自分にも!
こんなに輝かしい未来が、あっただなんて!!
メジロアルダンは、万雷の拍手の中で魂の喝采に震えた。
彼女は手に入れた。
あのシンボリ姉妹の、その栄光の続きを。
KGVI & QESを越えて。凱旋門を越えて。今この菊花賞まで無敗で辿り着いた。
それは目も眩むような陶酔感を以て、彼女を包み込んだ。
KGVI & QESを勝って、メジロ家が彼と共にイギリスの王室に招かれた事の、なんて誉高く、得難い名誉であった事か!
凱旋門を勝って、世界にメジロアルダンの名前が、新しい世界最強として畏怖と共に広まった事の、なんて誇らしい事か!
そして無敗で菊花まで辿り着いて、彼女たちに続く三冠ウマ娘として歴史に名を遺す事の、なんて夢のような事か!
万感の思いで、彼女は関係者席にいる自身の家族に、そして自身のトレーナーへと手を振った。
レース後の心臓は激しく脈打っていたが、恐らく当分の間は興奮でこのまま脈打ち続ける事だろう。
彼女は夢見心地のまま控室へと戻った。
これ以上ない程の祝いの言葉のシャワーを浴びて、そして彼女は椅子へと腰かけて、靴を脱いだ。
汗に濡れた脚を、これ以上ない程丁寧に入念に水に濡らしたタオルで拭きあげて、そして彼へと差し向けた。
すぐに彼が足に手を添わせて、壊れ物を扱うかのように持ち上げる。
もう2年近くになるルーティーンだったが、やはり未だ気恥ずかしい思いは抜けなかった。ウマ娘として脚を見られることは常であったが、レースによって汗まみれになった後の脚を間近にまじまじと見られれば、乙女として心の底からふつふつと羞恥心が湧いてくるという物だ。
汗臭くはないだろうか。それだけが思考を染める。
しかし彼の目はどこまでも真剣だった。一つ一つの部品を確認するように、様々な角度から一か所を注視して、そうして次の場所へと移っていく。
それを繰り返して、全体を確認し終わった彼は、ゆっくりとマッサージを開始した。痛みはほとんど無くて、ただ疲れ切った脚が心地よく解されて行く。
彼の額に汗が浮かんでいた。それは彼が今どれだけ意識を尖らせているかを表していた。
自身の脚はガラスの様に脆くて。彼の目を以てしても、これだけ連戦するには細心の注意が必要になる程であった。
それでも逆に言ってしまえば努力だけでなんとか出来てしまうという事実は、メジロのトレーナー達にこれ以上ない程の驚愕と畏怖を与えていた。
彼らが10年以上も抗って、手掛かりの一つすら手に入れられなかった。
最終的に出来た事は、その終わりを受け入れて走る事だけ。
それだけ私の運命は頑迷だったのだ。
そして、去年現れた私の魔法使いは、そんな運命をこれ以上なく打ち砕いてくれたのだ。
彼にスカウトされた時の、あの感動は今でも鮮明に思い出せた。
何度も夢ではないかと疑って、そして自身が次のシンデレラに選ばれたと理解して。
それから、どんどんと自覚できるほどに自身の体調が良くなる、あの衝撃は私の脳を焼きつくした。
彼ならばこの身を縛り付ける、忌々しい鎖をいくつか外してくれるのではないかと思っていた。
そんな都合の良い事などあるのだろうかと思いつつ、けれどもそれ以上に現実的とは思えない実績を打ち立てた彼ならばと期待して。
ただ現実に裏切られた時の落差を恐れて諦めて。
みっともなく希望を捨てさる事が出来ずに握りしめ続けて。
あの時の私の心は張り裂けそうだった。
ああ!けれども!
現実はそれ以上だった!
今私は全ての鎖を取り外されて、自由の風を浴びていた!
シンデレラは魔法使いと二人、舞踏会で踊り続けているのだ!
憧れのこの会場で、これからさきも!ずっと長くだ!
私は12時のずっとその前に、ガラスの靴が砕けて散る運命だったのに!!!
・・・・・だからどうしても一つだけ口惜しい事があった。
それは張り裂けそうだった私の心を、今度は狂わせそうになる程に。
そう、私の魔法使いはすでに、誰かの王子様で。
彼は、私の運命の王子様にはなってくれなかったのだ。
何故なのだろうか。
こんなにも完璧かと思う程に、夢さえ超えた現実に辿り着いたのに。
御伽噺の最後に、どうしてこんな残酷で救いのないエンドを置いたのだろうか。
ここまで与えたのだから、最後の一つだってくれても良かったじゃないか。
なぜ運命は最後の一つだけはあげないだなんて、そんな意地悪をするのだろうか。
こんなにも恋焦がれてしまったというのに。
いつも彼の目はどこまでも真剣で、どこまでも熱に燃えていて。
それが私の目を貫く度に、私はこの恋心が燃えあがるのを自覚する。
全部錯覚だというのに、ありえない夢を見て。
だって、この前は叶えてくれたじゃあないか。
心に黒い泥が溜まるのを抑えられなかった。
最初の担当が来る度に、上手く笑顔を作れているだろうかと自問する。
彼女の右手に輝くそれが、いつも目に刺さって、涙腺が緩みそうになるのをこらえる。
何より彼女の時折の沈黙が、恐ろしくて、憎らしくて。
恐らく私のこの心を薄々悟って、彼女は間合いだけを測っていた。向こうからはどうこうするつもりもなく、こちらが動けばすぐに反応できる距離を保つだけ。
それ以外は、彼女は良い先輩であったし、何も言わなかった。私はただ女としての器の違いを思い知らされた。
これで彼女が嫌な女であれば、私も嫌な女であれたのに・・・・。
彼女は誰よりも輝いていて。彼の隣にこれ以上なく相応しい人で。
ああ、私が一番に出会ってさえいれば・・・・。
メジロもアルダンも全てあなたが望んでくれれば、捧げられたのに。
栄光はこんなにも手に入れたのに。私は、シンデレラの様に輝けなかった。
オグリの戦績は
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無敗の今キンチェムルート
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マックちゃん大勝利ルート