神隠し   作:月給40円

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4話

 おかしい点は幾つもあった。いつも使う道、それも一本道なのに中々たどり着かない事や、途中で見つけた気味の悪い社に、中に鎮座するかのように置いてあった人形。そして、今バイクの向きを変えてヘッドライトに照らし出された光景は先ほどとはまるで違うものだった。

 深い闇に包まれた林のみが広がっていた光景から、あの自動車整備工場の看板が見える位置に居たのだ。迷ったとか、一時的に方向を見失っていたなどでもなく、いつもの道が突然現れたかのようにあったのだ。ここまでくれば、狐にでも化かされたとでも言うのであろうか。言いようのない気味の悪さ、そして疑問が湧き出てくる。 

一刻も早くあの光の元へ、この不気味な林から抜け出そうとスロットルを一気に回し走らせると直ぐにいつもの光景へとたどり着いたのだ。

 

 

…………どれほどの時間を喰ってしまったのか。体感的に3.40分はあの場に居ただろう。腕時計をふと見ると、針が指していたのは17時41分であった。………確かこの林道に入った時間は17時30分を過ぎた辺り……35.6分だったはず。確かに何事もなく進めばこの時間帯には着くだろう。だが、先ほどまでの出来事を思い返せばまず、あり得ない。まるであの社を見つけ近づいた事、自分のしでかした事がなかったかのように時が進んでいた。

 

 

 

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アパートの近くにあるスーパーへと立ち寄り、夕食を買っている最中でも先ほどまでの出来事が脳内を反芻する。それは不気味な空間に居たことよりも、あの人形を壊してしまった事への後悔が大きな割合を占めていた。弁当を選んでいる際もレジで購入している際も、気も漫ろでいた。バレないだろうか、先ほど考えついた言い訳を使うにしても、何故もっと早く報告しなかったなんて言われるのではあるまいかと言った、思い煩いが重くのしかかる。

 

 

アパートに着くと、あいも変わらず人気のない静まり返った様子があった。自分の部屋は1階の左端になる。2階建てのアパートで位置的には文句もない。そして入居者が自分を含めて2名しか居ないという点も気に入っている。

下手な隣人トラブルもなし、騒音や生活音なんかでのいざこざもなし。住宅街からは少し離れた場所にあり、両隣と正面は畑や森しかないような所なので、騒いだ所で誰も文句を言いに来ない。もちろん騒ぎはしないが。ただ、防犯上はあまり宜しくはないものだとは思う。なんせ、人気がない所だしここに来るまでの道にしたって街灯なんてものすら存在しないからだ。そして虫がよく出る。両隣を見れば納得だ。夏場は特に凄まじく、ゲジゲジが風呂場にいた時は1時間近く箒とちりとりを使って格闘したものだ。

ともあれ、家賃も安く住めば都なんてこともありよっぽどの事がない限りはここに居ようとも思っていた。

 

 

 

………夕食を食べながら、テレビを眺める。ぼんやりとあの人形を思い出していた。何処かで見たことがあるようなないような。

木材を人の形にくり抜いたような物、そうだ……小学生の時に考古学の本で見たことがある。スマホを取り出してキーワードを幾つか検索すると、似たような、いやまるでそっくりな人形が画像検索で出てきた。あるサイトではこのように説明されている。

『穢れや悪気を人形に移し水に流していた』『儀式や祭礼用で用いられていた』と。

だが、何故あの場所にそんな物があったのか。そもそもあの社は?と、サイトを消して今度はあの周辺の地図を検索する。丁度駅前から進み、あの道を行くといつも使う林道へと向かう畦道が映ってはいる。だが、このマップでは重要ではないと見たのか、はたまた車幅が足りないのかは定かではないがそのまま通り過ぎて行くだけ。

ならばと、そのまま道を進みあの林を真横から見るもそれらしき物は見当たらない。そしてまた別の森に隠れるように画面から消えてしまった。結局あれが何なのかは分からない。では、地名と幾つかのキーワードでヒットするだろうか。

 

………出てこない。町内にある別の神社や社なんかはあるのだが、まるで情報がない。あえて出てきた情報は、あの自動車整備工場で求人情報が出ていることのみであった。

そうだ、神社と言えば彼女の言っていた攫門神社、あれを調べたかったのだ。どんな由来があるのか、どのような歴史を持つのかを調べるのだが………。

 

 

「ない………?」

 

 

そう、ない。まるで情報が見当たらない。最戸地区は該当するものとして出てくるが、先ほどのマップ同様で遠巻きからしか風景を映していないのだ。そしてマップを切り替えても、表示されるのは山や森に田畑などのみ。まるでそんなもの存在しないぞ、と言わんばかりで一切の情報すら出てこない訳である。大抵どんな小さな神社や史跡だって何処かしらのブログであったりに紹介されていたりするものである。今であればSNSで調べるとあれやこれやといった情報が目に入る訳である。

誰も今まで知る由もなかった真の名所なのかそうでないか。だが創設を聞いた時に平安時代と言っていた筈。有象無象とした場所ではあるまい。前者である事に淡い期待を寄せながら更に調べていく。

と、ここである出版社の通販サイトが一見だけ何故かヒットした。このサイトを開いてみると出てきた商品は、所謂コンビニコミックというようなものである。既に売り切れ、絶版となっているようなものであり表示に書かれているものは『日本の怖い場所』なんて安っぽくデザインのされた本……。なんてこと無い、それこそ中古の本屋で売っていそうなものであるが何故これがヒットしたのか。

 

本の紹介文には、日本の〇〇県〇〇町や〇〇村といった県名は暈されているものの、詳細な地区名はそのままに風習や言い伝えなどを紐解くといった内容らしいのだが、その中にあったものが〇〇県最戸にある謎の場所、という文章であった。…………確実にあの場所ではあるまいか。

試しに"最戸"という地名を調べてみたが、やはりこの地名が存在するのは宮城県のみ。他にはない。この出版社が出している他のコンビニコミックはUMAやUFOなどといった信憑性の薄いものばかりだが、これに関しては抱いている疑問をそれこそ紐解くきっかけとなるのではないか。是非購入したいが、売り切れとなっている。それに発行された年は今から8.9年前なので現状直ぐに入手する方法は古書店を巡るか、オークションなどで探すかだろう。

 

まずはと、オークションやフリマアプリなどで検索をするが該当する商品は見当たらない。少しずつ検索設定を変えても尚、見当たらないのだ。ネット上で感想や本の内容を詳しく紹介などしていないものかを確認するも、これも又見つからない。……同じ姿勢でスマホを眺めていると背中が張ってくる。また別の通販サイトのURLをタップし、読み込みをしている最中にググッ、と腕を真上に伸ばしこれぐらいにしようか、と思った時だった。

結果としてはここも売り切れとなっていたのだが、名前の部分で引っかかるものがある。

 

【監修:北村和哉 デザイン・文 増田寛也】

 

 

増田……。そういえばあのガイドマップのデザインを担当した職員の名前も増田だった気がする。元々デザイン関係の仕事をしていた……。ふと、あの塗りつぶされたマップを思い出す。あの地点は最戸、そしてこの本に語られている謎の場所というものも最戸…。この本の文、そしてデザインを担当した増田という人物……。

あまりにもその疑問点の数々を結び合わせるのに必要な材料が出てくる。ただの偶然、とも言い難い。これは調べてみなければ。

あれよあれよと言う間に、時刻は22時近くなっている。時が経つのも忘れ調べ物に夢中になっていたらしい。明日も仕事だ、早く風呂に入って寝てしまおうと、林の中で起こした出来事もまるで忘れてしまっていた。

 

 

 

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翌朝、寒さを覚えて目が覚める。どうもクーラーの温度設定を間違えていたようだ。26℃ぐらいが丁度良いが、いつの間にやら23℃近くまで下がっていた。風邪でも引いたら厄介だ。ぶつくさと自分の失態であろう事に文句を言いながら、出勤の準備をする。ぼりぼりと頭を掻きながら、冷蔵庫から缶ジュースを取り出して喉を潤す。テレビでは、連日のように茹だるような猛暑だと繰り返し騒ぎ立てている。全国的に軒並み35℃を上回るなんてニュースを毎日のように聞いていれば、いい加減飽きもしてくる。

 

今日も外回りがあるだろう。普段通勤する際はワイシャツの上に夏用のブルゾンを羽織って行くのだが、もはや夏用だろうがなんだろうが暑いものは暑い。願わくばTシャツと短パンで通勤でもしたいものだが、万が一転倒なんかをした場合すり下ろしになる事は確実だろう。それに、服務規程にも引っかかる。

うだうだと考えつつ、ニュースをボヤッと眺めているだけでもあっという間に出勤の時間が訪れた。戸締まりに、コンセントをつけっぱなしにしていないかの確認を何回も行う。火災なんかにでもなったら洒落にならない、と何度も何度も指差し確認をして入念に見た後ようやくアパートから出るのが日課である。

ドアを開ける前から熱気が立ちこめている。いざドアを開けばサウナの世界に飛び込むようなものだ。ふぅ、と軽くため息を吐き1日が始まるのであった。

 

 

 

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今日も今日とて、1階と2階の、その賑やかさと静かの対比は面白く感じてしまう。ただひたすらキーボードを叩く音に、時たま来る電話のコール音、ファイルを捲る音が響くだけ。この静けさを心地よく感じる性格なのかと言ったら、そうでもない。煩いのは苦手であるが、静かすぎることも苦手である。

そう、例えばこの静寂の中で自分宛てに電話がかかってくるとしたら、自分の話し声や相槌に至るまでを周囲の人間に聞かれていると思っただけでなんだか緊張してたまらないのだ。噛んだり、早口になってしまう余り、訳の分からない言葉遣いとなってしまう時がある。なんとも小っ恥ずかしいものだ。慣れだろう、という風に係長は言っていたがその慣れはいつになったら来てくれるものか。

 

さて、そんな悶々としている中で突拍子もなく係長から現地調査だ、という話が切り出される。外回りがあるだろうとは思ってはいたものの、既に出発の準備を終え作業着を着た係長に肩を叩かれると驚きもしてしまう。

 

「さ、そろそろ行くかね。」

 

「外回りですか……?今準備します!」

 

「えっと〜、場所って分かる?運転をお願いしようかと思ってさ。いやあんな場所から遺跡が出るとは思いもしなかったからさ。こう見えて方向音痴なもんでね。」

 

「遺跡?」

 

「ん?そうだよ、あれ?メール見てなかった?」

 

「いや、すみません直ぐ確認します!」

 

 

メール?直ぐに端末のメール受信一覧を確認すると、課全体にどうやら送信されていたらしい。………これは失態だ。朝来たときにメールは見ているのだが、今日に限って確認を怠っていた訳だ。

届いたメールの内容を要約すればこうなる。

最戸地区内の劣化・破損した水路又農道整備事業を行うに辺り、発注者である農業委員会、又監督者である瑞樹町建設課の実施した改良前現場調査に於いて、遺跡のようなものが見つかったと土地改良区より通報があったとの事である。こういった歴史的文化遺産を今後町おこしとして活用出来るのでは、ということで観光課も調査に加わろう、と。全貌がまるで明らかになっていないものだが、これまた興味深い発見があったものだ。もう少し南側の方……壁画の刻まれた横穴墓や、貝塚遺跡などが密集している場所で見つかりそうなものだが。ともかく、この最戸地区と聞いただけで忘れかけていたあの事を思い出す。彼女が神社を案内してくれるという話だ。

 

端末を省エネモードに切り替え、散らかっていた書類を裏返しにする。個人情報の観点とやらで、こういった事柄も非常に厳しくなっている。当然と言えば当然なのだろうが、こだわりの強いあの人が近くにいれば尚更、注意を払わなければいけない。

外出用のトートバッグに筆記具や地図、デジカメなどの道具を詰め込み、まだかまだかと待っている係長の元へと小走りで向かう。

 

 

「すみません、お待たせしました!」

 

「ん、いやいや大丈夫。なんせ突然だったもんねぇ。」

 

「最戸地区……ですよね。あんな場所で遺跡とは……。」

 

「どうやら朝の内に見つかったらしいよ。既に学習課と教育委員会の暇を持て余してる連中がとっくのとんまに向かって調べてるってさ。」

 

「遺跡か……。発掘現場を生で見るのって初めてかもしれないです。」

 

「へぇ、運がよかったね。あぁ、そうそうさっきも言ったけど運転頼めるかな?方向音痴だ何だって言ってたけど、実は朝からしんどくてさ。」

 

「分かりました、というか……大丈夫ですか?」

 

「ん?大丈夫、大丈夫。早退するって程でもないし暑さにやられたかな?」

 

 

車の運転……。免許を取って以来、一度たりとも運転していなかった。外回りになると大体は係長か同僚などが運転をしてくれていたので、まるで技術といったものがないのだ。覚悟を決めるしかない。2人で公用車へと乗り込み、サウナと化した車内を換気する為窓を全開にする。エンジンをかけ、ハンドルを握った所でようやく思い出してきたような気がしなくもない。さて、出発しよう。

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