六分街の奥にひっそりとたたずんでいた、404 ERROR。とある駆け出しアイドルグループが活動を始めた辺りから、その場所が急に明るく活気づいた。
俺は最近話すようになった千夏さんから、件のライブハウスへと連れてこられたのだった。
「頼れそうな一般の人を連れてきたで!」
「わー、普通の方ですね!」
「んふふー、なんかいじりがいがありそうなイイ子だねー」
千夏さんと俺を迎えてくれたのは、妄想エンジェルのアリアさんと南宮羽さんだった。普通の人って言われると、ちょっと嬉しい。ただ南宮さんだけちょっとおかしかった気がするんだけど、大丈夫かな。
「勝手に普通の人って事で連れてきてもうたんやけど……合ってる? 店長さんみたいに、実は要素てんこ盛りだったりとかせえへん?」
「本当は機械人でした、とかですか?」
「ホロウでは電気ビリビリのホロウレイダーだったりとかー?」
「ないので安心してください」
俺はただの一般人です。決して『言い残すことはあるかぁ!?』という決め台詞で、謎にノットミーム化した某ホロウレイダーではない。
「とりあえず、普通の男子高校生が普段どんな曲を聴いてるのか、見せてほしいんやけど……」
「俺、流行とかは全然なんですけど」
「有用かどうかはこっちで判断するから大丈夫よー」
もう既に見る気満々の3人に押されて、俺はスマホの音楽アプリを起動した。するといつもと違った見慣れない画面が開かれた。
『こんな事もあろうかと、サク様の音楽プレイリストをよく聴く曲順にリストアップしておきました』
「ちょっと何勝手に俺の情報まとめてんの」
Fairyが俺のプライバシーをあっさりと踏み倒していた。スーパーAIの不法侵入を怒る前に、俺は妄想エンジェルに囲まれてしまった。
千夏さんとアリアさんは真面目に画面を覗き込む。隣にいる南宮さんは俺の顔見てニヤニヤと笑っている。……この人もしかして小悪魔系?
「あ、アストラさんの曲でいっぱいや!」
「そんなにファンだったんですか!? 私の知能データ……コホン。知識にあるオタクとサクさんは、印象が違っていたのですが……」
「でも、アストラさんの影響力考えたらまあ普通なんじゃなーい? 僕も自分のプレイリストに入ってるしー」
「あー、これはその……」
画面いっぱいに現れた『スターズオブリラ』のアルバム画たちに、三者三様の反応を見せている。俺がなぜここまでアストラさんの曲を聴くようになったのか、その理由はしばらく前に遡る。
常識人グループができてちょっと経った頃、俺は何の気なしにチャットで呟いた。
『なんか登下校中とかに聞けるBGMとか無いですかね?』
すると皆さんが、自分がよく聞くやつを教えてくれた。
高級感のあるクラシックや作業に集中できそうな環境音。逆に気分が上がるメタルやロック等々。皆さんそれぞれ聞くジャンルが違っていて、みんな良かった。
……なんか紛れ込んでたサメ映画の曲集は、ちょっとスルーしたけど。
そしてしばらく経って、この話題が終わりかけた頃。今まで忙しくしていたのであろう、最後の既読が付いた。そこから、彼女のターンが始まったのだ。
『遅れてすまない』
『内容を確認する』
数秒後。
『ほう』
『サクよ』
『私のいる場でおすすめの曲を教えろとは』
『いい度胸だな?』
あっ。
俺はすっかり忘れていた。ここには某歌姫の敏腕プロデューサー兼マネージャーがいるという事を。そして彼女が薦める曲と言ったら、答えはもうお分かりだろう。
それからわずか数分後、アストラ・ヤオの全曲を網羅できるサブスクのURLが貼られた。仕事が早すぎる。
『安心しろサク』
『学生用の格安プランも用意した』
「え、このプラン今作ったんですか?」
『良い機会だったからな』
やだ、この人しごできすぎて怖い。イヴリンさんって、アストラさんが関わる事になるとちょっと常人離れするよね。
それはさておき、学生プランはバイト代で暮らしている俺でも、全然問題なく払える値段になっていた。なのでありがたく加入させてもらった。これで登下校が退屈じゃなくなりそうだ。
という訳で、俺のスマホにあるプレイリストにはアストラさんの曲がびっしりになったのだった。とりわけファンってわけではないけど、定期的に聞き続けていたら、それなりにあの歌声が好きになるのは仕方ないと思うんだ。
「成程なぁ……学生向けのサブスクとか、うちらにはまだまだ先の話やな~」
「流石アストラさんのプロデューサーさんですね……」
「ま、とにかくまずはアルバム出すところからだよねー」
3人はそれぞれの感想を持ちながら、俺のスマホから離れた。美少女3人が俺に密集している状態はいろいろと心臓に悪かったので、内心ホッとした。……ずっと南宮さんは俺を揶揄う目で見てくる。なんか、柚葉に悪戯を仕掛けられる時とちょっと似た気分になった。
「君たちの実力なら、時間の問題だろうね」
「うん、私たちもサポートするからね!」
「あ、店長さん達や」
彼女たちの間から割って入ってくるアキラ。なんでそんな堂々と出来るの。メンタルが強いってレベルじゃねーぞ。リンもアイドルに平気でボディタッチしてると、強火のファンに怒られるかもよ。
「今、イヴの話をしていたのかしら?」
「うわあぁっ!? 今の綺麗な声……まさか!?」
「ほ、本物のアストラさんや!」
「な、なんでこんなとこにいるわけー!?」
アキラとリンの背中から、いきなりアストラさんが現れた。あまりの衝撃に、妄想エンジェルの全員が腰を抜かしてしまった。アストラさんが突然目の前に現れたら、そりゃあこうなるよね。
……あれ。もしかして、全然驚かなくなった俺って既におかしいのかな? いやいや、そんなはずは。
「あら、それだとまるで偽物の私がいるみたいじゃない。もし居たら、ぜひ会ってみたいわね!」
「いやいや、そんな恐れ多い人いないでしょー……」
南宮さんの言う通り、アストラさんの偽物騙ったら全世界を敵に回しそう。もしかして妄想エンジェルって割とツッコミ寄り? だとしたら俺の仕事が減って助かる。……いや仕事じゃないって。
「久しぶりね。こんなところで会えるとは思わなかったわ」
「あら、セシリアじゃない! あなたも来てたのね!」
今ステージの袖から出てきたあのセシリアって人、なんかで見た気がする。あの人も歌姫じゃなかったっけ。アストラさんとも仲良いみたいだし。
「お、おい……もしかしてあれ、アストラ・ヤオじゃないか……?」
「隣には……嘘!? 引退したはずのセルシーさん!?」
ぽつぽつといたギャラリーたちが、一気にざわつき始めた。そりゃそうだよね。ふと入口の方を見ると、ドアに背中を預けているイヴリンさんが、眉間に皺を寄せながら立っていた。これ、また抜け出してきたんだろうな……本当お疲れ様です。
「お、お兄ちゃん。なんだかすごいことになっちゃったね……(苦笑)」
「年明けの特番でも出来そうな面子が揃ってしまったな……(苦笑)」
なにわろてんねん。わかんないけど、多分あんたらのおかしな人脈が原因だぞ。周囲を見渡したアストラさんは何かを思いつき、どこからともなくマイクを取り出した。
「それじゃあ、せっかく集まったんだし……この会場を使ってゲリラライブを開催しちゃいましょう!」
「え、ええぇえぇぇぇっっ!?!?!?」
妄想エンジェルの叫び声と、脇で控えていたイヴリンさんの大きな溜息と共に、いきなり豪華すぎるライブが開催決定してしまった。
「ど、どないしよー!? 何も準備できてへんのにー!?」
「千夏ちゃん落ち着いて! と、とにかく何とかするしかないよね!?」
「まー、こうなっちゃったらやるしかないよねー……ほら2人ともいくよー」
こうして妄想エンジェルにとっての大きな試練が突然始まったのだった。俺はライブがそもそも苦手だからこっそり帰ろうかと思ったんだけど、ペンライトを構えて準備万端のコサン達に囲まれてしまった。待って、俺オタ芸とか無理だよ、タスケテ。
せっかくこの作品で生まれた常識人グループのウケが良さそうな気がしたので、もっと活かしたいなと思いました。
やっぱゼンゼロのキャラって良いな……って何度も思わされます。