼっちちゃん……なんで熊…………?)

 

 そいやリョウもなんか変なの使ってたよね。流行り? 何かじわじわ来るセンスにちょっとツッコミ入れたくなりつつも、あたしは続きを待つ。

 

『えっと、その、ひとつ、相談があるんです』

 

 ここで一旦、会話が途切れた。

 通知も来ない。三分、四分、五分……。

 

「…………………」

 

「──────……………長いな」

 

 あたしはスマホを見つめたまま固まる。腕を組み、どうしたもんか思い悩む。

 タイピング中の「……」のマークもつかない。はて。

 

『? どしたの??』

 

 試しに、様子見でそう送った瞬間、ババッと文字が飛んできた。おおっ。早い。

 

『実は、そn』

 

 誤字。どうしたどうした?

 そして、その直後。

 

『は、は、はるkiくんと、で、で、、でーとすることに、なり、まして』

 

 などと、意味不明なテキストがあたしの視界に入った。

 ん?

 

「………………ゑ?」

 

 脳が、一瞬理解を拒否した。はるkiくん、って、あたしの知ってるうちのマネージャーくんの事だよね? うん?

 目が点になったような感覚で、瞼をこしこし擦る。こすこす。

 うーん。

 もう一回読む。

 …………。

 いや、何回読んでも同じだ。

 

「………えっっっっっっっっッッッッッ!?」

 

 ガタン!! って勢いよく立ち上がった拍子に、机の角で小指を盛大にぶつけた。

 ぁッッッッッッッッッッっっい───────

 

「いっっっっっっっったぁああああああああああぁぁぁああ!!」

 

 人生でトップ十には入りそうな激痛に悶絶する。ほんといっったい。よりにも寄って小指に当たってくれた。死ぬ。しぬ。

 

「うるせーぞ虹夏!!」

 

 その瞬間、部屋の扉が開いて、お姉ちゃんの怒号が飛んできた。

 ぬいぐるみを抱っこしたまま、マジトーンでにらまれる。

 

「……ご、ごめんお姉ちゃん………………」

 

 小指を押さえながらぺこぺこ頭を下げつつ、あたしは必死で右手の親指を動かした。

 どうしよう。一応歳上だし、こういうとき頼りになる? お姉ちゃんに相談してみるか? 一瞬そんな思考が脳裏に浮かぶ。だけど、秒でそれを却下した。有り得ない。論外。

 

(お姉ちゃんにぼっちちゃんがデートすることになっただなんて言えない……絶対めんどくさい事になる………!!)

 

 それだけは本能でわかる。

 うちの姉はぼっちちゃんにちょっと犯罪一歩手前な感情向けてるような人である。本人は隠してるつもりかもしれないけど、PCフォルダのあの子の盗撮写真知ってるぞ、あたし。そのうちシバく必要あるかもしれない。とりあえずお巡りさんに連れてこうか。

 っていうか、そもそもぼっちちゃんと春樹くんが付き合ったことを知って精神崩壊までしてたお姉ちゃんにそんな事言えるわけもない。

 そうしてあたしは痛みと戦いながら、なんとかフリック入力を続ける。

 

『どどどどどどどいうこと!? 詳しく!! いやまあ彼氏だもんね、普通にデートくらいするか、ああでもやっぱりいい!! 明日バンド内で作戦会議しようぼっちちゃん!!』

 

 勢いのまま送信する。読み返すとすごい日本語おかしい。でもそんなこと言ってられるはずもない。一分一秒、ゼロコンマですら惜しい。

 とにかくぼっちちゃんに速攻でメッセージを送信。

 だけどそこでふと気づく。ちょっと待って。

 これ、あの子からしたら普通に読むだけで死ぬほど恥ずかしいやつなのでは?

 ぼっちちゃん、今ごろ布団の中で悶絶してるんじゃ……。そんなことを考えてた時。

 

『あっはい!?』

 

 即レスが返ってきた。返事、了承と受け取ったよ。

 

『OK決まりね!! 明日その話聞かせて!!』

 

 あたしも負けじと秒で返す。

 

『あっ!? アッ、アッ………ハイ……』

 

 という感じでぼっちちゃんから返信は来なくなった。

 既にじんじんしている膝を抱えながら、あたしは椅子の上で立ち膝になって、光の速さで今度は別のトーク画面を開く。

 

『喜多ちゃん喜多ちゃん喜多ちゃん!! まだ起きてる!? 起きてるよね!?』

 

 スキンケア中の喜多ちゃんが、慌ててスマホを取ってる姿が目に浮かぶ。前にこの時間にメッセージを送ったら急にスキンケア中なのに謎の自撮りを送り付けてきたことあったし。多分返信くるはず。引き続き、いつもの倍以上の速度で打ち込む。

 

『喜多ちゃん喜多ちゃん! 大至急緊急ミーティング明日するからね!!』

 

『えっ!? 何かあったんですか!?』

 

 返ってきた文字にも、ちゃんと動揺してる喜多ちゃんの姿が滲む。私も動揺しすぎてめちゃくちゃ名前連呼してるし。

 

『詳細は明日話す!! でもとりあえず、今からあたしの提案するもの、用意出来る!? あたしも持ってくから!!』

 

『え!? ちょっと待ってくださいよ!! 何を用意すれば良いんですか伊知地先輩ー!?』

 

 そんなやり取りをしながら、あたしの頭の中ではもう「ぼっちちゃん人生初デート作戦会議」の文字がぐるぐるしていた。緊急事態だ。こうしてはいられない。

 さてどうしたものか。

 正直こんな動揺しきった状態でドラムの練習なんてやってられるはずもなくて、あたしは上着を脱ぎ捨てて一息つく。

 

(…………………ん?)

 

 そうしてベッドに潜り込む。

 ふと、両手でオフトゥンを掴みながらパチリ、と目を開く。というか、ギンギンに冴えまくった視野の中でハタッ、と気付いた。

 

 あれ。コレ、ぼっちちゃんを完全に逃げられない状況に追い込んでないかな。

 

 もちろん────その心配が明日のSTARRYで秒で現実になるなんて、この時のあたしはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 





 続きは月曜日、1/18(月)19時から20時の間に更新します!

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