神隠し   作:月給40円

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5話

 運転出来る人が光り輝いて見える。今は道を譲ってくれた年配のドライバーすら菩薩に見えてしまう。電話と同じく、慣れだと言う風にも思っていたが、電話の比ではないだろう。一つの判断ミスが命取りになるこの状況に汗が額から垂れてくる。冷房を付けても尚、汗が眉間の間を通り、目に染み込んでこようとしてくる。汎ゆるものが自分の隙を狙っている敵に見えて仕方がないのだ。

縁石、ガードレール、落ちているペットボトル、極限の状態まで退かないカラス、道幅、自転車、歩行者………。自分は運転に向いていないのだろう、そういえば上下水道課では最近スーパーカブを導入したと聞いたことがある。車は無理だ、バイクならば自分はいけるんだ、と必死に考えながら走らせていった。

 

 

───────────────────────

 

 

ミラーにふと映った自分の青ざめた顔を幾度も見つつ、町道を真っ直ぐに進んでゆく。普段ならばどうってことない、トラックやバスなども今となっては恐怖の対象だ。車幅がどのくらいあるのか、どのぐらいの車間距離があればよいのか……。頭の中でぐるぐると駆け回る情報を必死に整理して、とにかくパニックにならないように運転をする。

予めナビの住所を入れておいた為、ナビガイダンスにとにかく従いながら町道を進んだ所で右折を、という表示が出た。以前にも来たことのある光景を目の当たりにすると、少し安堵する。運転をする側となれば全く別の視点へと変貌してしまうものだ。

 

 

建物が一切見当たらない風景の中へと車を走らせる。ただひたすら水田風景が続き、辺り一面に広がる稲穂が風に煽られ靡いている。今運転している小型自動車がギリギリ通れる程の道幅ではあるが、対向車もなくそもそも他に車も走っていない為、先ほどまでの焦りようからは一転して、周囲の風景を楽しめるまでになっていた。農道を暫く進んでゆくと、次第に両側の風景を森が覆ってゆく。

と、ある地点に来た所で作業車や人だかりが見えてきた。

位置としては、以前車を停めて休憩した場所からほんの少し遠く畦道を数本挟んだ場所になるだろうか。あの、山の近くになる。

次第にその場所へと近づくと、作業員の1人が気がついたのか誘導棒を持って、空いているスペースへと誘導をしてくれた。

この辺りだけは田畑、という訳でもなくここから更に離れた位置にある揚水機場の仮資材置き場、という風になっているらしい。

誘導こそあれど、狭い道幅と何台も停車する車に擦らないよう悪戦苦闘しながらハンドルを切り、1.2分かかってようやく停車することが出来た。一先ずは山場を切り抜けられたという安心感から肩の力が自然に抜けていく。

 

 

車を降りて、その遺跡が見つかったという場所へと近づく。重機や小型トラックが一つの目印と化している。見つかった位置というものも、水田そのものではなく水路と農道を挟んだ先にあった小さな更地、という様なものであった。丁度その付近での水路工事を行うにあたって資材を置くスペースを作る最中に偶然、発見出来たと。

炎天下の日陰が存在しない畦道を2.3分程度歩いていけば、とうとう目の前にその存在を見せる。

堆積土などはすでに除去されているらしく、人力でほぼ作業自体は終わっているとの事だった。

 

 

「あの重機やらはただ単に、水路の工事とかで使用するだけのものなんですかね?」

 

「ん?そうでしょ。それにしてもこりゃあ遺跡って言う程のもんなのかね。学習課やら教育委員会やらもこんなに人いらないよね。」

 

「ははは、確かにそうですね。遺跡、というかただ石が密集してるような……。」

 

「遺構と言うべきか何なのかだね。」

 

 

周囲には基準杭が打たれこの近辺を更に調査しようとしているらしいのだが、今目の前にある所謂ストーンサークルのような遺構を見るにあまり期待出来そうにもない。麦わら帽子を被ったまるで農作業でもしているかのようなスタイルの職員達をただ眺めるという光景だけが続く。………この暑さの中ではたまらない。なにか雰囲気も、がっかり感と言うか落胆しているかのような空気を感じてならない。確かに竪穴式住居跡とか、それこそ土偶が出土したとかならもっと盛り上がりそうなものでもあるのだが………。

係長もハンカチで汗を拭い、ぼんやりとした表情を見るに帰りたそうにしていた。ワイシャツには汗じみがあちらこちらに出来ている。

 

 

「まあ、写真だけ撮って帰りますか?」

 

「………そうだね。まだ全貌も分からないし、もしかしたら後々でもっと見つかるかも知れないね。そもそもうちの課が出てきた所で何なんだ、って話だよ。町のSNSで遺構が見つかりましたー、って発信するぐらいじゃない?」

 

「一先ず情報を纏めて、帰りますか。」

 

 

と、デジカメを取り出して発掘現場を遠巻きから撮影する。こんな光景より、晴れ渡った青空と水田風景を写した方が長閑さや田舎の良さをアピール出来そうなもんだが。今度は遺跡……基遺構へ近づいてからまじまじと確認して見る。

大きさや形などが均等の石が8個ほど円を作るように並べられている。祭祀であったり儀礼なんかで使用する様な類のものだろうか?そして円の中心部だけが何故か窪んでいるらしく、丁寧にその辺りの土を除去していた。

ふと、近くにいた職員へと話しかける。

 

 

「お疲れ様です。なんか珍しい遺構が見つかりましたね。」

 

「あぁ、どうもお疲れ様です。………いや〜なんかね、いまいちパッとしないって言ったらあれですけどね。」

 

「いつ頃のものとかはまだ分からないんですか?」

 

「ん〜……まだ分からないですねぇ。それでも千年って経っているとは思いますけど。」

 

「成る程…………。」

 

 

と、担当している職員も汗だくで気だるげな表情をしていたが、あっ、という大声と共に一斉に皆の表情が変わりだす。

 

「何か出てきました!」

 

「本当!?今確認する!」

 

 

何やら雰囲気が一転した。つい数十秒前までは散らばっていた職員や作業員達が何だ、何だと集まりだす。水路をボヤッと眺めていた係長も小走りで近づいてきた。

 

「何だって?」

 

「何かが見つかったらしいですよ。」

 

刷毛と小さなスコップを使い、丁寧に堆積土を取り除いていく様を汗を垂らしながら見つめる。窪んだ中心部、土の中から姿を現したもの、それは木片のようなものだった。木の根っこなのでは?埋もれていた破片だろう、という声の後に全容が明らかになる。

小さな小指サイズの木片が幾つか出てくると、今度はまるで人の形をしたような、"人形"が出土した。

薄っぺらく、1枚の腕ほどの木材からまるで棒人間かのように切り出されたであろうその人形である。土にまみれているので細かな点までは分からないが、一つだけ確信して言える事がある。

自分が壊してしまった、あの人形と同じという事を。あの名も知らぬ気味の悪い社で破損させてしまったあの、人形だ。

 

流していた汗は一気に冷や汗へと変わる。忘れかけていたあの出来事を思い出す。何故、この場所から?何故あの人形が?

周囲に至っては、遺物が見つかったことで盛り上がりを見せてはいるもののその喧騒に加わる事なく、呆然としたままでいた。

あれ(・・)を壊したとなるとどうなるものか。やはり懲戒解雇……。何故同じようなものが見つかったのだろうか、という疑問は忘れてどのようにしたらバレずに済むだろうかという思考の波に飲まれていく。

 

「佐藤君?」

 

「……………えっ?あ、はい!」

 

「良かったねぇ。無駄足踏まずに済んだよ。あのストーンサークルみたいなのだけじゃ弱かったもんね。」

 

「そう……ですね。」

 

「木製の人形みたいなの、とは言ってたけどなんなのやら。」

 

「なんなんでしょうかね………。」

 

「嫌に元気ないね、暑さにやられたかい?」

 

「いや、ちょっとばかしですね。」

 

「大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ。そうだ、写真でしたね。撮っておきます!」

 

 

…………出土したという、あの人形を撮っていく。やはり、同じだ。あの時見たあの人形と。ただ、回り回って少し冷静になった時に気づいた事が一つある。この人形の背の部分に薄く文字のようなものが書かれていた。何かは分からないが、自分の壊した人形には何も書かれていないような気がしている。これこそ確信なんてものは出来ないが、なかっだろう。うん、なかったことにしておこう。

結局の所、何故あの社にたどり着いたのか、あの人形の正体は何であるのかは今となっても知る由がない。本来ならば身震いしてもおかしくない状況に合っている事すらも、"懲戒解雇"という文字の前には無に等しいものであった。

 

──────────────────────

 

結局の所、観光課として行うことは一先ず、町や観光公社のSNSで取り上げる事であった。人形の全貌が明らかになった際に町のキャラクターとしても取り上げようか、なんて先走った話が課長から出ていたらしいが素っ頓狂な話をされた所で負担が増えるのは現場組である。

町の観光サイト、また翌朝には町内新聞や広報誌でも取り上げられるとの事で周知されそうではあるが、民家から離れた位置にある辺鄙な場所まで行く人がいるかといったら別だろう。発掘調査は暫く続くとの事なので、佐藤君の担当にという半ば押し付けのような形で、ほぼ毎日のように現地に行っては様子の写真を撮り、それをSNSで上げるという面倒くさい仕事が出来てしまった。

 

 

………そんな訳で、庁舎に戻ってからは面倒くさい資料作りがまっている。形式に沿った報告書での作成は億劫だ。誰が組んだマクロやら、全く違うセルを統合していたり、所々抜け落ちたり図がズレていたり、微妙にはみ出た線によって印刷設定が2ページになっていたりと散々である。

 

 

「お疲れ様です、これ今日の分ですね。」

 

「ああ、お疲れさん。ありがとね。」

 

「明日からは、あの場所での写真撮ればいいですよね?」

 

「そうだね。でさ、ちょっと面倒くさいと思うんだけど一つお願いしていいかな?」

 

「なんでしょうか?」

 

「道の駅なんだけれどね、あそこにさ、星野さんが作ってくれた掲示板とパンフレットを貼り出してほしいんだ。ほら、今日の遺構についての何だけど………。」

 

「分かりました、じゃあ今行ってきちゃいますよ。」

 

「今?いやいや、そんな急がなくてもいいんだけどさ。」

 

「いえ、早めの方がいいでしょう。行ってきますよ。」

 

 

早めに行ったほうがいい。それは、星野さんがこちらから話しかけるのを待っているからだ。これに捕まったら1時間だろう。30分、40分の騒ぎじゃない。軽く、『ありがとうございます!』と話してから一目散に廊下へと飛び出して、駐車場へと向かった。

これは星野さんから逃げる、という理由もあるが道の駅、すなわちそこで働くある人に会えるという事も楽しみである為だ。

 

町の外郭団体である瑞樹町観光公社。町内にある民俗資料館や道の駅の運営などの指定管理者として事業を担っている組織である。自分が瑞樹町に入庁してから、3日程度ではあったが現場研修として道の駅で勤務していた際に同じく公社への新入社員として研修を受けていた1人の女性がいる。白石美衣奈という名で、彼女も同い年であり、共通の趣味を持っているということもあってすっかりと打ち解けてしまった。連絡先を交換するまでの仲にもなったのだが、最近はお互い忙しくほぼ会えることもなかったのである。

久しぶりに会えるということもあってか、上機嫌に小躍りしてしまう。年齢が一緒ということは、流行りや話題などでも話が合う。職場には年上しか居ないので、ある意味貴重な存在なのだ。

車の運転も心なしか楽しく感じてしまう。先ほどまでの恐怖心や緊張などはすっかり消え去ってしまっていた。

 

さて、役場から道の駅へは車で向かうと大体20分程度で着く。町道から外れて、国道4号線へと出て福島方面へと走らせる。

目印となる看板を見ずとも、観光バスや駐車場待ちの車列を見ればそこが道の駅だと分かってしまう。あそこを中心として様々な商業施設であったり、コンビニなどが次々と出店している。ここに駅を作ればいいのではとも思ってしまう程の賑わいを窓から眺める。

………15分近く経っても先頭の2.3台が入ってゆくだけでまるで位置が動かない。時間はあるのだが、こうも遅いと少しイライラとしてしまう。やはりこういった事を考えると、機動力と小回りのきくスーパーカブを用意して欲しい。

 

ようやく先頭に着くと、駐車場が埋め尽くされている光景を目の当たりにした。施設前で直売会をやってもいるのだろうか、長蛇の列が出来ているのも見ることが出来る。…………ぶっちゃけ、いやまさかここまでとは思わないものだ。まさに、苺様ってやつだ。

3台程の車が出てきたらしく、誘導員へと案内される。だが、一般車両の所に停めるのではない。なんせ公用車なのだから。

 

「あ〜すみません、瑞樹町の者なんですけど……。」

 

「あぁ!どうもどうも!そしたらあっちね、真っ直ぐ進んで裏側が関係者用の駐車場になりますんで。」

 

「分かりました、ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

 

………凄い人混みだ。店内にいるだけで息が苦しくなる。これはとっとと終わらせて早めに退散しよう。掲示板とパンフレットを持って彷徨いていると、背後から声をかけられる。

 

 

「あれ、佐藤くん?」

 

「あぁ!久しぶり!」

 

「え、めっちゃ久しぶりじゃん!どうしたの?」

 

「いや、ちょっとさ用事でね。今日は……あれ宮前さんいない?」

 

「あ〜なんか風邪引いたとかで休みだよ。なんかあったの?」

 

「いや、実はさこの掲示板とパンフレットを展示しといてほしいってなことで来たんだけど……。」

 

「へ〜……。何それ?」

 

「遺跡っつうか、遺構が見つかったんだけど……。まだ知らないよね?」

 

「うん、初耳。何処で?」

 

「最戸なんだけどさ。行ったことないよね。」

 

「何もないもん。畑ぐらいしかないでしょ?」

 

「まあ、うん。でまあ見つかったから、観光名所にでもするのか何なのかはまだ分からないけど、とりあえず紹介するって事で準備したんだよ。これ作ったのは自分じゃないけど。」

 

「へぇ〜。ストーンサークル……?後は……人形?」

 

「な、なんか木で出来た人形みたいなやつだよ。」

 

「面白そうじゃん。何だろうね。歴史とか好きだから見てみたいかも。」

 

「あぁ、うん。」

 

「どしたのさ、急にテンション落として。」

 

「いや別に、なんでもないけど。」

 

「そしたら今度一緒に行ってみない?」

 

「遺跡に………?」

 

「そうに決まってるでしょ?なに、もしかしてデートにでも行きたかった?」

 

「………いやぁ、別にそういう訳では………。」

 

「ま、こっちで預かっておくよ。明日には出勤できそうって言ってたから宮前さんには伝えておくね。あ、あとどこに貼り出せばいいの?」

 

「正面の風除室かな。一応パンフレット自体は刷ってまた持ってくるかもしれないからさ。」

 

「分かった。じゃあ、またね。後で連絡するよ。お疲れ様。」

 

 

にっこりとこちらに微笑み、バックヤードへと消えていく彼女を見送る。またね、か……。その一言だけで笑みがでてしまう。なんだか頑張ろう、という気持ちになってきた。

………混雑した館内を見回って行く。2階には展望台とレストランがあるという。例の苺を使ったスイーツなどを楽しめるということで、遊園地の入場待ちと錯覚するほどの列が階段を越えて、更に施設の奥側へと続いていた。せめて展望台でも見てみようと思ったのだが、とてもじゃないが無理そうだ。これはまた別の日にでもしようか、と裏口から駐車場へと向かった時に後ろからトントン、と優しく肩を叩かれる。

 

「こんにちは。」

 

「ん?こんにち………は……。」

 

「お仕事ですか?佐藤さんっ。」

 

「……瑞樹さん……でしたか…。」

 

「そうですよ、私は今学校の帰りです。ここで今日はお仕事なんですか?」

 

「まあ、はい。そうですね。」

 

「さっき話されてた女性って?」

 

「え?あぁ、あの方はここの職員さんでしてね。ちょっと用事で……。」

 

「へぇ。そういえば正面に何か貼ってましたね、あの方。私も今さっき見てみたんですけど、遺跡が見つかったとか。」

 

「そうなんですよ、あの〜最戸地区で遺跡というか……まあ遺構が見つかりましてね。今発掘調査中なんです。」

 

やっと(・・・)見つかったんですね!」

 

「まさかあんな所にねぇ。ん?………やっと……?それは………。」

 

「そういえば、佐藤さんはいつ頃来られるんですか?……忘れたりしてないですよね?」

 

「あぁ、それは勿論ですよ。ちょっとばかしですね……。えっと…今の時間は……14時半ですか。そうしたら瑞樹さんの親御様とかに確認して頂いた上で……」

 

「それは大丈夫ですよ。母も心待ちにしているので。」

 

「あ、そうでしたか。じゃあこちらも上司に確認します……。」

 

 

公用の携帯を胸ポケットから取り出して、係長へと電話をかける。

10秒程してから、まるで水中にいるかのような音質の声が響きだす。

 

「もしもし?」

 

「お疲れ様です。佐藤ですけど、今宜しいでしょうか?」

 

「あぁ、どうした?」

 

「先ほどの2点は渡し終わりました。今貼り出してもらっています。あとですね、以前お話した件の再度の確認なんですが……。」

 

「おぉ、どうしたの。」

 

「係長と二人で現地調査行ったときに、自分が話した神社っていうの覚えてますか?」

 

「あぁ〜……。まあ、うん。そこがどうかしたの?」

 

「いや、そこを案内したいということでですね、ほら瑞樹さんっていう高校生の方と今お会いしまして、ちょっとばかし調査という事で伺っても大丈夫かと………。」

 

「大丈夫だけどさ、その………ちょっといいかな。」

 

「………?はい、なんでしょうか?」

 

「増田さん、って知ってるかな?」

 

「増田……さんですか?」

 

「そう。今の君の席に座っていた前任者というか、以前観光課に在籍していた職員……元職員といったほうがいいかもね。」

 

「はぁ……。その人が何か?」

 

「増田さんはさ、元々デザイン関係の仕事をやっていたって事でね、ガイドマップなんかのデザインもやってもらってた訳でさ仕事の出来る人だったんだよ。」

 

 

ガイドマップ……。自分が見たものと同じだろう。

 

 

「で、増田さんの元々働いていた会社っていうのが出版社でね、何冊かデザインとか文を担当していたっていう本を持ってきて見せてもらったことがあるんだけど、その本の内容っていうのが日本各地に伝わる伝承やら伝説とかを纏めたっていうものなんだけどね、その中に最戸地区っていうのが紹介されていたんだ。」

 

「……………………。」

 

「謎の場所が存在する、っていうものだったんだけどさその増田君が言っていた事と、佐藤君の言っている事がまるで同じなんだ。」

 

「同じ………?」

 

「山の中、神社っていうワードさ。」

 

「………ちなみに増田さんは辞められた後って………。」

 

「分からない。」

 

「えっ?」

 

「ある日突然辞めて、全く消息が分からないんだ。最後まで連絡もつかなかった。」

 

「…………そんなこと…………。」

 

「だからさ、聞いたときはびっくりしたと言うか、それこそ君が何か危ない目にでも合うんじゃないかと思ってた訳で……。」

 

「どうしたんですか?」

 

「あ、いや!ちょっと確認してるだけですから!」

 

「ふーん。じゃあ私先に向かってますね。」

 

「え、わ、分かりました!」

 

 

彼女が流し目でこちらを見ながら、妖艶な笑みを浮かべてこの場を去っていく。まるで何かを見透かしているかのように……。

……ん?……待て、この場所から最戸に歩きで向かうとなると1時間はかからずとも4.50分は……。

ともかく、係長の言う言葉へとまた意識を傾け話を続ける。

 

「………あ、失礼しました。今ですね彼女が居たので……。」

 

「こんな事言うのもあれだけど、不気味っていうかさ危ない人なんじゃないかと思ったり………いや失礼かもしれないけどね。ただ、普通の高校生なんでしょ?」

 

「そうです、そうです。この辺りってなると……翠南高校でしたっけ。着ている制服が確かそれでした。」

 

「そっか………。まあ、とりあえず時間もらっちゃってごめんね。何かあったらすぐ連絡くれれば、こっちも動けるようにしておくからさ。」

 

「承知しました、ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

係長との電話を終えて、車に乗り込む。………サウナのような暑さの車内で、先ほどまでの事柄を今一度思い返す。

前任者たる増田さんが書いていたという本に載せられた謎の場所、マップと照らし合わせると確実にあの山を示している事は分かった。……謎の場所、増田さんは何かしらを把握していたというのか。

湧き出る疑問の数々を一先ずは片隅に置き、彼女の後を追うことにした。本来は公用車に関係者以外を乗せることは憚られるのだが、まあ今回に限っては関係者、として捉えたということで乗ってもらおうか。ドライブレコーダーなんて気の利いた物はないし、確認されるなんてこともまず無い。第一、先に着いて待っているのもはっきり言って面倒くさい。

このだだっ広い町内を歩きで移動だなんて、彼女もよくまあ考えたものだ。急いで追いかけるように駐車場から出発する。

国道方面はあいも変わらず混んでいる様子なので、一旦右折してから町道へと出て、混雑している区間を飛ばす形で車を走らせていった。

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