トントントントントントントントントントントントントントントントントン……。
バレエツインズに、紙を指で叩く音が鳴り響く。広間の中心では、乱入してきたヒューゴさんとだるそうなライカンさんが、睨み合いながら紙でできた台を壊さないように叩き続ける。
そう、2人は今、全力でトントン相撲対決中だった。
「……なんでトントン相撲?」
『以前のように、武器で戦われても困るからね』
『いやー、VR空間って本当に便利だよねー。バーチャルの中でアナログゲームも出来ちゃうなんて!』
確かにすごい技術なんだけれども、そこじゃない。だから俺の訓練なのに俺を置いていくのやめてよ。
どうしてこうなったのか、話は少し前に遡る。
まず、ヴィクトリア家政4人のツッコミどころは分かった。ヴィクトリア家政の名誉を守るため、迅速に直さなきゃと思い、すぐにハリセンでたたきに行った。
「全員、仕事舐めてますよね!?」
スパァーンッ!
スパァーンッ!
スパァーンッ!
ボンッ!
『うわぁ……仕事舐めてるヴィクトリア家政って凄くやだなぁ……』
『全員がそんな態度だと、VIP御用達には到底なれないだろうね……』
おかげでリナさん、カリン、エレンは既にボンプの姿になっている。エレンはほぼガブットボンプだし、カリンはツインテボンプって感じ。リナさんはいつも横にいる2体のボンプ達と同じサイズになれて喜んでいた。
そしてライカンさんも戻そうとしたところで、なんと突如空からテンション高めなヒューゴさんが現れた。気のせいか、全体的にちょっとふくよかになっている気がする。
「ハーッハッハッ! 随分と情けない姿だな、ライカン!」
「……お前こそ、盗みを働いてきたようだな」
それで、いつもの言い合いが始まった。しばらく話した後、いきなり臨戦態勢に入ろうとしたところを、リンが止めた。
『ダメだよ2人とも! 争うならこれでやって!』
「こ、これは……!?」
「店長殿、これはもしや……!?」
トントントントントントントントントントントントントントントントントン……。
そして今に至る。リンがどこからともなく取り出したトントン相撲セットで、真剣勝負が始まったのであった。
ヒューゴさんとライカンさんは、一歩も譲らない熾烈な戦いを繰り広げている。というかもう10分ぐらい拮抗し続けている。トントン相撲ってもっと短期決戦なやつじゃなかったけ。ほら、もうエレン寝ちゃってるし。
「ど、どっちもがんばってくださーい……」
「うふふ、勝った方には勝利の美酒をご用意いたしますわ」
おどおどしながら応援するカリンを見ると、なんか安心する。リナさん、その極彩色のワイン何ですか。それだと勝った方が割り食うんですけど大丈夫ですか。
「秩序と狂気の境で踊れ!」
「喉を噛み潰す! はぁあっ!」
にしてもまだ決着がつかない。時折ガキイイィィーンとか、金属をはじいたような気持ちいい音が聞こえてくる。これ本当にトントン相撲?
「ふん、相変わらず貴様は相手の体制を崩す事だけは達者だな!」
「お前こそ、いつも俺が崩した相手を搔っ攫うのが得意だ、な!」
戦いも激しくなる一方で、言い合いも強くなっていく。俺としてはとっととライカンさんにツッコミを入れたいところだけど、2人の真剣勝負に水を差してしまうのは流石に気が引ける……。
「お前のやっている事など、ただの食い逃げじゃないか!」
「ふん、貴様にはわかるまい。ただ搾取される者達の悲しみはな!」
「意地汚ねぇーっ!?」
スパァーンッ!
ボンッ!
モッキンバードが、ただの食い逃げ犯に成り下がっていた。あまりにしょうもない異変だったから、つい反射でツッコんでしまった。そしてハリセンの風圧のせいか、ヒューゴさんの駒がパタリと倒れた。
「ああっ、何をするサク殿! ライカン如きに負けてしまったではないか!」
「ふん、当然の罰だ」
「ライカンさんも、そろそろ仕事の誇りを取り戻してください!」
スパァーンッ!
ボンッ!
「わ、私は皆様の前で……とんだ醜態を……」
「……今回は痛み分けとするか、ライカン」
2人とも異変を取り除いたことで、少しは冷静さを取り戻してくれたようだ。ライカンさんの落ち込みように、流石のヒューゴさんも言い争いを止めた。やっぱり争いって何も産まないんだな、と思いました。
これで全員かな、と思ったのだがFairyは首を横に振る。どうやらまだ全員じゃないらしい。周囲を見渡していると、アキラが何かを見つけた。
『サク、あそこに何かが倒れているよ』
「本当だ! ……あれ、ボンプだ」
寝ているエレン以外の全員でボンプらしき影に駆け寄ると、ヒューゴさんが何かわかったらしい。
「ふむ、姿形から察するに、我が妹のようだ」
「え、これビビアン?」
言われてみれば、紫髪と傘という特徴から確かにビビアンだ。異変にツッコむどころかまだ出会ってすらいなかったのに、どうしてボンプになっていたのだろう。俺の疑問に、Fairyが答えてくれた。
『推察、彼女はアンチパエトーンの異変にかかっていました。ですが、口からパエトーンの悪口が出てくる事に耐えきれず、自力で異変を吹き飛ばしてしまったのでしょう』
「そこまでくるともう逆に尊敬するわ」
認めよう。彼女が新エリー都の中でナンバーワンのパエトーンオタクであるという事を。
「……なんというか、すごいやつでしたね」
『そうだね。……ありがとう、ビビアン』
『ああ。彼女の雄姿は、きっと永遠に忘れることはないだろう』
気のせいかな、月の横に半透明のビビアンが浮かび上がってきた。
『おめでとうございます、サク様。全ステージクリアです。10秒後に帰還します』
「よ、ようやく終わったのか。長い戦いだったな、ほんと……」
視界が光に包まれる。これで俺は元の世界に戻れるんだ。いやあ、本当にお疲れさまでした。
「あの、パエトーン様。私は死んでおりませんが……お待ちください! ボンプ姿のお二方をもっと見させて――」
ビビアンが何か言い終わる前に、VR世界の音や光が、全て消え去った。
本音を言うと、これは作者がヒューゴとライカンにトントン相撲をやらせたかっただけの回です。
次回はサクがクリア特典を受け取る話なので、ちょっと短めかも?