一般常識人に新エリー都は生きづらい   作:こなひー

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今回もギャグ話、のつもりが終盤ちょっとしんみりになっちゃいました。

たまにはこういう話もいい……のかな?


46.常識人アルバイト、初めて怒られる

 今朝は珍しく、『Random Play』にリンとアキラ、ついでに俺の3人が揃っていた。なのだけれど、何故か空気が怪しい。

 

「サク。僕たちは少し、君に怒っているよ。どうしてだかわかるかい?」

「……わかりません」

 

 2人に圧力をかけられた俺は今、受付前の床に正座させられていた。レムが座布団を敷いてくれたから、痛くはない。ありがとね。

 

 それにしても、人たらしで温厚な2人が怒るなんて珍しい。俺、何かやらかしちゃったかな。心当たりがないんだけど。

 

「昨日、サクのシフトは休みになっていたはずだ。合っているね?」

「はい」

「というか、今月は何日か休みにしてたよね?」

「はい」

 

 アキラとリンが交互に詰めてくる。休日は休みだったから、寮でだらだらしていた。……休みにだらだらしちゃいけない、なんてことはないはずだ。

 

「僕たちがプレゼントしたファンタジィリゾートのチケットは、まだ持っているだろう?」

「あ。……はい」

「私たちが言いたいこと、もうわかるよね?」

 

 ここまで言われて、ようやく理由が分かった。けれどもう遅い。リンが受付台をバシンと叩いて、大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

「なんでまだチケット使ってないの! タイミング何度もあったでしょ!?」

 

 

 

 

 

 以前VR訓練のクリア報酬(という名のプレゼント)で、ファンタジィリゾートの優待チケットをもらっていた。けれど、いつまでたっても使おうとしない俺に怒っていたのだった。

 

「いや、ずっと頭にはあったんだけど……なんか、今日じゃないかなぁって」

「全然行けたじゃん! もうそろそろ夏終わっちゃうよ!」

 

 あれ、今夏だったっけ。疑問に思ったけれど、目の前で水着を着ている2人を見たら、なんか夏な気がしてきた。

 

「少し落ち着くんだリン。こういうときはあまり感情的になっても、話は進まない」

「そーなんだけどさー……」

『提案。ここは感情的なアドバイスとは無縁であり、理知的で聡明なスーパーカウンセラーFairyにおまかせしてみるのはいかがでしょう?』

「肩書きに私情挟みまくってるじゃん!」

 

 『もー、ツッコミはサクの仕事なのにー!』と頭を抱えるリン。いや仕事じゃないけど。もし仕事なんだったらツッコミ手当ください。

 

「使おうかな、って思いはするんだ。けど、なんか申し訳ないような気持ちになって……」

 

 別に、リゾートが嫌いなわけではない。うまく言えないけど、なんとなく、行くのをためらってしまうのだ。

 

 

 

「サク。君がご褒美を遠慮してしまう気持ちは、わかる気がするよ」

「え?」

 

 正直な心情を話していたら、アキラが真面目な目線を向けてきた。わちゃわちゃしていたリンとFairyも大人しくなる。

 

「けれど、それではあげた人の気持ちまで浮かばれなくなってしまうんだ」

「そう。私たちはさ、楽しんでほしいと思ったから、チケットをあげたんだよ?」

「……厚意を受け取ってもらえないというのは、少し傷つくんだ」

「あげた側が傷つく……?」

 

 自分が遠慮した事で、誰かが傷ついてしまう。そんな事、考えもしなかった。何かをしてあげて、してもらうという感覚は、とうの昔に置いてきてしまっていた。

 

 

 だから、アキラの言葉にハッとした。貰ったものだから、てっきり自分だけの問題だと勘違いしていたのだ。プレゼントした物で喜んでもらえたか、あげた側が気にするのは当然だ。そうか、悪いことしちゃったな……。

 

 

 

 

 

「じゃ、そういう事で今から行ってきてね!」

「え、今から!? 仕事は!?」

「サク、僕たちが何のためにここへ集まっていたと思っているんだい?」

「いや、店主なんだからそれは普通――」

 

「あーもーそういうの良いから! 朱鳶さーん、お願いしまーす!」

「え?」

 

 リンの発言から数秒、店の扉が開いた。その先には、俺が以前お世話になった2人が立っていた。

 

「それではサク君が目的地に着くまで、私達が同行させていただきます。途中で彼が引き返したりしないよう、責任をもって送り届けます」

「朱鳶さん!?」

「我は海水が苦手故、海岸の手前までだな」

「青衣さんまで!?」

 

 なんと日々多忙であるはずの、治安局の2人だった。突然の情報量に、状況が把握しきれない。

 

「な、なんでわざわざお2人が?」

「アキラ君とリンちゃんが、珍しく私を頼ってくれたから。もう嬉しくってー」

「青衣先輩!? まさかそれ、私の真似ですか!? ぜんっぜん似てないしそんな事言ってませんが!?」

「どうせ素直に言わぬだろうから、先回ししただけの事よ」

「なっ……!?」

 

 朱鳶さんの顔が真っ赤になる。近いことは思ってたんだろうなあ……。

 

 

 なんてボヤっと考えていたら、目線が俺に集まる。え、何ですか。

 

 

 

「サク君。新エリー都市民には皆等しく、娯楽を楽しむ権利もあるんですよ」

「うむ。いつまでも被災者でいる必要はない、という事だ」

 

 2人の言葉が、胸の奥にあった黒い何かを動かしてくれた気がした。俺の事情を知っている彼女たちの眼差しが、とても暖かい。

 

 そうか。俺は心のどこかで自分だけ楽しむ事を避けていたんだ。そんな思い込みを今、皆が正してくれているんだ。

 

「……わかった、楽しんでくるよ」

 

 ここは、潔く受け取ろう。そんで、ちゃんと楽しんでこよう。それが、プレゼントしてくれた人たちへの礼儀だ。

 

 

 

 

 

 こうして、急遽俺のリゾートタイムが始まることとなった。出発の準備を進めていると、朱鳶さんが声をかけてきた。

 

「ちなみになのですがサク君。私とは一定の距離を保っていただけると助かります」

「こやつは近づいてきた男を投げ飛ばしてしまう。ぬしも例外ではなかろうな」

「え、俺が気を付けるんですかそれ」

 

 人生で初めての注意事項だった。同行する人に近づくなってどういうことなの。

 

「ちなみに我も感電の恐れがある故。迂闊に触れるでないぞ」

「何で急に放電しだしたんですか。それは絶対にわざとですよね?」

「ふっ、冗談だ。ほれ、支度が出来次第行くとしようぞ」

 

 青衣さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。年不相応な顔を見せられると、何も言えなくなってしまうな。

 

 

 

 そんなこんなで準備は終わり、いざファンタジィリゾートへ!

 

「サク行ってらっしゃーい!」

「いや店長たちは行かないんかい!?」

「ああ。店を放り出すわけにはいかないからね」

「普段散々空けといてそれ言う!?」

 

 ならなぜ2人は水着姿だったのか。その理由はわからずじまいだった。




せっかくきっかけは作ったのだし、ファンタジィリゾートの回も作りつつ、朱鳶さんと青衣パイセンも出しました。
非エージェント秘話の関係で、2人をただギャグのみで出すのもどうなんだろう、と思っていたのでちょうどよかったかも。

次回、サクの運動神経やいかに。
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