「ここがファンタジィリゾートかぁ」
まさかいきなり行くことになるとは思っていなかった、ファンタジィリゾートへ到着した。パンフレットで見た通り、新しめで華やかな景観だ。
「無事にたどり着きましたね。では、私たちは仕事に戻りますね」
「年相応に楽しんでおくがよいぞ」
俺を送り届けてくれた朱鳶さんと青衣さんは、治安局に戻っていった。青衣さんが年相応って言葉使うと、なんか違和感あるな……。
それにしても潮風が気持ちよくて、そこそこの賑わいも良い気分になる。海辺ならではのアクティビティがいくつかあると聞いていたから、さっそくやってみよう。
まずは離島シューティング。銃なんてこれまで持ったことが無かったから、ちょっと緊張した。監修していたグレースさんのもと、初級コースをやってみることになった。
「この水鉄砲は、威力はあるが的以外の機械や人間は傷つけないようになっているんだ。だから安心して思い切り撃ってくれ」
「よーし……」
バシュン。バシュン。バシュン……。
数秒の沈黙の後、グレースさんは目を見開いた。
「いやあ、全て外すとは逆に素晴らしいね。データとして、とても参考になるよ! ……君は、初めましてだったかな。データリストに外れ値として登録させてもらうよ。さあ、遠慮せずどんどん外してみせてくれ!」
「もしかして今めちゃくちゃ喧嘩売られてます???」
俺の腕が特殊なケースとして登録された。あと初めましてじゃないし。あんた結局俺の事覚えてないじゃん。最低記録を更新した俺の腕じゃ絶対に勝てないから、喧嘩は買わないけど。
この後、オート照準機能付きの水鉄砲を渋々受け取って撃ってみた。全然嬉しくない百発百中なんて、初めての体験だったわ。悔しいから、今度ビリーにコツとか教えてもらおうかな。
次は熱波サーフィン。もう見るからに難しそう。ここでは初日から乗りこなした上、大会の優勝経験まであるアリスがコーチになった。その後ろにはルーシーが仁王立ちで控えている。
「ボードの上で重心を安定させるためには、シンメトリーの精神が不可欠なのだわ! さあ、心をシンメトリーに! 己自身がシンメトリーになるのだわ!」
「俺にもわかる言語で話してくれませんか???」
バランスが大事だってのはわかるんだけど、いい加減シンメトリー以外の単語を使って教えてほしい。
「全く、しょうがねえですわ……私が代わりに教えて差し上げますわね」
「お、お願いします」
「こんなもんは、気合ですわ! アイアンタスクに比べりゃ、屁でもねぇですわね!」
あ、こっちもダメだ。お嬢様が屁とかあんまり言わないほうがいいと思います。
結局、1日でボードから転げ落ちた回数ランキングの上位に名前が載ってしまった。それランキングじゃなくて汚名リストじゃん、やめてよ。また来ることがあったら、別のコーチに頼もう。海の水は、しょっぱかった。
最後に遠海フィッシング。ボートで沖の方に出て、ただ釣りをするというゆったりした時間。波が船にあたる音。船の端でFairyがリールをカラカラと巻いている音。アクティビティの中で、これが一番好きかもしれない。
その上、俺の釣果はまさかの絶好調だった。
「5連続レアのトビタコとか、逆に怖くなってきたんだけど……」
「やるじゃねえかサク。俺でもそんなに連続でレア物を釣った事はねえぞ」
そう言いながらも、俺の横でベンさんは俺の倍以上の釣果をあげていた。かかったら100%釣り上げる大熊の姿は圧巻である。
「ポートエルビスでもここまで釣れたことないですよ……、竿が良いんですかね?」
「あれだ、無欲の勝利ってやつじゃないか? ほら、潘のやつを見てみろ」
ベンさんが指、もとい熊手を指した先には、どんよりと落ち込んでいるパンダがいた。ベンさんのバケツが溢れそうになっているのと対照的に、潘さんのバケツはすっからかんだった。
「何で全く釣れないんだ……。今晩の主食代を浮かせる俺の計画が……」
「わぁ、かわいそ……」
潘さんはリゾート地でもブレなかった。欲丸出しの眼光に、魚たちが逃げていくのがわかる。
結局小魚数匹しか釣れなかったらしく、ベンさんに頼み込んで分けてもらっていた。
アクティビティを一通り楽しんだら、もう日が暮れ始めていた。1日があっという間だと感じたのは、いつ以来だっただろうか。設置してあったパラソルの下で黄昏ていると、背後からおなじみの声がかかる。
「うんうん、満足そうな顔になったね!」
「あれ、リン?」
「そうだ、僕たちはその顔が見たかったんだ」
「何で悪役みたいな言い方?」
まるで大きな計画を成したような顔をするアキラ、プロキシって感じするわー。……そろそろこの時間も終わりかと思うと、寂しさを覚える。
「それで、何でここに?」
「もちろん、みんなで集まってバーベキュー会をするためさ!」
全然もちろんではない。だけど、ビーチ中の人が集まって期待のまなざしを2人に向けている辺り、これがパエトーンにとっての当たり前なのだろうか。
「もしかしてサク、もう終わりかーなんて思ってた? ……バイト君だけ楽しんで終わりなんて、私たちは認めないからね!」
「どういうこと……?」
自分たちで送り出しといてズルいとかいう、よくわからんマッチポンプである。ビーチ内に彼らを止める者はいるはずもなく、せっせと準備が整っていく。というかここにいる人達全員パエトーンの協力者かよ、こわ。
「それじゃあ、始めようか」
アキラの一言で、バーベキュー会が盛大に始まった。この流れで「学生だからそろそろ帰らなきゃ」とは言いづらい。
「……ま、たまにはいいか」
本当にたまにでいいけど、騒がしい一日も悪くない。そう思えた一日になった。今度何かしらの形で、恩返ししなきゃな。
後日判明したらしいのだけれど、会場内にいたパンダのおかげで、異例のフードロスゼロバーベキューになっていたらしい。普通にすげえわ。
運動神経は壊滅、でも釣り運はめっちゃ良いことにしました。流石に釣りまで空き缶だらけなのはちょっとかわいそうだったので……。
あれ。うちのアリス、シンメトリーしか言ってなくない……?