ちなみにタイトルの「-」は「マイナス」を意味しています。
#-0.75(3)
※
「これ、もしかして……君の?」
「……ぁ……」
彼の指先で、夕日を受けた星が淡い虹彩と共に揺れ動いていた。
私は彼を見上げ、思わずそれをじっと眺める。滲む視界の中でも、それは確かな存在を放っていた。
数秒程固まってから、私は思わず返事より手が伸びていた。
「っ、それ……私の……っ!」
その瞬間、勢い余っていたことに気づいて、慌てて伸ばしていた右手を引っ込める。そのまま、彼を見つめ返す。
「……大事な、ものなの。返して、もらえない?」
「……やっぱり、君の?」
彼はそっと屈みこみ、私に目線を合わせるように微笑みかけてきた。そうして、右手で
「よかった。君、ずっとさっきからここら辺ウロウロしてたもんね。探し物してるんだろうなって思ってさ」
「ど、どこにあったの?」
「反対の棟に行く時の渡り廊下付近だよ。たまたま、掃除の時に見つけて」
「後で職員室に届けようと思ってたら、君を見かけたんだよ。……もしかしてって」
それを聞いて、思わず喉の奥が詰まった。そうだったんだ。
良かった。捨てられたわけじゃなかったんだ。
「はい。……もう、無くさないでな」
私は、震えながら両手で星を受け取る。彼が触れていた金具から、自分の掌へ重みが移る。胸元でそれを包み、本当に見つかったことをようやく身をもって感じた。
呼吸が緩む。泣くのをこらえていた反動で、かえって声が出そうにない。
「────────………っ」
「…………あ、………ありが……とう」
私の声は身体と一緒に震えきっていて、変に語尾まで萎んでいた。
でも、それが今の私には精一杯で。だけど彼はそんなことをまるで気にも留めない様子でまた微笑んだ。
「ううん。気にすんなよ。……壊れてない?」
首を傾げながらそう問い掛けてくる彼の言葉を聞いて、両手で握るそれをそっと見下ろす。見たところ、特におかしな事にはなってなかった。
強いて言うなら、元々の金具が少し緩くなっているくらいだ。
「だ、大丈夫。多分……」
「そっか。よかった」
彼はあっけらかんとした様子ではにかむ。私はほんの少しだけ、その表情に呆気にとられる。思わず微かに俯く。ほんのひとつ、小さな間が空く。
そのタイミングで、彼は次に問い掛けてくるように囁いた。
「────佐藤さんだよな。俺、同じクラスの久保」
私は彼と目を合わせ、頷く。
「……知ってる。久保 奏音くん、でしょ」
「名前まで覚えててくれたの?」
「同じクラスでしょ。そりゃ……」
その時、零れかけていた水滴を拭う様に、私は慌てて目元を拭う。
久保くんは少し戸惑うように眉を八の字にしたけど、拭ってる間、理由は追及してこなかった。彼は、何も言わない。
だから「………っ、泣いてない」と先回りしかけ、何も聞かれていないことに気づいて口を閉じた。
「ふふっ」
彼は少し苦笑した様子で、「付け直せそう?」と呟く。
私は、そんな彼の様子を見て気を遣ってくれてるんだろうなってことに気づく。ほんの少し、それを有難く思いながら呟き返す。
「うん。留めるとこが、緩んでたみたい」
「直せる?」
「ん……」
久保くんからそう聞かれて、手の中のキーホルダーを見つめ直す。思いきって、今ここで直してしまおうか。金具部分の歪んだリングを指先で戻そうとする。
「ッ! いたっ……」
その時、無理に指先へ力を入れ過ぎて、金具の先端が指の腹へ食い込む。鈍い痛みが走った。
「……貸して?」
「え? あっ……」
手元を見守っていた彼が、そっと私の両掌からまた星を持ち上げる。そのままほんの少しの間、久保くんは器用に指先で輪っかの先端を戻す様に力を込めていく。
「はい。できた。ほれ」
「……! あ……」
やがて、再び静かにそれは私の掌へ戻された。
「……なんで」
「ここまでしてくれるの?」
「ん? 別に? だって」
「───困ってそーだったし?」
「……」
彼のそんな言葉に、私はぽかんとする。
このひと、変わった人かもなんて思ってたけど────案外、優しい人、なのかな。
その瞬間、胸の奥が、ギュッと掴まれたような。
カイロか何かを、心臓にゆっくりと押し当てられたみたいな温かさを感じた。その時、彼が、私の手の中にある星をじっと見つめていることに気付く。
「? な、なに?」
「あぁ、……それさ」
「インストームスのキーホルダー、だよね?」
「……えっ?」
彼からそう質問された瞬間。一気に視界を上げる。
「っ、知ってるの!?」
声が思った以上に大きくなった。ガバッ、とさっきまで縮こまっていた肩すらも跳ね上がる形で。
「お、おう。知ってるよ。だって、俺もインストームス好きだもん。それ、新しいアルバムと同時に出た限定のキーホルダーだろ?」
「そう! そうなのっ!! これ、数量限定で、前にたまたま見つけたの! その、ラジオで曲を聴いて、それからアルバム借りて、六曲目もすごく良くて……!」
「六曲目か! あれ、間奏いいよな」
「そうよ! 間奏も好き。でも、その前! 二本目のギターが入ってから、最初の音が少し後ろへ行くでしょ。あそこで急に、歌が聴きやすくなってリズムが変わる。二回目と一回目では、そこら辺の印象もすごく変わるの!! あとはドラムの音階みたいなのも、その辺で凄く変わってて………」
久保くんが頷く。その頷きを見て、話を続ける。
初めは六曲目の話だけだったのに、ラジオで聴いた曲、二番で変わるドラム、低い音の動きへ話が広がっていく。私はひたすらに語り始めていて。
「だから、全部が大きければいいんじゃなくて、誰かが少し引くところもあって、それが、その……っ!!」
「……………ぁ」
彼の顔を見て我に返る。─────私、夢中になって、ずっと喋ってた?
自分だけが早口で、ずっと。
脳裏で思い出す、真帆と梨乃の、あの気を遣うような戸惑った表情。途端に、声がまた細くなった。
(……私……また、何やって……)
そうして、視線を落とす。前のめりになっていた身体が、徐々に猫背になる。
「ご、ごめんなさい。……私、つい……興味、無いわよね。こんな話」
「じゃ、じゃあ私────」
星を握っていた指にもまた、力が入っていた。掌でそれを握り締めたまま、目蓋をギュッと閉じる。
やめよう。そろそろ、行かなきゃ。
そう思って自分から話を終わらせる為に、へたりこんでいた脚に力を入れようとした、その時だった。
「……えっ、それで?」
「──────……え?」
私はまた、静かに顔を上げる。
久保くんは目を丸くしたまま、こっちをじっと見つめていた。
「その後。歌が聴きやすくなるって言ってたとこ、続きは?」
「──────…………………」
一拍の沈黙が、私達の間に落ちる。
廊下の窓から黄昏時の日差しが差し込んでいて、彼の顔をやさしく照らす。目蓋を見開いたまま、私は動けなくなった。
笑われていない。別の話へ移ろうともしない。
彼は、同じところの続きを待っている。待ってくれているんだ、と気づいた。
(聴いてくれるの? この人)
(……ほとんど初めて話したのに……)
「……………」
私は、そっと一言呟く。「……最後の、サビ」
ゆっくりと、確かめるように。
「さっ、最初より、ドラムが前に出てる気がするの。丸い金属を続けて叩く音も、変わってて」
「ライドかな」
「名前は知らないわ。でも……その音になってから、同じ歌でも少し遠くへ行った感じがするの」
「え、俺……そこ気にしてなかった。どこから変わる?」
そう彼に聞かれて、私は思い立ったようにポケットの中からいつものiPodと、いつものピンクのイヤホンを取り出す。久保くんへ、片耳を差し出した。
「二番の後。最後の、……あ、えっと、聴く?」
「え?」
彼は僅かに目をぱちくりさせたあと「……いいの?」と聞いてくる。
その質問の意味に気づけなくて「何が?」と私は聞き返す。
「いや、その……イヤホン。片耳借りてもいいのか?」
「あ……」
咄嗟に渡そうとしていた。そう。考えてみれば私と彼はまだ知り合ったばかりで、ほぼ今が初めての会話。
それなのに、いきなりイヤホンを渡したりなんてしたら引かれるに決まってる。
「あ……その、ごめん。嫌?」
「え? いや、俺は別にいいけど。逆に佐藤さんこそ、まだ知り合ったばかりのクラスメイトの男子にイヤホンなんて貸して嫌じゃないの?」
彼はそう言って苦笑する。
その言葉に、ほんの少し呆気にとられた。少し考えて、答える。
「……」
「……嫌じゃ、ない、かも。私は」
「………そっか。良かった」
「じゃ、遠慮なく。ありがと」
久保くんはそうして、私の右手からゆっくりと有線イヤホンを受け取る。ピンクのイヤーピースをつまみ上げ、自分の左耳へ押し込む。すると、さっきと同じように、また静かに笑う。
「……」
私はその顔を見つめる。その時、胸の奥が変な音を立てた気がした。
無意識に、床へ視線を移す。あ、れ?
なに、いまの。
きゅっ、と胸元へ左手を添える。
(────………)
「ほら、で、どこら辺? 聴かせてよ」
「え? あ、うん……」
彼にそう問われて、慌ててiPodのクリックカーソルを回す。そのまま、プレイリストを開く。そして、久保くんとさっきまで話していた曲を選ぶ。夕暮れ時、オレンジの光が液晶に反射する。
何気に、初めてだと────そんな事を思う。
男子と、こういうことするの。
私はどこか緊張しつつ、再生を止めたまま、該当のタイムの数秒前まで曲を進めた。そのまま、ゆっくりと再生ボタンを押す。彼はほんの少し私の方へ体を寄せてきて、集中する様に目蓋を閉じていた。僅かに身体が近くて、目を逸らす。その時。
「あ、ほんとだ。今、違う」
彼は目を見開き、私の方へ顔を向ける。
「ッ……!!」
「そう、そうなの………ッッ! そこ! そこが好きなの!」
「わかる!? 分かってくれる!?」
「あったりまえだろ! もっと聞かせてくれよ! すげーな、そんな観点で聞いたことなかった!!」
「ホント!? もちろんっ!」
通じた。
通じてくれたんだ。
私は彼と目が合った瞬間、たまらなく気分が
嬉しい。なに、これ。すっごく嬉しい。
その後、私は興奮したまま────その曲の聞いて欲しいところ、注目して欲しいところ────ノートに書いてた部分を一通り彼に話した。
久保くんは嫌がったり、気を遣うどころか、ずっと私に耳を傾けてくれていたと思う。凄く意欲的に聴いてくれて、逆に自分はどこのどんな部分が好きなのか。
私には分からない専門用語や、楽器について、補足も混じえて色々教えて貰う。
私はそれに対して、彼にもっと色んなことを聞く。
気付けば、多分十五分くらいずっと彼と話してたと思う。
それこそ、無我夢中のまま。
あの日、あの時。
もしかしたら、インストームスの曲を初めてラジオで聴いた───あの時よりも、興奮しながら、喋っていたかもしれない。
会話が一区切りついたところで、久保くんが少し照れたように尋ねてきた。
「ねぇ、佐藤さんさ……その、もしかして、バンド好きなの?」
「え……」
「っ、そう! 大好き、というか、曲をすごく語りたいの! 聴いてると、話したいことがどんどん……」
彼にそう聞かれて、また食い気味に勢いが出ていた自分に気づく。私はそのまま、小さくなり、口元が萎んだ。
「……あっ、ぅ、ごめん……」
「何で謝るんだよ。俺も好きだよ、インストームス。佐藤さんの話、面白いからさ。もっと続き聴かせてくれよ!」
──────彼は、そんなこと、やっぱりまるで気にも留めないみたいに、満面に笑う。
私はその笑顔に一瞬、言葉を失う。喉から出かかっていた次の言葉を見失って、代わりにまた、心臓が強く脈打つのを感じた。
(………ッ……な、っ、な、に、これ……)
堪らなくなった。
私は耳も、頬も燃え上がるように熱くなったような、そんな気になって。
手汗もどうしようもなく滲むのを感じながら、そのまま慌てて目の前の彼から目を背けた。とてもじゃないけど、目なんて合わせ続けられなくて。でもその理由が、どうにも分からなかったからだ。
そうして廊下のタイルの筋を
すると、階下から「おーーーい奏音ーー! どこだー!?」と彼の名前を呼ぶ男の子の声が聞こえた。
その時、久保くんがスマホの画面を見て慌て始めた。
「え、やば!! 陽平……っ、しまった、夢中になり過ぎた。……悪ぃ、佐藤さん! 俺、行かなきゃ。……明日も話していい?」
「え………明日、も?」
それを聞いた瞬間。
思わず面食らった私の顔を見て、彼は疑問符を浮かべるように首を傾げる。
「うん。明日も。あ、迷惑か?」
そう問い掛けられて、私はへたりこんだまま、首を何度も横へ振った。
迷惑なんて、そんなわけ。
「……明日も、話していいの?」
「あったりまえだろ。同じクラスだしさ。俺、何気に片瀬高に来てから女子の友達、佐藤さんが初めてなんだ! しかも、音楽好きだし!」
「だからさ」
「また明日、聴かせてくれよ!」
彼はそう言って、廊下の壁に立て掛けていた大きな黒のギターケースを背負い直す。立ち上がり、真横の窓から差し込むオレンジの輝きを受けながら、また笑いかけてきた。
私はほんの数秒、彼のその姿を見上げたまま、慌てて壁に手をついて立ち上がる。
「………ん。わかっ、た、わ」
夢中になっていたこともあってか。ふと、冷静になっていく。
そこであの二人のことを思い出して、微かにまた心臓がキュッとなった。
「……ん、どした?」
「え? あ……」
「………」
なんていえばいいか、分からなかった。彼の方へ向けていた顔を、ふとすぐ近くの窓辺に逸らす。俯いたまま、私は言葉に詰まった。
私があまりにも焦ってたばかりに、真帆達に酷いことを言ってしまったこと。部活見学にもいつもみたいに誘ってくれてたのに、それを
それを、なんて言葉で表現したらいいか、咄嗟に躊躇したから。
「……戻るの、気まずいなって」
「久保くんがキーホルダー見つけてくれる前に、その、少し、友達とさ」
「なに、揉めちゃったの?」
彼はギターケースの肩ベルトを左手で掴み直し、ゆっくり持ち上げながらそっとこちらに向き直る。
「………まあその、そう、かも」
スカートの裾を両手で握りしめながら、私はそう呟く。
「………そっかぁ」
「……でもさ」
「余裕、なかったんだろ?」
「え?」
そこでまた、静かに顔を上げる。
「大事なものを無くして、自分が好きになったものがもう手に入らないってなったら」
「そりゃ誰だって焦るさ」
「別に、それで人間関係なんて終わらないよ。あの二人だろ? ほら、昼飯のとき、いっつも一緒にいる女子二人組。篠澤と、梶原だろ、確か」
「うん。……そう」
「言いたいことは、早めに言った方がいいよ、きっと」
「ズルズル引きずっちまうと、そのうち」
「本当に大切なことばを伝え損ねちまう時があるからさ」
「─────え……」
彼は窓の奥、裏校舎の奥に沈もうとする夕陽を眺めながら、そんなことを小さく囁く。やがて私の方へ向いてふふ、と彼は小さく笑う。
「後悔なんて、しない方がいい」
「痛みをずっと背負うより、きっとマシな気がするからさ」
「……………」
なんてな、と言って彼は右人差し指で鼻下を擦り、白い歯をそろえてはにかむ。久保くんの言葉が、私の胸の奥にすとんと小さく落ちた気がして、目を見開く。痛みをずっと背負うより、マシ。
その言葉の裏に、彼の何かが見えた気がした。
だけど、それを考えるよりも早く、彼は
「じゃあ……そろそろ行かなきゃ。んじゃまたっ、これからもよろしくな! 佐藤さん!」
「えっ、あ、うん。……よろしく。久保くん」
「おう! それじゃあ、また明日!」
「────うん。また、明日」
やがて、彼はそのまま走り出す。ケース内でガシャガシャと揺れ動く低い音を響かせながら、久保くんは角を曲がる。そのまま、姿は見えなくなった。
私は無意識に右手を振り返していたこと。それに気付いて、慌ててその手を下げた。
「……………」
また、明日。
その言葉と、左手の中で握る星。そうして、iPodの再生画面。
キーホルダーを確かめるように握りしめて、もう一度その画面を見つめてみる。
思わず、画面を眺めたまま、右手を胸元に添え直す。
(………なんだろう、この気持ち)
とくん、とくん、と心臓が小さく脈打っていた。耳も熱くて、ほんの少しだけ耳たぶを弄ってそれを誤魔化す。
好きな曲について話した後なのに、今日は余った言葉が苦しくない。あんなに、さっきまで色々と投げ出したくなっていたのに。
それどころか、夕陽の溜息のような日差しが心地いい。それらは、渡り廊下と教室の硝子に小さく反射していて、さながら私の心を鏡のように映し込む。
確かな高揚と、胸の奥にひたひたと落ちた柔い温もり。
ささやかな充足感と歓喜が交錯して、まるで春の訪れか何かみたいに私の心の奥底に満たしていくみたいで。
明日も、彼と話してみたい。
胸に抱いた淡く、言葉にできない感情。そんな気持ちだけが、そこからただ静かに私の足を動かす。静かに、星の戻ったiPodをポケットにしまい直す。
『すげーな、そんな観点で聞いたことなかった!!』
初めて、男の子にあんな顔を向けられた。逸る心臓の音。まだ鳴り止まないそれを押さえ付けるように私は教室に戻る。
「…………」
教室にあった鞄を肩に掛け直したとき、ふと真帆と梨乃の顔を思い出す。そうだ。あの二人に、ちゃんと伝えなきゃ。
そんなことを思って、ロインを開く。
『見つかった。さっきは、その』と打ち込む。
窓の向こう、グラウンドの方から野球部の掛け声が響く。校舎の真隣にある雑木林の下から、準備運動をする女子卓球部の点呼の声も。桜の時期はもうとっくに終わりを告げていて、代わりに緑の色を伴わせた樹木の風がすぐ近くの窓から入り込む。
それはまるで、絵に描いたような高校生活のワンシーン。
私の前髪が、ゆらりと教室に入り込んだ隙間風で
『後悔なんて、しない方がいい」
『痛みをずっと背負うより、きっとマシな気がするからさ」
彼の言葉を思い出す。
そうして、静かに言葉の続きを打ち込む。
『八つ当たりみたいなことして、ごめんね?』
「!」
すぐにグループのメッセージには既読がついた。
ぴこ、ぴこ、と効果音が小さく耳に響く。
『よかったじゃん! 今度なくしたら先に言えし☆』と顔文字も付いた梨乃のメッセージ。
真帆から『安心した。今度は一緒に探すから』と、少し淡白だけど、笑顔のスタンプと一緒のメッセージが、ほぼ同時に届いた。
「────────………」
私は両手でスマホを持ったまま、それをほんの少しだけ胸元で強く、つよく握り締めた。背中を丸めて俯く。
目頭の奥のほうが、じわりと熱を帯びて、まるで炭酸水を飲んだときみたいに、ツンとした刺激が鼻の奥を駆け抜ける。
ありがとう、と。
か細い糸みたいに、微かな震えを帯びた自分の声が漏れていた。
窓の向こうから届く喧騒は、ずっと、すこし見ていたくないものだった。
青い春なんてものは、私には似合わない。
少なくとも、私にはその代わりに誇れるものがないと思っていたから。でも。それでも今は、今だけは。
当たり前みたいな顔をしながらも、隣にいてくれた人達のことを思い出して。
ただどうしようもなく、その喧騒に代わる繋がりがあってくれて良かったと。
そう、静かに思った。
誠に遅くなり申し訳ない。
表紙おわんねぇ、、、( ᐛ )
続きはもう少し早く出せると思います。
感想や評価など、いつでもお待ちしております。よろしくお願いします。