瞬光も照も、ちょっと掘り下げたらかなりの確率で辛い話が出てきちゃう。出し方に悩みますね。
適当観の前にある出張ビデオ屋。店番をしている俺の隣で仁王立ちしている学生服姿のエレンは、とーっても不機嫌だった。俺の膝元でハツが怯えちゃってるからちょっと抑えてほしい。
「ねえ」
「な、なんでしょうか」
「ンナナァ……」
少しでも逆らったら命が危ういので、大人しく聞き役に回る。お客様の相手以上に、言葉選びに気を付けないといけないだろう。今、普段の店番の百倍緊張してるわ。
「幼馴染ってさ、ズルくない?」
「ズルいとは……?」
エレンがん、と顎で指した先には、アキラと綺麗な女性の姿があった。ロープウェイを見ながら何か楽しそうに話をしている様子。手には金木犀を持っている。
「あ、あの人。確か虚狩りに任命されたってニュースになってた……」
この前虚狩りに認定されたってニュースになったという葉瞬光さん。雲嶽山の門下生らしく、パエトーンとは最近会ったらしい。だがリンから聞いた話によると、なんとアキラとは小さい頃に出会っていたとのこと。
「そ、なんか急に生えてきた幼馴染なんだってさ。はー……何なのそれ、アタシ聞いてないんだけど……」
ああ、不機嫌の理由はこれか。ビデオやゲームの話で、実は幼馴染がいた、みたいな展開は最近ブームになっている。ただ、まさか実際に生えてきた例がこんな身近に起きるとは思ってなかったけど。
じゃあ俺とばっちりじゃねえか。いい加減にしなさいよ本当に。
店番中、アキラの修羅場に巻き込まれるのもう何度目だったか。数えるのも馬鹿らしくなってきていたところだ。そろそろ給料に危険手当とか入れてくれないかな。
「……でね、アキラ。良かったらまた、ケーキ作りに付き合ってくれないかしら?」
「前にも言ったけれど、僕はあまり料理に詳しくないんだ。それでも力になれるのならば、喜んで力を貸すよ」
「わあっ、ありがとう! アキラならきっとそう言ってくれるって信じてた!」
「……っ!」
2人の仲睦まじい会話が、風に流れて聞こえてきた。すると横から冷気が流れ込んできた。アカン、エレンが抜刀寸前だ。誰かタスケテ。
「ひゅ~、ひゅ~……私は何も見てませんよ~……」
通りすがりの福福さんが、エレンに睨まれたらすぐに退散してしまった。ちょっと大姉弟子でしょ、何とかしてよ。虎の威厳とか何とかの見せ所でしょうが。
「はいは~い。物騒なそれは、一旦しまおうね~」
「っ、誰!?」
(主に俺とハツの)窮地に現れたのは、クランプスの黒枝所属で、兎のシリオンの
「エレンちゃんだよね。アキラ君から聞いてるよ~。――ムキになる気持ちはよおくわかるけど、ここは冷静にならなきゃ。相手は虚狩り、一筋縄じゃいかない。わかるよねえ?」
「…………別に、アツくなってなんかないけど」
エレンも突撃しかねない勢いを挫かれたようで、剣をしまって大人しくなった。冷気も収まり、ひとまず安心。
「君はサク君だったよね~。大丈夫だとは思うけど、一応体あっためておいたほうがいいよお」
「あ、ありがとうございます」
座っている俺の肩にモフモフの手を置きながら、俺の心配をしてくれた。照さん、めっちゃいい人だ。これならもう危険は無いはず――。
「エレンちゃん。奪い取るなら、もっとサメの特徴を活かさなきゃあ。彼が油断している時に、一気に喰らいにいくの。もっといいタイミングを狙うんだよお」
「……確かに、そうかも」
あのちょっと照さん。どうしてエレンを焚きつけてるんですか。エレンの周りに青っぽいもにょもにょしたオーラが出始めたんだけど、なんですかこれ。怖いから離れとこ。
「あれ、エレンと……照? 珍しい組み合わせだな」
寒くなったのでCOFF CAFEスタンドでコーヒーを飲んでいると、アキラと瞬光さんがビデオ屋の前に立っていた。話の内容は一部しか聞こえてこない。
「……アキラがいつもお世話に……」
「……アタシは寧ろお世話してあげてるんで……」
「ザオちゃんも助けられちゃったなあ……」
「参ったな……」
傍から見てもわかるレベルで、空気が超怖い。みんな笑顔のはずなのに、ホロウの中みたいに空気がゆがんでるように見える。というか、あの中で状況を楽しんでそうな照さんが一番怖いかもしれない。いやー、俺離れてて本当によかったわ。
そんなことがあったからか、エレンは『ポテンシャル解放』がどうのこうのとか言って、更に強くなったそうな。女の嫉妬パワーって凄まじいのね。怖、近寄らんとこ。
パエトーンの店でバイトなんかしてたら、確実に修羅場に巻き込まれると思うんですよ。恐らくアキラだけじゃなくてリンも同様。
まさか、罪人の子ってそういう……?